僕が死ぬ日・・生まれる日 -60ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私はリセットされた人生をもう一度、生きる決意をした。


遠い未来は解らない・・


しかし、近い未来は自分には昔の記憶としてその場、その場で思い出すことが出来た。


中でも自分の人生を左右する出来事が起こる時は必ず遠い記憶が思い出される。


右に進むべきが?左に進むべきかと悩む時・・・


必ず正解と違う方向を選んでしまったリセット前の私の記憶が蘇るのだ。


月日は流れ私は大学、2年になっていた。


そう・・私の人生を左右する一番最初の出来事・・


私が友美とそれまで以上に親しくなるある出来事が起こる日がせまろうとしていた。


「北海道・・俺、初めてなんだよ!」


飛び立つ準備にかかろうとしていた飛行機の座席に座りシートベルトをはめながら木村が私にそう言った。


私達は部活のサマーキャンプで北海道に向おうとしていた。


そう・・本当なら、このキャンプで友美は木村に告白をする。


そして木村は友美に言うのだ。


「好きな女が居るんだ・・

だから、お前とは付き合えない・・」と


山の中のキャンプ場のひと目がつかない場所で木村に振られた友美は泣いていた。


そんな友美を励ましたのが当時の私であった。


木村が好きな女が誰なのか私には解っていた。


それは今日子である。


木村と今日子は大学時代を卒業するまで付き合っていた。


そうだ・・このキャンプで友美を振った木村はその足で今日子に告白をしたのだ。


その時の今日子が誰が好きだったかなんて事は正直、今の私にも解らない事であった。


しかし、あの時、友美が木村と付き合うことに成功していたのなら・・


私の未来は大きな変化をした事は間違いないのである。


私はその時に大きな人生の別れ道に立っていた。


同好会のサマーキャンプと言ってもそんなに堅苦しいキャンプではない。


上下関係は確かに厳しかったが、所詮は文科系のクラブである。


体育会系の運動部とは違い実にまったりとしていた。


私は木村は同じテントであった。


キャンプは2泊3日で行われた。


本来ならば2日目の夜に友美は木村に告白をする。


初日の夜、少しほろ酔い気分で私と木村は寝袋に潜り込む・・


しばしの沈黙の後・・木村が呟いた。


「誠・・お前・・今日子の事をどう思っているんだ??」


そんな木村の言葉を合図に私の記憶が蘇る・・


あ~そうだ・・私はこの時に木村に言ったのだ・・


「俺は別に今日子なんか好きじゃね~よ!」と


そしたら木村が言ったのだ・・


「なら・・俺、今日子に告白して良いかな?」と・・


「おう!応援するよ!頑張れよ!」


そう私は笑顔で答えるのだ・・


結果的には私のその一言が木村に今日子に愛を告白する勇気を与えたと後で木村に聞かされる事になる。


ならば・・・


「誠・・お前・・今日子の事をどう思っているんだ??」


私はそんな木村の言葉に起き上がり真剣な顔で言った・・


「俺は今日子を愛してる。誰にも負けないくらいあいつを愛してる・・」と


そんな私の言葉に木村は少し落ち込みながら答えた。


「そうだよな!なんか、今日子を見てると俺よりも誠と話してる時の方が楽しそうだもんな!

俺・・明日、あいつに告白をしょうと想って居たんだ・・

でも・・多分、無理だよな!誠とは一生、親友でいたいと想ってるし・・

女の事でお前ともめたくないんだ!

解った!俺、あいつから手を引くよ!その代り、お前・・絶対にあいつをものにしろよな!」


木村は真剣な表情で私に言った・・・


やった・・・俺は・・勝った。この男に・・・


私は涙を流しながら木村に言った・・


「ありがとう・・俺たち、一生、親友でいような!」と


悪魔って居るんだ・・本当に・・・居るんだ・・・


次の日の夜、友美が夕食の後に木村を呼び出した。


私は後ろからそっと2人を尾行した。


「木村君・・私、あなたの事が好きなの!付き合ってくれないかな・・」


そんな友美の言葉に木村は少し考えて頷いた・・・


「俺も・・前から友美の事が好きだったんだ!」と


2人は・・・そこで初めての口付けを交わした・・・・


やった・・・未来が・・変わった・・・未来が・・


私はそんな2人を見つめながらなんとも表現できない興奮を覚えた・・


やった!やった・・・


よし!なら、今度は私の番だ!あの時の木村のように今日子に告白をしに・・


そう思い振り返るとそこに1人の女性の影が・・・


じ・・純子???何でお前が・・・ここに・・・


「あら・・坂本君!こんな所で何をしてるの??」


「えっ??い・・いや・・別に・・」


「そう、なら、あんた飲んで無い様だから・・

先輩にお酒の追加を買って来るように頼まれてね!

