僕が死ぬ日・・生まれる日 -80ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

トラックで三島に着くとあまりにも何時もと変わらない町の状態に少し驚いた。


川沿いの町だけが大変な被害にあったらしい・・


義明は晃を病院に連れて行くと小雪をその場に残し自分の店に向った。


「社長!大変でしたね!連絡が取れなくって困っていたんですよ!」


店はちゃんと営業していた。


2号店を任せている佐々木は真面目な人間であった。


そして、それなりに商才がある人間であった。


「ああ・・悲惨な状態だ!どうにも・・

あれは、復旧するのに相当な時間がかかる・・

処で店にある食料品と衣料品を全て向こうに持っていくから!」


そんな義明の言葉に・・


「お売りになるのですか?」と佐々木は聞き返した。


「いいや・・全部無料で配る!」


そんな義明の言葉に佐々木は理解できないと言うような顔をした。


「社長!今が商売のチャンスじゃないですか!

物が不足をしている今が・・売りましょうよ!」


そんな佐々木の言葉に義明は笑いながら言った・・


「佐々木!俺はお前に期待をしている。

俺はもっと、もっと、大きな商売をこれからして行くつもりだ!

でもな!佐々木!忘れてはいけないぞ!

商売をする上で一番大切な物は信用だぞ!

金とか知名度なんか一晩で一瞬で消えてしまう!

でも、信用は消えない・・

信用は何時までも人の心に残るんだ!

だから、こんな困難な時にこそ・・

多くの人間が助けを求め居る時こそ!

自分の利益を投げ出して信用を手に入れる!

そう考えられる人間が成功を掴むんだ・・」


義明のそんな言葉に佐々木は驚いたような顔をした・・


そして・・


「社長・・奥が深いですね・・」と呟いた。


大量の商品を載せて義明親子が長岡に帰って来たのその日の大分遅い時間であった。


義明はトラックを町長の自宅の庭に止めると町長に言った。


「浅田商店から町に寄付をします!」と・・・


町長の家には多くの町の要人が集まっていた。


そして口々に言った・・


「山田屋の真吾なんかより義明の方が何倍も立派だ!」と・・・


義明は小額の金で信用を手に入れた。


「不便だと思うこと・・

それが、全てのお客が望んでいる事だ!

そしてそれが商売の原点だ」


確かに・・


自分が一番、その時に不便だと思う事、望んでいる事を自分以外の人間も望んでいる・・


その事を守って来た彼にとって今回の台風は絶好のチャンスになったのだ。


長岡の町が復興するのに結局、1年の年月が過ぎた。


台風のあった1ヵ月後に最初に鉄道が復旧した。


それにあわせて、山田屋も営業を始めた。


町の復興には何の力も貸さずにただ、自分の利益だけを追求するその態度に・・


多くの関係者が呆れた顔をした。


あの悪夢の台風から2年の月日が流れた。


義明の店は順調で3店舗目の店を函南にオープンしていた。


晃はもう直ぐ6歳になろうとしていた。


幼稚園を無事に卒園して小学校に入学する事になった。


真子は沼津の私立の付属の小学校に入学が決まったと風の噂で聞いていた。


そんなある日の午後・・・


晃の家のチャイムが突然に鳴った。


何時もなら義明が帰って来るまで小雪が居るのだがその日は丁度、小雪が居なかった。


晃はめんどくさそうに玄関を開いた。


そこには真子が立っていた。


「何だ!山田か・・どうしたいんだよ!何か用か??」


そんな晃の問いに真子は何も言わなかった・・


「何だ??どうしたんだよ!用事があるのなら言えよ!」


晃は少し怒ったような口調で真子に言った・・


「うん・・少し良いかな!今から源氏山に行かない??」


そう真子は恥かしそうに呟いた・・


「ああ・・別に父ちゃんもまだ帰ってきそうも無いから良いけど・・」


晃はそう呟くと玄関に無造作に放り投げられている靴を履いた。


「何だよ!話って・・」


そんな晃の問いに真子は何も言わずに恥かしそうに下を・・・


源氏山につくと頂上に登る道の入り口に大きな神社がある。


何でも北条政子の霊をおまつりしているようで長岡の観光名所の1つであった。


「待って!晃君!神社に寄って行かない??」


そう真子は晃に言うと強引に晃の手を引いて神社の境内に向った・・


「お・・・おい!何だよ!いったい何の用があるんだよ!」


晃は困惑しながらも少しだけ真子の手の温もりを感じながら幸せな気持ちに・・


女の子の手って凄く柔らかいんだな~


そんな戯言を呟きながら・・・


二人は夕暮れの神社の中に消えて行った・・

義明と小雪は傷ついた晃を抱きしめながら街を眺めていた。


町の殆どが狩野川からあふれ出した水で水没しているようであった。


「こいつは復旧に時間がかかるな!」


そんな光景を見ながら義明はポツリと呟いた。


しばらくすると必死の形相で山田屋の関係者が真子を探しに来た。


「小雪!その辺に捨てて来い!

