僕が死ぬ日・・生まれる日 -64ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

朝は一日の顔である。


笑顔で家を出たらその日、一日は笑顔で過ごせる。


苦い顔で家を出たらどうも一日、テンションが上がらない・・・


だから誠は出来るだけ朝は笑顔で居る事を心がけていた。


それは妻や娘の為ではない・・・


自分自身のためにだ。


人間には2種類の人種が有ると思う。


争いを好む人種と争いを好まない人種。


誠はどちらかと言うと争いを好まない人種であった。


何だろう・・怒鳴った後の空気が嫌いなのだ・・


感情的に良い争いをしても何の解決も生まないし・・・


相手に罵声を浴びせた後に自分自身のそんな行動に凄く後悔をするのも嫌であった。


だから、誠は何時も今日子の理不尽な行動や言葉にも何の文句も言わずに従った。


それが、彼の中で「平凡な生活」をこなす為の唯一の方法だったからだ。


ただ、そんな生活でストレスがたまらない訳が無かった。


きっと、世の中の全ての優しい物わかりが良いなんて妻が自慢をしている旦那はストレスでイッパイであろう。


誠はそんな優しい旦那などこの世に存在しないと思っている。


もしも、そんな男が居たならばその男がもの凄く妻を愛している人間か・・


何か別のストレスを発散する手段を得ている人間だけであると思う。


朝から日課の弁当を作りながら今日子の愚痴が始まる。


誠は出来るだけ聞こえない素振りをした。


そんな誠の態度に余計に今日子が声を荒げ愚痴を叫び出す・・・


そんな性格だからだよ!


誠は無表情でそう心の中で呟いた。


誠は出来るだけ妻と関わりにならないようにしていた。


何の趣味も持たない・・・


なんのストレスを発散する方法を持たない誠にとって・・・


ストレスの元である妻との接点を出来るだけ持たない事が唯一の発散方法だったに違いない。


ストレスを持たない生活をどう作って行くか??


基本的に誠のような我慢する人間は結婚に向いていない。


孤独が嫌いだけど・・孤独が好き・・・


そんな矛盾した考えの持ち主だからだ。


休日は1人で好きな読書でもしながらビールを飲んでうとうとしていたい。


一週間、必死に働いているのだ・・・


そんな小さな願いくらい叶えさせろよ!と誠は何時も呟いていた。


余裕・・・


夫婦生活を潤滑に過ごす唯一の方は「余裕」であると誠は思っている。


お互いの余裕・・・


相手の気持ちを察し、相手が何を望み何を我慢しいるのか・・


自分なりに気を使ってあげる優しさがストレスを無くして行くのは無いのだろうか??


それは自分が過ごす現実社会でも言える事である。


妻ならば幼稚園やママ友との関わりの中で「余裕」を持った生活を送れば良いし・・


旦那なら職場と言う世界で周りの人間に「余裕」のある接し方をすれば潤滑に行くに違いない。


全ての自分以外の人間は他人である。


それは妻でも子供でも愛する恋人でも同じである。


考え方も違うしストレスの原因も違う。


自分が正しいと思うことは、大体、相手にとって間違いだと言う事が多いような気がする。


そんな溝を埋めるのが「心の余裕」では無いのだろうか??


まして誠のようの自分の心の状態を上手く表現できない人間は何時も心に余裕を持って居ない。


何時もギリギリの所で生活をしている。


旦那が理解が無い・・・


妻が何を考えて居るのか解らない・・


自分の子供が親の言う事を聞かない・・・


そんな悩みを持っている全ての人間にはきっと、一歩、後ろに下がり全体を見つめる余裕が無いのだと思う。


今日子の愚痴を聞き流しながら誠は仕事に向う。


正直、こんな気持ちで仕事に出かけないといけないのなら起きて居ないほうが気が楽である。


勝手に自分で弁当を作り、勝手に食パンをかじりながら家を出た方がどんなに楽であろうか解らない・・


夫婦って何だろう???


その時の誠にとって妻と言う存在は、ただの自分を苦しめるストレスの原因でしか無かったのかもしれない。


何時も・・何時も・・後悔をしていた。


今日子以外にもあんなに沢山の女が周りに居たのに・・


自分は何でこの女を選んでしまったのか??


