ピピッ・・ピピッ・・・
二人の気まずい空気を切り裂くかのように私の携帯電話が鳴った。
「出ないの?仕事の電話かもよ?」
今日子は何か言葉を捜すように私にそう言った。
液晶表示を見ると例の見知らぬ電話番号であった。
何時もなら絶対に出ないのだが、私は正直、この場から離れたかったのかもしれない。
「悪い!仕事の電話みたいだ・・」
そう今日子に告げると席を立ち店の外に出た。
「はい!坂本です。どちら様ですか?」
そう私が言っても相手は一向に話をする気配は無かった。
昼間から同じ番号の人間が何度か私に電話をして来ているが留守番電話にメッセージを残してる気配も無い。
「どなたですか?」
私は苛立つ気持ちを抑えながらそう言った。
しかし、やはり相手は無言であった・・・
「おい!いい加減しろ!俺だって暇じゃないんだぞ!」
そう怒鳴りながら電話を切ろうとした瞬間・・電話からかすかな声が聞こえた・・
「誠・・会いたいよ・・」
「えっ??友美・・か?」
「誠・・私・・あなたに会いたい・・」
「で・・でも・・家は大丈夫なのか?それにこの番号は??」
「あなたにだけ連絡をするように携帯電話を一台、買ったのよ!
来週の週末に旦那と娘達が泊りがけで旦那の実家に行くの・・
その時、会えないかな??無理かな??」
確かにもう一度、会おうと言った。
そして君から連絡をしてくれと言ったのも事実だ。
でも、正直、私は二度と友美から電話が来る事は無いと思っていた。
絶対に無いと思っていた・・
どうする?私はどう答えるべきなのだろ・・
しかし、本当は答えなんか決まっていたのかもしれない。
自分の気持ちに素直になれば・・答えは決まっていた。
難しい理屈なんかいらない!
窮屈な世間体なんかクソ食らえだ!
俺は・・ただ、こいつに会いたいんだ!
別に、こいつを抱くわけではない!旦那と別れてくれと駄々をこねるわけでもない!
ただ、一緒に居たいんだ!ただ、少しだけ同じ時間を過ごしたいだけなんだ・・
出来なかったから・・(あの時に・・そう高校時代に出来なかったから・・
「解ったよ!来週の土曜日に会おう・・」
「ごめんね!本当にごめんね!いけない事なのにね!本当はあなたと会いたいなんて思ってはいけないのにね!ごめんね!」
「泣くなよ・・・俺も同じ気持ちだから・・君だけが悪いんじゃない!俺も君に会いたい・・」
私はそう呟くと静かに電話切った。
「お仕事の電話?」
店に戻ると今日子がそう言った。
「ああ・・なんともややこしい仕事の電話だよ!まったく・・」
そんな私の言葉に今日子は少しだけ微笑みながら・・
「うそばっか!相変わらず嘘が下手だね!君は・・・」と呟いた。
そして、静かに席を立つと
「負けないから!私・・幸せは自分の手で掴む物だと信じてるから!何処のどんな女か知らないけど!
私は絶対に負けないんだから!」
そう叫びながら今日子は店を出て行った。
一人残された私の所にマスターがニヤニヤしながら近寄って来た。
「誠!相変わらずあなたも忙しいわね!たまには私も遊んでもらいたいわ!」
周りの目を気にしながらマスターは女言葉でそう私に言った。
彼・・いや、正確には彼女であるのだが・・・
私は彼の事を呼ぶ時はマスターかリリィーと呼ぶ、実は本名は知らないのだ。
特にマスターが隠してる訳ではない無いと思う。私にとって別に彼の本名なんて物はあまり興味の無いしろものだからかもしれない。
「オイオイ・・パトロンの爺さんに殺されるのは御免だよ!」
二丁目のショーパブのタダのオカマがなぜに、こんな豪華な店を持つ事が出来たのか??
それは、別にリリィーが人一倍、努力したした訳でも、才能があった訳でもない・・
彼女の彼氏のおかげであると言っても言いすぎではない。
新宿界隈を仕切っているとある暴力団の2代目がリリィーの男である。
噂ではもう、息子に組を継がせて自分は隠居してるそうだから、結構な年だと思う。
私もリリィーが昔、働いていた店で数回、彼に会った事がある。
何とも鋭い目をした優しいおっさん!それが私の彼のイメージである。
「大丈夫よ!彼、今、香港なの!それに彼も年だから最近、ご無沙汰なのよね~~どう?
たまにはステーキばかり食べてないでおにぎりでも??」
勘弁してくれよ!マジで・・
私の顔にそう書いてあったのか、リリィーは話題を変えるように・・
「それなら、たまには飲みでも行きましょうよ!私ね!週に一度は女にならないと発狂しそうになえるのよ!
ねっ!お願い!付き合って!直ぐに着替えて来るからさ~」
私がこの店に連れてくる」女性は皆が口を揃えてマスターの事を「渋い大人の男」などと彼を評価する・・
私はそんな彼女達の勝手な評価を聞く度に噴出しそうになるのだ!
本当のリリィーは寂しがり屋で何時もメソメソ泣いてる・・・
決して強い男らしい大人の男なんかでは無いからだ!
会計を済ませ私は店の前でタバコを吹かしながらリリィーを待っていた。
すると真っ赤なドレスに身を包んだ一人の美女が登場する。
「相変わらず!上手く化けるな!化粧って偉大だよな!」
そんな私の嫌味な言葉に・・
「もぉ~誠は何時も意地悪ね!」と少しだけリリィーはすねて見せる。
きっと、この男は本当の女よりも女らしいと思う。
そして自分が女である事を本当に大切にしてる。
女性にとって一番大切な事は何かと言えば・・
それは、きっと、何時も美しく居ると言う事だと私は思う。
顔とかスタイルなんかは関係がない!女の美しさとはきっと、そんな目に見える物ではない気がする。
それをリリィーは何時も大切にしているのだ。
そう言いながらリリィは私の腕に自分の腕を絡ませると楽しそうに歩き出した。
「今夜は飲むわよ!覚悟しなさいよ!この女ったらし!」
そんな言葉を呟きながら・・