僕が死ぬ日・・生まれる日 -5ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私は久しぶりに2丁目を訪れていた。


この街に初めて来たのは私がまだ、今の会社に入社したばかりの頃であった。


当時の私の上司は何時も口癖のように言っていた。


「営業はオールマイティーでなければいけない!」と


それとこの街に無理やりに連れて来られた意味は未だにわからない。


きっと、お客様の中にはそのような趣味の方も居るから・・そんな意味なのか??


それとも彼の個人的趣味にただ、付き合わされて居ただけなのかも??


私とリリィーは「ルージュ」と看板が出ている一軒のショーパブに入って行った。


ルージュはこの界隈では名の知れた店である。歴史も長い。


そして、私とリリィーが初めて出会ったのも何を隠そうこの店なのだ。


リリィーが今の店を出すまで彼女はこの店で働いていた。


店を辞めてからもチョクチョク来ているようなのできっと、円満退社で辞めたのだろう。


「いらっしゃ~~~い!あら!お珍しい方が一緒ね!リリィ~~~」


店のカウンターでタバコを吹かしながらそう言ったのはこの店の現在のママのキャンデイーである。


年齢不詳、見た目はガテン系!何時も金髪のカツラを付けているが外すとスキンへットで中々、迫力がある!


実は彼女はこの世界に来る前は警視庁の刑事であった。それもマル暴と呼ばれる暴力団専門の・・


「坂本ちゃん!ご無沙汰じゃないの~~もう、!寂しかったわ!」


そう言われながら私はまるで捕獲された野生動物のようにキャンデーに羽交い絞めにされながら手洗い歓迎を受けていた!。


「どうよ?リリィー景気は?」


「まぁ~ボチね!」


「でも、あんたなんか、スポンサーが居るんだから結構、気楽なんでしょ?」


「そうでもないわよ!囲われて女は女で色々とね・・」


はぁ~~!と何とも二人のオカマの重い深いため息が聞こえた。


「そろそろショータイムの準備だから!誰か付ける?」


そんなキャンディーの言葉にリリィは


「いや!彼としっぽりしてるわ!もう、戻って来なくて良いからね!」と笑いながら言った。


「で?あんたどうするの?彼女の事。良さそうな女性じゃない!美人だしさ~そろそろあんたも年貢の納め時じゃないの?」


「なんだ?君にしては随分とお節介な事を言い出すんだな!」


「そうね!私も年をとったのかしらね!昔ならこんな事は言わなかったかもしれない・・

別に結婚なんかしなくても生活に何の支障もないしね!むしろ自由を奪われて障害になるくらいだわ!」


「なら、何でそんな事を急に言い出すんだよ!」


「えっ・・あのね!最近、私、気が付いたのよ!確かに生活には支障は無いけどね!心にはあるって事が!」


「心だって!また、随分と子供な話をしだすんだな!乙女かよ??」


「あら、そう思えない方が本当は子供なのよ!誠はさ~一生独身で居るつもりなの?」


「まぁ・・本当に好きな相手が出来たら結婚しても良いとは思うけどさ~でも、結婚なんか所詮は紙切れだけの世界だろ!別に付き合っているだけで十分じゃないか?」


「あのね!でも・・体はそれで満足するかも知り無いけど・・心はしないのよ!

結婚ってさ!多分、安心をくれる物だと思うの!そう・・一生消えない相手の存在がね!安心を・・」


私は何も言えずに彼女を見つめていた。


きっと、彼女も人には言えない多くの苦しみを背負いながら生きているに違いない。


多くの人間に囲まれていても消えない孤独感・・


自分の未来への不安・・


そして、何時か年老いた時に確実に訪れる死と言う現実に・・


「なぁ~リリィ!誰かを愛する事は罪なのかな・・・」


そんな私の言葉にリリィは微笑みながら・・


「罪ではないわよ!サガよ!」と答えた。


誰が好きなのか正直、解らない。友美が好きなのか?それとも今日子が好きなのか?


本音を言えば・・女を愛すると言う感情自体が私には欠落しているのかもしれない。


軽快な音楽が流れ出しキャンディー達がど派手な衣装を身にまとい中央のステージに登場する。


私はそんな彼女たちを見つめ思うのだ!


