晃は何時の間にか逃げ惑う大人たちにまぎれていた。
皆、必死の形相で源氏山を目指していた。
ふと、晃は雨音の間に女の子のうめき声のような物を聞いた・・
それは大人には聞こえないような地面から吹き出るようなうめき声であった。
晃は逃げ惑う大人の列から少しだけ外れ耳をすました・・
「だ・・誰か助けて!誰か・・痛いよ!お父様!お母様・・」
何処かで聞き覚えのある声・・・
晃はその声のする方向に行ってみる・・
既に川の水圧と強風で多くの長屋が崩壊をしていた・・・
ある一軒の崩壊した長屋からそのうめき声は聞こえた!
「だ・・誰か居るのか!誰か!」
晃は風の音に負けないように大きな声でそう叫んだ!
すると・・
「だ・・誰?助けて!足が動かないの!足が・・」
晃がその声の方向に駆け寄るとそこには倒れた材木に足を挟まれた真子が居た・・
「お・・おい!大丈夫か!」
「あっ!晃君!た・・助けて!」
真子・・・
それを確認した瞬間・・・
晃の心の中の悪魔がささやいた・・
俺達、親子の使命は・・・
山田の一家を抹殺する事だ!と・・・
それは晃が幼い頃から何度も、何度も父から言われて来た言葉であった。
もしも、この場に義明がいたらきっと言うだろう・・
「苦しいか!俺の妻もそんなうめき声を出しながら死んだのだ!」と・・
しかし、晃は自然に本当に無意識に真子に向けて右手を出した・・
「大丈夫か?」
そんな言葉を呟きながら・・
「今、木材をどけやるからな!」
幼い晃にはその木材は重過ぎるようでびくとも動かない・・
晃は違う木材を持ってくると地面と木材との間に差し込み自分の全体重をのせて木材を動かす・・
「あっ!動いた!」
真子のそんな言葉に少しだけ安心をする
「抜き出すんだ!大丈夫か?自分で抜けるか??」
「うん!大丈夫!」
ピュ~~~
その瞬間、一枚の看板が真子目掛けてもの凄いスピードで向って来た!
「あ!危ない!」
晃は自分の身を捨てて真子に覆いかぶさる・・
ガチャ~~~ン
晃の顔に看板が激突した・・・
晃のまぶたの上の方が切れたようで顔から血が溢れるように流れ出した・・
「あ・・晃君!大丈夫??晃君!」
真子は泣きそうな声でそう何度も叫んだ!
「だ・・大丈夫だ!それより立てるのか??」
晃は真子を立たせた。
よろめきながら真子は何とか立ち上がった・・
「歩けるか??」
そんな晃の問いに無理に右足を動かしてみる・・
「い・・痛い!ダメ・・私、歩けない・・・」
ウゥ~~ウゥ~~~
サイレンが頻繁に鳴り響く・・
やばいぞ!殆どの堤防が崩壊し始めているに違いない・・
「真子!俺の背中におんぶしろ!」
晃は真子にそう叫んだ!
「えっ!でも、晃君も怪我をしてるじゃない!」
「こんな怪我!男は女を守るのが役目だ!
オヤジが何時も言っていた!
ほら、急げ!早くしろ!」
真子は恥ずかしながら晃の背中におぶさった・・
血がしたったり落ちる・・
雨に流され地面が真っ赤に染まっていた・・・
「走るぞ!」
幼い晃であったが人間とは窮地の時には恐ろしい力を発揮する物である。
晃はそのまま、真子をおんぶして、源氏山の急斜面を駆け上がった!
「晃!大丈夫!あ・・あんた、顔から血が出てるじゃないか!どうしたんだい!」
小雪が晃を見つけそう叫んだ!
「小雪ちゃん!俺・・ヤバイよ!」
晃は小雪の姿を見て安心をしたのかその場にヘタレ込んだ・・
「だ!誰か救急箱を持っていないか!だ・・誰か!」
ふと、小雪が晃の背中を見るとそこには晃に必死にしがみ付く真子の姿があった・・
「小雪ちゃん!オヤジには内緒だぜ!頼むよ・・・」
晃はそう小雪に告げるとそのまま意識を失った・・
それが3番目の晃と真子との偶然であった。
晃の右目の上に大きな傷が残った・・・
義明に小雪は逃げる途中で看板に激突したらしいと説明をした。
可愛い息子の顔に大きな傷が残った事に義明は辛そうな顔をした。
晃の顔の傷の訳・・
それは永遠に晃と小雪との二人だけの秘密であった・・