僕が死ぬ日・・生まれる日 -53ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私の目の前に彼が立っていた。


「あんた・・別れてくれよ!友美と・・

どうせ、愛してなんか無いんだろ??

おれはあいつを愛してるんだ!

あんたは友美を不幸にしてる。

愛なんかまったくないのに・・

友美を愛してるなんて言ってあいつを家庭に縛り付けて・・

俺と会って居る時の友美を見たかい?

妻でない・・ママでもない・・女の友美の顔を・・

あんたは世間体と言う名の自分の都合で友美を縛り付けているんだ・・

結婚と言う名の呪縛で・・

友美・・美人だろ??

体だって30代にして崩れてないんだぜ・・・

なぁ~そろそろあいつを解放してあげてくれよ!

俺が・・あいつを・・

女の友美を幸せにしてやるから・・

別れろ!別れろ!!!別れろよ~~~~」


「このクソガキが!!」


私はそう叫びながら夢の世界から現実の世界に舞い戻った

もの凄い寝汗が私の顔にしたたり落ちているのが解る。


私はゆっくり目を開く。


そして天井を見つめる。


見慣れない蛍光灯が真っ先に私の目に飛び込む・・


ここは・・・何処だ??


必死に昨夜の記憶を思い出す。


しかし、私の記憶の中に昨夜の事は殆ど消えていた。


自宅ではない事は確かなようだ・・


私は焦ったように自分の下半身を確認する。


射精した形跡は無いようだ・・・


そんな状態に安心するのはなんとなく男とは悲しい生き物であると思う。


周りを見まわすと高そうな家具が並んでいる。


いったい、私は何処に居るのか?


すると部屋のドアが静かに開く・・・


その隙間から1人の少女が顔を覗かせた。


なんとなく見覚えがあるような?無いようなその少女を私は見つめた。


「おはよう・・」


私がそう笑顔で彼女に話しかけると彼女は少し恥かしそうに・・


「おはようごじゃいます!」と深々と頭を下げて呟く


「君のお名前は??」


そう私が聞くと


「木村ユカです!」と力強い口調でまるで叫ぶように彼女は言った。


木村・・そうか・・木村の家に私はいるのか・・


そう思い安心をしたした瞬間、頭をに激痛が走る・・・


久々のこの感覚・・


どうやら二日酔いのようだ・・


私はゆっくり立ち上がり枕元に綺麗にたたんであるワイシャツに着替えた。


「ユカちゃん!悪いけどパパの所に連れて行ってくれるかな?」


そう私が彼女に言うと彼女は嬉しそうに・・


「まかせなしゃい!」と叫び小さな胸を1度、ポン!と叩いた。


彼女に連れて行かれリビングに向う。


昔とまったく変わっていない家の作りになんとなく懐かしく感じる。


若い頃、私はこの家に毎日のように遊びに来ていた。


毎晩のように酒を飲み・・・


毎晩のように皆で笑っていた・・


リビングに行くと木村は朝食を食べていた。


社長なのに作業着である。


「おはよう・・昨夜は迷惑をかけたようで・・」


私がバツが悪そうに木村にそう呟く・・


みそ汁をすすりながら木村は笑顔で言った。


「やっと、お目覚めか?酔っ払い大魔王様!」と


なんか、木村のマイブームのようで何でも彼は大魔王を付けて表現したがる。


昔と変わらない・・こいつは・・


変わったのは私だけなのかもしれない。


ふと、台所を見ると木村の妻の美香が忙しなく動いている。


私は出来だけ笑顔で彼女に挨拶をした。


「昨夜は申し訳ありませんでした!夜分、遅くに・・」と


美香は少しだけ引きつった笑顔で・・


「良いんですよ!パパが友達を家に連れてくるなんて珍しいのよ!

今度は外でなくうちに飲みにいらしてくださいね!」と


美香がまったくそんな事を思って居ない事は私には十分、解っていた。


木村と過ごした時間と同じくらいに私はこの女と同じ時間を過ごしたからだ。


「メシ・・食えるか??

あいつ、朝から気合を入れて朝飯作ってたから・・

悪いけど無理してでも食べてくれないか?」


木村が小声で私にそう呟く・・


私が椅子に座ると二日酔いの私は見ただけで吐き気がする程の量の食事が並べられた・・・


私は笑顔で言った・・


「美味しそうな食事ですね!うちなんか毎朝パンなんですよ!

味気ない朝食です・・・」


そんな私の言葉に美香は少しだけ嬉しそうに微笑んだ・・・


私はその一言で昨夜の宿代を払ったと言う訳だ。


そして全部、出された食事を食べきる事で・・


木村への恩を返した。


「また来いよ!また・・連絡する・・・」


私はそう木村に言われ追われる様に彼の自宅を後にするのであった。




幸せそうな私の妻の顔を見つめながら木村は思っていた。


あいつも・・もしも違う男ができたらあんな顔をするのかな・・・と


あいつとはもちろん木村の妻の美香の事である。


結婚して10年・・・


木村が私達のグループの中で一番、最初に結婚をした。


しかし、中々、子供に恵まれず木村の妻は長年の不妊治療の末にやっと妊娠・・・


一人娘のユカが生まれたのは今から5年前の事である。


木村は以前、酔っ払いながら愚痴った事があった。


「誠、結婚なんかするもじゃないぞ!結婚は男の墓場だ!」と


何時からだろう??セックスが愛を確かめる行為から子供を作る手段になってしまったのは??


何時からだろう??あんなに溢れるほど話したい事があったのに・・・


話を探さないと会話が無くなってしまったのは??何時からなんだろう??


