【以下ニュースソース引用】
子どもの「ゲーム依存」、なりやすい子の特徴と“危険因子”は? 専門医に聞く
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「ゲーム依存」に陥る小学生が増えています。
ゲーム好きな子どもは多いですが、どんな子が依存になりやすいのか、依存の兆候がある子に親はどう対処すればいいのか、ゲーム依存に詳しい久里浜医療センター名誉院長で精神科医の樋口進さんに話を聞きました。
■いつでもゲームができる環境は依存につながりやすい
――生まれつき「ゲーム依存に陥りやすい子」はいるのでしょうか?
「発達障害」は大きなリスク要因です。特にADHD(注意欠如多動症)は衝動性が高く、自分をコントロールする力が弱い。
さらにふだんは不注意なのに、いったんスイッチが入ると何か一つのことをわき目もふらずにやり続ける「過集中」の傾向もあるので、ゲームにのめりこんでしまいやすいんですね。
一方、自閉スペクトラム症の場合はこだわりが非常に強く、ゲームにもとことんこだわることが依存を引き起こしているとも言われています。
また発達障害の子どもは、対人関係をうまく築けないなど、社会で生きづらさを抱えています。
オンライン上のバーチャル世界での居心地の良さが、依存に拍車をかける要因にもなっています。
――育ち方やふだんの生活といった「生育環境」は影響しますか?
まず「インターネットやゲームの開始年齢が早い」のは、明確な危険因子です。
親や兄弟がゲーム好きでしょっちゅうゲームをしているなど周りにゲームを推奨する人がいる、あるいはいつもそばにゲーム機やスマートフォンがあって日常的にゲームができる環境で過ごしている場合も、ゲーム依存になる危険はきわめて高くなります。
また、小さいときに虐待を受けた子や、親にあまり愛情をかけてもらえずに育った子は、ゲーム依存になりやすいとされています。
■ゲーム中心に生活が回っている子は要注意
――ゲーム依存が疑われる症状を教えてください。
当院(久里浜医療センター)では、WHO(世界保健機関)の診断基準に沿ってゲーム依存の疑いがあるケースをふるい分ける「ゲームズテスト」を作成し、公開しています。
チェックリストとして活用してください。
※久里浜医療センター【ゲームズテスト】
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/games-test.html
ゲーム時間が長い、約束したゲーム時間が守れない、夜中までゲームをしている、そのために朝起きられない、課金額が多くなってきた、注意すると激昂(げきこう)する、ゲーム以外に興味を示さない、などはゲーム依存が強く疑われる兆候です。
――「ゲーム時間が長い」というのは、どのくらいですか?
「ゲームの時間と依存は関係ない」という学者も多いのですが、当院では患者さんの実態調査結果から「平日2時間以上になるとゲーム依存のリスクが増える」と判断し、ゲームズテストのチェック項目にも盛り込んでいます。
目安にはなると思います。
■若いほど依存に至るまでの進行が速い
――兆候が見られときは、親はどう対処すればいいでしょうか。
まず、親子で話し合ってみましょう。
ルールが必要であることを説明したうえで、ゲームをする場所や時間などについて確認し、どうすれば守れるか、お子さんの意見も聞いて、じっくり話してみてください。
話し合っても改善が見られず、家族内で解決するのが難しい場合は、相談機関に連絡をとってみましょう。
各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターには依存の相談窓口がありますし、ゲーム依存を専門的に診療している医療機関でも相談対応しているところがあります。
多額の課金問題に関しては、消費生活センターや国民生活センターに相談してください。
――医療機関を受診したほうがいいケースは?
専門医療機関の受診は、早すぎることはありません。
これまでさまざまな年齢の患者さんを診てきましたが、年齢が若いほど依存に進行するスピードが速く、より早い段階で対処する必要があります。
専門医療機関ではゲーム依存にまで至っていない場合でも適切なアドバイスがもらえるので、気になる症状があれば受診しましょう。
当センターのホームページ(https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/net_list.html)でゲーム依存の専門医療機関のリストを掲載していますが、12歳以下を診療できるところは限られています。
各医療機関に詳細を聞いてみてください。
このリストにない小児科や児童思春期精神科で診療している場合もあるので、精神保健福祉センターに問い合わせてみましょう。
■子どもの治療は「難しい」
――ゲーム依存ではどのような治療が行われますか?
ゲーム依存の治療は世界的にも歴史が浅く、どんなふうに治療を進めれば効果的なのか、まだよくわかっていないのです。
とりわけ12歳以下の子どもの治療に関する知見はほとんどありません。
精神科医による精神療法を中心にした治療が行われることが多く、当院では状況に応じて臨床心理士による個人カウンセリングやデイケアなどを組み合わせた治療を行っています。
しかし「子どもならではの難しさ」もあります。
――なぜ子どもの治療は難しいのでしょう。
まず、ゲーム依存によって自らに起きている問題やその深刻さをきちんと理解できないので、「この状況から抜け出したい」「頑張って治療に取り組もう」といった、改善や治療に取り組むモチベーションが低い。
我慢する力も弱く、ゲームを減らしたりやめたりすることがなかなかできません。
また治療で使われる認知行動療法(心理療法の一つ)などは会話をしながら進めていくのですが、子どもは十分に言葉を理解できないので、子どもにもわかるように時間をかけて丁寧に治療を進めていく必要があります。
具体的な治療の流れとしては、本人の言い分を聞き、ご両親の意見も聞き、相談しながら治療計画を立てます。
「次の受診日までにこうしよう」と約束を決め、達成できるように本人や家族をフォローアップしていきます。
依存の治療全般に言えることですが、少しでも改善していこうと努力する姿勢が見えたり、実際に改善が認められたりした場合には褒めて、本人にしっかりとフィードバックする――。
この作業を積み上げていくことがとても大事です。
――治るまでにかなり時間がかかりますか?
何をもって「治る」とするかは、難しいところです。
治療目標としてゲームを完全にやめるのが理想ですが、小学生に限らずどのような年齢であってもゲームをゼロにできたケースは非常に少なく、ゲームの時間を減らすことを目標に治療をするのが現実的です。
学業や部活、友だちとのリアルな遊びが彼らの中でだんだん大きくなって、ゲームが隅に追いやられていく状況であれば十分良くなっていると考えていいでしょう。
改善するまでの期間は人によってかなり差があります。
不登校の子が治療していく間に突然「僕は今の生活はよくないと思うから、生活を変えたい」と言いだし、学校に行くようになるなど急速に改善していくケースは少なくありません。
一方で治療をしてもズルズル同じ状態を続けていく場合もあります。
(取材・文/熊谷わこ)
〇樋口 進(ひぐち・すすむ)医師/精神科医。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長。1979年東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長、同病院副院長、2011年に同病院院長となり、わが国初のインターネット依存専門外来を開設し、診療を開始した。2022年から現職。WHO物質使用・嗜癖行動研究研修協力センター長、慶應義塾大学医学部客員教授を兼務。
熊谷わこ
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