僕が死ぬ日・・生まれる日 -52ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

多くの人間たちが不安という暗闇の中で生きている。


その中で苦しみ、喘ぎ出口を必死に探してる。


妻の笑顔を見るたびに私を苦しみが襲う。


その笑顔は偽りだと自分自身がわかっているから・・・


「珍しいわね・・」


最近の妻は私に対してよくその言葉を使う。


彼女から見ても最近の私の行動はどうもぎこちないようだ。


それもそうだろ・・


最近の私は常に何かに怯えながら生活をしてるのだから・・


私は心にいろいろなことを溜める性格で殆ど愚痴というものを言わない。


面倒?そう一言で言ってしまえば終わりなのだが・・・


本当は怖いのだ。愚痴や不満を誰かに言った後の次の相手からの言葉が・・


そんな恐怖を味わうくらいなら・・私は何も言えないさえない男を演じていたい。


妻の携帯はそれ以降も鳴り止む事はなかった。


ただ、最近、携帯電話の管理がしっかりして来たような気がする。


私が何か感じていると妻自体もわかっているのか?それとも??


木村と最後に飲んでそれ以降も頻繁に彼は私に連絡をよこすようになった。


「留守番電話大魔王」と呼ばれていた私であったが・・


なんとなく、いつも木村からの電話を待ち焦がれているような気がする。


月に二度ほど木村から連絡があり飲みに出かけるようになった。


飲み屋に着くと木村は必ず私の家に電話をしてくれる。


「今夜も旦那さんをお借りします・・」


そんな短い言葉であるが携帯電話の向こうから・・


「いつもすいませんね!」と言う妻の声がする。


以前は新宿で飲んでいがだんだん、飲んだ後に木村の家に泊まる事が多くなり・・


自然的に飲む場所も新宿から木村の地元の蒲田へと変わって行った・・・


「最近、奥さんの様子はそうなんだ?」


木村が注文した焼き鳥を美味そうに食べながらそう私に聞く・・


私は少し現実に戻される。


「ああ・・どうなんだろう??わからない・・」


それが素直な答えであった。


なぜなら。妻は私が木村の家に泊まった以降、絶対に携帯電話を手放す事が無くなったからだ。


「あれ?社長じゃないですか?」


そんな女性の声に驚きながら木村と私は振り返った。


そこには二人連れの女性が立っている。


髪長い・・・少しやせ気味の美人と少しぽっちやり系の美人・・・


木村は驚いたようにつぶやく・・


「あれ、珍しい・・今夜はお店は休みなの??」


「ええ・・最近、ぜんぜん、来てくれないじゃないですか~~

こんな所で浮気ですか!

それも男性となんて!今日子ちゃんショックよ~~」


そう笑いながら言う髪の長いほうの女性・・


木村は笑いながら私に二人を紹介する。


「俺がよく行く飲み屋の子でさ~今日子ちゃんと小百合ちゃん!

良かったら今度、お前も一緒に飲みに行かないか??」


「お前・・俺がその手の店が苦手なの知ってるだろ?」


そんな私の不機嫌そうな言葉に木村は少しだけ気まずそうな顔をした。


私は女性の接待してくれるような店が苦手である。


昔から、多くの友人たちがスナックやクラブ・・キャバクラなどに夢中になっていた頃・・


私はそんな友人達の誘いをいつも断って来た。


「坂本はまじめだな~~」


いや・・違うんだ。そうじゃない・・


なんとなく・・馬鹿にされている気がするから・・


私の隣に座り笑顔で私に酒を注ぐ女に・・・


私はなんとなく馬鹿にされているような気がするのだ・・・


金で愛は買えない・・・


一度だけ私はそう、飲み屋の女性に夢中になっていた友人にそう言った事がある。


「夢が無いな~お前は・・・」


呆れたような顔で彼は私に言った。


「飲み屋に夢を買いに行くんだよ!

当たり前だろ!こんな美人が俺なんか好きになるわけがないだろ!