でも、きっと、今日子も自分に無関心な誠に対して同じ事を考えるに違いない・・


そして、最後は2人も同じ答えにたどり着く・・


「でも・・仕方が無い!選んでしまったのだから・・」


それがきっと、全国の夫婦の共通の答えに違いない・・・


誠は「行って来ます!」と元気な声で家を出る・・


せめて、出かける挨拶だけも元気よく・・・


職場と言う戦場に向う為に・・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・

5月に入って直ぐに葵の誕生日であった。


幼稚園の仲間達で誕生会などが行われる。


4月にはオカメの娘が誕生日でオカメの家で4月に誕生会が行われたので2回目の誕生日会である。


オカメの娘の誕生日会は実に質素な会であった。


ケーキ屋から買って来たケーキにスーパーの出来合いの惣菜・・


それに各参加者が持ち寄った料理・・・


でも、一番最初だったので誰と比較される事も無くオカメの誕生日会はそつなく終了した。


そして5月に入り二回目の葵の誕生日会に・・・


今日子は朝から気合を入れてケーキーを自分で焼き、数品の手の凝った料理をテーブルに並べる。


その料理に比べたら皆が持って来た料理は実に貧そに思え・・・


そして2回目ともあって葵の誕生日会は盛大に行われたのだ。


オカメの娘がオカメに小声で呟く・・


「良いな~葵チャンは・・羨ましい・・・」


笑顔であった。全ての参加者が・・・


しかし、心の中では1人、1人、同じ事を考えて居た。


「こんな盛大にやられては・・次の私が大変じゃないのよ!」


「何よ!これ・・自慢???マジ・・うざい女・・・」


「うちの娘の時には簡単な料理しか作って来なかったくせに・・

私をバカにしているの!

せいぜい・・自己満にしたっていなさいよ!」


1人・・1人・・笑顔の裏でやっかみと妬みが渦巻いていた。


今日子は誕生日会の出来栄えに満足そうに笑った。


そんなママ達の気持ちも知らずに・・・


その日の夜、誠の夕食は何時もとは違い豪華な食事であった。


テーブルに並べられた残り物の料理を見ながら・・


久々に出された肉料理を堪能した・・・


それから数日後に事件は起こる。


何時ものように駐車場で今日子はオカメを待っていた。


すると、その駐車場の横を他の園児の母親とオカメが楽しそうに話しながら通り過ぎていく・・


「おはよう!」


今日子は笑顔でオカメに向って挨拶をする。


オカメはまるで気が付かないようにそのママと笑いながら話をしている・・・


「えっ?何よ・・それ・・」


それが今日子の率直な感想であったに違いない。


それでも、オカメは知らん顔で駐車場を歩いて行ってしまった。


急いで葵の手を引きながらオカメの後を追った・・・


帰りは帰りでいつもならタヌキと3人で帰るのにオカメはさっさと1人で帰ってしまった。


「どうしたのかしら?オカメ・・」


今日子のそんな言葉にタヌキは少しだけ意味ありげな笑いを伴いながら・・


「どうしてかしら?ね・・」と呟いた。


急に態度を変えたオカメに今日子は困惑し落ち込む・・・・


私が何をしたと言うの??何か気に触る事をしたかしら???


自宅に戻り今日子はキッチンのテーブルの椅子に座りながら悩んだ・・・


7時過ぎに誠が帰宅をする。


何とも暗い空気に一瞬、誠はチッと舌打をした。


台所で今日子が泣きながら電話をしている・・


相手は聞かなくてもわかっていた・・


どうせ・・母親だろ・・どうせ・・


「それでね!何で彼女が私を無視すのかまったくわからないのよ!

何でだと思う・・」


そんな声が聞こえる。


どうやらママ友と何かあったようだ・・


誠は不機嫌そうにドアを手荒に閉めた。


ドン!と言う大きな音に今日子がビックリしたように振り向く・・


しかし、誠の事等お構い無しに話を続けた。


誠は不機嫌そうに浴室に向かいシャワーを浴びた。


浴室から出て来ても今日子はまだ泣きながら話をしていた。


暗い家だな・・この家は・・・


何のために家に帰るのか???


一日の疲れを致す為に家があり妻が居て家族があるのでは無いのだろうか?


それは男の勝手な理想なのかもしれないが・・・


多くの男が家庭と言う物にそんな理想を描いているに違いない。


出来る事なら出来るだけ遅く帰宅したい・・・


妻と一緒に居る時間を出来るだけ短くしたい・・・


そんな思いが仕事場から帰れない旦那を産むに違いない・・・


誠は不機嫌そうに自分で炊飯器から自分の茶碗にご飯をよそった。


そして冷蔵庫から適当なおかずを選ぶと無言で食事を始める。


今日子は隣の部屋に何時のまにか移動をしていた。


誰も居ない食卓でテレビの音を聞きながら誠は寂しい食事を始める。


自分は何の為にこの女を養っている??


自分は何の為にこの女と一緒に暮らしてるのか???


