僕が死ぬ日・・生まれる日 -54ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

次の日の夜、私は仕事が終わると1人で街に繰り出した。


誰かと飲みたい・・


そう心では思っていたが内容が内容である。会社の同僚に愚痴ることは出来ない。


私は昼間のうちに学士時代からの親友の木村に連絡をしていた。


「よう!どうした?お前から電話なんて珍しいな!何時も留守電大魔王のくせに・・」


木村は少し何時もの私の態度に嫌みったらしくそう呟く。


結婚してからの私は殆ど、昔の友人と会う事が無くなった。


会社で店の店長になり忙しくなったと言う事もあるが本心を言えば面倒になったのだ。


よくやっぱり昔からの友人と飲むと楽しい!なんて言う人間がいるが私はまったくそうは思わない。


同じ時間を共に過ごしているから楽しかったのだ。


お互いが家庭を持ち、それぞれ別の世界で生きる人間同士に安らぎは無い。


私はそう思っていた。


しかし、誰かに話したかった。私のこの苦しい現状を・・・


無関係な世界で生きる人間だからこそ素直に話せる事もあるのだ。


「久しぶりだな!仕事はどうだ??」


木村は大学を卒業すと2年ほどコンピュータ関係の会社に就職し今は実家を継いでいる。


立派な水道屋の社長だ。


彼とは高校時代からの付き合いだが私と違い裕福な家庭に育った彼・・


性格も私とは全然違い友人も多い・・


ネクラな私が彼と親友同士と言う事を周りの人間は何時も不思議そうに見つめていた。


「仕事はどうだ??」


こんな会話から話が始まることじたいに私は彼との間に昔とは違う何とも表現できない溝を感じた。


新宿に馴染みの飲み屋・・・


学生時代からよくここで朝までくだらない話をしていた。


その殆どは将来の話と女の話ばかりであったのだが・・


それが何とも楽しく話が何時までも尽きなかった事を懐かしく思い出す。


「実はな・・・木村・・・」


そう重たい口を突然開いた私を木村は心配そうに見つめた。


「そうした??珍しいなお前が自分の悩みを俺に話すなんて・・」


そうだ、私は何時も昔から聞き役だった。


木村やその他の友人達の・・・


決して自分の心は見せない。


自分の苦しみや悩みを・・


いや・・自分の弱さを他人に見せることが怖かったのかもしれない。


「実はな・・嫁が浮気をしてるらしんだ・・・」


一瞬、木村は驚いたような顔をした。そして直ぐに冷静な顔に戻り呟く・・


「確信はあるのか?お前・・曖昧な妄想で話してるんじゃないのか?」


「ああ・・妄想である事を願って居るよ!でも、何度もそいつからのメールを見ている。」


「お前・・奥さんの携帯・・見たの??」


「ああ・・最初は偶然だった!でも、今は必然だ・・」


「バカだな!そんなもの見たらろくな事が無いのに・・」


「ああ・・俺もそう思っている・・」


しばしの沈黙が流れた・・・


お互い話す言葉を捜していたのかもしれない。


「それで?話はそれだけか??」


しびれを切らし木村が私にそう呟く・・


「実は・・今度の日曜日にそいつに嫁が会うらしい・・・」


私は今までの事を全て話し木村に言った。


「申し訳ないが、俺は行けない!その場所に・・・

お前・・確認をして来てくれないか??

無理な願いを言ってるのも解っている。

それに、お前を面倒な事に巻き込むつもりない。

俺はその日は娘と遊園地に・・・」


「遠慮するなよ!」


私が最後まで話さないうちに木村は少し酔ったトロンとした目で言った。


「お前は昔から何時もそうだな!

俺たち、親友だろ!お前はどう思っているか解らんけど・・

俺は今でもそう思っているんだぜ!

解った・・詳しいこと・・聞かせろよ・・」


親友なんてくだらない・・


所詮は人間は1人なんだから・・


私のこの考えは・・


もしかしたら間違いだったのかもしれない。


私はそう呟く木村の目を見つめながらそう心の中で呟いた。



乱れた息を整えるように友美が呟く。


「あなたどうしたの??珍しいわね??

あなたから求めて来るなんて・・」と


ふと気がつくと妻と肌を合わせたのは何年ぶりであろうか??


