僕が死ぬ日・・生まれる日 -82ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

義明が店を開店させた数日後、各家に回覧板が廻った。


山田屋の孫娘、真子のお披露目パーティーのお知らせ。


町民は強制的にそのパーティーにご祝儀を持って行かなくていけなかった。


町の全てが人間が山田屋に向う中、義明は早朝から仕事に追われていた・・


朝、早くからバイクにまたがり、三島や修善寺に営業に向う。


その間、「どうせ暇だから!」と小雪が晃の面倒と店番をしてくれた。


乳は数ヶ月前に子供を産んだ佳代と言う女が朝と晩に晃に自分の母乳を飲ませに訪れてくれた。


杉本商店の時の常連達もそのまま義明の店で商品を買ってくれたが売上はビビたるものであった。


毎月、やっと生活が出来るくらいのギリギリの生活・・


ある日、義明は杉本に聞いてみた。


「商売を成功させる秘訣は何でしょう??」


そんな彼の問いに杉本のじぃさんは笑いながら言った・・


「不便だと感じる事を探す事だよ!商売とは・・」と


不便だと感じると・・なるほど!義明はそう思うとノートに自分が不便だと感じる事を書き出す。


彼が住む町は温泉に関係する人間以外は全て農業をしていた。


したがって町に八百屋が無かった。


農家の人間は自分の畑で少しだけ自分の家の分の野菜を作り食べていた。


なら、旅館で働いている人間は??


それに、果物が買えない。


近くに韮山と言う町がありそこはイチゴの産地であった。


イチゴのシーズンは新鮮なイチゴが食べられたがそれ以外に食べれない。


町の人間は、野菜や果物を買いに遠くまでわざわざ買いに行かなければいけなかった。


なるほど・・これは不便だ。


義明はそう感じ、自分の店で野菜と果物を売る事にした。


朝早く、三島の市場に仕入れに向う。そして早朝から店を開け新鮮な野菜を売り始めた。


長屋の女達は待ってましたとばかりに義明の店に早朝より買い物に訪れ始めた。


野菜がこんなに売れるなら、肉も売れるはずだ!


そう思い無理をして冷蔵庫を買った。


そして肉を仕入れて売り始める。


三島の市場の近くに大きなパン屋がオープンした。


早朝より焼きたての美味しそうなパンの香りが食欲をそそる・・


野菜や肉が売れるならパンだって・・


義明はそのパン屋の主に相談をして市場からの仕入れの帰りに焼きたての食パンを仕入れた。


今まで何時、仕入れたのかわからないような食材しか買う事が出来なかった田舎の住人は大変に喜んだ!


義明の店は早朝より新鮮な食材を求める客で列が出来るくらいに繁盛した。


ある日、山田屋に続く大きな旅館の主が義明を訪れ言った。


「旅館の朝食にパンを出してみようかと思うのだが?どうだろう?」と・・


それまでの旅館は和食の朝食があたり前であった。


ごはんにみそ汁、それに干物・・・


時代は高度成長時代なんて言われ始め、国民は新しい物を求めるそんな時代・・


「面白いじゃないですか!パン屋の主に相談をしてみますよ!」


義明はそんな旅館の主の申し出に嬉しそうに言った。


それが爆発的に評価され、その旅館に洋食の朝食を求めて多くの観光客が訪れる。


面白くないのは山田屋であった。


今まで自分の旅館が一番だったのにそんな事で人気が奪われそうな気配が面白くない。


山田屋は直ぐに自分の厨房に大きなオーブンを仕入れて焼きたてのパンを出すようにした。


「義明の野郎がいろいろと皆にくだらない入れ知恵をしているに違いない!

あの野郎!」


その頃からことごとく、義明の店は山田屋から目の敵にされるようになった。


そんな感じも気にしないで義明は商売に没頭した。


そして毎晩、寝る前に息子の晃を抱きかかえながら晃に言い聞かせるように呟くのだ!


「晃、お前と俺の敵は山田屋の全ての人間だ!

