僕が死ぬ日・・生まれる日 -6ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

そっと、友美の手を離す時に・・・


中指で彼女の手の平を優しくなぞる・・・


友美はなんとなくせつなそうな表情を浮かべ・・


「何だか恋人同士の別れみたいだね!」と呟いた。


私はそんな友美の言葉に何も答えを返してやれずただ、何度も振り返り彼女の顔を見つめながら・・


駅の改札に向った。


次の日、私は佐々木に言った通りに会社で資料を確認するために出社していた。


会社に着きまずは自分のパソコンを開きメールをチェックする。


殆どがどうでも良い内容のダイレクトメールばかりであった。


そんな中に私は1通の興味深いメールを発見する。


「絆・メール相談」


そう書かれた題名を何気なくクイックしてメールを開いてみた。


親友と呼べる人がいない。とにかく愚痴を聞いて欲しい。誰にも話せない秘密の恋愛で悩んでいる。友人や家族には言えないこと、世間話、なんでも構いません。あなたの心の叫びをお聞かせください!

専門スタッフが業務としてではなく!あなたの心友として一生懸命に話し相手になります!


そんな説明書きの後にメール一往復1000円の料金表示がされていた。


その下に専用のHPのアドレスが記載されていた。


なんとも面白い事を考える人間が居る物である。メル友も金で買う時代になったのか?


何とも寂しい話と言うか?いや、しかし、他人との面倒なしがらみを避けて話し相手だけを金で買えるのなら

1000円でも安いのかもしれない。


それに、何度も気軽に話せる相手など絶対に居ないのだ。ある意味、気軽に他人だから、何のしがらみも無いから相談できる、愚痴れると言う事もある。


現代の人間同士のコミニュケーションを苦手としている若者には持って来いなのかもしれない。


私は何気なくそのDMを保存して残りのメールを全て削除した。


次の日、早朝より私は3名のチームスタッフを同行させて今日子の会社に向った。


前回とは違い中途半端な会議室ではなく今度は立派な応接室に通される。


我が社が認められた証拠だと思った。


しばらくすると今日子とジョーと数人の日本人スタッフが現れた。


私達は初対面のスタッフに名刺を差し出しながら丁重に挨拶をした。


一通りの説明を終えたのは12時を少しだけ過ぎた頃であった。


「良かったら坂本!ランチにでも一緒に行かないか?」


ジョーは笑顔で言った。


「OK!行きましょう!」


応接室か関係者が次々と出て行く。


最後に私と今日子だけ残った。


「今晩、付き合ってくれないかな~~」


今日子は少しだけ甘えた声で私にそう言った。


「それは仕事ですか?それともプライベート?」


そんな私の愚問に今日子は少しだけ不愉快そうな顔をして「プライベートで!」と答えた。


「なら、アルタ前に7時ではどうすか?」


そう私が答えると今日子は少し意外そうな顔をして


「本当に良いの?」と答えた。


「おい!行くぞ!坂本!急げ!」


急に課長がドアから顔を出しそう怒鳴るように言った。


私は焦りながら書類を鞄に詰め込むと急いで部屋を出てロビーに向った。


するといきなり携帯電話がなった。


誰だ?この忙しいのに!携帯の表示を見る。私の知らない電話番号であった。


私は無視をして留守番電話に接続させる。


私は何かに追い立てられるかのように部下たちとタクシーに乗り込むのであった。


愛してはいけない恋がある・・


そして、愛されてはいけない恋がある・・


目に見えない愛と言う魔物に私はもて遊ばれるかのように時間を過ごしていたような気がする・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。




佐々木の家は建物は大分、傷んではいたが庭はよく手入れをされていた。


花壇には色とりどりの季節の花が咲いていて見ていて気持ちが良い。


玄関を開けると友美と下の子供だろうか?一人の女の子が私を物珍しそうに見つめている。


「坂本君!今日は遠い所を来てくれてありがとうね!大したお持て成しは出来無いけど楽しんで行って!」


エプロン姿の友美が笑いながらそう言った。


私は手土産のワインと子供用に買って来たケーキを友美に手渡す。


友美のエプロンを必死に掴んでいた女の子は嬉しそうにケーキの箱の匂いを何度もかいでいた。


夕食を始まり私はある事に気がついた。


それまで気が弱そうに私に気を使っていた佐々木が酒が入ると急に態度がでかくなったという事に・・


「坂本はさ~高校の時は大した奴じゃ無かったのによ~運動も成績だって俺より下だったんだぜ!

