僕が死ぬ日・・生まれる日 -61ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私は薄れた記憶の糸を手繰り寄せるかのように大学に向った。


電車の中で鞄の中身を確認する。


国文Ⅰと書かれたぶ厚い教科書と数冊のノートが入っていた。


そのノートの中身を確認すると何やら主人公の設定やストーリーなどが書かれていた・・


あ~そうだ思い出した。当時の私は小説家になるのが夢だったのだ。


だから、大学も文系の学部に進んだ。


ノートをペラペラめくりながら読み出す・・


なんともくだらない話であった。


俺・・才能ないなこりゃ・・・


確かに私は大学、4年の時に人生の初の挫折を体験する。


周りの仲間達は自分の夢を追いかけるために就職はしないでそのまま卒業して行った・・


私は・・・就職する事を選んだのだ。


今、自分の書いたその低レベルの物語を読みながらその時の私の選択は正しかったと実感した。


しかし、そのために私は当時の多くの仲間を失う事になる。


そして、卒業して10年後に天才小説家と評判になる大親友の木村とも別れる事になる。


私は当時、雑誌等で話題になった懐かしい親友の写真を見ながら・・


懐かしいと言うよりも大いなる嫉妬の念に包まれた事をよく覚えている。


なぜならば、大学時代の木村の作品はまったく良いとは言える作品ではなく・・


私の低レベルの作品以下の小説だったからだ・・


あの時、もしも諦めなかったら・・俺だって・・・


そんな身勝手な妄想が私を包み込んだのをよく覚えている。


そんな事を考えて居ると私は何時の間にか大学に到着していた。


懐かしい校舎・・・


私はこの場所で沢山の想い出を作り・・


そして多くの人間達と出会って来たのだ。


教室に入り一番、後ろの自分の指定席に腰掛ける。


毎日、私は学生時代、この席に座っていた。


そして、しばらくすると私の隣の席に座る男が居る。


「おはよう・・昨夜はのっちゃってさ~~4時だよ!4時!でもすげ~話!書いたぜ!」


木村・・・


そこには若い頃の木村の笑顔をあった。


「お・・おはよう!」


私は少しだけ動揺しながらそう呟く・・


そして、授業が始まる5分前になると必ず息を切らせながらあいつが現れる。


「誠!純ちゃん!おはよう・・」


今日子・・・


佐藤今日子・・・


私の人生の唯一の悔いを残させた女である。


「おはよう!今日子!今日、部活出る?それともバイト??」


「う・・うん・・まだ、作品、仕上がって無いんだよね!

だから、今日はパス!バイトに行くわ!」


「そうか・・俺は今朝、やっと、新作が完成したよ!」


「そう!凄いね!今度、読むの楽しみにしてるよ!

あれ??誠はどのくらい進んでいるの小説・・」


「えっ??俺・・・俺は・・ボチボチかな」


「あんたは・・何時もボチボチね!」


そう笑いながら呟く今日子の顔がなんとも懐かしかった。


実は未来の話をすると私達の仲間で一番最初に世に出たのはこの今日子であった。


凄く素敵な恋愛小説であった。


今でも私の部屋の本棚には彼女の小説の初版本が大切に保管されている。


でもそれは今から10年以上も後の話である。


授業が終わり私と木村は部室に向った。


薄暗い小汚い部屋・・


ここが私達、文芸同好会の部室である。


「まったく・・1年なんてまるで召使だよな!」


そんな木村の愚痴で今の私が大学1年である事に気がついた。


「ああ・・まったくだ!」


部室に入ると数人の先輩が何やら難しい文芸論を話し合っている・・


~~の作家の新作はダメだね!とか随分、身勝手な話が・・


「おはよう!誠!」


不意に私に声をかけて来た女・・・


友美・・・


そう今の私の妻の友美である。


旧姓、本田友美・・・


今から15年後に私はこの女と結婚をする事になる。


とても信じられない話であった。


友美は理系の学部であった。


将来は大学院に進んで何とか言う微生物の研究をしたいと何時も言っていた・・


論文が上手くなりたいからこの文芸同好会に確か入部したのだと思う・・


そして友美が声をかけて来た直ぐ後に再び私の名前を呼ぶ女性の声がした・・


「坂本君、作品・・どう??」


こいつは・・誰だ??