木村は嬉しそうに笑っている私の妻を見つめふと我に返っていた・・・


あいつも・・笑うのかな??もしも好きな男が出来たら・・・


そんな戯言を呟きながら・・


2人は喫茶店に入りその後、歌舞伎町を抜け新大久保方面に向かい歩き始める。


「あらら・・やばいんじゃないの?この展開は・・」


木村は困ったように苦笑いを浮かべる。


予想通りと言うべきなのか、妻とその男は昼間のラブホテル街へと消えて行ったそうである。


次の日の夜に例の飲み屋で数枚の写真を私に見せながら切なそうな顔で木村が話した。


私は木村の話を何も言わずに聞いていた・・・


相手の男をマジマジと見つめ知った顔かと記憶をたどったが私の記憶にこの男の顔は無かった。


「それで・・お前、出てくる所まで居たのか?ラブホテルの前で??」


そう私が木村に聞くと木村は小さく頷いた。


「すまなかったな・・面倒な事を・・今夜はおごるから・・飲んでくれ・・」


どの位の時間を・・どのくらいの量の酒をその晩に2人で飲んだのか記憶に無い。


ただ、最後に木村が泣きながら一言・・


「辛いな・・お前・・・」と言った言葉だけ鮮明に覚えている。


酔った私は真っ赤な顔で木村を怒鳴りながらわめいていた!


「何が辛いものか!俺は全然・・平気だぞ!」と


そんな私の姿に木村の目から止まったはずの涙が再び流れ出す・・・


友達ってさ・・・


きっと、本当の友達って・・


自分が幸せなときにそばに居てくれんじゃなく・・・


自分が本当に泣きたい時に・・・


一緒に何も言わないで泣いてくれる奴が・・・


本当の親友と言う奴なのかもしれない・・


ごめんな・・木村・・俺・・俺さ・・本当はお前に親友なんて呼んでもらう資格・・無い


でも・・俺・・・お前の事・・親友って呼ばせてもらって良いかな??


これから・・死ぬまで・・・


覚えて居ないけど・・


私はその晩、木村に何度も何度も・・そう叫びながらあいつの頭を叩いてたらしい・・・


人生は辛すぎて私の手には負えない



日曜日の朝、前日からそわそわしていた妻の様子はより忙しなかった。


「デズニーは何時に開園かしら?

遅くても8時前には家を出ないと!

8時前には・・」


何度も8時前と言う事を強調する妻を見つめながら・・


あ~こいつは8時過ぎに家を出たいと思っているのだと感じた。


7時50分に私は娘を連れて家を出る。


車の助手席にちょこんと嬉しそうに笑いながら娘が座っている。


車のサイドミラー越しに笑顔で手を振り私達を見送る妻の姿を見える・・


「嘘つきめ!」


私は小声でそう呟いた。


「えっ?パパ!今、なんか言った?

最近、独り言多いよ!年ね~~」


娘はそう楽しそうに私に言った。


私はしばらくサイドミラーを見つめていた。


妻は嬉しそうに笑いながら急いで家に戻った。


邪魔者は消えた・・急がなくて!彼に会いに・・・


そんな声が聞こえたような気がする。


幸せは・・・


今、私が感じている幸せはきっと、本当の幸せではない。


幸せではなく・・きっと、それは安定なのだ。


それも不安定と常に隣り合わせになっている。


何かの小さな出来事で消えてしまう。


それを私達は小さな幸せだと勘違いをして・・


満足し、必死に守ろうとしている。


きっと、世の中に本当の幸せなど存在しない。


そして、世の中に本当に愛し合っている幸せな家族なんか存在しないと思う。


皆、見せ掛けの幸せを守るために家族を演じている役者でしかないのかもしれない。


私はそんな戯言を思い千葉の遊園地を目指し車のアクセルを踏んだ。


時間は9時・・・


妻の友美は自分を最大限に着飾りながらアルタの前に立っていた。


その少し斜めの駅の公園に1人の男がそんな妻を見つめていた。


「お前の嫁さんの顔なんか、忘れちまったよ!」


そう呟く木村に私は自分の携帯から妻の写メを彼の携帯に転送する。


「こんなに美人だったか?お前の嫁さん?」


その写メを見つめながら木村がそう呟く。


「そうでもないよ!こんな女・・・」


私は照れたようにそう木村に呟いた。


しばらく木村は妻を見つめていた。


チラットと時計を見ると時間は9時を少しだけ過ぎている。


すると妻が突然に笑顔になり大きく右手を上にあげ左右に振った・・・


木村はその視線の先を見つめる。


高そうなスーツに身を包んだ20代の茶髪の男が笑顔で歩いてくる。


「あいつか??確かにカッコイイな・・」


木村は少し、嫉妬じみた口調でそう呟いた。


そしてポケットからデジタルカメラを取り出し2人を写真に収めた。


「こいつは誠には少し悪が面白くなって来たな!

ユカとの約束をすっぽかして来たかいがあったってもんだ!」


その日、木村も本当は娘のユカと動物園に行く約束をしていた。


休日は家族サービスの日なり!


木村の家のリビングに貼られている家訓・・・


木村の妻はよく「主婦には休日は無い!」なんて木村に文句を言うが・・


木村から言わせれば男も同じである。


毎日、朝から晩まで働いてたまの休日は家族サービスだと言われ連れまわされる・・


しかし、きっと、これが家族を持つ事なのだと自分に言い聞かせ頑張って来た。


旦那にも自由は無い・・


それは妻も旦那も同じなのかもしれない。


2人がゆっくりと歩き出す。


木村は急いでデジタルカメラをポケットにしまい込むとゆっくりと歩き出した。