そのままの君で居て欲しい・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

長岡の出張から帰って数日が過ぎていた。


今日子の会社から、その後、何の契約に関しての連絡は来る事が無かった。


課長が少しだけいらだっているのが感じられる。


時よりそんなイライラを誤魔化すかのように彼は私に言った。


「接待は上手く行ったのだよな!お前!そう言ったよな!」と


そう言われても正直、困る。決めるのは私ではなく相手先なのだから・・


私はその日、そんなストレスを発散させるかのように珍しく深夜まで飲んでいた。


自宅に戻ったのは多分、日付が変わった頃だったと思う。


エレベータに乗り自宅の階に下りて通路を歩いていると私の家の前に一人の男性が何とも不機嫌そうに立っていた。


誰だ?あいつ・・物騒だな?俺に何か用事か?


しかし、その不安は直ぐに解決する。その男が立っていたのは私の部屋の前ではなく今日子の部屋の前であった。


そして・・目を凝らしよく見ると彼はあのチャーリーだったのだ。


ドンドンドン!ドンドンドン!


「今日子!開けておくれ!話を!もう一度、よく話し合おう!」


静まり返ったマンションの通路にそんな言葉が響き渡っていた。


私は無関心を装い早足で彼の後ろを通り過ぎようとした。


私が彼の後ろを通り過ぎた瞬間に一瞬、彼のドアを叩く音が止まった。


そして彼は私を静止させるかのように振り向き私の進路をふさいだ。


「坂本さん・・・坂本さんですよね!」


大会社の社長にそう言われ知らん顔をして通り過ぎる度胸は生憎、持って居ない。


「ええ・・そうですが、何か??」


そう私が言うと彼は私を憎しみの眼差しで睨みつけながら凍りつくような冷たい声で言った。


「貴様!今日子に何をしたんだ!」と


何をした?何もしなかったら不安になってるのだ!あの夜、私は彼女に何もしなかった。


「突然、失礼ですね!あなた・・どちら様ですか?」


「何だ!貴様!私を知らないのか?」


「ああ・・思い出しました!長岡の宿の大浴場で・・・」


「その後の会っただろ!お前が今日子を見送った時に・・・」


「はっ?それは気がつきませんでしたけど。あなたがどの様な方が存じませんが私と今日子さんには無関係です!いや、営業と取引先の担当者様ぐらいの関係です!」


「なら、私はその取引先の代表者だ!そう言えば、君の会社は私の会社に大口の商談を持ちかけているそうだな!どうだろう?今日子と会わせてくれたら君の所から商品を買ってあげても良いぞ!」


大会社の社長と言っても所詮は二代目なのか?仕事とプライベートを混合してはいけない!


しかし、そんな悠長な事を言って居る場合ではない。


「かしこまりました!しかし、今夜はもうお帰りになった方がよろしいかと存じますが・・

しつこい男は逆に嫌われますよ!社長・・」


そんな私の言葉に彼は納得したように私に自分の名刺を差し出す。


「これは、私のプライベートの名刺だ!この番号に連絡を・・」


そう私に告げると彼はその場から立ち去るように静かに歩き出す。


私は彼の後姿を見つめ確認するように言った。


「会わせるだけで良いんですよね!その後、どうなろうと私は責任はもてませんよ!」


そんな私の言葉に彼は大きく右手を上げて「OK」と呟いた。


彼がエレベータに乗るのを確認すると私は今日子の仕事用の携帯番号に電話をした。


きっと彼女はこのドアの直ぐ側に立っているに違いない。そして私達の会話を聞き耳を立てて聞いていたに違いない。


その証拠に数回のコールの後、直ぐに彼女が電話に出た。


「どうも!夜分遅くに山田貿易の坂本でございます!」


「あら、お珍しい方から電話ね!契約の件ならまだ、結果が出てないしあなたにお話しすることは無くてよ!」


「聞いていたんだろ?ドア・・開けてくれないか?」


「フフフ・・ッ!何でもお見通しって言い方ね!少し待って・・」


今日子が電話を切ってしばらくするとゆっくりと玄関が開かれた。


「今晩は!坂本です!」


「言われなくっても解ってるわよ!どうぞ!散らかっているけど!お宅も同じでしょ!」


そう言われ私は今日子の部屋に入っていた。


久々に女性の部屋に入った気がする。部屋は何となく甘い香水の香に包まれていた。


私の部屋と同じ間取りなのだが、何となく彼女の部屋は広く感じる。


きっと、殆ど家具と言うものが無いせいだろう・・


「ビールで良いかしら?つまみはろくな物が無いけどよろしい?」


「えっ・・あ~お構いなく!直ぐに帰りますから・・」


私はソファーに腰掛けるとテーブルの上に灰皿があるのを見つけた。


灰皿の中には数本のメンソールのタバコが・・


「君はタバコを数のかい?」


「えっ・・あ~~会社では吸わないけどね!何で??」


「い・・いや!外資系の会社の社員が意外だと思って・・厳しいんだろ?」


「まぁ~でも、自宅だけだら・・」


「そう!なら、タバコを吸っても良いかな?」


「どうぞ!お好きなように・・」


私はポケットからタバコを取り出すと火をつけた。


タバコから上がる煙がまるで今からの駆け引きの開始を知らせるのろしのように静かに上に上がって行く。


そうして、私達の長い夜が始まった。