僕が死ぬ日・・生まれる日 -83ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

悦子の葬式が終わりやっと一息ついたのは悦子が死んで5日後の事であった。


しかし、義明はのんびりもしていられない。


考えることが山のようにあった。


しかし、今まで適当に生きて来た彼にとって決断をすると言うことは苦痛であった。


何かを決めると言う事が怖かった。


しかし、のんびりもしていられない。あと2日後には晃をどうするか病院に連絡をしないといけない。


「う~~ん!なんか頭がすっきりしないな!」


義明はそう呟くと台所に向った。


禁酒を決意した夜に彼は家の中の全てのお酒を処分した。


したがって家の中にはお酒は一本も無いはずである。


しかし、人間とは実に愚かな生き物だ。1度、飲みたいと思うとどうしても飲みたくなる。


台所などに一度も立った事が無い義明であった。


彼は台所の全ての棚をあさり始める。


すると水場の下の棚の中に悦子が料理用に買っていた日本酒を発見した。


ポン!


彼はその日本酒のふたを開けて鼻を近づけ匂いがかいだ・・


大丈夫だ!良い酒だ!


心の中でそう呟く・・


そのまま一升瓶を抱え居間に向かい湯飲み茶碗を棚から取り出すとドスンと腰を下ろした。


一杯だけ!一杯だけ・・頭をすっきりさせる為飲もう!一杯だけ・・


そう何度も自分に良心に語りかける。


トクトクトク・・・


なんとも美味そうな音を立てながら日本酒が茶碗にそそがれた・・


「美味い!」


義明は思わずそう叫んだ!


しかし直ぐに茶碗はからになってしまった・・


もう一杯だけ・・もう一杯だけなら大丈夫だろ・・・


そう呟きながら再びお酒をついだ・・


人間とは何て弱い生き物なのか??


本当に・・・


それから数分後・・・


彼は本格的に飲み始めていた!


「どうせ!1人なのだから!良いか!」


そんな言葉を呟きながら・・・


1時間後、一升瓶の中身がからになる。


しかし、まったく彼は酔っていなかった・・・


「なんだ!もう無いのか・・

飲み足りないな・・小雪にでも行くか!」


そう呟くと彼は立ち上がろうとした・・


ドスン・・・・・・・・


その途端、彼は大きな尻餅をついてしまった・・


意識はシラフ以上にはっきりしているのに・・


体は完全に酔っ払っているようである。


彼は一升瓶の瓶を杖代わりに立ち上がる。


そして引き出しから例の封筒を取り出すと適当に数枚の一万円札を抜いた。


義明の家から数十分離れた場所に彼の馴染みの飲み屋がある。


いや・・馴染みとは言えない。


彼はそこしかもう飲む店が無いのだ。


この町の全ての飲み屋から出入りを禁止されたのだから・・


その飲み屋を「小雪」と言った。


もう、30歳は過ぎているのだろうか??


そんな年恰好の女性が経営をしている。


女将の名前は店の名前、そのままの「小雪」と言った。


小雪は何処にも入れない義明を哀れだと言って一回、コップ2杯だけと決めて彼にお酒を出してくれる。


しかし、それは小雪の優しさでは無かった。


小雪と義明の妻、悦子は友達であった。


悦子が彼女に頭を下げて頼んでいたのだ!


「うちの人、何処も飲ませてもらえないみたいなの・・

迷惑はかけないから・・少しだけ飲ませてあげてよ!」と


そして悦子は小雪と会う度に少しばかりの金を渡していた・・


「俺にはツケで飲める店があるんだ!」


何も知らない義明は何時もそんな戯言を呟いていた。


どんなに悦子が面倒を見てくれていたかも知らずに・・


「よう!小雪!一杯、飲ませろよ!」


彼は店のドアを開くと偉そうにそう呟いた。


義明は完全なその時、酔っ払いに変身していた・・・


「あんた・・お酒は止めたんじゃないのかい??」


そう彼を睨みながら小雪は呟く・・


「か・・金ならあるんだ!皆にもおごってやってくれ!

今夜は派手に飲み明かそうぜ!

