「砕かれた夜」「ベ ルリン・レクイエム」
フィリップ・カーの私立探偵グンターシリーズの2作目と3作目。ピッツバーグとハワイへの出張を利用して読了。
1作めはベルリン・オリンピック、2作目はいわゆる「水晶の夜」、3作目は大戦後のウィーンを舞台にしている。ドイツ(とオーストリア)を舞台にしたミステリーをイギリス人が書いている、という不思議なシリーズだが(だから主人公のグンターが皮肉っぽくてよく喋るのかも)、結構楽しめた。翻訳のほうも、地名などでところどころミスがあるものの(翻訳者は英語のプロ、つまりドイツの地名の読み方には詳しくないはず)大きくは気にならず。時差ボケで物理に集中できない昼間や、眠れない夜に丁度いい。まぁミステリーは気楽に読めてちょうどいい。
4作目の最初に読んで、それから1-3作目と来たので、行きがかり上5,6作目を読んで完結させるか。
「カペー朝」「ヴァロワ朝」(佐藤賢一)
フランス中世史に少しだけハマっているので読んだ。
著者はT北大の博士課程まで行ってフランス史を専攻して、その後作家になった人らしい。作家らしく、あざとくない程度にストーリーテリングな筆致になっていて面白い。メロヴィング朝⇒カロリング朝のあと、フランスがどのように王制を発展させたのか、うまく読ませる。こうなると最後の「ブルボン朝」が早くよみたい。やっぱりフランスに興味のある人は文筆にも向いているのかなぁ。ドイツ史関連のほうでこういう筆致の面白い、それでいてある程度しっかりした本ってないんだよなぁ。
しかし昔から人間って面白い生き物なんですね。
ペトレンコ&バイエルン/樫本大進
いづれも録画して視聴。
そういえばペトレンコ来てたんだ、と思ったが、そもそもバイエルンオペラが秋に来てたんだね・・・。演奏会のほうの放送だったので、マティアス・ゲルネのソロで子供の不思議な角笛、あとはフォークト・パンクラトヴァ・ツェッペンフェルトの揃い踏みでワルキューレ1幕。角笛のほうはゲルネがややお疲れなのか、歌唱には冴えがなかった。オケはペトレンコらしさがうまく反映された演奏。ワルキューレになると、そこはオペ ラ座付きのオケなので自家薬籠中。出だしからすごい迫力で、こちらもペトレンコワールド全開。歌の3人もそれぞれ個性を立たせた素晴らしい出来。大ブラヴォー大会も宜なるかな。
樫本大進はNHKのプロフェッショナルで取り上げられたんだね。ちょっと意外・・・。この番組、やたら持って回った大時代的演出で鼻白むこともあるんだが、今回はまずまず穏当な仕上がり。一箇所字幕のミス(誤:A線、正:E線)があったが、こんな基本的ミスが通るNHKも大丈夫なのかね・・・と心配にはなる。ボーイングの変更は、そこまでおおごとにはとても思えない(あのクラスならどんなボーイングでも弾けるし、件の個所はどっちから始めてもそれなりに説得力はあるので)ので、本人はもっと軽い気持ちなんだ、とは思う。むしろ指揮者の変更のほうがずっとおおごとのはず。番組の質としてはなんとか及第点、というくらいだが、樫本くんって明るい人なんだな〜、ということが画面から思いっきり伝わってきたのは収穫。
早慶戦&早明戦
今年もいよいよ終盤戦。大事なマッチアップが続々だ。
リーグ戦で東海が大東文化に負けたのはやや意外だったが、大東文化の近年の充実ぶりを踏まえれば大きな驚きはない。対抗戦は帝京の一人舞台なので、注目は2位争い。帝京戦のデータから見ると慶應>早稲田>明治、なんだが、そうならないのが学生スポートの面白いところか。
早慶戦はFWが強い慶應が圧勝か、と思ったが、メンタルな弱さを突かれて早稲田に一気にひっくり返される。点差がついて安心したのか・・・。ただ、早稲田も終始単調な攻撃とミスの多さで強いとは思えなかったので、明治戦もあっさり勝てるとも思わなかった(でも結局早稲田勝ち、を予想)。
驚いたのは明治がスコア以上に完勝だったこと。なんでこれで慶應に勝てないのか?レフリー(というかたぶんタッチジャッジ)の誤審で7点損しているので、実際は36-19・・・。まぁ堀米のグラウンディングがプロっぽいfancyなプレーだったのも誤審の遠因とは思うが・・・。まぁ早稲田が勝たなくてよかった。これで勝ったら(さらに7点差以内で)、またネットが大変なことになったはず。今日も早稲田は(慶應戦同様)、勝利に値するプレーではなかった。