冷たいおかずを口にほおばりながら・・少しだけ涙がこぼれる・・


でも自分はロボットだから・・何も感じない。


そんなものだ・・夫婦なんて・・


理想を持ってはいけない・・家族や夫婦と言う物に・・理想を・・・


「誠ちゃんは何も聞いてくれないのよ!」


今日子のそんな声が聞こえる・・・


誠は居たたまれなく日課の夜のウォーキングに出かけた・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・

「そもそも・・幼稚園で友達を作ろうなんて考えが甘いのよ!」


誠の同僚の小学生の子供を持つ静香はそう呟いた。


「同じ趣味か何があるなら別だけど・・

たまたま同じ幼稚園に来ただけの相手に昔からの親友達と同じ事を求める事に無理がある。

あのね!幼稚園で無難に過ごす方法は・・

一定の距離を置くって事・・・

近からず遠からずって感じ・・

よく、凄く仲が良いママさん達がいるけど大体は地元で昔からの知り合いが多い・・

それか、その人間が凄く世渡りが上手いかどちらかね!

坂本さんの奥さんみたいなタイプは絶対に近からず遠からずを守るべき人間のタイプね!

だから、くだらない理想を求めて仲良くし過ぎたのが苦しみの原因よ!」


妻の事を相談していた誠は休憩所で静香の話を聞きながら妙に納得をした。


それは今の話から大分先の事である。


今日子にとってタヌキとオカメとの関係は理想の幼稚園ライフであった。


たまに家族で夕食をお互いの家で食べたり・・・


自分達だけでなく旦那や子供も仲良しで・・・


ただ、誠はそんな行事が苦痛で仕方が無かった。


他人を家に招く事に少しだけ抵抗を感じたからだ。


まして初対面の相手だしそんなに頻繁に会う仲でもない。


ただ、数時間、我慢をすれば今日子の機嫌が悪くならない・・


それだけの理由で誠は彼らと友人の振りをこなした・・


多分、タヌキも旦那もオカメの旦那も同じ気持ちだったに違いない。


しかし、5月に入ると今日子とタヌキとの間の微妙な距離はより離れて行く。


カマキリの存在が大きい・・


タヌキはカマキリに誘われて例の健康食品の会の会員になり元になった。


何時も遊んでいた時間は会の勉強会や営業に回され始める。


そして色々なイベントの時も何時もなら今日子を誘って行くのに・・・


カマキリ達と行く事が多くなり始める・・


「タヌキったら私を誘わないでカマキリ達とばかり出かけるのよ!

カマキリなんか、あからさまに私を避けているみたいなの!

失礼しちゃうわよね!」


夕食の時に誠にそんな話をする回数が次第に増えて行く・・・


誠はそんな妻の話に興味無さそうに相槌を打つ・・・


家庭に仕事の話を持ち込まないでよ!


誠は何度もそう今日子に言われて来た・・


ならば、お前も家庭にママ友との愚痴なんか持ち込むなよ!


それが誠の正直な気持ちであった。


俺には・・そんなの関係ない・・


お前の人間関係なんか興味は無い・・


よく、家庭を安らぎの場所などと戯言を言う評論家が言うが・・


誠は何時もそんな話を聞く度に苦笑いを浮かべる。


なぜなら、誠にとって家庭とは最初から苦しみの場所でしか無かったからだ。


タヌキとの距離が広がると必然的に何処かに行く時はオカメの車を頼るしかなくなる。


その代りに今日子は毎回、お弁当をオカメ親子の分も作りパンやお菓子を焼くと必ず持って行った。


「まったく・・タヌキって冷たいよね!」


何気無く愚痴った言葉であった。


近くの公園に行くのにオカメの車に乗せてもらいながら今日子が呟いた。


オカメは一瞬、そんな今日子の言葉に渋い顔をした。


オカメ自身も今日子の足に使われる事をあまり良くは思っていないようであった。


数日後、今日子はタヌキと一緒に参加している子供のサークルに行くのにタヌキに連絡を入れる。


「タヌキ!乗っけて行ってもらいたいんだけど・・・」


そんな今日子の言葉にタヌキは冷たく呟いた・・


「悪いけど美香ちゃんママと今回は一緒に行く約束をしているから・・」と


「えっ!なら、私も乗れるんじゃないの??」


そんな今日子の言葉に・・


「カッパの事、美香ちゃんママはあんまり知らないから嫌みたいなの・・」と


遠まわしに拒否をされる。


「そう・・なら自転車で行くわ!」


少し、不機嫌そうに今日子は電話切った。


後で解った事だが、オカメがタヌキにメールで言ったのだ・・・


「タヌキの事をカッパが冷たいって言っていたよ!」と・・


「あいつ乗せてもらっているくせに偉そうだよね!

車も買えない貧乏人のくせに・・」と


言葉とは凄く怖いものだと思う・・


本人はまったくそんな事を思って居ないのに・・


それを聞いた人間は勝手に想像をするからだ・・・


だから・・言葉は怖い・・


今日子は後でその話を他人から聞いた時に言葉の怖さに身の毛もよだつ気持ちになった。


そんな事件から少しずつ今日子とオカメとの関係にもひびが入り始めていようとは・・


今日子は思っても居なかった・・


人生は辛すぎて私の手には負えない