義明が店を開店させた数日後、各家に回覧板が廻った。
山田屋の孫娘、真子のお披露目パーティーのお知らせ。
町民は強制的にそのパーティーにご祝儀を持って行かなくていけなかった。
町の全てが人間が山田屋に向う中、義明は早朝から仕事に追われていた・・
朝、早くからバイクにまたがり、三島や修善寺に営業に向う。
その間、「どうせ暇だから!」と小雪が晃の面倒と店番をしてくれた。
乳は数ヶ月前に子供を産んだ佳代と言う女が朝と晩に晃に自分の母乳を飲ませに訪れてくれた。
杉本商店の時の常連達もそのまま義明の店で商品を買ってくれたが売上はビビたるものであった。
毎月、やっと生活が出来るくらいのギリギリの生活・・
ある日、義明は杉本に聞いてみた。
「商売を成功させる秘訣は何でしょう??」
そんな彼の問いに杉本のじぃさんは笑いながら言った・・
「不便だと感じる事を探す事だよ!商売とは・・」と
不便だと感じると・・なるほど!義明はそう思うとノートに自分が不便だと感じる事を書き出す。
彼が住む町は温泉に関係する人間以外は全て農業をしていた。
したがって町に八百屋が無かった。
農家の人間は自分の畑で少しだけ自分の家の分の野菜を作り食べていた。
なら、旅館で働いている人間は??
それに、果物が買えない。
近くに韮山と言う町がありそこはイチゴの産地であった。
イチゴのシーズンは新鮮なイチゴが食べられたがそれ以外に食べれない。
町の人間は、野菜や果物を買いに遠くまでわざわざ買いに行かなければいけなかった。
なるほど・・これは不便だ。
義明はそう感じ、自分の店で野菜と果物を売る事にした。
朝早く、三島の市場に仕入れに向う。そして早朝から店を開け新鮮な野菜を売り始めた。
長屋の女達は待ってましたとばかりに義明の店に早朝より買い物に訪れ始めた。
野菜がこんなに売れるなら、肉も売れるはずだ!
そう思い無理をして冷蔵庫を買った。
そして肉を仕入れて売り始める。
三島の市場の近くに大きなパン屋がオープンした。
早朝より焼きたての美味しそうなパンの香りが食欲をそそる・・
野菜や肉が売れるならパンだって・・
義明はそのパン屋の主に相談をして市場からの仕入れの帰りに焼きたての食パンを仕入れた。
今まで何時、仕入れたのかわからないような食材しか買う事が出来なかった田舎の住人は大変に喜んだ!
義明の店は早朝より新鮮な食材を求める客で列が出来るくらいに繁盛した。
ある日、山田屋に続く大きな旅館の主が義明を訪れ言った。
「旅館の朝食にパンを出してみようかと思うのだが?どうだろう?」と・・
それまでの旅館は和食の朝食があたり前であった。
ごはんにみそ汁、それに干物・・・
時代は高度成長時代なんて言われ始め、国民は新しい物を求めるそんな時代・・
「面白いじゃないですか!パン屋の主に相談をしてみますよ!」
義明はそんな旅館の主の申し出に嬉しそうに言った。
それが爆発的に評価され、その旅館に洋食の朝食を求めて多くの観光客が訪れる。
面白くないのは山田屋であった。
今まで自分の旅館が一番だったのにそんな事で人気が奪われそうな気配が面白くない。
山田屋は直ぐに自分の厨房に大きなオーブンを仕入れて焼きたてのパンを出すようにした。
「義明の野郎がいろいろと皆にくだらない入れ知恵をしているに違いない!
あの野郎!」
その頃からことごとく、義明の店は山田屋から目の敵にされるようになった。
そんな感じも気にしないで義明は商売に没頭した。
そして毎晩、寝る前に息子の晃を抱きかかえながら晃に言い聞かせるように呟くのだ!
「晃、お前と俺の敵は山田屋の全ての人間だ!
だから二人で絶対に復讐をしような!」と・・・
毎晩、毎晩・・義明はそう晃に呟きながら深い眠りにつく・・
晃は何時もそんな言葉の意味もわからずに・・
愛する父の胸の中で安らかな寝息を立てていた。
そんな親子を見つめながら小雪は何時も切ない想いで居た。
そして心の中で義明に語りかけていた・・
「憎しみからは・・何も生まれないのよ!」と
義明が店をオープンさせて4年の月日が流れようとしていた。
店は順調に業績を伸ばしていた。
それと同時に晃ももう直ぐ4歳になろうとしていた。
そして、2番目の偶然が義明親子に訪れようとしていた。
それはある3月の事であった・・