天国と地獄 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「悦子!えつこ~~~~~!」


そんな悲痛な叫びの横で幸せそうな笑い声が聞こえていた。


「いや~真吾でかしたぞ!これで山田屋は安泰だ!

実に今夜は気分が良い!」


そう嬉しそうに真吾に言っていたのは当主の総一郎であった。


「でも、父さん!申し訳ありません!男の子を産めませんで・・」


そう申し訳無さそうに真吾が言うと総一郎は笑いながら言った!


「何を言っている!お前達はまだ若いんだ!あと二人や三人!産めるだろ!

毎晩、頑張れば良い!ハハハ・・・・・・・」


腰を上下に振りながらそんな事を言う彼の顔は本当に幸せそうであった・・・


病室の薄い壁を挟んで、まさにそれは天国と地獄であった。


そんな楽しそうな総一郎の言葉を聞きながら義明は悲痛な叫びを上げていた・・


「か・・金持ちなら何でも許されるのか!

貧乏人はどんなに頑張っても幸せにはなれないのか!

なんて世の中なんだ!この世は狂っている!」と・・


「そろそろ、私達は帰る事にしよう!真吾!今夜は祝杯だ!

おい!菊!小百合さんの世話を頼んだぞ!

わしらはそろそろ帰るからな!」


そんな総一郎の言葉に1人の女が笑顔で頷いた。


彼女の名前は、中川菊と言う。山田屋の仲居頭をしている。


18歳の時に山田屋で働き初めてもう、40年になろうとしていた。


その間に現在の旦那の番頭頭の智之と結婚して男と女の二人の子供をもうけた。


その二人の子供も山田屋で働いている。


本当に山田屋と言う旅館に依存している一家であった。


しばらくすると隣の部屋が急に静かになる。


すると義明の病室のドアをノックする音が聞こえる。


「はい!どなたですか??」


「はい!山田屋の使いの者ですが・・・」


義明は目に溢れるほど溜まった涙をふき取るとドアを開けた。


そこには山田屋の番頭頭の智之が立っていた。


「奥様!お亡くなりになったそうで・・

本日、隣同士の病室になったのも何かのご縁かと当主の総一郎が申しておりまして・・

お悔やみをお持ちいたしました。」


そう深々と彼は頭を下げぶ厚い封筒を義明に手渡した。


義明はそれを受け取ると中身を確認した。


一万円札がぶ厚く中に収められている・・


「お前ら!何処まで俺たちを馬鹿にすれば気が済むんだ!

こんな物、いるか!持って帰れ!」


そんな義明の言葉に智之の顔つきが一瞬で変貌した・・


「おい!義明!貴様・・自分の立場が理解でき無いのか?

このクソ野郎が!金が貰えるだけでもありがたいと思え!

良いか!この金の意味がわかるよな!

お前は善意で小百合様に分娩室を譲ったんだよな!

それで、偶然にお前の嫁は死んだんだよな!

山田家とお前の嫁が死んだ事は無関係だよな!

その辺をちゃんと理解しろよ!わかったな!

そうでないと残されたお前とそのクゾガキが野垂れ死にをする事になるぞ!

うちを甘く見るなよ!」


そんな言葉に義明は震えながら言った・・


「はい!有難うございました・・」と


智之は笑いながら病室を後にした。


「良かったな!棚から牡丹餅とはこの事だ!

どうせいつかはお前の女房も飢え死にするに違いなかったのだから・・

ダメ亭主のせいでな!

何て良い女房なんだ!大金を残して死んでくれるなんて!

感謝しろよ!悦子に・・・」


そんな言葉を呟きながら・・


ウウウウウウォ~~~~~~~~~~~~!


義明は病室の床を何度も拳で叩きながらそんな雄叫びをあげた。


復讐してやる!絶対に・・・


そんな言葉を呟きながら・・


「お子さんは一週間、病院でお預かりしますから・・

その間に今後、どうなさるかお決め下さい。

お子さんを預けるのなら良い施設もご紹介できますから・・」


担当の病院の事務員がそう他人事のように呟いた。


義明は何も答える事無くただ、小さくそんな彼の言葉に頷いた・・・


義明に決断の時が来ていた。


息子を手放すか?それとも自分で育てるのか??


そんな決断を・・・


「あ!それと奥様のご遺体はどう処理しておけばよろしいですか?

お葬式の手配もできますが・・」


そんな言葉に包まれながら・・