「そもそも・・幼稚園で友達を作ろうなんて考えが甘いのよ!」
誠の同僚の小学生の子供を持つ静香はそう呟いた。
「同じ趣味か何があるなら別だけど・・
たまたま同じ幼稚園に来ただけの相手に昔からの親友達と同じ事を求める事に無理がある。
あのね!幼稚園で無難に過ごす方法は・・
一定の距離を置くって事・・・
近からず遠からずって感じ・・
よく、凄く仲が良いママさん達がいるけど大体は地元で昔からの知り合いが多い・・
それか、その人間が凄く世渡りが上手いかどちらかね!
坂本さんの奥さんみたいなタイプは絶対に近からず遠からずを守るべき人間のタイプね!
だから、くだらない理想を求めて仲良くし過ぎたのが苦しみの原因よ!」
妻の事を相談していた誠は休憩所で静香の話を聞きながら妙に納得をした。
それは今の話から大分先の事である。
今日子にとってタヌキとオカメとの関係は理想の幼稚園ライフであった。
たまに家族で夕食をお互いの家で食べたり・・・
自分達だけでなく旦那や子供も仲良しで・・・
ただ、誠はそんな行事が苦痛で仕方が無かった。
他人を家に招く事に少しだけ抵抗を感じたからだ。
まして初対面の相手だしそんなに頻繁に会う仲でもない。
ただ、数時間、我慢をすれば今日子の機嫌が悪くならない・・
それだけの理由で誠は彼らと友人の振りをこなした・・
多分、タヌキも旦那もオカメの旦那も同じ気持ちだったに違いない。
しかし、5月に入ると今日子とタヌキとの間の微妙な距離はより離れて行く。
カマキリの存在が大きい・・
タヌキはカマキリに誘われて例の健康食品の会の会員になり元になった。
何時も遊んでいた時間は会の勉強会や営業に回され始める。
そして色々なイベントの時も何時もなら今日子を誘って行くのに・・・
カマキリ達と行く事が多くなり始める・・
「タヌキったら私を誘わないでカマキリ達とばかり出かけるのよ!
カマキリなんか、あからさまに私を避けているみたいなの!
失礼しちゃうわよね!」
夕食の時に誠にそんな話をする回数が次第に増えて行く・・・
誠はそんな妻の話に興味無さそうに相槌を打つ・・・
家庭に仕事の話を持ち込まないでよ!
誠は何度もそう今日子に言われて来た・・
ならば、お前も家庭にママ友との愚痴なんか持ち込むなよ!
それが誠の正直な気持ちであった。
俺には・・そんなの関係ない・・
お前の人間関係なんか興味は無い・・
よく、家庭を安らぎの場所などと戯言を言う評論家が言うが・・
誠は何時もそんな話を聞く度に苦笑いを浮かべる。
なぜなら、誠にとって家庭とは最初から苦しみの場所でしか無かったからだ。
タヌキとの距離が広がると必然的に何処かに行く時はオカメの車を頼るしかなくなる。
その代りに今日子は毎回、お弁当をオカメ親子の分も作りパンやお菓子を焼くと必ず持って行った。
「まったく・・タヌキって冷たいよね!」
何気無く愚痴った言葉であった。
近くの公園に行くのにオカメの車に乗せてもらいながら今日子が呟いた。
オカメは一瞬、そんな今日子の言葉に渋い顔をした。
オカメ自身も今日子の足に使われる事をあまり良くは思っていないようであった。
数日後、今日子はタヌキと一緒に参加している子供のサークルに行くのにタヌキに連絡を入れる。
「タヌキ!乗っけて行ってもらいたいんだけど・・・」
そんな今日子の言葉にタヌキは冷たく呟いた・・
「悪いけど美香ちゃんママと今回は一緒に行く約束をしているから・・」と
「えっ!なら、私も乗れるんじゃないの??」
そんな今日子の言葉に・・
「カッパの事、美香ちゃんママはあんまり知らないから嫌みたいなの・・」と
遠まわしに拒否をされる。
「そう・・なら自転車で行くわ!」
少し、不機嫌そうに今日子は電話切った。
後で解った事だが、オカメがタヌキにメールで言ったのだ・・・
「タヌキの事をカッパが冷たいって言っていたよ!」と・・
「あいつ乗せてもらっているくせに偉そうだよね!
車も買えない貧乏人のくせに・・」と
言葉とは凄く怖いものだと思う・・
本人はまったくそんな事を思って居ないのに・・
それを聞いた人間は勝手に想像をするからだ・・・
だから・・言葉は怖い・・
今日子は後でその話を他人から聞いた時に言葉の怖さに身の毛もよだつ気持ちになった。
そんな事件から少しずつ今日子とオカメとの関係にもひびが入り始めていようとは・・
今日子は思っても居なかった・・
人生は辛すぎて私の手には負えない