信用を得ると言う事・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

義明は悦子が死んで1つだけわかった事があった。


悦子が死んだ当時、彼は最愛の妻を失った事に気が狂うほど悲しんだ・・


しかし、それは悦子を失った事への悲しみでは無かったのだと最近、気がついた。


孤独になる恐怖・・・


悦子と言う家族を失い孤独になる悲しさが自分自身に悲しみを与えていた。


悦子を愛していなかった訳ではない・・


しかし、パートナーを失い自分自身がこの世で1人になってしまった怖さが義明に恐怖を与えた。


1人は怖いんだ・・


孤独になる事が・・怖いんだ・・・


全てを失う事は怖くなかった・・・


でも・・孤独になる事が怖かった・・


晃はとても賢い子供であった。


同い年の子供と比較するとまったく成長の速度が違う。


歩き出すのも、言葉を話し始めるのも誰よりも早かった。


しかし、一番違ったのは記憶力であった。


1度、見たり聞いたりした事は幼い子供には珍しく殆ど覚えている。


そんな晃を近所の大人達はもてはやしたが、義明はあまり気にもしていなかった。


晃が4歳になると少し、経済的にも余裕が生まれたので彼に柔道を習わせる。


「男は別に学が立たなくても良いんだ!力さえあれば・・」


それが義明の教育方針であった。


4歳になった春に晃は幼稚園に入園する事になる。


近所の女達がそんな事を自分達の事のように喜んだ。


丁度、その頃、山田屋では大騒動になっていた。


娘の真子は近所の幼稚園には行かずに私立の付属幼稚園に入園をさせるつもりであった。


しかし、早産が影響しているのか真子は生まれた時が体が弱かった。


何度も季節の変わり目にはぜん息のような状態が続く・・


幼稚園の試験の3日前に真子は熱を出し倒れてしまった・・・


「なんとしても試験だけは受けさせないと!」


そう真子を励ましながら一家は真子の状態を見守ったが結局、試験を受ける事が出来なかった。


4月7日


狩野川のほとりの桜の木が綺麗な花を咲かせ始めた頃・・・


同じ幼稚園に晃と真子は入園をした。


それが二つ目の偶然であった。


子供に大人の世界は関係が無い!


なぜならば子供には子供の世界のルールがあるのだから・・


入園して晃と真子は同じ「みかん組」になった。


入園式の日、幼稚園の教室で4年ぶりに義明と真吾が再会をした。


義明はただ何も言わず真吾と妻の小百合を睨みつけていた。


そんな義明をまるで汚い野良犬でも見るかのように小百合が見つめ言った・・


「だから、こんな幼稚園には来たくなかったのよ!まったく・・」と


義明の店は順調に売上を伸ばしていた。


今年の夏には三島に2号店を出す計画まであった。


どうしょうもない男であったがお酒さえ飲まなければ優秀な男であった。


義明はめきめきと商売の頭角を現し始めた。


そんな中でも毎晩の晃への言葉は変わらなかった。


おやすみ!の代わりに・・


何度も「復讐」と言う言葉を晃に教え込んだ。


晃は賢い子供でちゃんと大人の事情を子供なりに理解をしていた。


そして、同じクラスの真子と言う女の親が自分の母親を殺した事も知っていた。


ただ、晃は賢い!決して表には出ないタイプであった。


自分がやらなくても、真子のようなタイプの子供は自然にいじめられる事を知っていたのだ。


案の定、真子はクラスの悪ガキの格好のいじめの対象になっていた。


そして、気の弱い真子はそれを親に言う事が出来なかった。


しかし、毎日、体にアザを作ってくる娘の状態に気がつかないほど真子の親は間抜けでは無い!


ある日、幼稚園の全ての親が山田屋の宴会場に子供を連れて集められた!


真吾は低いドスのきいた声で言った・・


「うちの娘がいじめられているらしいのだが・・

どこのガキだ!」と・・・


子供は親と正反対に無邪気に笑っていた・・


その反面、横で子供の両親の顔は恐怖で引きつっていた・・


「誰だと言ってるんだよ!誰も居ないとは言わせないぞ!」

ドン!


真吾がテーブルを叩く!


そんな音にさすがの子供達も恐怖を覚えたのか泣き始めた。


子供は子供なりに自分達がしでかした事の重大さを感じた・・


「誰だと言っているんだ!」


鬼のような形相の真吾の怒鳴り声だけが大きな宴会場に響き渡る・・


「俺だ!俺の家の息子!晃がやったんだ!」


そんな声に全員の親が振り返る・・


そこには義明と晃が立っていた。


「よ・・義明!貴様の馬鹿息子か!」


真吾は手を震わせながらそう叫んだ・・・


「ああ・・そうだ!俺が息子に言ってお前の娘をいじめさせたんだ!」


義明は知っていた・・


商売をする上で一番、大切な事を・・


それはお金でも才能でもない・・


それは信用である。


今、まさに義明はこの場にい居る全ての大人の信用をえようとしていた。


そして、信用をどのようにしたら得られるのか・・


義明も晃も十分過ぎるほど知っていたのだ!


「おじさん!ごめんさい!」


晃は泣きながら真吾にそう謝罪をした・・・


浅田晃・・


この子供・・只者ではない・・