ということで大学選手権。早稲田は東海・天理という順番になって正に地獄のブロック。正月超えはなさそう。明治は組み合わせには恵まれたが、苦手の京産が準々決勝であろうということで、ちょっと不安。慶應は大東文化に粉砕されそう。ということで準決勝の組み合わせは帝京と大東文化は決まりとして、あと2つが難しい・・・。
グリンゴルツ・ザルツブルグのアイーダ
NHK-BSで放送されたものを録画して順番に視聴。
なんといってもまずはイリヤ・グリンゴルツ。前回は2年前か、東京での演奏会の録画をBSで見て、あまりの完璧なテクニックと優れた音楽性に驚嘆した。存命のヴァイオリニストで、最も自分が評価する人。若手、という範疇でなく、老人まで含めて。今回はパガニーニのカプリスと、イタリア人現代作曲家シャリーノの6つのカプリスを同時に、しかも演奏番号は本人の音楽的信念にあわせて自由に変更して演奏、というどえらいプログラム。だいたいパガニーニの24曲を全部やるだけで大変なのに、更にハーモニクス奏法バリバリの超絶技巧×2みたいな曲を加えるんだから尋常ではない。
尋常ではないのは演奏のほうがもっとすごくて、パガニーニのカプリスがなんだか普通の曲に聴こえる。テクニックが曲の要求する技巧を遥かに凌駕しているので、難しい曲に聴こえない。確かに昔から簡単そうに弾く人はいたけど、やはり音程が少し崩れたり、少しは破綻があって「あー、ここは難しいところなんだよねー」と素人好事家が頷く、というシーンがありそうな部分はあった。でもグリンゴルツはそれがない。マシンのように完璧に弾くんだけど、歌心のある演奏になっていて、24のカプリスっていい曲なんだな、と単純に思える。
もう追っかけるしかない。
で、もう1つのアイーダ。近年、ドスコイ度(定食屋のおばちゃん度、とも言う)がいや増すネトレプコが初めてアイーダを歌う。指揮はムーティ皇帝陛下。あれ?皇帝陛下は「老人やスモウレスラーの歌うヴェルディなんて指揮できない!」とスカラ座監督の頃はおっしゃっておられたはずだが・・・。まぁ老境に入って度量が広くなられたのか?演奏のほうはムーティらしさもそこかしこに感じられる一方、テンポが昔より遅くなり、やはり所々水分の多い演奏になってしまうのは仕方のないところか・・・。それでも凡百の指揮者と比べれば圧倒的にドラマツルギーのある充実した演奏なんだけど。クライバーも晩年そうなったし、皇帝陛下もそろそろ引退なのか・・(髪も真っ白、指揮台には譜面、メガネ着用)。ネトレプコのほうは演出のおかげもあって、かなり歌唱に集中できる状況で、そうなるとやっぱり圧倒的にうまい・・・。本当に。高音・弱音でも破綻がなく、声に芯が残ったまましっかりした歌になっている。共演の人はかわいそうだ。
もう実演のアイーダはみなくてもよい、とアイーダからの引退を宣言した自分だが(数年まえのウィーンで)、もう一回くらいいい演奏なら見てもいいかなぁ。
「ダンケルク」
レイトショーで観てきた。
観客は7,8人でほぼ貸し切り。これが好き。オペラも1人で観たいくらいなので(疑似ルードヴィッヒ2世状態)。
冒頭からものすごい緊迫感で、一気に引き込まれる。ドイツ側の視点は一切なく、ひたすらに追い詰められたイギリス軍兵士とイギリス人の視点で描いている。途中まで気づかなかったが、ずっと時計の針の「カチコチ」という音がBGMに混ざっているんだね。それが止まった瞬間の開放感は格別だった。
観ながら感じたのは画の綺麗さ。6月上旬の出来事なのでヨーロッパは一番日が長く、明るい時期。大空に上がれば空の青と海の青がただひたすらに美しい。その中で血を血で洗う死闘を演じる無意味さと虚無感はこれまた凄まじい。画の美しさは、どうやらクリストファー・ノーラン監督がデジタルを使わないかららしい(ということはフィルム?)。美と醜、明と暗、生と死、のコントラストがとっても印象に残る。
有名な人がこれ見よがしに出るわけじゃないのも、またよし、で佳作だった。◎。
バイロイトのマイスタージンガー
忙しくて随分更新できず。ネタは溜まってしまった。
まずはこれ。今年のバイロイトのマイスタージンガーbyバリー・コスキー演出。コスキーはユダヤ系オーストラリア人で、今はベルリンのコミッシェオーパーの演出家らしい。演奏自体は開幕日のそれをBR Klasikで聴いた。前奏曲は確かにズレまくっている(苦笑)。ジョルダン、どうした?!