何よりもルックスっていうの?見た目なんか俺にまったく叶わなくってさ~パパは学年のアイドルだったら!」


そう自慢げに娘に話し出す彼を下の娘は絶賛して!上の子供は呆れたように聞いていた。


友美は何度かテーブルの下で諭すように佐々木の足を蹴っていた!そんな事を言わないでよ!恥ずかしい・・


そうとでも言いたかったに違いない。


時計を見ると8時を少しだけ過ぎていた。


「悪いが!そろそろ帰るよ!」


そう私が言うと佐々木は少しだけ不満そうな顔をした。


「泊まって行けよ!坂本!積もる話もあるんだから・・」


私はこの男に積もる話しは無い!それにもうこれ以上、こんな男の子守は御免である。


「ああ・・最初は止めてもらおうと思っていたんだが、明日、急に仕事になってしまっね!

大口の契約が決まりそうなんだ!月曜に担当者と会うのでその準備があって・・

奥さん!久々に家庭の味を楽しませて頂きました!最近は外食ばかりでね!

男も35にもなって独身だとなにかと面倒でね!また、来させて頂きます。」


私はそう友美に頭を下げお礼を言った。


「タクシーを呼んで頂けますか?」


そんな私の申し出に友美が言った。


「あら、送って行きますよ!私は飲んでいないから・・」


「いや・・でも、それでは悪いから・・」


「いいね!ねぇ!あたなた・・私、ちょっと送ってくるわ!」


そう友美が言うと佐々木は少しろれつが廻らない口調で・・


「葵も連れて行けよ!二人じゃなく!葵も連れて行け!」


そんな佐々木の言葉に友美は恥ずかしそうな顔をし・・娘の葵はめんどくさそうな顔をした。


「坂本!また来いよ!何時でも待ってるから!お前もいい加減に結婚したらどうだ!

そこそこ稼いでるんだろ!やっぱり結婚してない男は半人前だ!」


「あなた!いい加減にして!失礼でしょ!ごめんね!誠・・本当に・・・」


そんな友美の言葉が気に障ったのか佐々木はいきなり友美の頬を平手で殴った!


「このクソ女!俺に意見するんじゃね~~よ!それとも何か!こいつと何かあるのか!かばいやがって!」


夫婦には夫婦の世界がある。


それは他人には解らない世界なのだ!他人から見たら非常識でも夫婦の間では常識的な事柄がある。


でも、暴力はいけない!そんな次元の話ではない。


「佐々木!いい加減にしろ!嫁さんに暴力はダメだろ!」


「何だ!お前!坂本の癖に偉そうだぞ!何だ!何か文句があるのか!」


私は二人の娘に気を使いながら佐々木の耳元に囁くように言った。


「貴様!あまりふざけた事を言うなよ!お前なんか会社を首にする事ぐらい簡単に出来るんだからな!」と


その途端、真っ赤な佐々木の顔は真っ青に変化した。


そして静かにテーブルに戻るとまた、焼酎を飲み始めた。


「ママ!ごめん!私、ゆりから電話が来るかもしれないから一緒に行けない!悪いけど一人で行って!」


娘の葵が急にそう言い出した。


言い終わった後に自分の二階の部屋に向う途中で誰にもわからない様に私にウインクをしたのはきっと、私の見間違いに違いない。


「それじゃ~そろそろ失礼するよ!佐々木!今夜はご馳走様!今度は私はご馳走するから!ご家族で来てくれ!連絡を待ってるから・・」


それは当たり前だが、大人の社交辞令である。


私は友美が運転する車で駅に向っていた。


「御免ね!せっかく来てくれたのに・・あの人、お酒が入るとダメなのよ!急に気持ちが大きくなってしまって!」


「いや・・別に気にしてないよ!でも、暴力はいけないな!よくあるのか?」


「えっ・・いや・・」


友美のそんな曖昧な答えに度々、ある事が感じられた。


車は何時の間にか駅に到着しょうとしていた。


私は言ってはいけない言葉を何度も心の中で呟いていた・・


また・・会ってくれないか・・・


そんな言葉を何度も!喉元で必死に押さえつけていた。


車は駅のロータリーに到着した。


笑顔で私は友美に言った。


「さっき、佐々木にも言ったけど今度は俺がご馳走するよ!美味しい中華屋があるんだ!家族四人で来てくれ!

今夜はありがとう・・・」


何でこんなくだらない言葉をお前は言って居る!いや・・これで良い!これで良いのだ!