そう考えてしまうほど遠い昔のような気がする。


「何だ!自分の嫁を抱く事がそんなに変か??」


私はトゲがあるような口調で友美にそう言った。


「何よ!そんな言い方をしなくても・・・

ただ、嬉しかったから・・・

久しぶりにあなたに抱かれて・・・

嬉しかったから・・」


全ての妻の言葉が嘘に聞こえる・・


そして妻の全ての私に対する態度が私をバカにしてるように感じられた。


私は布団から出るとタバコに火をつける。


ナツメ球の微妙なオレンジ色の光にタバコの煙がまるで吸い込まれるように消えて行く。


私はタバコを吸い終わると何も言わずに自分の布団に戻り深い眠りにつくのであった。


俺はお前と違って何時だってこの女を抱けるんだ!


だってこいつは俺の妻なんだから・・


そんな独り言を思わず・・


見えない男に嫉妬していた。


見た事も存在すかどうかも解らない男に・・


私はその時、異常なまでの嫉妬心をむき出しにしていた。


愛してる??そう聞かれたら・・


私は何て答えるのだろう??


妻を愛しているから・・妻が大事だから・・・


妻を失いたく無いから・・私は嫉妬してるのか??


そうなのか??そうなんだろ??オイ・・誠・・そうだと言ってくれ・・頼むから・・


次の日から妻に隠れて妻の携帯電話を盗み見る事が日課になった。


自宅に居る時は何時も私は緊張している。


そして妻の携帯の中身を見れる機会を何時も伺っている。


常に携帯電話の場所を確認してる。


そして妻がトイレにいったり、台所に行ったり風呂に入るとすかさず携帯をチェックした。


俺は何をやってるんだ!こんな事を・・サイテーな人間だ!


そんな罪悪感に包まれたのは最初の頃だけであった。


しばらくするとそれがあたり前になり・・


そして自分を弁護するように何度も行為をする度に自分に言い聞かせる。


「俺が悪いんじゃない!俺は悪くない!俺を裏切っているあいつが悪いんだ!」と


「今週の日曜日、アルタ前に9時・・」


そんなメールを見つけたのは私が友美の携帯をチェックし始めて4日後の事であった。


私は妻の携帯を握り締めながら声にならない叫びを上げた。


それは怒りではない。


それは妻の浮気が現実であったと言う嘆きでもない・・


やっと、会える!見る事が出来る・・妻の浮気相手を・・・


やっと・・やっと、見えない相手を確認出来るという喜びの叫びであった。


見えない・・誰かもわからない相手に嫉妬する生活に疲れていたのかもしれない。


多分・・その時の私はきっと、見えない不倫相手の男に対する呪縛に雁字搦めに縛られ・・


少しだけ精神に異常をきたしていたのかもしれない。


次の日の夕食の時、私は何時に無く笑顔であった。


「何よ!パパ・・気持ち悪い・・」


娘の葵はそんな私を見てそう気味悪そうに呟いた。


「今週の日曜日に遊園地に行かないか??葵・・

ほら、デズニーなんとかとか言う所に行きたがっていただろう?

クラスで自分だけ行った事が無いなんていって!

丁度、休みがとれたんだ!奇跡に近いよ!パパが日曜に休めるなんて!」


そんな私の言葉に娘は・・


「マジ!やった~!パパ!大好き!」と歓喜の声を上げる!


私はディスカウント屋で働いている。


基本的に休日は全部、出勤である。奇跡に近い・・・


しかし、それは奇跡ではなった・・私は無理に有給を入れた。確かめるために・・・


そんな私の提案に一瞬、妻は顔をしかめた。


「そんな!急に言わないでよ!私にだって予定があるんだから・・・」


予定??どんな??どんな予定だよ!私は妻に言った。


「家族3人で出かけることなんかめったに無いんだぞ!

どんな予定なんだ!家族より大事な予定って?」と


少しだけ含み笑いを浮かべながら・・・


妻の困った顔をまるで楽しむかのように・・・


私は・・・なんて卑劣な奴なんだ・・


いや・・それ以上に・・お前は愚かな女だ・・


「ふ・・2人で行ってくれないかしら??」


まさか・・妻がそんな言葉を言うとは私は夢にも思っていなかった・・・


「大事な用事なのよ!昔の親友が東京に出てくるの!

もう、次に会えるのは何時かわからないのよ!

ごめんね!葵・・パパと2人で・・行ってくれない??」


葵は少しだけ不満そうな顔をした。しかし、それ以上にデズニーランドに行ける事が嬉しいようで・・


「よいよ!パパと2人で行くよ!」


そんな娘の言葉に妻はホットしたような安堵の顔を見せた。


そうか!そんなだ・・そんなにそいつに会いたいのか??


家族の・・家族の絆より・・お前はそいつを選ぶんだな!


