「待ちなされ!そこのお人・・待ちなされ・・」
私はそんな老婆の言葉に足早に動かす足を一瞬、止めた。
そして彼女の方を振り返る。
小さなテーブルの上に置かれたローソクの火がなんとも妖しげに老婆を照らしていた。
不機嫌そうに彼女を見つめる私に老婆は軽く数回、手招きをする。
めんどくさいな・・何だよ!
私は心の中でそう呟きながら数歩、後ろに戻った。
「何ですか?私に何か用ですか??」
そんな私の言葉に・・
「用事があるのはあんたの方じゃろうが!」と老婆が呟く・・
「私・・ですか?別にあなたに用事はありませんよ!」
私は不機嫌そうに老婆に呟く。
ただ、なんとなくこんな深夜まで仕事をしなくていけない老婆の事情を哀れに感じた。
私は少しだけと自分に言い聞かせ老婆の前に座った。
「あんたの望みを叶えてあげるよ!どうする??」
老婆のそんな言葉に・・・
新手の詐欺かと疑った。
こんなに年をとってそんな事をしないといけない彼女を哀れに思ったのだ。
「お願いします!それで、料金は??」
「あんたが今、出せる全財産だ!」
「そうですか・・・」
私はそう呟きながら財布から千円札を数枚取り出し老婆に手渡した。
老婆は不満そうな顔をして言った・・
「まだ・・残っているだろう?」と
何て奴だ!私の親切を・・・
数千円でも恵んであげようと思ったのになんとガメツイ女なんだ!
「なら・・良い!これが全財産だから・・」
私はそう呟くと立ち上がろうとした。
「後悔するよ・・坂本誠さん・・」
なんとも心の奥から私を震え上がらせるような低い声であった。
私は思った・・・
この女は絶対に神ではない・・悪魔であると・・・
「何で私の名前を知っているんですか??」
「あんたをここで待っていたからだよ!」
「何で私を待っていたのですか??」
「あんたが・・選ばれた人間だからさ・・」
選ばれた・・私が??
なんだか気味が悪くなり私は早くこの場を逃げ出したかった。
そして、ふと考えて居た。
私の望みとは??私の望み???
人生のリセット・・・・
そう何処からか聞こえたような気がした。
そして自然と財布に手が動く・・
私は財布の中身を全てその老婆に差し出した。
「額を前に出しな!」
私が額を前に出すと老婆は私の額に人差し指をつけて何か呪文をとなえた。
「愛とか恋とか・・うんたら・・かんたら・・」
最後のそんな言葉を確認するとなぜだか私はなんとも暖かい光に包まれた気がした。
「帰って良いよ・・」
そんな老婆の言葉に現実に戻される。
「これを持ってお行き!」
そう老婆は呟きながら私にペンダントを1個手渡す。
私はそれを確認もしないでポケットに仕舞い込んだ。
そして足早にその場を去ったのだ。
数歩歩き、一瞬、後ろを振り返る・・・
不思議な事にもう、その場所に老婆の姿は無かった・・
これが、なんとも不思議な世界の始まりの出来事であった。
人生は辛すぎて私の手には負えない。