でも現実からは、逃がしてくれるんだ!金を払えば・・・

店にいる間だけ・・逃がしてくれる・・」


そう寂しそうに呟く彼を見て私は心の中で呟く・・・


哀れな奴だな・・と


ただ、今は、なんとなくその時の友人の言葉の意味がわかるような気がする・・


でも、私はそんな店の女性を口説くのにお金を使うなら・・


自分が好きだと思う女に使いたいと思うタイプなのだ。


「社長!ご一緒してよろしいですか?」


今日子は笑顔でそう呟く。


木村は嬉しそうに言った。


「誠!ラッキーだな!今日子は店のナンバー1だから・・

なかなか一緒に飲めなんだ!」と


私は興味なさそうにそんな木村の笑顔を見つめていた。


それが佐藤今日子と言う女との初めての出会いであった。




「店長!結婚したい女が居るんで・・」


そう部下に言われ私はいともあっさりと・・


「そうか!止めておけ!」と呟く。


彼はきっと、ありがたい私の結婚論でも望んでいたのか少しだけ不機嫌そう顔をした。


私は仕方が無いので彼に聞いた・・


「君は何で結婚すんるんだい?」と


彼は誇らしげな顔をして私の問いに答える。


「もちろん、愛してるからです・・」と


「愛だけなら別に恋人同士で良いのでは??」


そんな愚問に彼は真剣な表情で言った。


「一生、守ってやりたいから・・あいつを・・」と


そんな彼の答えに私は苦笑いをしながら呟く。


「守ってやる??逆だろ?」


そんな私の言葉に彼は不思議そうな顔をした。


愛なんて君は永遠に続く物だと信じてるのか?


ふとそんな言葉を投げかけてみたくなる。


愛なんて永遠になんか続かないなんだよ・・


愛なんて・・・


今の男は自分の妻に優しくなったと言う。


昔の男は亭主関白で女は三つ指ついてハハァ~って旦那の顔色をうかがいながら生きていた。


今の男は逆で妻の顔色を見ながら生きてる。


何も言わない・・


それを優しさだと言う・・


本当にそうなのか?違うだろ??


それは優しさではなく弱さだ・・・


今の男は決して優しいのではない・・・


ある意味、めんどくさがり屋なのかもしれない。


好きなようにやらせておけば良いのだ・・・


そうしたら夫婦の間に荒波は起こらない。


自分の意見を言えない。いや・・言わない・・めんどくさいから・・・


だから、それは優しさではない・・弱さなのだ。


私は不思議そうに私を見つめる彼に呟く。


「結婚は男の墓場なんだぜ!」と


彼は私にこんな話をした事を後悔したようにその場を立ち去った。


その日の夜、私はなるべく早く帰ろうと努力した。


私が店を出る時にまだ、数人の帰りたくない病の男達が事務所でバカ話をしながら酒を飲んでいた。


「店長!今日は早いんですね!」


真っ赤な顔をした副店長の遠藤がそう呟く。


「ああ・・なんとなくな!たまには早く帰って家でメシでも食おうかと・・」


「なんだ、かんだと言って店長は奥さん思いだからな~」と遠藤は嫌味っぽく言った。


愛する女を守ってやりたい!


そんな戯言を言って奴はこんな男たちの姿をどう見るのか?


妻を守ってやりたい・・


そんな守るべき女が待つ家に帰りたくないと安酒を飲みながら時間を潰す哀れな男たちの姿を・・


あまり若者には見せたくないものだとふと思った・・


自宅に戻りふと時計を見るとまだ、8時を少し過ぎた頃であった。


玄関を入る私を妻が見つけ嫌みったらしく呟く・・


「あら、お珍しい・・今夜はお早いお帰りで・・

何か後ろめたい事でもして来たのかしら?」と


私は内心、それはお前だろ!と怒鳴りたくなる。


ふと、私は昼間の部下の言葉を思い出す。


私はこいつを守りたいと思っているのか?一生・・


そして私も何も言えないただの気弱な男では無いのかと・・


「木村から電話があっただろ?昨夜は木村の家に泊まったんだ!