その女性は私の記憶の中に存在しない女であった。


私は小声で木村に呟いた・・


「あいつ・・誰だ?」と


木村は笑いながら言った・・


「純子だろ・・加藤純子・・うちの部のマドンナを忘れるとは・・

純子を狙ってもがいてる君らしからぬ言葉だね!

俺をバカにしてるの??」


加藤・・純子・・・


いや・・知らない!絶対にこの女は居なかったはずだ!絶対に・・・


それが純子との初めての出会いであった。


私は不思議に思いながらも家へと足早に歩き始める。


10分ほど歩くと愛しの我が家にたどり着く。


玄関の鍵を開けて中に入るとなんとも冷たい空気が私を包み込んだ。


昔・・


私達夫婦が暮らし始めた頃・・


2LDKの狭いマンションで妻は何時も私を笑顔で出迎えてくれた。


何時になろうが・・


それがたとえ深夜になっても妻は私の帰宅を起きて待っていた。


「寝ていれば良いのに・・・」


そう私が言うと妻は笑いながら言った・・


「それが妻の仕事だから・・」と


「私達の為に毎日、朝から晩まで頑張って仕事をしてくれている旦那を迎える事が・・

妻の仕事だから・・・」


妻は笑いながら言った。


何時からだろう・・・


彼女がその仕事を放棄してしまったのは??


あ~そうだ・・この家を買ってからだ・・・この家を・・・


狭いマンションに住んでいた時は子供とも何時も一緒であった。


一緒に食事をして一緒にTVを見て・・


その日にあった出来事を話し合うのが常であった。


何時からだろう・・娘が何時も自分の部屋に閉じこもり私と会話をしなくなったのは??


何時からだろう・・


あ~そうだ・・この家を買ってからだ・・この家を・・


この広い豪邸は私から色々な幸せを勝手に奪い取ってしまった気がする・・


ならば・・その代償に得た幸せとは???


正直、私にはそれが何か解らなかった・・・


玄関を入りリビングに向かいソファーの上に重い鞄を無造作に投げ捨てる・・


そしてネクタイを緩めると私は何時もの定位置に向う。


ベランダに出て椅子に座り家の中では吸えないタバコに火を着ける・・


「ふぅ~~」


そんなため息を1度・・


そして私の一日が無事に終わりを告げる。


私はシャワーを浴びてパジャマに着替えると寝室に向う。


妻とは別の部屋である。


私はベットに潜り込み天井をボォ~って眺めていた。


あの老婆はいったい何者なのだろう??私の望み???


本当に私の人生をリセットしてくれるのだろうか??本当に・・・


そんな事を考えているうちに私は何時の間にか眠ってしまった・・・


ジリリリリ・・・・・・・・・・・・・


私はけたたましい目覚ましの音で目を覚ました。


寝ぼけ眼で天井を見つめる・・・


あれ・・ここは何処だろう???


なんとなく見覚えがあるような無いような天井が私の目の前に広がっていた・・


そして天井に1人のアイドルのポスターが私を真上から笑顔で見つめている・・


「えっ!ここは何処だ!まだ、夢を見ているのか!」


私はそう叫びながら飛び起きた!


「えっ??えっ??何処だよ!ここ・・ここ・・・えっ・・」


見慣れた机・・


見慣れたタンス・・


そして無造作に散乱してる漫画・・・・


見覚えがある・・確かに・・


しかし、ここは私が昨夜帰宅した家では無い・・・


すると急にドアが開き一人の中年女性が不機嫌そうに言った・・


「誠!何時まで寝てるのよ!大学・・あるんでしょ!」と


えっ??お・・お袋??わ・・若い・・・お袋・・


えっ??ここ・・・俺の部屋じゃないか・・結婚する前にまで暮らしていた・・


俺の部屋じゃないか!


私は飛び起きて壁にかかっている鏡に自分の顔を映し出した・・


そこには若い時の私の顔を映っていた・・・


お・・・俺が若返っている・・なんで???