この店で一番、高い酒を持って来い!」


義明は上機嫌にそう叫んだ・・・・・


なんとも愚かな男である・・








悦子が亡くなった2日後・・


義明の自宅でしめやかな通夜が行われた。


生前、何もしてあげれなかった償いなのだろうか・・


義明は出来るだけの通夜を計画した。


弔問客に振舞う料理やお酒も出来るだけ豪華にし・・


悦子と言う人間の最後を見送りたいと思っていた。


通夜当日、待てど暮らせど誰一人、悦子の通夜に訪れる事は無かった。


しまいには予定していた坊さんまで都合で行けないと急な連絡が入る。


「どう言う事なんだ!

俺の通夜なら納得もする。今までろくな人生を歩んで来なかったのだから・・

しかし悦子は違う!こんな俺を必死に支えながら暮らして来たのに・・

他人様から後ろ指を差される事無く!誠実に生きて来たのに・・

この町の人間はなんて冷たいんだ!

ちきしょう!ちきしょう!」


そう何度も義明は悦子の写真に向かって呟きながら泣いた・・


その理由を知るのそれから5時間後の事になる。


全ての料理が暑さのせいで腐ってしまった。


用意した寿司も刺身も豪華な料理も全て・・・


義明は誰一人居ない悦子の祭壇の前で1人飲んでいた・・


すると・・


「そうません!義明さん!」


そんな声が玄関から聞こえる。


義明はふら付く足取りで玄関に向う。


すると悦子の幼馴染みの清美がそのに立っていた・・


「いや・・清美ちゃん!随分と遅いご登場で・・」


そんな嫌味の1つも義明は言いたかった・・


しかし、せっかく悦子のために来てくれたのだ!義明は笑顔で彼女に言った・・


「すまなかったね!忙しいのに・・ありがとう!」と・・


清美は涙をイッパイ目に溜めて言った・・


「ごめんね!悦ちゃん!本当はもっと早く来たかったのだけど・・

どうしても抜けれない用事があって・・

他の人も皆、今から来ると思うから許してね!」


そう清美は泣きながら言った・・


「清美ちゃん・・それどう言う事??

町の皆がそれに呼ばれたのかい??」


「ええ・・実は山田屋さんで今夜、初孫のお祝いの宴会があって・・

きっと、あの人達も今夜の事は知っているだろうに・・

何も今夜、やらなくても・・

義明さん、ごめんね!どうしても欠席する事が出来なかったのよ!」


そんな話をしているとドシドシと近所の人間が集まり始めた。


「ごめんな!義明!悦子さん・・本当にごめんな!」


そんな言葉を口々に呟きながら・・・


「あの野郎!わざとやりやがったな!」


義明はそう呟きながら硬く拳を握り締めた。


ただ、その反面・・


悦子が皆から愛されていた事をしみじみと感じられた・・


それがとてもありがたかった・・


すると、今夜通夜に来るはずだった坊主の加藤も額に汗をかきながら走って来た。


「すまんな!義明!本当にすまん・・」


夜の11時・・・しめやかに悦子の通夜が始まった。


全ての料理は捨てられ、用意されたビールもぬるくなっていた。


しかし、そんな事はお構い無しに・・


全ての町の住人達が、天国に旅立った悦子の霊を忍んだ・・・


「ありがとう!皆・・本当にありがとう・・」


義明は目にいっぱい涙を溜めて彼らに心から頭を下げるのであった。


「あいつもきっと、天国で笑っているよ!」


そんな言葉を呟きながら・・


全ての弔問客が帰り、あたりは静寂に包まれた・・


「悦子!俺・・これからどうすれば良いのだろう?

俺・・どうして良いかわからないよ!

息子の名前・・晃にしたよ!

お前が考えて居た名前なんだろ!さっき、清美ちゃんに聞いたよ!

ごめんな!俺、何にも知らなくって・・

ごねんな!もっと・・お前といろいろな事を話しておけば良かったよな!

ごめん!本当にごめん・・

天国で幸せになれよ!

今度は俺みたいな馬鹿に捕まるなよ!約束だぞ・・」


そう義明は呟くと何時の間にか深い眠りに落ちて行った・・・


夢を見ていた・・夢の中で悦子は笑いながら言った・・


「あなた・・私は幸せでしたよ・・」と・・


義明は眠りながら大粒の涙を流しながら・・


寝言を言った・・


「俺も幸せだったよ!ありがとう・・」と

「悦子!えつこ~~~~~!」


そんな悲痛な叫びの横で幸せそうな笑い声が聞こえていた。


「いや~真吾でかしたぞ!これで山田屋は安泰だ!