一緒に行ってもらえないかしら・・・」


私は時計を一瞬見つめた。


確か・・木村が今日子に告白をしたのは11時を少し過ぎた頃で・・・


あいつが1人で後片付けをしていた時に木村があいつに告白をしたんだ・・


10時・・30分・・


「ごめん・・用事が・・・」


そう私が言い終わらないうちに純子は強引に私手を引っ張り数人の仲間が待つ車へと連れて行った・・


「お・・おい!待ってくれ!俺には・・俺には・・」


一瞬・・純子の顔が・・私にはあの時の老婆に見えた・・


そして・・不思議な声が聞こえた・・・


「まだ・・まだ・・だよ!もう少し、楽しませておくれよ!」と・・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。




私は帰宅すると風呂に入り自分の布団に潜り込んだ。


夢の中で眠ると言う行為がなんとも馬鹿げていると可笑しかった。


きっと、目が覚めたら現実の世界に戻っているに違いない。


また、始発電車に飛び乗り2時間以上電車に揺られながら会社に向かう・・


そんな生活が待っているに違いない。


私はなんとなく寂しく感じた。


若い頃の友美は今のあのふてぶてしさはまったく見当たらない。


本当に理系の賢そうな美人である。


私は何であの時に木村に嫉妬したのか???


愛なんてもう感じては居ない。


私は何時も友美の顔を見ながら想っていた。


私はなぜにこの女と一緒に暮らさなければいけないのだろうか??と


私はこの女に安定した生活を与えている。


毎月、毎月、決まった金を持ち帰る事によって・・


ならば、この女は私に何を与えてくれるのだろう??


ふと・・そんな事を考える時に・・


私の頭の中には苦しみしか浮かばなかった。


「友美ちゃんは良い男を見つけたわよね!」


よく、友美の友人がそう友美に言っていた。


私は何も反論しない。


私は威張らない・・


私は友美の我が侭を殆ど聞いて上げる・・


私は・・私は・・・女から見れば理想的な良い旦那なのだ・・


ただ・・残念な事に私は決して良い旦那ではない・・・


なぜなら、その妻への行為は愛から発せられる行為では無いからだ・・


私は見せ掛けだけの「良い旦那」を演じている人形でしかないのだ。


そして妻の友美はそんな私に縛り付けられた何十本もの見えない糸を操る人形師・・・


だから、私から彼女に与える物はあっても・・


私を操っている彼女が私に何かを与えてくれると言う事は無いのかもしれない。


夫婦とは・・何なのだろう???


私は・・私は何でこの女と結婚したのか??


なぜに・・


その時、何処からなんとも不気味な声が聞こえたような気がした・・


「まだ・・思い出す時期ではない・・」


「えっ・・なんだ??今の声は??思い出す時期とは??

友美と私が結婚するきっかけだろ??

そんな事・・えっ・・そんな簡単な事が思い出せなかった・・・」


それが人生をリセットしたと言う事なのかもしれない・・・


微妙に現実にあった過去とこれからの決まった未来が壊されているような気がした・・


そんな事を考えているうちに私は深い眠りに落ちて行くのであった。


きっと、次に目を覚ましたら・・


あの友美のお気に入りの趣味の悪いシャンデリャが目に飛び込んで来るに違いない!


そんな事を想いながら・・


次の朝、私は起きているのだが怖くて目を開ける事が出来なかった。


ただ、何時までもこうして居ても仕方が無いので私は勇気を出して眼を開いた。


そこには昨日の朝に見た・・


何とかと言うアイドルの笑顔があった。


もしかして・・これは夢では無いのかもしれない・・


ならば、私が今まで生きていた世界が夢の世界なのか??


