大きな爪あと | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

義明と小雪は傷ついた晃を抱きしめながら街を眺めていた。


町の殆どが狩野川からあふれ出した水で水没しているようであった。


「こいつは復旧に時間がかかるな!」


そんな光景を見ながら義明はポツリと呟いた。


しばらくすると必死の形相で山田屋の関係者が真子を探しに来た。


「小雪!その辺に捨てて来い!

これだけの人間が探しているんだ!

直ぐに見つけるから・・」


そんな義明の言葉に小雪は辛そうに気を失っている真子を抱きかかえると・・

そっと、少し離れた大きな木下に寝かせた。


そして数分後、山田屋の番頭が真子を見つけたのを確認すると安堵の表情を浮かべ戻って行った。


どの位の時間が過ぎたのだろう・・


何時の間にか雨は止みあんなに吹いていた強い風も止んでいた。


東の空が次第に明るくなり・・・


朝日が昇り始める・・・


爽やかな朝日が町の全貌を照らした瞬間・・・


源氏山に避難していた全ての人間の口から深いため息がこぼれた・・


「こいつは・・全滅だな・・」


死者1000人、行方不明者2000人・・・


戦後最大の大型台風「狩野台風」


そんな見出しの記事が新聞に掲載されたのはそれから数日後の事であった。


長岡の地形が幸いしたのか多くの温泉旅館が被害から逃れていた。


皮肉な物である。一等地に店を構えている旅館は全滅で・・・


あまり人が訪れない寂れた山の上の旅館は被害を間逃れるなんて・・・


「山田さん!とりあえず無事な旅館に皆を移動させよう!」


そう温泉旅館、「吉野家」の主が真吾に提案した。


そんな吉野の提案に


「ふざけんな!うちはこれから直ぐに旅館の復旧作業にかからないといけない!

そんな町の人間なんて泊まらせる場所は無い!」


そんな真吾の言葉に吉野は呆れた表情を見せた。


「それなら、温泉会の会長はあんただが、俺たちは俺たちで勝手にやらしてもらうぞ!」


そんな吉野の言葉に・・


「勝手にやれ!うちは関係が無い!」と真吾は言った。


数人の旅館の主が吉野の所に集められた。


そして、疲れきった町の人間達を各、旅館に割り振り移動を始める。


「熱い温泉にでも入って元気を出そうぜ!」


そんな義明の言葉に少しだけ町民のあいだから笑みがこぼれる。


義明は汚れた体を温泉で洗い流すと直ぐに自分の店に向った。


町は義明の腰の辺りまで水で浸かっていた・・・


「大丈夫かな・・店の下は全滅だな・・きっと・・」


浅田商店の建物は古いながらもしっかりとした作りのようで無事であった。


しかし、店の商品は悲惨な状態であった。


しかし、倉庫として使っている二階は無事で多くの食料は無事であった。


義明は数人の若い男と共にそれらの食料を各旅館に配った。


「ありがとう!義明さん!ありがとう・・」


配られた缶詰を大切そうに抱えながら多くの女達が義明に感謝した。


水が引き始めたのはそれから3日後の事であった。


その頃には自衛隊のトラックがどしどしと町に入ってきた。


「吉野さん!うちの三島の店に食料を取りに行きたいのだが・・」


義明は作業のリーダーの吉野にそう言った。


しかし、それはたてまえでトラックを借りたかったのだ。


晃の傷は予想外に深く化膿し始めていた。


出来るだけ早く三島の医者に連れて行きたい!


それに2号店の状態も気になる・・


そんな義明の言葉に吉野は快く自衛隊の幹部にトラックの使用を願い出てくれた。


丁度、その頃、山田屋の自分の部屋で寝ていた真子の右足に異変が起こっていた。


右足は大きく腫れ、真子は痛みと熱で今にも泣き出しそうになっていた。


しかし、真吾の妻の小百合がその事に気がついたのは大分後の事であった。


今でも真子は変な歩き方をする。


右足をかばう様なそんな歩き方・・


そして季節の変わり目には右足に激痛が走るらしい・・


真子の足は骨折をしていたのだ。


それを放置していた後遺症なのだろう・・


真子は死ぬまでその痛みと付き合うことになる。


その翌日、義明は三島に向うトラックの荷台に小雪と晃と3人で座っていた。


義明は揺れるトラックの荷台に腰かけながら考えて居た・・


「この惨事をどう金に変えて行こうか?」と・・・