愛してはいけない!もう、昔ではない!この女には旦那と二人の子供が居るのだから・・


「うん!ありがとう!楽しみにしてるわ!」


「あっ・・それから・・」


「えっ?何???」


「い・・いや・・あの・・・」


「何よ!はっきりしない!昔とまったく変わってないわね!その性格・・」


「良かったら・・また、会ってくれないか?」


私は地獄の扉を開いてしまった・・・


「えっ・・・う・・・うん。良いよ!また連絡する・・」


そして、その扉を開いたのは私ではない・・


そう、この友美と言う女であったのだ・・


「また・・会いましょう」


友美はそう言うと右手をゆっくり窓から出した。


私は優しくその手を握った・・


柔らかい温もりが彼女の手から伝わってくる。


いけない!忘れてはいけない!この女は独身ではないのだ・・


愛してはいけない!愛してしまったら・・きっと、その先は地獄なのだから・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。

「あなたを愛してしまったの・・」


そう今日子に言われ私の計画は白紙に戻ってしまった。


これは彼女の作戦なのか本心なのか正直、自分には判断が出来なかった。


「俺を愛してるだって?馬鹿な冗談はよしてくれよ!君と僕とではつり合わないだろ!それくらい君にだってわかるだろに・・」


「つり合うとか合わないとかって誰が決めるの?それにそんなのは関係が無いわ!私はあなたが好きなの・・」


勘弁してくれよ!マジで・・私は内心、そう思っていた。


「本題に戻ろう!」


私はそんな今日子の言葉から逃げるようにそう言った。


「どちらにしても一度、彼とちゃんと会って話をするべきだと思うのだが・・」


そんな私の言葉を今日子は全てを知ってるかのような軽蔑の目で見つめていた。


「それがあなたの望なら私は彼と会うわ!でも、答えは同じよ!私は彼と別れます・・」


勝手にしてくれ・・それは私には関係が無い話だ。


「ありがとう・・助かるよ!」


「嫌な言い方ね・・そう言う言い方・・嫌いだわ・・」


そんな私の言葉に今日子はそう答えると残りのビールを一気に飲み干した。


「契約について詳しく話を進めたいのですが・・」


そう今日子の会社から連絡が来たのはそれから2日後の事であった。


律儀な社長である。彼は彼なりに男としての筋を通したと言う訳だ。


まぁ~こちらにしてみれば大きな契約だが、彼の会社にしてみれば大した契約では無いのかもしれない。


別にどの商社から買っても条件はさほど変わりは無いのだから・・


「坂本!来週の月曜日にでも先方の会社の担当者と会って来てくれ!向こうは営業部長が直々に担当してくれるそうだ!これを機会になんとか他の取引も出来るように精々気に入られるようにしてくれよ!

あっ・・もう、気に入られているのかな?色男は特だよな!本当に」


そんな課長の嫌味にも似た激励を私は苦笑いをしながら聞いていた。


どうなる事やら?今から気が重い・・・


そんな事よりも私にとっては明日の土曜日の佐々木の家に行く事の方が悩みの種であったのだ。


私は浮かれる課長を尻目に少しだけ目じりにしわを寄せて来週に今日子に持って行く書類の最終チェックをするのであった。


東京から1時間ほど電車に揺られた郊外の住宅地に私は向っていた。


本当は泊まりなら車で行った方が便利などだが正直、佐々木の家に泊まるつもりは無く適当な時間に帰宅するつもりでいた。


西武新宿駅から西武新宿線に乗り聞きなれない駅に着いたのは午後の5時を少しだけ過ぎた頃であった。


平日は通勤圏なので混雑をしていそうな駅も土曜の午後は利用客もまばらである。


駅前のロータリーに一台の車が止まっていたその前に佐々木が恐縮しながら立っていた。


そして車の中から子供らしい一人の少女が退屈そうに外を見つめていた。


「遠い所をわざわざありがとうございます!」


佐々木はそう言いながら深々と頭を下げた。


「子供が見ているぞ!それに今日は友人として遊びに来たんだ!その丁寧語も止めろよ!」


はっ!と気が着いたように佐々木は車の中の娘を見た。


「どうも!坂本と言います!お父さんとお母さんの高校の時の友達です!初めまして!」


私は彼女にそう告げると軽く頭を下げた。


「どうも!葵です!父が何時もお世話になっています・・」


きちんとした挨拶が出来る子供だと思った。きっと、友美の教育が良いせいだろう。


私を乗せた車は駅を出発してそこから30分程離れた閑静な住宅街に向うのであった。