いったい、どうすれば良いのだろう?と・・


そんな私にリリィは優しく手を握りながら呟いた。


「あなたは一人じゃないから・・大丈夫だよ!」と


人生は辛すぎて私の手に負えない。



ピピッ・・ピピッ・・・


二人の気まずい空気を切り裂くかのように私の携帯電話が鳴った。


「出ないの?仕事の電話かもよ?」


今日子は何か言葉を捜すように私にそう言った。


液晶表示を見ると例の見知らぬ電話番号であった。


何時もなら絶対に出ないのだが、私は正直、この場から離れたかったのかもしれない。


「悪い!仕事の電話みたいだ・・」


そう今日子に告げると席を立ち店の外に出た。


「はい!坂本です。どちら様ですか?」


そう私が言っても相手は一向に話をする気配は無かった。


昼間から同じ番号の人間が何度か私に電話をして来ているが留守番電話にメッセージを残してる気配も無い。


「どなたですか?」


私は苛立つ気持ちを抑えながらそう言った。


しかし、やはり相手は無言であった・・・


「おい!いい加減しろ!俺だって暇じゃないんだぞ!」


そう怒鳴りながら電話を切ろうとした瞬間・・電話からかすかな声が聞こえた・・


「誠・・会いたいよ・・」


「えっ??友美・・か?」


「誠・・私・・あなたに会いたい・・」


「で・・でも・・家は大丈夫なのか?それにこの番号は??」


「あなたにだけ連絡をするように携帯電話を一台、買ったのよ!

来週の週末に旦那と娘達が泊りがけで旦那の実家に行くの・・

その時、会えないかな??無理かな??」


確かにもう一度、会おうと言った。


そして君から連絡をしてくれと言ったのも事実だ。


でも、正直、私は二度と友美から電話が来る事は無いと思っていた。


絶対に無いと思っていた・・


どうする?私はどう答えるべきなのだろ・・


しかし、本当は答えなんか決まっていたのかもしれない。


自分の気持ちに素直になれば・・答えは決まっていた。


難しい理屈なんかいらない!


窮屈な世間体なんかクソ食らえだ!


俺は・・ただ、こいつに会いたいんだ!


別に、こいつを抱くわけではない!旦那と別れてくれと駄々をこねるわけでもない!


ただ、一緒に居たいんだ!ただ、少しだけ同じ時間を過ごしたいだけなんだ・・


出来なかったから・・(あの時に・・そう高校時代に出来なかったから・・


「解ったよ!来週の土曜日に会おう・・」


「ごめんね!本当にごめんね!いけない事なのにね!本当はあなたと会いたいなんて思ってはいけないのにね!ごめんね!」


「泣くなよ・・・俺も同じ気持ちだから・・君だけが悪いんじゃない!俺も君に会いたい・・」


私はそう呟くと静かに電話切った。


「お仕事の電話?」


店に戻ると今日子がそう言った。


「ああ・・なんともややこしい仕事の電話だよ!まったく・・」


そんな私の言葉に今日子は少しだけ微笑みながら・・


「うそばっか!相変わらず嘘が下手だね!君は・・・」と呟いた。


そして、静かに席を立つと


「負けないから!私・・幸せは自分の手で掴む物だと信じてるから!何処のどんな女か知らないけど!

私は絶対に負けないんだから!」


そう叫びながら今日子は店を出て行った。


一人残された私の所にマスターがニヤニヤしながら近寄って来た。


「誠!相変わらずあなたも忙しいわね!たまには私も遊んでもらいたいわ!」


周りの目を気にしながらマスターは女言葉でそう私に言った。


彼・・いや、正確には彼女であるのだが・・・


私は彼の事を呼ぶ時はマスターかリリィーと呼ぶ、実は本名は知らないのだ。


特にマスターが隠してる訳ではない無いと思う。私にとって別に彼の本名なんて物はあまり興味の無いしろものだからかもしれない。


「オイオイ・・パトロンの爺さんに殺されるのは御免だよ!」


二丁目のショーパブのタダのオカマがなぜに、こんな豪華な店を持つ事が出来たのか??