これだけの人間が探しているんだ!

直ぐに見つけるから・・」


そんな義明の言葉に小雪は辛そうに気を失っている真子を抱きかかえると・・

そっと、少し離れた大きな木下に寝かせた。


そして数分後、山田屋の番頭が真子を見つけたのを確認すると安堵の表情を浮かべ戻って行った。


どの位の時間が過ぎたのだろう・・


何時の間にか雨は止みあんなに吹いていた強い風も止んでいた。


東の空が次第に明るくなり・・・


朝日が昇り始める・・・


爽やかな朝日が町の全貌を照らした瞬間・・・


源氏山に避難していた全ての人間の口から深いため息がこぼれた・・


「こいつは・・全滅だな・・」


死者1000人、行方不明者2000人・・・


戦後最大の大型台風「狩野台風」


そんな見出しの記事が新聞に掲載されたのはそれから数日後の事であった。


長岡の地形が幸いしたのか多くの温泉旅館が被害から逃れていた。


皮肉な物である。一等地に店を構えている旅館は全滅で・・・


あまり人が訪れない寂れた山の上の旅館は被害を間逃れるなんて・・・


「山田さん!とりあえず無事な旅館に皆を移動させよう!」


そう温泉旅館、「吉野家」の主が真吾に提案した。


そんな吉野の提案に


「ふざけんな!うちはこれから直ぐに旅館の復旧作業にかからないといけない!

そんな町の人間なんて泊まらせる場所は無い!」


そんな真吾の言葉に吉野は呆れた表情を見せた。


「それなら、温泉会の会長はあんただが、俺たちは俺たちで勝手にやらしてもらうぞ!」


そんな吉野の言葉に・・


「勝手にやれ!うちは関係が無い!」と真吾は言った。


数人の旅館の主が吉野の所に集められた。


そして、疲れきった町の人間達を各、旅館に割り振り移動を始める。


「熱い温泉にでも入って元気を出そうぜ!」


そんな義明の言葉に少しだけ町民のあいだから笑みがこぼれる。


義明は汚れた体を温泉で洗い流すと直ぐに自分の店に向った。


町は義明の腰の辺りまで水で浸かっていた・・・


「大丈夫かな・・店の下は全滅だな・・きっと・・」


浅田商店の建物は古いながらもしっかりとした作りのようで無事であった。


しかし、店の商品は悲惨な状態であった。


しかし、倉庫として使っている二階は無事で多くの食料は無事であった。


義明は数人の若い男と共にそれらの食料を各旅館に配った。


「ありがとう!義明さん!ありがとう・・」


配られた缶詰を大切そうに抱えながら多くの女達が義明に感謝した。


水が引き始めたのはそれから3日後の事であった。


その頃には自衛隊のトラックがどしどしと町に入ってきた。


「吉野さん!うちの三島の店に食料を取りに行きたいのだが・・」


義明は作業のリーダーの吉野にそう言った。


しかし、それはたてまえでトラックを借りたかったのだ。


晃の傷は予想外に深く化膿し始めていた。


出来るだけ早く三島の医者に連れて行きたい!


それに2号店の状態も気になる・・


そんな義明の言葉に吉野は快く自衛隊の幹部にトラックの使用を願い出てくれた。


丁度、その頃、山田屋の自分の部屋で寝ていた真子の右足に異変が起こっていた。


右足は大きく腫れ、真子は痛みと熱で今にも泣き出しそうになっていた。


しかし、真吾の妻の小百合がその事に気がついたのは大分後の事であった。


今でも真子は変な歩き方をする。


右足をかばう様なそんな歩き方・・


そして季節の変わり目には右足に激痛が走るらしい・・


真子の足は骨折をしていたのだ。


それを放置していた後遺症なのだろう・・


真子は死ぬまでその痛みと付き合うことになる。


その翌日、義明は三島に向うトラックの荷台に小雪と晃と3人で座っていた。


義明は揺れるトラックの荷台に腰かけながら考えて居た・・


「この惨事をどう金に変えて行こうか?」と・・・

晃は何時の間にか逃げ惑う大人たちにまぎれていた。


皆、必死の形相で源氏山を目指していた。


ふと、晃は雨音の間に女の子のうめき声のような物を聞いた・・


それは大人には聞こえないような地面から吹き出るようなうめき声であった。


晃は逃げ惑う大人の列から少しだけ外れ耳をすました・・


「だ・・誰か助けて!誰か・・痛いよ!お父様!お母様・・」


何処かで聞き覚えのある声・・・


晃はその声のする方向に行ってみる・・


既に川の水圧と強風で多くの長屋が崩壊をしていた・・・


ある一軒の崩壊した長屋からそのうめき声は聞こえた!


