佐々木の家は建物は大分、傷んではいたが庭はよく手入れをされていた。
花壇には色とりどりの季節の花が咲いていて見ていて気持ちが良い。
玄関を開けると友美と下の子供だろうか?一人の女の子が私を物珍しそうに見つめている。
「坂本君!今日は遠い所を来てくれてありがとうね!大したお持て成しは出来無いけど楽しんで行って!」
エプロン姿の友美が笑いながらそう言った。
私は手土産のワインと子供用に買って来たケーキを友美に手渡す。
友美のエプロンを必死に掴んでいた女の子は嬉しそうにケーキの箱の匂いを何度もかいでいた。
夕食を始まり私はある事に気がついた。
それまで気が弱そうに私に気を使っていた佐々木が酒が入ると急に態度がでかくなったという事に・・
「坂本はさ~高校の時は大した奴じゃ無かったのによ~運動も成績だって俺より下だったんだぜ!
何よりもルックスっていうの?見た目なんか俺にまったく叶わなくってさ~パパは学年のアイドルだったら!」
そう自慢げに娘に話し出す彼を下の娘は絶賛して!上の子供は呆れたように聞いていた。
友美は何度かテーブルの下で諭すように佐々木の足を蹴っていた!そんな事を言わないでよ!恥ずかしい・・
そうとでも言いたかったに違いない。
時計を見ると8時を少しだけ過ぎていた。
「悪いが!そろそろ帰るよ!」
そう私が言うと佐々木は少しだけ不満そうな顔をした。
「泊まって行けよ!坂本!積もる話もあるんだから・・」
私はこの男に積もる話しは無い!それにもうこれ以上、こんな男の子守は御免である。
「ああ・・最初は止めてもらおうと思っていたんだが、明日、急に仕事になってしまっね!
大口の契約が決まりそうなんだ!月曜に担当者と会うのでその準備があって・・
奥さん!久々に家庭の味を楽しませて頂きました!最近は外食ばかりでね!
男も35にもなって独身だとなにかと面倒でね!また、来させて頂きます。」
私はそう友美に頭を下げお礼を言った。
「タクシーを呼んで頂けますか?」
そんな私の申し出に友美が言った。
「あら、送って行きますよ!私は飲んでいないから・・」
「いや・・でも、それでは悪いから・・」
「いいね!ねぇ!あたなた・・私、ちょっと送ってくるわ!」
そう友美が言うと佐々木は少しろれつが廻らない口調で・・
「葵も連れて行けよ!二人じゃなく!葵も連れて行け!」
そんな佐々木の言葉に友美は恥ずかしそうな顔をし・・娘の葵はめんどくさそうな顔をした。
「坂本!また来いよ!何時でも待ってるから!お前もいい加減に結婚したらどうだ!
そこそこ稼いでるんだろ!やっぱり結婚してない男は半人前だ!」
「あなた!いい加減にして!失礼でしょ!ごめんね!誠・・本当に・・・」
そんな友美の言葉が気に障ったのか佐々木はいきなり友美の頬を平手で殴った!
「このクソ女!俺に意見するんじゃね~~よ!それとも何か!こいつと何かあるのか!かばいやがって!」
夫婦には夫婦の世界がある。
それは他人には解らない世界なのだ!他人から見たら非常識でも夫婦の間では常識的な事柄がある。
でも、暴力はいけない!そんな次元の話ではない。
「佐々木!いい加減にしろ!嫁さんに暴力はダメだろ!」
「何だ!お前!坂本の癖に偉そうだぞ!何だ!何か文句があるのか!」
私は二人の娘に気を使いながら佐々木の耳元に囁くように言った。
「貴様!あまりふざけた事を言うなよ!お前なんか会社を首にする事ぐらい簡単に出来るんだからな!」と
その途端、真っ赤な佐々木の顔は真っ青に変化した。
そして静かにテーブルに戻るとまた、焼酎を飲み始めた。
「ママ!ごめん!私、ゆりから電話が来るかもしれないから一緒に行けない!悪いけど一人で行って!」
娘の葵が急にそう言い出した。
言い終わった後に自分の二階の部屋に向う途中で誰にもわからない様に私にウインクをしたのはきっと、私の見間違いに違いない。
「それじゃ~そろそろ失礼するよ!佐々木!今夜はご馳走様!今度は私はご馳走するから!ご家族で来てくれ!連絡を待ってるから・・」
それは当たり前だが、大人の社交辞令である。
私は友美が運転する車で駅に向っていた。
「御免ね!せっかく来てくれたのに・・あの人、お酒が入るとダメなのよ!急に気持ちが大きくなってしまって!」
「いや・・別に気にしてないよ!でも、暴力はいけないな!よくあるのか?」
「えっ・・いや・・」
友美のそんな曖昧な答えに度々、ある事が感じられた。
車は何時の間にか駅に到着しょうとしていた。
私は言ってはいけない言葉を何度も心の中で呟いていた・・
また・・会ってくれないか・・・
そんな言葉を何度も!喉元で必死に押さえつけていた。
車は駅のロータリーに到着した。
笑顔で私は友美に言った。
「さっき、佐々木にも言ったけど今度は俺がご馳走するよ!美味しい中華屋があるんだ!家族四人で来てくれ!
今夜はありがとう・・・」
何でこんなくだらない言葉をお前は言って居る!いや・・これで良い!これで良いのだ!
愛してはいけない!もう、昔ではない!この女には旦那と二人の子供が居るのだから・・
「うん!ありがとう!楽しみにしてるわ!」
「あっ・・それから・・」
「えっ?何???」
「い・・いや・・あの・・・」
「何よ!はっきりしない!昔とまったく変わってないわね!その性格・・」
「良かったら・・また、会ってくれないか?」
私は地獄の扉を開いてしまった・・・
「えっ・・・う・・・うん。良いよ!また連絡する・・」
そして、その扉を開いたのは私ではない・・
そう、この友美と言う女であったのだ・・
「また・・会いましょう」
友美はそう言うと右手をゆっくり窓から出した。
私は優しくその手を握った・・
柔らかい温もりが彼女の手から伝わってくる。
いけない!忘れてはいけない!この女は独身ではないのだ・・
愛してはいけない!愛してしまったら・・きっと、その先は地獄なのだから・・
人生は辛すぎて私の手には負えない。