僕が死ぬ日・・生まれる日 -7ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

しばらくすると今日子はビールと適当な乾き物を載せた皿を持って現れた。


「どうぞ!まだ、冷蔵庫に沢山あるから、後は適当に・・・」


そう言いながら彼女は缶ビールのを開けると一気の飲み干した。


「それで?何を言いに来たの?」


「何があったんだい?」


そんな私の言葉に彼女は少しだけ意外そうな顔をした。


「別れましょう!って言ったの・・彼に昨夜、下田のホテルで・・」


「君と彼はやはり付き合って居たんだ・・で?何でだい?」


「何で?そうね!彼には奥さんも小さな子供も居るしね!まぁ~簡単に言えば疲れちゃったって感じかな!」


今日子はきっと、次に言う私の言葉を予測していたに違いない。


「そうか!良かったら話してみなよ!君の心の闇を!誰かに話したらきっと、少しは軽くなると思うから・・」


もう一度、今日子は意外そうな顔をして顔をしかめた。


きっと、彼女が予測していた言葉は、チャーリーと寄りを戻せという私の説得の言葉だったに違いない。


今日子は少しだけ口元をゆるめ冷蔵庫からビールを取り出した。


そしてひと口、口に含むと自分の心の闇を私に語りだした。


「彼と私が初めて出会ったのは今から6年も前の事よ!彼の一目ぼれだった!彼はまだ、独身でね会社なんか継ぐ気なんかまったく無くってフリーのカメラマンをしていたの。

実は私も彼が前社長の息子だなんて知らなかった。

二人が愛し合うようになるのにそんなに時間はかからなった!付き合い始めて直ぐに彼が私のアパートに転がり込んで来て同棲が始まって・・彼はまったく無名なカメラマンで経済力も無かったけど幸せだった。

でも、付き合い始めてしばらくすると一人の男が私のアパートを訪ねて来た。

私も良く知っている社長の執事のような仕事をしてる社員だった。

ドアを私が開いた瞬間に彼は少しだけ驚いたような顔をした。それと同時に少しだけニャって笑った。

その時、初めてチャーリーが社長の一人息子だと知った。

社長は一日も早く彼に後継者教育を始めたいと思っていたの!当時、アメリカの本社では色々とゴタゴタがあってね!だからだと思うんだけど・・・」


そんな話をしながら今日子はテーブルの上に置いてあったタバコに火を着ける。少しだけ興奮してるように感じられた。


「それでね!その社員が何度も何度もチァーリーを説得に来たわ!その裏で私に彼が実家に戻る事を説得するように頼まれた。報酬は役員にしてくれる事・・

正直、心が揺らいだわ!別に彼が実家に戻っても私達の愛は変わらないと思ったしそれよりなにより役員になれる事は凄い私にとって魅力だった!

でも、私の考えは甘かった。結局、私の説得で彼は実家に戻り専務として会社に来たの・・・

それからしばらくして私は異例の人事で役員になった。

まぁ~正直、見せ掛けだけの営業部長って感じよ!今でも実権は私には無いしね!

それでも私とチァーリーは幸せだった。でも、それから1年後、彼は結婚したわ!

何でよ!って私は彼を怒鳴りつけた!でも、彼は少しだけ悲しそうな目で私を見つめ呟いた・・

「君のせいだよ!」って・・でも、君と僕は別れたくない!って言われて結局は今まで付き合っていた。

君のせいだよ!その言葉が今でも耳から離れないのよ!

そう!彼が私を捨てたのは私のせいなの!

社長になると言う事は奇麗事だけじぁ無いのよ!そうなの・・私は当時、それを知らなかった。

私は彼から逃げるようにアメリカから日本に移動届けを提出したの!

彼がそれで諦めてくれると思ったから・・でも、ダメだった・・」


「彼と実は温泉で会ったんだ!彼は言っていたよ!私には日本人の妻が居るんだと!

だから、日本語が上手なんだとね!」


「フフフ・・ッ!坂本さん!あなたも少し甘いわね!彼はあなたが私の接待の相手だと事前に知っていたのよ!

だから、そんな事を言った!あの女は俺の女なんだぞ!って感じよ!

彼、本当は凄いヤキモチ焼きで寂しがり屋なのよ!なんか、かわいそうな人なの・・」


「そうか!それで・・別れようと?でも、何で別れようと?今のままでも良かったじゃ無いか?