それは、別にリリィーが人一倍、努力したした訳でも、才能があった訳でもない・・


彼女の彼氏のおかげであると言っても言いすぎではない。


新宿界隈を仕切っているとある暴力団の2代目がリリィーの男である。


噂ではもう、息子に組を継がせて自分は隠居してるそうだから、結構な年だと思う。


私もリリィーが昔、働いていた店で数回、彼に会った事がある。


何とも鋭い目をした優しいおっさん!それが私の彼のイメージである。


「大丈夫よ!彼、今、香港なの!それに彼も年だから最近、ご無沙汰なのよね~~どう?

たまにはステーキばかり食べてないでおにぎりでも??」


勘弁してくれよ!マジで・・


私の顔にそう書いてあったのか、リリィーは話題を変えるように・・


「それなら、たまには飲みでも行きましょうよ!私ね!週に一度は女にならないと発狂しそうになえるのよ!

ねっ!お願い!付き合って!直ぐに着替えて来るからさ~」


私がこの店に連れてくる」女性は皆が口を揃えてマスターの事を「渋い大人の男」などと彼を評価する・・


私はそんな彼女達の勝手な評価を聞く度に噴出しそうになるのだ!


本当のリリィーは寂しがり屋で何時もメソメソ泣いてる・・・


決して強い男らしい大人の男なんかでは無いからだ!


会計を済ませ私は店の前でタバコを吹かしながらリリィーを待っていた。


すると真っ赤なドレスに身を包んだ一人の美女が登場する。


「相変わらず!上手く化けるな!化粧って偉大だよな!」


そんな私の嫌味な言葉に・・


「もぉ~誠は何時も意地悪ね!」と少しだけリリィーはすねて見せる。


きっと、この男は本当の女よりも女らしいと思う。


そして自分が女である事を本当に大切にしてる。


女性にとって一番大切な事は何かと言えば・・


それは、きっと、何時も美しく居ると言う事だと私は思う。


顔とかスタイルなんかは関係がない!女の美しさとはきっと、そんな目に見える物ではない気がする。


それをリリィーは何時も大切にしているのだ。

そう言いながらリリィは私の腕に自分の腕を絡ませると楽しそうに歩き出した。


「今夜は飲むわよ!覚悟しなさいよ!この女ったらし!」


そんな言葉を呟きながら・・

ジョーとのランチを済ませ私達は会社に帰った。


課長を始めチームのメンバー達は上機嫌であった。


何とかこれで私のメンツも保たれたと私は一人、深いため息を付いた。


この調子で行けば一ヵ月後には本契約が結べるはずである。


それまでは気を抜いてはいけない!そうもう一度、自分自身を振るい立たせる。


「今夜!飲みに行こう!」


そう課長がチームのメンバーをしきりに誘っていた。


チームの誰もが今回の契約の功労者は誰なのか知っていた。


そして、それを一番、知っていたのは課長自身であったに違いない。


彼は彼なりに自分が出来る事を必死で探していたのかもしれない。


基本的に今回の売り上げの手柄は課長の能力実績になる。


しかし、それと課内の評価はまた違う。


スタッフに見放された上司の末路がどんなに惨めかきっと彼自身が一番、知っていたに違いない。


「申し訳ありません!今日は予定が入っておりまして!」


私は課長に申し訳なさそうにそう言った。


彼は少しだけ不服そうな顔をし嫌味のように呟く・・


「一人で動くのは勝手だが、報告だけはしろよ!お前のミスの尻拭いは何時も俺なんだから!」


それは私の言葉だろ!その言葉をそっくりあなたに返したいくらいだ!


そうも言えないの私は「申し訳ございません!」と深く頭を下げる。


サラリーマンとは何とくだらない職業なのだろうか?


仕事が終わりチームの皆がめんどくさそうに課長の後に付いて部屋を出て行く・・・


すまん!皆・・これも仕事だと思って我慢しろ!