そんな後ろめたい事があるわけないだろ!」


そんな言葉を妻に言う・・それは私の小さな抵抗とでも言う行為であった。







木村の自宅を出る時に木村が小声で言った。


「奥さんに連絡しておいたから・・」


その言葉で一つだけあった私の不安は消える。


外泊などした事が無かった私は少しだけ自宅に戻れなかった言い訳を考えて居た。


電車に乗り会社に向かう。


ふと、座りながら木村の嫁の事を思い出していた。


木村の妻、美香とはまだ、木村が彼女に片想いをしてる時からの付き合いになる。


当時から木村は美容院に行っていた。


それも少し髪を切っただけで1万円もするような貧しい私からしてみれば考えられない店であった。


そんなある日、木村が私に嬉しそうに呟く。


「誠・・俺、好きな女が出来た!」と


木村は金持ちでルックスも良い。


ドンくさい私とは正反対でそれないり女性にももてていたが、贅沢と言うかなんと言うか・・


彼女を作ろうとしなかった。


そんな木村に好きな女が出来た!それは驚嘆すべき出来事で私はその相手に大いに興味を持った。


そんな話を聞いて数ヵ月後、木村が私に言った。


「誠!髪を切りに行かないか??」と


「えっ?別に良いけど・・何処に???」


不安げに私が聞くと木村は嬉しそうに言う


「俺が何時も行っている店に・・」


「勘弁してくれよ!あんな高い店!俺、お金ないよ・・」


「おごるから・・・」


木村は何時も10円の飴玉でもおごるかのように私に気軽にそう話す。


当時の私は正直、貧乏であった。


高校を卒業して大学に進学したと同時に家を出た。


そして学費も生活費も一切、親の世話にはならず大学を卒業した。


当時の事を今でもたまに思い出す。


貧乏であった・・確かに・・・


でも、そんな時期の私を支え助けてくれたのは間違いなく木村である。


私と木村は美香が勤める美容院に向かう。


私が何時も行ってる床屋とは大分、違う。


店に入ると直ぐに店員が笑顔で向かえてくれて・・・


待合室に通され・・・紅茶とクッキーなんかが出される。


そして何時も木村が指名している美容師が笑顔で私達を迎えに来る。


「木村さん!今日はどんな感じに・・」


「いや・・今日は僕じゃなくって・・友人を・・・」


「どんな髪型にいたしますか??」


そう聞かれてお任せしますと言ったら何とも不気味な髪型にされた・・


そう木村にぼやくと木村は笑いながら・・


「なかなか似合ってるよ!最近、流行らしいぞ!その髪型・・」と呟く。


そしてその後に真剣な顔をして・・


「どうだった?あの子?」と私に聞いた。


なんて事は無い・・


私はただ、女の品定めに借り出されただけだったのだ・・


「良いんじゃなにの?最初に紅茶を持ってきた女だろ??」


そう私が木村に言うと木村は少し驚いたように・・


「良くわかったな?あいつだって・・」と言った。


そんな彼に私は笑いながら言うのだ・・


「ああ・・俺もあんなタイプが好きだから・・あの子・・可愛いよな!」と


木村の親は木村にあまり干渉しない。


好き放題に生活をさせていた。


しかし、一つだけ・・女性に関してはもの凄く厳しかった。


きっと、変な女に木村家の長男が騙される訳にはいかないと思っていたのかも?


木村が特定の彼女を作らなかったのも母親のそんな呪縛が強かったのかもしれない。


私は今でも覚えている。


「俺・・本気なんだ!本気で美香を愛してる・・」


そう呟いたあいつの顔を・・・


私は何時もアリバイ作り要員であった。


初めてのデートも・・


初めて二人が結ばれた夜も・・・


初めて二人で旅行に行った時も・・・


全て私と一緒に居た事になっている。


それは私のせめてもの木村に対してのお礼であった。


そして仲間の中で一番最初に木村が結婚をする事になる。


結婚式の二次会で木村は嬉しそうに笑いながら私に言った。


「結婚しても俺たち・・友達だからな!」と


あれからどの位の時間が流れたのか・・


ただ、残念な事に美香はあまり人付き合いが上手い方ではなかった。


何度か、私は木村の家に遊びに仲間達と行ったが、いつの間にか誰も木村の家に行く事は無くなった。


「なんか・・お前の嫁さんとは・・合わない・・」


そんな言葉を口々に言う友達を見つめながら少しだけ木村は悲しい顔をした。


「あいつにだって良い所は沢山あるんだぜ!」


そんな言葉を呟きながら・・・


木村と疎遠になってもう・・7年になる。


「次は~下井草~~下井草~~」


そんな電車のアナウンスに私は我にかえる・・・


ゆっくり席を立つと開くドアの前に立つのであった。


「さあ・・仕事だ!頑張ろう!」


そんな言葉を呟きながら・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。