偶然と言う名の苦しみ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

人間の人生の物語は、偶然から始まる。


それは全ての人間に言えることだと私は思っている。


そしてその偶然の殆どは、幸せになる為の偶然ではなく・・


不幸になる為の偶然が多い事も私は知っている。


それが人生と言う名の物語だからだ。


1969年静岡県の東部にある寂れた温泉街で私は生まれた。


妙に蒸し暑い日であった。


その日は町の町おこしで行われている花火大会の夜であった。


近くに修善寺と言うとても有名な温泉街があるせいか私の町は殆どの観光客が素通りをして行く。


また、駅から温泉街がとても離れていて電車の客はバスで30分もかけて行かないと


温泉街にたどり着けない不便さも影響してるのだろう・・


修善寺温泉と比べると私の住む町は寂れていた。


その日、町に一軒しかない総合病院の待合室である男がイライライしながら時を待っていた。


そう、我が子が生まれる瞬間を・・


それは私の父・・・


彼の名前は浅田義明、年は今年で36歳になる。



義明は真面目な温厚な性格であった。


しかし、お酒にめっぽう弱い。


お酒を飲むと性格が変貌する。


彼は何度もそんなお酒の席の失敗から職を失った。


そして、今、まさに陣痛を迎えようとしている女が1人・・


私の母親の浅田悦子、28歳


悦子には身寄りが無かった。


修善寺の温泉旅館で住み込みの仲居をしている時に義明と出会った。


そして、そのまま同棲を初めた。


もう直ぐ子供が生まれると言うのに二人は未だに籍を入れていない。


悦子の持つ母子手帳の父親の欄は空白であった。


義明はお酒さえ飲まなければ優しい男であった。


そんな義明のシラフの時が忘れられなくて悦子は未だに彼と別れる事が出来ないで居る。


いや・・自分に帰る家も無い事も1つの理由だったのかもしれない。


義明は居ても立っても居られずに外にタバコを吸いに出る。


ドォ~~~~~~ン!ドォ~~ン!


丁度、町の花火大会が開始される時刻だったのか・・


義明がタバコに火を付けると彼の頭上に大きな花火が何発も上がった。


「さ・・浅田さん!奥さんの陣痛が激しくなりました!

今から、分娩室に入ります!」


病院の看護婦が慌てながら義明を探しに来てそう叫んだ!


義明は、吸いかけのタバコを灰皿に押し込むと急いで2階に向った。


彼が二階に到着すると、今、まさに妻の悦子が分娩室に運び込まれる所であった。


義明は不安そうな顔をしてる悦子の右手をしっかりと握り締めながら言った。


「大丈夫だ!頑張れ!

俺、新しく仕事も見つけて来たんだ!

子供が生まれたらお酒も止めるから・・・

そうしたら籍を入れに役所に行こう!

生まれて来る坊主を父親の居ない子どもにしたら可哀想だもんな!」


それは悦子が待ち望んでいた言葉であった。


出産の不安や痛みはそんな愛する旦那の言葉で吹っ飛んだ!


これで、幸せになれる・・これで・・


そんな思いが悦子に安心をあたえた。


「すいません!急患です!」


いきなりそんな叫び声が聞こえ静寂に包まれていた病院の廊下を・・


慌ただしく走るタンカーの音が聞こえる。


「急に産気づきまして!予定日よりも一ヶ月も早いのに!」


付き添いの主人らしき男が必死にそう説明している。


何処か見覚えのある顔・・・


「あっ!山田屋さんの若旦那!」


義明はそう叫んだ。


そんな声に彼は必死の形相で義明の顔を見た。


「なんだ・・お前か!こんな所で何をしているんだ!」


これが、一番目の偶然の始まりであった。