どうにもならない恋だけどお互いが愛し合っていたんだろ?」


そんな私の言葉に今日子は少しだけ悲しそうな顔をして呟いた。


「あなたのせいよ!あなたに出会ってしまったせい・・私ね!あなたを愛してしまったようなの・・・」


私はそんな今日子の言葉に何も言えずに2本目のタバコに震える手で火をつけた・・

長岡の出張から帰って数日が過ぎていた。


今日子の会社から、その後、何の契約に関しての連絡は来る事が無かった。


課長が少しだけいらだっているのが感じられる。


時よりそんなイライラを誤魔化すかのように彼は私に言った。


「接待は上手く行ったのだよな!お前!そう言ったよな!」と


そう言われても正直、困る。決めるのは私ではなく相手先なのだから・・


私はその日、そんなストレスを発散させるかのように珍しく深夜まで飲んでいた。


自宅に戻ったのは多分、日付が変わった頃だったと思う。


エレベータに乗り自宅の階に下りて通路を歩いていると私の家の前に一人の男性が何とも不機嫌そうに立っていた。


誰だ?あいつ・・物騒だな?俺に何か用事か?


しかし、その不安は直ぐに解決する。その男が立っていたのは私の部屋の前ではなく今日子の部屋の前であった。


そして・・目を凝らしよく見ると彼はあのチャーリーだったのだ。


ドンドンドン!ドンドンドン!


「今日子!開けておくれ!話を!もう一度、よく話し合おう!」


静まり返ったマンションの通路にそんな言葉が響き渡っていた。


私は無関心を装い早足で彼の後ろを通り過ぎようとした。


私が彼の後ろを通り過ぎた瞬間に一瞬、彼のドアを叩く音が止まった。


そして彼は私を静止させるかのように振り向き私の進路をふさいだ。


「坂本さん・・・坂本さんですよね!」


大会社の社長にそう言われ知らん顔をして通り過ぎる度胸は生憎、持って居ない。


「ええ・・そうですが、何か??」


そう私が言うと彼は私を憎しみの眼差しで睨みつけながら凍りつくような冷たい声で言った。


「貴様!今日子に何をしたんだ!」と


何をした?何もしなかったら不安になってるのだ!あの夜、私は彼女に何もしなかった。


「突然、失礼ですね!あなた・・どちら様ですか?」


「何だ!貴様!私を知らないのか?」


「ああ・・思い出しました!長岡の宿の大浴場で・・・」


「その後の会っただろ!お前が今日子を見送った時に・・・」


「はっ?それは気がつきませんでしたけど。あなたがどの様な方が存じませんが私と今日子さんには無関係です!いや、営業と取引先の担当者様ぐらいの関係です!」


「なら、私はその取引先の代表者だ!そう言えば、君の会社は私の会社に大口の商談を持ちかけているそうだな!どうだろう?今日子と会わせてくれたら君の所から商品を買ってあげても良いぞ!」


大会社の社長と言っても所詮は二代目なのか?仕事とプライベートを混合してはいけない!


しかし、そんな悠長な事を言って居る場合ではない。


「かしこまりました!しかし、今夜はもうお帰りになった方がよろしいかと存じますが・・

しつこい男は逆に嫌われますよ!社長・・」


そんな私の言葉に彼は納得したように私に自分の名刺を差し出す。


「これは、私のプライベートの名刺だ!この番号に連絡を・・」


そう私に告げると彼はその場から立ち去るように静かに歩き出す。


私は彼の後姿を見つめ確認するように言った。


「会わせるだけで良いんですよね!その後、どうなろうと私は責任はもてませんよ!」


そんな私の言葉に彼は大きく右手を上げて「OK」と呟いた。


彼がエレベータに乗るのを確認すると私は今日子の仕事用の携帯番号に電話をした。


きっと彼女はこのドアの直ぐ側に立っているに違いない。そして私達の会話を聞き耳を立てて聞いていたに違いない。


その証拠に数回のコールの後、直ぐに彼女が電話に出た。


「どうも!夜分遅くに山田貿易の坂本でございます!」


「あら、お珍しい方から電話ね!契約の件ならまだ、結果が出てないしあなたにお話しすることは無くてよ!」


「聞いていたんだろ?ドア・・開けてくれないか?」


「フフフ・・ッ!何でもお見通しって言い方ね!少し待って・・」


今日子が電話を切ってしばらくするとゆっくりと玄関が開かれた。


「今晩は!坂本です!」


「言われなくっても解ってるわよ!どうぞ!散らかっているけど!お宅も同じでしょ!」


そう言われ私は今日子の部屋に入っていた。


久々に女性の部屋に入った気がする。部屋は何となく甘い香水の香に包まれていた。


私の部屋と同じ間取りなのだが、何となく彼女の部屋は広く感じる。


きっと、殆ど家具と言うものが無いせいだろう・・


「ビールで良いかしら?つまみはろくな物が無いけどよろしい?」


「えっ・・あ~お構いなく!直ぐに帰りますから・・」


私はソファーに腰掛けるとテーブルの上に灰皿があるのを見つけた。


灰皿の中には数本のメンソールのタバコが・・


「君はタバコを数のかい?」


「えっ・・あ~~会社では吸わないけどね!何で??」


「い・・いや!外資系の会社の社員が意外だと思って・・厳しいんだろ?」


「まぁ~でも、自宅だけだら・・」


「そう!なら、タバコを吸っても良いかな?」


「どうぞ!お好きなように・・」


私はポケットからタバコを取り出すと火をつけた。


タバコから上がる煙がまるで今からの駆け引きの開始を知らせるのろしのように静かに上に上がって行く。


そうして、私達の長い夜が始まった。


この前の夜の事は、私はまったく気にしていませんよ!


