トラックで三島に着くとあまりにも何時もと変わらない町の状態に少し驚いた。
川沿いの町だけが大変な被害にあったらしい・・
義明は晃を病院に連れて行くと小雪をその場に残し自分の店に向った。
「社長!大変でしたね!連絡が取れなくって困っていたんですよ!」
店はちゃんと営業していた。
2号店を任せている佐々木は真面目な人間であった。
そして、それなりに商才がある人間であった。
「ああ・・悲惨な状態だ!どうにも・・
あれは、復旧するのに相当な時間がかかる・・
処で店にある食料品と衣料品を全て向こうに持っていくから!」
そんな義明の言葉に・・
「お売りになるのですか?」と佐々木は聞き返した。
「いいや・・全部無料で配る!」
そんな義明の言葉に佐々木は理解できないと言うような顔をした。
「社長!今が商売のチャンスじゃないですか!
物が不足をしている今が・・売りましょうよ!」
そんな佐々木の言葉に義明は笑いながら言った・・
「佐々木!俺はお前に期待をしている。
俺はもっと、もっと、大きな商売をこれからして行くつもりだ!
でもな!佐々木!忘れてはいけないぞ!
商売をする上で一番大切な物は信用だぞ!
金とか知名度なんか一晩で一瞬で消えてしまう!
でも、信用は消えない・・
信用は何時までも人の心に残るんだ!
だから、こんな困難な時にこそ・・
多くの人間が助けを求め居る時こそ!
自分の利益を投げ出して信用を手に入れる!
そう考えられる人間が成功を掴むんだ・・」
義明のそんな言葉に佐々木は驚いたような顔をした・・
そして・・
「社長・・奥が深いですね・・」と呟いた。
大量の商品を載せて義明親子が長岡に帰って来たのその日の大分遅い時間であった。
義明はトラックを町長の自宅の庭に止めると町長に言った。
「浅田商店から町に寄付をします!」と・・・
町長の家には多くの町の要人が集まっていた。
そして口々に言った・・
「山田屋の真吾なんかより義明の方が何倍も立派だ!」と・・・
義明は小額の金で信用を手に入れた。
「不便だと思うこと・・
それが、全てのお客が望んでいる事だ!
そしてそれが商売の原点だ」
確かに・・
自分が一番、その時に不便だと思う事、望んでいる事を自分以外の人間も望んでいる・・
その事を守って来た彼にとって今回の台風は絶好のチャンスになったのだ。
長岡の町が復興するのに結局、1年の年月が過ぎた。
台風のあった1ヵ月後に最初に鉄道が復旧した。
それにあわせて、山田屋も営業を始めた。
町の復興には何の力も貸さずにただ、自分の利益だけを追求するその態度に・・
多くの関係者が呆れた顔をした。
あの悪夢の台風から2年の月日が流れた。
義明の店は順調で3店舗目の店を函南にオープンしていた。
晃はもう直ぐ6歳になろうとしていた。
幼稚園を無事に卒園して小学校に入学する事になった。
真子は沼津の私立の付属の小学校に入学が決まったと風の噂で聞いていた。
そんなある日の午後・・・
晃の家のチャイムが突然に鳴った。
何時もなら義明が帰って来るまで小雪が居るのだがその日は丁度、小雪が居なかった。
晃はめんどくさそうに玄関を開いた。
そこには真子が立っていた。
「何だ!山田か・・どうしたいんだよ!何か用か??」
そんな晃の問いに真子は何も言わなかった・・
「何だ??どうしたんだよ!用事があるのなら言えよ!」
晃は少し怒ったような口調で真子に言った・・
「うん・・少し良いかな!今から源氏山に行かない??」
そう真子は恥かしそうに呟いた・・
「ああ・・別に父ちゃんもまだ帰ってきそうも無いから良いけど・・」
晃はそう呟くと玄関に無造作に放り投げられている靴を履いた。
「何だよ!話って・・」
そんな晃の問いに真子は何も言わずに恥かしそうに下を・・・
源氏山につくと頂上に登る道の入り口に大きな神社がある。
何でも北条政子の霊をおまつりしているようで長岡の観光名所の1つであった。
「待って!晃君!神社に寄って行かない??」
そう真子は晃に言うと強引に晃の手を引いて神社の境内に向った・・
「お・・・おい!何だよ!いったい何の用があるんだよ!」
晃は困惑しながらも少しだけ真子の手の温もりを感じながら幸せな気持ちに・・
女の子の手って凄く柔らかいんだな~
そんな戯言を呟きながら・・・
二人は夕暮れの神社の中に消えて行った・・