実に今夜は気分が良い!」


そう嬉しそうに真吾に言っていたのは当主の総一郎であった。


「でも、父さん!申し訳ありません!男の子を産めませんで・・」


そう申し訳無さそうに真吾が言うと総一郎は笑いながら言った!


「何を言っている!お前達はまだ若いんだ!あと二人や三人!産めるだろ!

毎晩、頑張れば良い!ハハハ・・・・・・・」


腰を上下に振りながらそんな事を言う彼の顔は本当に幸せそうであった・・・


病室の薄い壁を挟んで、まさにそれは天国と地獄であった。


そんな楽しそうな総一郎の言葉を聞きながら義明は悲痛な叫びを上げていた・・


「か・・金持ちなら何でも許されるのか!

貧乏人はどんなに頑張っても幸せにはなれないのか!

なんて世の中なんだ!この世は狂っている!」と・・


「そろそろ、私達は帰る事にしよう!真吾!今夜は祝杯だ!

おい!菊!小百合さんの世話を頼んだぞ!

わしらはそろそろ帰るからな!」


そんな総一郎の言葉に1人の女が笑顔で頷いた。


彼女の名前は、中川菊と言う。山田屋の仲居頭をしている。


18歳の時に山田屋で働き初めてもう、40年になろうとしていた。


その間に現在の旦那の番頭頭の智之と結婚して男と女の二人の子供をもうけた。


その二人の子供も山田屋で働いている。


本当に山田屋と言う旅館に依存している一家であった。


しばらくすると隣の部屋が急に静かになる。


すると義明の病室のドアをノックする音が聞こえる。


「はい!どなたですか??」


「はい!山田屋の使いの者ですが・・・」


義明は目に溢れるほど溜まった涙をふき取るとドアを開けた。


そこには山田屋の番頭頭の智之が立っていた。


「奥様!お亡くなりになったそうで・・

本日、隣同士の病室になったのも何かのご縁かと当主の総一郎が申しておりまして・・

お悔やみをお持ちいたしました。」


そう深々と彼は頭を下げぶ厚い封筒を義明に手渡した。


義明はそれを受け取ると中身を確認した。


一万円札がぶ厚く中に収められている・・


「お前ら!何処まで俺たちを馬鹿にすれば気が済むんだ!

こんな物、いるか!持って帰れ!」


そんな義明の言葉に智之の顔つきが一瞬で変貌した・・


「おい!義明!貴様・・自分の立場が理解でき無いのか?

このクソ野郎が!金が貰えるだけでもありがたいと思え!

良いか!この金の意味がわかるよな!

お前は善意で小百合様に分娩室を譲ったんだよな!

それで、偶然にお前の嫁は死んだんだよな!

山田家とお前の嫁が死んだ事は無関係だよな!

その辺をちゃんと理解しろよ!わかったな!

そうでないと残されたお前とそのクゾガキが野垂れ死にをする事になるぞ!

うちを甘く見るなよ!」


そんな言葉に義明は震えながら言った・・


「はい!有難うございました・・」と


智之は笑いながら病室を後にした。


「良かったな!棚から牡丹餅とはこの事だ!

どうせいつかはお前の女房も飢え死にするに違いなかったのだから・・

ダメ亭主のせいでな!

何て良い女房なんだ!大金を残して死んでくれるなんて!

感謝しろよ!悦子に・・・」


そんな言葉を呟きながら・・


ウウウウウウォ~~~~~~~~~~~~!


義明は病室の床を何度も拳で叩きながらそんな雄叫びをあげた。


復讐してやる!絶対に・・・


そんな言葉を呟きながら・・


「お子さんは一週間、病院でお預かりしますから・・

その間に今後、どうなさるかお決め下さい。

お子さんを預けるのなら良い施設もご紹介できますから・・」


担当の病院の事務員がそう他人事のように呟いた。


義明は何も答える事無くただ、小さくそんな彼の言葉に頷いた・・・


義明に決断の時が来ていた。


息子を手放すか?それとも自分で育てるのか??


そんな決断を・・・


「あ!それと奥様のご遺体はどう処理しておけばよろしいですか?

お葬式の手配もできますが・・」


そんな言葉に包まれながら・・