私はそんな彼らを見つめそう心の中で呟いた。


7時10分前に私はアルタの前に到着した。


今日子はまだ、来ていないようである。


相変わらず往来する人々の群れをうざったそうに私は見つめていた。


「ごめんね!待った??」


そう声をかけられ振り返るとそこに今日子が立っていた。


「いや・・私も今、来た所だよ!店は何処でも良いかな?何処か希望は?」


「えっ!そうね!あなたが何時も女性を口説いている店が良いわ!」


今日子は私をからかうようにそう言った。


私は今日子を連れて花園神社の裏の例の店に向った。


「うわ~~凄い!まるで海の中にいるみたい!」


今日子も全てと女性と同じような反応をする。


きっと、この店は最強に違いない!


マスターは今日子の顔を見ると呆れたように私の顔を見つめた。


いい加減に身を固めなさいよ!


そうマスターの目が私に語りかけているような気がした。


その晩の今日子は妙にハイテンションであった。


あの長岡での勝又達との宴会の晩のように笑顔を絶やす事は無かった。


しかし、時より見せる寂びしそうな目が私に語りかけているような気がした。


聞いて・・・お願いだから・・と


彼女はきっと、私のある言葉を待っていたに違いない。


そして、私自身もその言葉を理解しているのにそれを今日子に言う事が怖かった。


私はきっと臆病者なのだと思う。


時計は10時を指してた。そろそろ限界だ・・聞かなくていけない!


「彼とはどうなったんだ?」


私はタバコに火をつけながら、まるで世間話でもするように今日子にそう尋ねた。


「別れたわ・・大分、もめたけどね!」


今日子はやっと、言えたと言う様な安堵の表情を少しだけ浮かべた。


「彼は今の奥さんと絶対に離婚は出来ないの!もしも離婚したらうちの会社はきっと倒産するから・・

それに、何気に彼が奥さんや子供を愛して居る事は解っていたから・・」


そう呟き今日子も細いメンソールのタバコに火をつける。


「このままの関係でいられないか?と聞かれたわ!正直、そう考えた気持ちもあった。

でも、最近、怖くなったの!」


「怖くなった?何にだい?」


「自分が年老いて行く事によ!このまま、自分が年老いて行った時に孤独で死んで行く自分を想像した時に

怖くて!怖くて仕方がなくなったの!孤独で死にたくないの!日陰の女で死にたくない!

贅沢な話かもしれない!中途半端な少女趣味的な考えかもしれないけど・・

私は愛した男に抱きしめながら死にたいのよ!チャーリはきっと、私の事を一生、愛してくれると思う!

でも、きっと、私が死ぬ時には側には居てくれない!だって!それが日陰の女のサガだものね!

私ね!私・・・」


何時の間にか今日子の目から涙が溢れていた。


マスターが気を利かせて彼女にお絞りをそっと、差し出した・・・


「私!私は!・・・・あなたに・・・」


「その先は・・言ってはいけない」


私はそんな今日子の言葉と想いを遮るかのようにそう呟いた。


「何でよ!何であなたは何時も逃げてしまうのよ!私がこんなに真剣にあなたと向かい会おうとしてるのよ!

それなのに何であなたは何時も逃げてしまうの!真剣に向き合っている人間には真剣に向き合うのが礼儀でしょ!別に今すぐ、私を愛してくれとは言わないわ!でも、でもね!知っておいてもらいたの!

私の気持ちを!私のこの気持ちを!あなたを誰よりも愛してる!そしてあなたがもしも死ぬ時は・・・

私が見送ってあげたいの!もしも、私が先に死んだら、あなたに見送ってもらいたいの!

涙を流して抱きしめて見送ってもらいたいのよ!」


私は馬鹿だから何にも言えないんだ!嘘でも言ってあげれば良いのに・・・


そんな戯言を言ったらと言って今すぐどうなると言う訳でもないのに・・・


でも、でもな!好きでもない女に言えないんだ!君を愛してるなんて言えないんだ・・


俺、馬鹿だけど!これが真剣に向き合ってる証なんだ!だから、言えない・・・


タバコの灰がポトンと灰皿に落ちた・・・


「マスターお代わりを貰えないか?同じ物で良いから・・・」


そんな私を今日子は切なそうに見つめていた・・


私は馬鹿である。だから、きっと、一生、幸せにはなれないのだと思う・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。