私は不思議に思いながらも家へと足早に歩き始める。
10分ほど歩くと愛しの我が家にたどり着く。
玄関の鍵を開けて中に入るとなんとも冷たい空気が私を包み込んだ。
昔・・
私達夫婦が暮らし始めた頃・・
2LDKの狭いマンションで妻は何時も私を笑顔で出迎えてくれた。
何時になろうが・・
それがたとえ深夜になっても妻は私の帰宅を起きて待っていた。
「寝ていれば良いのに・・・」
そう私が言うと妻は笑いながら言った・・
「それが妻の仕事だから・・」と
「私達の為に毎日、朝から晩まで頑張って仕事をしてくれている旦那を迎える事が・・
妻の仕事だから・・・」
妻は笑いながら言った。
何時からだろう・・・
彼女がその仕事を放棄してしまったのは??
あ~そうだ・・この家を買ってからだ・・・この家を・・・
狭いマンションに住んでいた時は子供とも何時も一緒であった。
一緒に食事をして一緒にTVを見て・・
その日にあった出来事を話し合うのが常であった。
何時からだろう・・娘が何時も自分の部屋に閉じこもり私と会話をしなくなったのは??
何時からだろう・・
あ~そうだ・・この家を買ってからだ・・この家を・・
この広い豪邸は私から色々な幸せを勝手に奪い取ってしまった気がする・・
ならば・・その代償に得た幸せとは???
正直、私にはそれが何か解らなかった・・・
玄関を入りリビングに向かいソファーの上に重い鞄を無造作に投げ捨てる・・
そしてネクタイを緩めると私は何時もの定位置に向う。
ベランダに出て椅子に座り家の中では吸えないタバコに火を着ける・・
「ふぅ~~」
そんなため息を1度・・
そして私の一日が無事に終わりを告げる。
私はシャワーを浴びてパジャマに着替えると寝室に向う。
妻とは別の部屋である。
私はベットに潜り込み天井をボォ~って眺めていた。
あの老婆はいったい何者なのだろう??私の望み???
本当に私の人生をリセットしてくれるのだろうか??本当に・・・
そんな事を考えているうちに私は何時の間にか眠ってしまった・・・
ジリリリリ・・・・・・・・・・・・・
私はけたたましい目覚ましの音で目を覚ました。
寝ぼけ眼で天井を見つめる・・・
あれ・・ここは何処だろう???
なんとなく見覚えがあるような無いような天井が私の目の前に広がっていた・・
そして天井に1人のアイドルのポスターが私を真上から笑顔で見つめている・・
「えっ!ここは何処だ!まだ、夢を見ているのか!」
私はそう叫びながら飛び起きた!
「えっ??えっ??何処だよ!ここ・・ここ・・・えっ・・」
見慣れた机・・
見慣れたタンス・・
そして無造作に散乱してる漫画・・・・
見覚えがある・・確かに・・
しかし、ここは私が昨夜帰宅した家では無い・・・
すると急にドアが開き一人の中年女性が不機嫌そうに言った・・
「誠!何時まで寝てるのよ!大学・・あるんでしょ!」と
えっ??お・・お袋??わ・・若い・・・お袋・・
えっ??ここ・・・俺の部屋じゃないか・・結婚する前にまで暮らしていた・・
俺の部屋じゃないか!
私は飛び起きて壁にかかっている鏡に自分の顔を映し出した・・
そこには若い時の私の顔を映っていた・・・
お・・・俺が若返っている・・なんで???
ふと・・机の上を見る・・
そこには昨夜、あの老婆から受け取って金色に輝くペンダントが置かれていた・・
リセットされたのか??お・・俺の人生が・・
えっ・・えっ・・え~~~~~~~~~~~~~っ!
「誠!いい加減に食事してよ!早く大学に行きなさい!」
母親の怒鳴り声に追い立てられるように私は家を出た.
懐かしい風景が私の目の前に広がる・・
夢だよな・・これは絶対に・・
なんて・・リアルな夢なんだ・・
手の感触がある・・
町のくすんだ香りがする・・・
行き交う人々の話し声が聞こえる・・・
何て・・リアルな・・夢なんだ・・・
私は25年前ほど昔にタイムスリップしたようだ・・夢の中で・・・
ならば、この夢を楽しもう・・もうじき、覚めてしまうに違いない・・・だから・・
私はそう心中で呟くとゆっくりと昔、懐かしい見慣れた街を歩き出すのであった。