演出のほうは最初は穏当というか面白い切り口に思えたが、見終わったあとの感想は「醜悪」の一言。悪趣味ですらない。ああも悪しざまにユダヤ人をコケにして政治的・歴史的に問題出ないのか?観客の好意的反応がまたいやらしさを倍増させる。ドイツ在住時代に友人から「いいワーグナーの演奏ならミュンヘンでもベルリンでもあるし、なんでわざわざ極右の集まるバイロイトで聴きたいんだ!?」と言われたことがあるが、意味を理解した、という気がする。
ものすごく後味悪い。
「シンベリン」
もう恐れるな、灼熱の太陽を。
「ダロウェイ夫人」でキーとなるこのセリフが「シンベリン」にある、ということで読了。「シンベリン」、こんな戯曲がシェイクスピアにはあるんだね・・。
筋は紀元後すぐのブリテンとローマで、ブリテン王が後妻にそそのかされて先妻の娘を邪険にして・・・、という悲劇みたいな話だが、最後はなんとなく大団円になる。読んでみると、たしかに出来は他の有名な悲喜劇とは落ちる(台本がよくない、筋がわりに錯綜している、いろいろ盛り込みすぎ)。なのになんでこのセリフがヴァージニア・ウルフの琴線に触れたのか・・・?ちなみに4幕2場のセリフが上のものだが、2幕の歌の歌詞に触発されてシューベルトは歌曲を作ったそうだ・・・・。芸術家にしかわからない感性がそこにあるのか・・・?
ということで戯曲という意味では全然良さがわからなかったが、まぁ「ダロウェイ夫人」の背景を知る、という学識は深まったのかな。
オペラ2つ
NHK-BSで放送されていて録画しておいたものを続けて2つ。
1番目がオランダ国立歌劇場の「サロメ」。ピットにはコンセルトヘボウが入り、指揮がガッティ。タイトルロールはマリン・ビストレム(Malin Bystöm)。スウェーデン生まれの44歳だが、メイクのせいもあって可憐な少女のよう。これが妖艶な魔女に変身していくんだから女は怖い。
「サロメ」はシュトラウスの本当の意味での畢生の名作なんじゃないか、と思うんだが、コンセルトヘボウの演奏は正に鬼気迫る名演。技術的には強烈に大変なはずなんだけど、歌手もそうだが、バチッと決めてくる。2時間引き込まれて一気呵成にクライマックスへ。その意味では7つのヴェールの踊りははっきり言って邪魔だ。あそこでストーリーも曲も緩む。
演出はイヴォ・ヴァン・ホーヴェ(van Hoveだろうからあのvan Hove singularityの人と同じ綴りなんじゃないか)。ストーリーを邪魔せず、品のいい演出だが、首が銀の盆にのってくるんじゃなくて、血まみれのヨカナーン(歌手でなく役者さんが演じている。ニキーチンにそこまでやらせられない)がのってくる。かなりグロい。で、サロメが血まみれになっていくのは正に猟奇趣味。でも音楽とのマッチングは最高。ビバ!サロメ!シュトラウス!これまで2回ミュンヘンで見たけど、それとはまた違う、いい上演(はっきり言ってエファーディングの演出はダメだった)。
2番めは打って変わって上品の極みにある「ペレアスとメリザンド」(ドビュッシー)。フォーレもシェーンベルクもこのネタで曲を書いたんだから何か作曲家の琴線にふれるんだろう。エクサンプロヴァンス音楽祭で、フィルハーモニア管がピットに入りサロネン指揮。演出はケイティ・ミッチェル。演出はセットもきれいで、舞台をうまく移り変わりながら破綻なくストーリー展開させるもの。かなりいい。メリザンド役のバーバラ・ハニガン(カナダ人だけどきっとフランス語圏の出身なんだろう)が出色の出来で、演出も彼女を意識して作ったに違いない。脇を固める歌手もステファヌ・ドゥグー(ペレアス)、ローラン・ナウリ(ゴロ−)と素晴らしい出来で、これも引き込まれて視聴。実際の上演にも触れてみたい。しかし、このオペラ、明らかに「トリスタンとイゾルデ」を意識したと思われるんだが、音楽は本当に上品で扇情的のかけらもなくて、こういう表現アプローチもあるんだな、と再認識した。
読んだ本は・・
出張が多かった割には疲れていてあまり読書できず。
フィリップ・カー「偽りの街」
私立探偵で元警部のグンターがナチスの首都で活躍するシリーズの1作め(だったはず)。4作目(のはず)の「変わらざるもの」がなかなか良かったので1作めから3作目までを古本屋でまとめ買い。ドイツ人にしては喋りすぎで皮肉が多すぎ、という印象もあるグンターさんだが、ストーリーは時代性もうまく反映させて面白い。出張の移動中には最適。
ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」
映画「めぐりあう時間たち」を見て、ウルフに興味を持って(前からもちろん知っていたが)、代表作として名高い「ダロウェイ夫人」をこれも古本屋で購入して読む。翻訳を誰がやるか、がかなり重要な問題らしく、精査の上、近藤いね子訳に決定(強く薦められた)。訳はさすがケンブリッジ留学組らしくこなれていて原作の儚げな、たゆたうイメージが反映できている。しかしウルフって本当に壊れそうな繊細な人なんだろうな、という読後感。登場人物(主要な)は全部ウルフの分身なんだろう。読後感は非常に良く、名作を読んだ!というもの。