だから二人で絶対に復讐をしような!」と・・・


毎晩、毎晩・・義明はそう晃に呟きながら深い眠りにつく・・


晃は何時もそんな言葉の意味もわからずに・・


愛する父の胸の中で安らかな寝息を立てていた。


そんな親子を見つめながら小雪は何時も切ない想いで居た。


そして心の中で義明に語りかけていた・・


「憎しみからは・・何も生まれないのよ!」と


義明が店をオープンさせて4年の月日が流れようとしていた。


店は順調に業績を伸ばしていた。


それと同時に晃ももう直ぐ4歳になろうとしていた。


そして、2番目の偶然が義明親子に訪れようとしていた。


それはある3月の事であった・・

山田屋に電話をした後に義明は病院に電話をした。


「息子を明日、迎えに行きます・・」


そんな簡単な言葉に彼の並々ならぬ決意が込められていた。


次の日、義明は病院に行く前に役所に晃の出生届けを提出した。


「これで晴れてお前は俺の息子と認められたんだぞ!

仲良くやっていこうな!」


そう義明は晃に向かって呟いた・・


時刻は5時をまわっていた・・


義明は晃を乳母車に乗せながら狩野川のほとりを歩いていた・・


夕日が伊豆長岡の駅から温泉街を繋橋を真っ赤に染めていた・・


ふと、川の向こう側にまるで要塞のように立っている山田屋が見えた。


義明は乳母車から晃を出して抱っこをしながら呟いた・・


「晃!よく覚えておけ!俺たち二人の復讐と言う名の戦いが今日から始まる!

よく覚えておけよ!あそこに住んでいる人間達が・・

お前の母親を殺したんだ!

俺はどんな事をしても復習を成し遂げる!

お前も協力してくれよな!」


キャハハ・・・・・・・・・


そんな義明の言葉を理解したのかしないのか・・・


晃は義明が話し終わると大きな声を出して笑った・・


あそこに俺たち親子の敵が居るんだ!あそこに・・


のうのうと生きていやがるんだ!


お前の母親を殺したくせにな!


俺はどんな手を使ってもあそこの人間だけは許さない!


絶対に山田屋をぶっ潰してみせるから・・


義明は心の中で何度もそう呟くのであった。


それから数日後、晃との生活が落ち着くと義明は仕事を探し始めた。


そんなある日、小雪が義明を訪ねてきた。


「義明さん!お店を経営してみるつもりは無い??」


そんな小雪の突然の申し出に彼は少しだけうろたえた・・


「店をやるも何も・・俺にはそんなノウハウも無いよ!

それこそ仕入れの仕方もわからない!

そんな俺に店なんか出来ないと思う・・」


「あのね!ほら、吉野屋さんの横にある「杉本商店」さんのおじいさんが店を閉めるようなのよ!

それで居ぬきで買ってくれる人を探しているの!それであなたの事を話したら商売のイロハを

教えてくれるって言っていた!どうする?義明さん・・

もしも買うつもりがあるのなら私が話をつけるけど・・」


義明にとって願っても居ない話であった。


地道に会社勤めなんかしていてもどうやっても山田屋に復讐する事など出来ない。


あいつらと同じ位置まで登りつめなければいけない・・


義明は二つ返事で小雪に言った!


「頼むよ!お願いしてくれ!」


ついている!俺は絶対に・・


天国で悦子がきっと味方をしてくれているに違いない!


それに自分で商売をする方が晃を育てるには都合が良かった。


義明が面倒を見れない時は長屋の女達が面倒をみてくれると約束をしてくれた。


それから、一ヵ月後・・


伊豆長岡の町に一軒の雑貨屋が誕生した。


「浅田商店」


そんな名前の小さな何でも屋!


この店が数年後に支店を出すほどの成功をおさめようとはその時、誰も考えて居なかったのである。


1969年・・9月のある日・・もう季節は秋になろうとしていた。

義明はそう叫ぶとドシンと大きな音を立ててカウンターの席に腰掛けた。


「小雪!皆に好きな物を飲ませてやれ!」


そう言いながら彼はズボンのポケットから札束を無造作にテーブルに置いた。


静まりかえる店内・・


誰も義明の言葉に反応しない!