「だ・・誰か居るのか!誰か!」


晃は風の音に負けないように大きな声でそう叫んだ!


すると・・


「だ・・誰?助けて!足が動かないの!足が・・」


晃がその声の方向に駆け寄るとそこには倒れた材木に足を挟まれた真子が居た・・


「お・・おい!大丈夫か!」


「あっ!晃君!た・・助けて!」


真子・・・


それを確認した瞬間・・・


晃の心の中の悪魔がささやいた・・


俺達、親子の使命は・・・

山田の一家を抹殺する事だ!と・・・


それは晃が幼い頃から何度も、何度も父から言われて来た言葉であった。


もしも、この場に義明がいたらきっと言うだろう・・


「苦しいか!俺の妻もそんなうめき声を出しながら死んだのだ!」と・・


しかし、晃は自然に本当に無意識に真子に向けて右手を出した・・


「大丈夫か?」


そんな言葉を呟きながら・・


「今、木材をどけやるからな!」


幼い晃にはその木材は重過ぎるようでびくとも動かない・・


晃は違う木材を持ってくると地面と木材との間に差し込み自分の全体重をのせて木材を動かす・・


「あっ!動いた!」


真子のそんな言葉に少しだけ安心をする


「抜き出すんだ!大丈夫か?自分で抜けるか??」


「うん!大丈夫!」


ピュ~~~


その瞬間、一枚の看板が真子目掛けてもの凄いスピードで向って来た!


「あ!危ない!」


晃は自分の身を捨てて真子に覆いかぶさる・・


ガチャ~~~ン


晃の顔に看板が激突した・・・


晃のまぶたの上の方が切れたようで顔から血が溢れるように流れ出した・・


「あ・・晃君!大丈夫??晃君!」


真子は泣きそうな声でそう何度も叫んだ!


「だ・・大丈夫だ!それより立てるのか??」


晃は真子を立たせた。


よろめきながら真子は何とか立ち上がった・・


「歩けるか??」


そんな晃の問いに無理に右足を動かしてみる・・


「い・・痛い!ダメ・・私、歩けない・・・」


ウゥ~~ウゥ~~~


サイレンが頻繁に鳴り響く・・


やばいぞ!殆どの堤防が崩壊し始めているに違いない・・


「真子!俺の背中におんぶしろ!」


晃は真子にそう叫んだ!


「えっ!でも、晃君も怪我をしてるじゃない!」


「こんな怪我!男は女を守るのが役目だ!

オヤジが何時も言っていた!

ほら、急げ!早くしろ!」


真子は恥ずかしながら晃の背中におぶさった・・


血がしたったり落ちる・・


雨に流され地面が真っ赤に染まっていた・・・


「走るぞ!」


幼い晃であったが人間とは窮地の時には恐ろしい力を発揮する物である。


晃はそのまま、真子をおんぶして、源氏山の急斜面を駆け上がった!


「晃!大丈夫!あ・・あんた、顔から血が出てるじゃないか!どうしたんだい!」


小雪が晃を見つけそう叫んだ!


「小雪ちゃん!俺・・ヤバイよ!」


晃は小雪の姿を見て安心をしたのかその場にヘタレ込んだ・・


「だ!誰か救急箱を持っていないか!だ・・誰か!」


ふと、小雪が晃の背中を見るとそこには晃に必死にしがみ付く真子の姿があった・・


「小雪ちゃん!オヤジには内緒だぜ!頼むよ・・・」


晃はそう小雪に告げるとそのまま意識を失った・・


それが3番目の晃と真子との偶然であった。


晃の右目の上に大きな傷が残った・・・


義明に小雪は逃げる途中で看板に激突したらしいと説明をした。


可愛い息子の顔に大きな傷が残った事に義明は辛そうな顔をした。


晃の顔の傷の訳・・


それは永遠に晃と小雪との二人だけの秘密であった・・