そんなにご自分を責めないでください!


それは、正直、あの時は少しびっくりはしたけど、そんなに悪い気持ちはしなかった。


きっと、あの晩は気持ちが学生時代にタイムスリップしていたからかもね!


あなたの事が大好きだったあの頃に・・


だから、気にしないでください。


それよりも主人が何とかあなたのおかげで年間のノルマを達成出来たそうです!


あなたに凄く感謝をしていました。


多分、また、あなたに彼から連絡が行くと思いますが、どうしても我が家に招待したいそうです。


四人暮らしの中古の一戸建てですが、よろしかったら来ていただけませんか?


私の手料理だから大したお持て成しは出来なければ、私達、夫婦の感謝の気持ちです。


                                    by 友美


私は新幹線の中で震える手で友美からのメールを開いた。


怖かった。友美に嫌われる事が、私はとても怖かった。


そしてメールの中に書かれている厳しい現実を自分の目で見ることが怖かった。


私の震えは何時の間にか安堵に変わった。


嫌われては居ない・・しかし、それは好かれても居ないと言う現実を同時に私にもたらした。


なんとなく不安が消えると小さな嫉妬が生まれた。幸せそうな家庭・・・


あんた、ダメな亭主でも愛されているのだ。二人でお礼だと・・笑わせる。


新幹線は新横浜の駅を何時の間にか出発していて車内のアナウンスが品川到着の時間を告げた。


東京駅に着いた私はそのまま会社に向った。


課の人間たちに珍しくも無いうなぎパイを数個、土産だと言って手渡すと私は直ぐに経費の精算と報告書の作成に取り掛かった。


報告書が出来上がったのは午後の6時を少しだけ過ぎた頃であった。


すると丁度、早朝からの長時間の会議に出ていた課長が疲労気味の顔で現れた。


「よう!坂本!どんな感じだ?」


そう言われ私は何とも微妙な顔で経緯を彼に説明した。


「とりあえずは、満足はしてくれたんだろ?それなら結構良い報告書を上に上げてくれるんじゃないか?」


「それなら良いのですが・・・」


「夕飯でも食っていくか?」


「いいえ・・今回は正直、疲れました!さすがに一人はきついです。まぁ~でも、一人だったらここまで出来たのだと思いますが・・」


「そうか!早く帰って今夜は休め!明日からまた、忙しくなる!お前には今回の件と平行して別の契約ににも参加してもらうからな!詳しくは明日、説明する。」


今朝からの早朝会議の議題だったのか?なんとなくその新しい契約が何なのか少しだけ不安になった。


私はその晩に自宅に戻ると死んだように眠った・・


次の日の朝、何気に隣の今日子の部屋を気にしてみたが、昨夜、帰宅した様子は無かった。


もしも、あの男がチェーリならば、きっと、仕事では無かったのだろう・・


昨夜は下田あたりのホテルで二人で愛し合ったに違いない。


社に出ると朝から課長に呼ばれ、昨日、言われた新規の契約について説明を受ける。


最近は国内が不景気のせいか、ターゲットは全て海外である。


英語が苦手な私にとってあまり喜ばしくない傾向であった。


「主任!受付にお客様がいらっしゃって居るそうですが?」


「誰だ?今日は誰ともアポは取っていないはずだが・・」


「四星商事の佐々木様とおっしゃっておりますが・・」


「解った!今から下に下りる。」


友美のメールの通りに佐々木が訪ねてきた。自宅に夕食の誘いだろう。なんとなく心が重かった。


「坂本様!どうも・・・」


佐々木は笑顔でそう言って私が予知していた通りの言葉を言った。


「今週の週末にどうですか?狭い家ですが一応は客間もありますからお泊りになってください」


私は悩んでいた。どうする?これ以上、友美に関わってはいけない!


これ以上、関わってしまったら私はきっと後戻りが出来なるに違いない。


しかし、あまりにも佐々木が粘るので私は根負けした感じで彼に言った。


「行きましょう!でも、山田貿易の坂本ではなく、君の旧友と言う事で!仕事の話は無しだぜ!」


「有難うございます!妻も喜びます!それでは土曜日にお待ちしております・・」


結局、私は佐々木の家に行く事になってしまった。