ふと・・机の上を見る・・


そこには昨夜、あの老婆から受け取って金色に輝くペンダントが置かれていた・・


リセットされたのか??お・・俺の人生が・・


えっ・・えっ・・え~~~~~~~~~~~~~っ!


「誠!いい加減に食事してよ!早く大学に行きなさい!」


母親の怒鳴り声に追い立てられるように私は家を出た.


懐かしい風景が私の目の前に広がる・・


夢だよな・・これは絶対に・・


なんて・・リアルな夢なんだ・・


手の感触がある・・


町のくすんだ香りがする・・・


行き交う人々の話し声が聞こえる・・・


何て・・リアルな・・夢なんだ・・・


私は25年前ほど昔にタイムスリップしたようだ・・夢の中で・・・


ならば、この夢を楽しもう・・もうじき、覚めてしまうに違いない・・・だから・・


私はそう心中で呟くとゆっくりと昔、懐かしい見慣れた街を歩き出すのであった。



「待ちなされ!そこのお人・・待ちなされ・・」


私はそんな老婆の言葉に足早に動かす足を一瞬、止めた。


そして彼女の方を振り返る。


小さなテーブルの上に置かれたローソクの火がなんとも妖しげに老婆を照らしていた。


不機嫌そうに彼女を見つめる私に老婆は軽く数回、手招きをする。


めんどくさいな・・何だよ!


私は心の中でそう呟きながら数歩、後ろに戻った。


「何ですか?私に何か用ですか??」


そんな私の言葉に・・


「用事があるのはあんたの方じゃろうが!」と老婆が呟く・・


「私・・ですか?別にあなたに用事はありませんよ!」


私は不機嫌そうに老婆に呟く。


ただ、なんとなくこんな深夜まで仕事をしなくていけない老婆の事情を哀れに感じた。


私は少しだけと自分に言い聞かせ老婆の前に座った。


「あんたの望みを叶えてあげるよ!どうする??」


老婆のそんな言葉に・・・


新手の詐欺かと疑った。


こんなに年をとってそんな事をしないといけない彼女を哀れに思ったのだ。


「お願いします!それで、料金は??」


「あんたが今、出せる全財産だ!」


「そうですか・・・」


私はそう呟きながら財布から千円札を数枚取り出し老婆に手渡した。


老婆は不満そうな顔をして言った・・


「まだ・・残っているだろう?」と


何て奴だ!私の親切を・・・


数千円でも恵んであげようと思ったのになんとガメツイ女なんだ!


「なら・・良い!これが全財産だから・・」


私はそう呟くと立ち上がろうとした。


「後悔するよ・・坂本誠さん・・」


なんとも心の奥から私を震え上がらせるような低い声であった。


私は思った・・・


この女は絶対に神ではない・・悪魔であると・・・


「何で私の名前を知っているんですか??」


「あんたをここで待っていたからだよ!」


「何で私を待っていたのですか??」


「あんたが・・選ばれた人間だからさ・・」


選ばれた・・私が??


なんだか気味が悪くなり私は早くこの場を逃げ出したかった。


そして、ふと考えて居た。


私の望みとは??私の望み???


人生のリセット・・・・


そう何処からか聞こえたような気がした。


そして自然と財布に手が動く・・


私は財布の中身を全てその老婆に差し出した。


「額を前に出しな!」


私が額を前に出すと老婆は私の額に人差し指をつけて何か呪文をとなえた。


「愛とか恋とか・・うんたら・・かんたら・・」


最後のそんな言葉を確認するとなぜだか私はなんとも暖かい光に包まれた気がした。


「帰って良いよ・・」


そんな老婆の言葉に現実に戻される。


「これを持ってお行き!」


そう老婆は呟きながら私にペンダントを1個手渡す。


私はそれを確認もしないでポケットに仕舞い込んだ。


そして足早にその場を去ったのだ。


数歩歩き、一瞬、後ろを振り返る・・・


不思議な事にもう、その場所に老婆の姿は無かった・・


これが、なんとも不思議な世界の始まりの出来事であった。


人生は辛すぎて私の手には負えない。