「何だ!お前ら!俺がせっかくご馳走してやる言ってるのに!」


不機嫌そうに義明はそう叫ぶ!


「何だ!お前ら・・俺が親切に・・」


そう言いかけた時に一人の常連客が言った・・


「そんな金で酒なんか飲めないよ!」と・・・


「何!俺の金では酒が飲めないって言うのか!」


「ああ・・だってその金は、悦子ちゃんの残した金だろ!

お前・・何をやっているんだ!何を・・」


店に居た全ての客が同じ思いでいた・・・


「何だ!何だ!お前ら!辛気臭いな!

俺の金をどう俺が使おうと関係ないだろ!

おい!小雪!酒を出せって言っただろ!」


女将の小雪は義明を睨みつけながら言った・・


「その金の重みをもっと感じなよ!

あんた、逃げてばかりじゃどうにもならないよ!

お酒は何もしてくれない・・

全てを忘れさせてくる訳がないのだから・・

あんたが今、やらないと行けない事・・

悦子が残してくれたお金の意味をもう一度、考えなよ!」


「何もわかって居ないくせに!俺の気持ちなんか・・

何で悦子が死ななければいけなかったか・・

お前らには何にも解って居ない!」


悲痛な顔で義明がそう呟いた・・・


「皆・・解っている!

何で悦子さんが死んだのか!

皆・・解っている!

そして、あんたが手にしているお金が何処から出たのかも・・

皆・・解っている!

だから、皆があんたを応援しようとしているんだ!

だから、あんたは逃げていけない!

悦子や生まれてきた坊やの為にも・・

そしてあんたを応援してくれている皆のためにも・・」


小雪のそんな言葉に義明は涙が止まらなかった・・


町の厄介者だった義明・・


自分でも皆から嫌われている事は十分過ぎるほど解った居た。


自分の妻を泣かせ酒に全て逃げ来た自分の弱い心も全て解っていた・・・


「皆が・・俺を応援してくれているって???」


義明はそう呟きながら周りを見渡した・・・


そこに居る全ての人間は貧しい人間であった。


自分の家庭を守るだけで精一杯の人間達であった。


そんな彼らが笑いながら言った・・・


「そうだ!あんたは1人でない・・」と


義明は自分の愚かさを悲観しながら大声で泣いた・・


その泣き声は何時の間にか・・


自分が多くの人間に支えられていると言う安堵の泣き声に変わっていた・・・


「ありがとう!俺、悩んでいたんだ!マジで・・

息子を引き取るよ!そして、山田屋の連中を見返してやるような男になる・・」


「そうだよ!義明さん!悦子も天国で応援してる!絶対に・・」


小雪のそんな言葉に止まったはずの涙が再び流れ出す・・・


義明は再び札束を小雪に手渡し言った・・


「小雪さん!これで皆にお酒を出してあげてくれないか!

悦子が言ってるんだ!私の旦那を頼みますって・・・

これは悦子からの皆への感謝の気持ちだ!」


そんな義明の言葉に悦子は微笑みながら・・


「わかったよ!」と言った・・


その晩、小雪の店で大宴会を行われた・・・


それは義明にとって最後のお酒であった。


「次に俺がこの酒を飲む時は・・

山田屋の連中と同じ位置に登りつめた時だ!」


義明はそう叫ぶと最後の酒を飲み干した!


次の日、彼は山田屋に電話を入れる・・


決まっていた就職を断るためだ。


山田屋の担当者はあっさり承諾をした・・・


今、俺はゴミだ!その辺に転がっている見向きもされないゴミなのだ!


でも見ていろ!何時かそんなゴミがダイヤモンドに変身してやるからな!


義明は電話を切りながらそう決意をするのであった。


その日から長い長い・・彼の復讐と言う名の戦いが始まったのである。