友美と結婚したり、木村が一流の作家になったり・・


今日子と別れたり・・・私が作家になる夢を諦めたあの世界が夢なのか???


私は1度、深いため息をつき・・起き上がる。


机の上には例のペンダントがなんとも不気味に置かれていた。


人生は辛すぎて私の手には負えない・・

部活が終ると私達は何時も飲みに出かけていた。


何時もは、私と木村、今日子と友美それに数人の先輩達だったような気がする。


その日も部活が終ると、私は木村と数人の仲間と一緒に居酒屋に向った。


私の横には何時も今日子が座っていた様な気がする。


しかし、今夜は今日子が居ないので私の横には友美が座っていた。


そして前の席には木村が、その横には純子が座っている。


どうしてもこの純子と言う女の存在が思い出せない。


しかし、もしも本当に私の人生がリセットされて大学時代に戻ったのなら・・


絶対に今、私の前に座っているこの女も居たはずなのである。


くだらない文芸論・・・


それは私達の飲み会の決まりごとのように繰り返されていた光景である。


「それでね!木村は将来、どうしたいわけ??」


不意に友美が木村に問い掛ける。


「どうしたいとは??」


「だから・・作家として生きて行くつもりなの??」


あっ・・思い出した。この頃、友美は木村に好意を寄せていたのだ。


私達が2年の時に友美は木村に告白をする。


それは同好会の夏のキャンプの事であった。


あれは・・確か北海道に行ったのだ・・


そんな事を思い出しなら周り人間を見回すとなんとも面白かった。


友美の隣に座っている佐々木と言う女は将来、なぜか弁護士になるし・・


その隣で熱く、純文学とは何かを語っている先輩は3年後に官能小説家としてデビューする。


人生とは実に先が見えない道であるのとしみじみと感じる。


時計を見るともう、11時をまわっていた。


「やば!もうすぐ最終ジャン!」


そう慌てながら木村が席を立つ。


それを合図に周りの人間も慌ただしく帰り支度を始める。


「誠!お前、加藤と同じ方向なんだからちゃんと送って行くんだぞ!

っつたく!羨ましいよな~俺も引っ越すかな!」


木村が真っ赤な顔をして私を睨みつけながらそう呟いた。


その隣で友美がなんとも複雑そうな表情をしている・・


私は一瞬・・そんな友美を見ながら嫉妬した・・・


それはなぜなのか??正直、自分でもわからない。


電車に乗り私と加藤は5つ先の駅で降りる。


「それじゃ~気をつけて帰るんだぜ!」


私はそう加藤に言った・・


「え~~~っ!送ってくれるんじゃないの??

坂本君は相変わらず冷たいのね!

私を送りたいって男の子なんか沢山いるんだよ!

あんた・・贅沢ね!」


そう純子は笑いながら言った・・


「わかった!わかった!処でお前の家・・何処だよ??」


そうこんなに親しげに話している純子と言う女の事を私はまったく知らなかった・・


「もう・・ふざけてるの?何回も遊びに来てるくせに!」


そう言いながら純子はほっぺたをプゥ~と膨らませた。


その顔がなんとも可愛らしい・・


ただ、私はなんとなく、この女の顔に見覚えがある事を思い出す。


遠い昔の記憶ではない・・


つい最近の・・そう・・ホンの数日前の記憶の中で・・


駅から数十分歩いた閑静な住宅街に純子のアパートは立っていた。


「ねぇ~寄って行く??」


純子はなんとも艶かしいそんな目つきで私を誘った・・


「いや・・帰るよ!もう遅いから・・」


「そう・・それじゃ~また・・明日ね!」


バタン・・


扉が閉まる音が静かな住宅街に響き渡る。


この女は誰なんだ??


それとも私が忘れてるだけなのか??


いや・・そんな事は絶対に無い。


木村や友美や今日子の事はしっかりと覚えているのだ・・


こんな美人の事を絶対に忘れるはずが無い。


絶対にこの女は・・私の過去には存在していない。絶対に・・


私はそんな事を考えながら自分の家に歩き出す。


そんな私を・・純子はアパートの窓からそっと見送っていた。