復讐と言う名の序曲 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

山田屋の若旦那の真吾はめんどくさそうに義明を見た。


「お前!ここで何をやっているんだ??」


山田屋は老舗の温泉旅館であった。


いくら寂れた温泉街だと言ってもそれなりの歴史はある。


山田屋は江戸時代からこの地で営業をしている老舗の温泉旅館であった。


また、この辺では一番、大きな旅館で毎日のように団体客が訪れていた。


そんな旅館の若旦那の真吾のこの町で逆らう者など誰一人居ない。


まして、義明が新しい仕事を見つけたと悦子に言った仕事場は山田屋の配送であった。


「いや・・妻が産気づきまして!今、分娩室に丁度、入った所なんですよ・・」


そんな義明の言葉に一瞬、真吾の目が光った・・


「ほぉ~あなたの奥さんか!今、分娩室に入っているのは・・」


今から数分前、真吾は医者と喧嘩をしたのだ。


彼の妻は大至急、手術をしなければいけなかった。


しかし、隣町の大きな病院に行く時間が無いほど状態は危険であった。


「俺を誰だと思っているんだ!今、入って居る女を分娩室から引きずり出せ!」


そう真吾はわめきながら医者に食って掛かる!


そんな彼に冷静に医者は言った。


「患者に身分など関係ない!

私の前では全ての人間が平等だ!」と・・


現に悦子の状態も緊迫をしていた。


逆子でへその緒が子供の首に引っかかっている状態で・・・


緊急の手術をするか、しないかでもめている最中であったのだ。


真吾は義明に言った。


「悪いが、分娩室を渡してもらえないか??」と


そんな言葉に一瞬、義明の表情が暗くなる。


「聞こえないのか?分娩室を渡してくれないかと言ってるんだ!」


そんな怒鳴り声が病院の中に響き渡った・・


「しかし、真吾さん!うちの嫁も危険な状態で・・・」


そんな義明の言葉に・・


「貴様の女房と子供の命の重さとうちの子供の命の重さ・・

どちらが重いと思っているんだ!このたわけ者が!」


そんな真吾の言葉に義明は何も言う事が出来なかった・・


「わ・・わかりました!今、担当医に連絡をしてきます・・」


「昔は病院でなんか子供なんか産まなかったんだ!

貴様の子供なんか、病室で十分だ!」


そんな言葉が義明の心に刻まれた・・・


憎しみと言う想いと共に・・


しかし、義明にはどうにも出来なかった。


真吾に逆らうと言う事は、この街を捨てると言うことなのだから・・


義明が担当医の部屋に消えた数分後・・


分娩室の扉が開き、真っ青な顔をした悦子が部屋から運び出される。


それと同時に待機していた真吾の妻が分娩室に運び込まれる・・・


義明は部屋の外に出された悦子の手を必死に握り締めながら泣き叫んだ!


「すまない!本当にすまない!甲斐性の無い男ですまん・・」と


悦子は苦しみながら呟く・・


「良いのよ!あなたの気持ちは痛いほど解っているから・・

仕方が無いわ!

私、頑張るから!頑張って絶対に元気な子供を産んでみせるから・・」


そう呟くと義明の右手をしっかりと握り返した・・・


11時55分・・・


二つの部屋で同時に赤ん坊の産声が上がった!


「悦子は!子供は無事ですか!」


そんな義明の問いに医者は辛そうに言った・・


「奥さん!頑張りましたよ!最後まで・・

お子さんは無事でした・・

しかし・・奥さんは・・力が足りなくって申し訳ございません・・」


悦子は1つの命をこの世に誕生させる代償に自分の命を犠牲にした・・・


それは究極の母性愛なのかもしれない・・


「え・・悦子!えつこ~~~~~~~~~!」


そんな泣き叫ぶ義明の隣で・・


生まれたばかりの可愛い男の子は自分のこれからの人生など知る由も無く・・


笑っていた・・・


静かな病室の中で・・


義明の泣き声と・・


生まれた男の子の笑い声が・・・


悲しい合唱のように響いていた。


「あの野郎!絶対に俺は忘れないぞ!

この日の事を・・俺は絶対に忘れない!」


義明は涙を目にイッパイ溜めながら復讐を誓うのであった・・