3番目の偶然・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

どんよりと曇った重いねずみ色の空・・


その日は朝から各家に備え付けてある町内放送用のスピーカーから途切れる事無く放送が繰り返されていた。


「大型の台風が接近中です。」


そんな役所の人間の言葉に義明が住む長屋の人間達も怯えていた。


彼らが住む長屋は狩野川の堤防のすぐそばに立てられていた。


今まで一度も堤防は崩壊をした事は無かったが堤防が壊れて水が溢れたら一貫の終わりであった。


「義明さん!今日は店を休んだ方が良いよ!

大きな台風が来ているらしいから・・」


そんな長屋の女の言葉に・・


「何を言ってるんだ!皆が休んで居る時がチャンスじゃないか!」


そんな言葉通りに彼の店には足りない商品を探してあちらこちらから問い合わせの電話がかかって来た。


義明が荷物をリアカーに積み終わる頃には少しずつ雨が降り始めて来ていた・・


「そんなに酷くならなければ良いのだが・・」


そう呟く彼の横で晃が父に向かい言った・・


「今日は早めに帰って来た方が良いと思う!

なんか嫌な気がするから・・」


小僧が偉そうに!


義明はそんな大人びた言葉を呟く晃を見ながら楽しそうに笑った。


義明はバイクのエンジンを勢い良くかけると小降りの雨の中を消えて行った・・・


それを待っていたのかのように小降りの雨は大雨に変わり始めた。


「こいつはヤバイな!」


整備されていない細い農道を走りながら義明はそう呟く。


義明が店に戻って来たのは午後の4時をまわっていた。


ずぶ濡れになりながら浮かない表情で彼は店の中に入って来た。


「こいつはマジでやばいな!狩野川の水位がどんどん上げっている気がする・・

明日は休む事にするから・・お得意さんに連絡をしてくれ!」


義明は店番をしていた小雪にそう呟いて集金のお金の集計を始めた。


雨は止む事は無かった・・


その日の晩も強風を伴いながらまるで弓矢のように振りそそいだ・・


「男性の方が堤防に集まって下さい!」


そんな緊急の放送が流れたのは明け方の5時を少し過ぎた頃であった。


「召集がかかるとは・・堤防がやばいのか??」


義明は小雪に連絡をしてまだ、眠っている晃を残し堤防に向った・・


「何だ!これは・・・」


堤防のギリギリまで川の水が押し寄せようとしていた。


「急げ!土を積むんだ!崩壊するぞ!急げ!」


そんな叫び声があちらこちらから聞こえる・・・


「いや!間に合わん!逃げるんだ!

長屋の奴は家に戻れ!大事な物だけ持って源氏山に逃げ込め!」


町の消防団の隊長がそう叫んだ!


「やばいぞ!急げ!逃げろ!」


「崩壊したぞ!土砂を積め!」


「ま・・間に合わない!無理だ!」


町の男たちのそんなわめき声がドシャブリの雨の中響き渡る・・・


「た・助けてくれ!」


そんな叫び声の後に・・・



ドドドドッド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツ!!


崩れ落ちた堤防から大量の水が町に流れはじめる・・・


「逃げろ!逃げるんだ!急げ!死ぬぞ!」


狩野川の周りには山田屋を始めて多くの旅館が立ち並んでいた。


宿泊客も泊まっている・・


中でも山田屋は運が悪い事にその日200人の団体客を泊めていた・・


「お客様を安全な場所に誘導しろ!急げ!」


真吾の叫び声が館内に響き渡る・・・


まるで蟻が大i移動するように各旅館から源氏山に向かい観光客が寝巻きのまま移動しはじめる!


「急げ!こっちの堤防もやばいぞ!」


そう真吾が叫んだ直後、妻の小百合が悲痛な顔で現れる・・


「あ・・あなた!真子が・・真子が居ないの!」


「な・・何!貴様は何をやっていたんだ!探せ!探すんだ!」


館内はパニックになった観光客で修羅場であった。


そんな中、妻の小百合は必死に娘の真子を探した・・・


「ダメだ!堤防が崩壊する!」


そんな叫び声が上がったのは幸いにも宿泊客を全て移動させた後であった・・


もの凄い量の水が一気に崩壊した堤防から流れ込む・・・


「大丈夫か!俺たちも逃げるぞ!急げ!」


真吾は従業員にそう叫んだ!


「あ・・あなた!真子が・・真子が・・・」


「まだ見つからないのか!もしかしたら誰かが連れて逃げたかもしれない!

とりあえずお前は逃げろ!俺は少し探して向うから!!」



ドドドドッド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


まさに・・修羅場であった・・・


それと同じ時刻に小雪が到着をする前に晃は起きてしまった・・・


激しい雨の音と荒れる狩野川の波の音に晃は怖くなり外に逃げ出した!


「晃!位牌を持って来い!悦子の位牌を持って来い!」


外に出ると丁度、義明が戻って来た所であった。


風呂敷に丁寧に悦子の位牌をくるむと義明は晃の背中にきつく風呂敷を縛り付けた。


「いいか!晃、俺はもう一度、堤防に戻る!お前はこのまま源氏山に走れ!

行けるよな!大丈夫だよな!俺の息子だもんな!

気をつけて行くんだぞ!ほれ!急げ!走れ!!」


義明はそう急かすように晃を押し出した・・


晃は半べそをかきながら・・源氏山への道を急いだ・・・


そして・・それから数分後・・運命の偶然が晃に訪れようとしていた・・