部活が終ると私達は何時も飲みに出かけていた。
何時もは、私と木村、今日子と友美それに数人の先輩達だったような気がする。
その日も部活が終ると、私は木村と数人の仲間と一緒に居酒屋に向った。
私の横には何時も今日子が座っていた様な気がする。
しかし、今夜は今日子が居ないので私の横には友美が座っていた。
そして前の席には木村が、その横には純子が座っている。
どうしてもこの純子と言う女の存在が思い出せない。
しかし、もしも本当に私の人生がリセットされて大学時代に戻ったのなら・・
絶対に今、私の前に座っているこの女も居たはずなのである。
くだらない文芸論・・・
それは私達の飲み会の決まりごとのように繰り返されていた光景である。
「それでね!木村は将来、どうしたいわけ??」
不意に友美が木村に問い掛ける。
「どうしたいとは??」
「だから・・作家として生きて行くつもりなの??」
あっ・・思い出した。この頃、友美は木村に好意を寄せていたのだ。
私達が2年の時に友美は木村に告白をする。
それは同好会の夏のキャンプの事であった。
あれは・・確か北海道に行ったのだ・・
そんな事を思い出しなら周り人間を見回すとなんとも面白かった。
友美の隣に座っている佐々木と言う女は将来、なぜか弁護士になるし・・
その隣で熱く、純文学とは何かを語っている先輩は3年後に官能小説家としてデビューする。
人生とは実に先が見えない道であるのとしみじみと感じる。
時計を見るともう、11時をまわっていた。
「やば!もうすぐ最終ジャン!」
そう慌てながら木村が席を立つ。
それを合図に周りの人間も慌ただしく帰り支度を始める。
「誠!お前、加藤と同じ方向なんだからちゃんと送って行くんだぞ!
っつたく!羨ましいよな~俺も引っ越すかな!」
木村が真っ赤な顔をして私を睨みつけながらそう呟いた。
その隣で友美がなんとも複雑そうな表情をしている・・
私は一瞬・・そんな友美を見ながら嫉妬した・・・
それはなぜなのか??正直、自分でもわからない。
電車に乗り私と加藤は5つ先の駅で降りる。
「それじゃ~気をつけて帰るんだぜ!」
私はそう加藤に言った・・
「え~~~っ!送ってくれるんじゃないの??
坂本君は相変わらず冷たいのね!
私を送りたいって男の子なんか沢山いるんだよ!
あんた・・贅沢ね!」
そう純子は笑いながら言った・・
「わかった!わかった!処でお前の家・・何処だよ??」
そうこんなに親しげに話している純子と言う女の事を私はまったく知らなかった・・
「もう・・ふざけてるの?何回も遊びに来てるくせに!」
そう言いながら純子はほっぺたをプゥ~と膨らませた。
その顔がなんとも可愛らしい・・
ただ、私はなんとなく、この女の顔に見覚えがある事を思い出す。
遠い昔の記憶ではない・・
つい最近の・・そう・・ホンの数日前の記憶の中で・・
駅から数十分歩いた閑静な住宅街に純子のアパートは立っていた。
「ねぇ~寄って行く??」
純子はなんとも艶かしいそんな目つきで私を誘った・・
「いや・・帰るよ!もう遅いから・・」
「そう・・それじゃ~また・・明日ね!」
バタン・・
扉が閉まる音が静かな住宅街に響き渡る。
この女は誰なんだ??
それとも私が忘れてるだけなのか??
いや・・そんな事は絶対に無い。
木村や友美や今日子の事はしっかりと覚えているのだ・・
こんな美人の事を絶対に忘れるはずが無い。
絶対にこの女は・・私の過去には存在していない。絶対に・・
私はそんな事を考えながら自分の家に歩き出す。
そんな私を・・純子はアパートの窓からそっと見送っていた。