解ったよ!解った!


始めよう・・ゲームを・・・地獄にようこそ!友美・・・


私はそんな意味も無い独り言を呟き・・静かに目を閉じるのであった。


人生は辛すぎて私の手には負えない。

ふと、独身時代に会社の同僚達と飲みながら話していた事を思い出す。


「もしもお前の嫁さんが浮気をしていたらどうする??

もしもその証拠を偶然、見つけてしまったら・・・」


それは酔っ払いのくだらない話であった。


まだ、私が独身であった頃の・・


その時、私はきっぱり熱く語った。


「絶対に許さない!嫁さんに追求するね!」と


そしてその後に笑いながら言った。


「まぁ~俺が選んだ女がそんな事をする訳は無いけど・・」と


その時の私の間抜け面が今になると情けなく思い浮かべられる。


自分の妻の浮気の証拠を見つけてしまったら・・・


現実にその証拠を突きつけられると・・・


私はどうするのだろう??


そんな事を考えても見なかった。


しかし、今、私は現実に見てはいけないメールを見てしまった。


私は見てしまった事を大いに後悔したのだ!


知らなければ良かった・・と


しばらくすると風呂場の方で娘の楽しそうな声がする。


それを諭すように妻の友美のが声・・・


後に私はこの時の自分の対応を後悔する。


もしも、この時に妻にはっきりとこのメールの事を聞いたなら私はこんなに苦しまなくて済んだのにと・・


しかし、その時の私は何もする事が出来なかった。


ただ、自分の記憶の中から今さっき、偶然に見てしまった現実を消し去る事で精一杯だったのだ。


「あなた!お風呂・・あいたわよ!」


妻のそんな言葉に追い立てられるように私はリビングを後にした。


次の日から私の頭の中は例のメールでイッパイになっていた。


私はどうするべきなのか??


何度も、何度も考えたが答えは出ない。


自宅に戻り妻を見つめる。


私に隠し事をしてるなど微塵も感じさせない笑顔・・・


もしも、こいつが本当に浮気をしてるのなら大した役者である。


ただ、隣で楽しそうに笑っている娘の笑顔を見ると心が痛む。


このまま私が黙っていれば良いのか??


そうすれば、知らなかった事にすればこの笑顔は永遠に続くに違いない。


きっと・・・


それに浮気なんてものはきっと、飽きるに違いない。


ひと目を忍んでする恋などはゲームみたいなものなのだ!


きっと、妻や相手の男は飽きるに違いない。


ならば、私さえ黙っていれば事は大きくならない。


そう何度も何度も自分に言い聞かせる。


だが、もう1人の私の男のプライドと言う厄介な奴が私に怒鳴りのだ!


「良いのか!お前・・そんな事で・・

あいつはお前を裏切っているのだぞ!」と


私は平凡な幸せを取るのか男としてのプライドを取るのか悩んでいた・・


本当に・・本当に悩んでいた。


辛い現実は数日後に偶然に私の部下から聞かされる事になる。


私の部下が休日開けの月曜日に私に笑顔で言うのだ。


「今日、新宿で奥さんを見ましたよ!

お連れの男の方は親戚の方か何かですか??」と


「新宿で??見間違いじゃ無いのか??」


「いいえ・・奥さんでしたけど・・・」


そう部下は私の顔を見つめながら呟く。


私は心の動揺を悟られないように思い出したような振りをする・・


「ああ!そうだ!俺の親戚の息子が東京に来ているんだ!

きっと、あいつにせがんで東京見物でもしてたんだろう・・

忘れていたよ!」


私の無理矢理な愛想笑いに彼は一瞬、しまった!と言うような顔をした。


言ってはいけない事だったのだと・・


それは私が偶然に妻のメールを見てしまった事を同じ事で・・


もう、後戻りは出来ない現実の話であった。


その日の夜に布団に入りながら私は妻に聞いた。


「お前・・昨日の日曜日は友達と買い物に銀座に行ったんだよな??」と


妻は鏡に向かい長い髪を丁寧にブラッシングしながら不思議そうに私を見つめる。


「何よ急に??そうだけど??」


嘘をついた・・・こいつ・・俺に・・・


「そうか!いや、たまには俺も銀座あたりをブラブラしようかと・・

何処か良い店はあったかい??」


「そうね~でも、なんかあなたは銀座って感じじゃないわよ!

なんか、新宿!って感じ・・」


「フフフ・・それもそうだな!俺は銀座って感じゃないよな!」


誰だ!誰と行ったんだ!お前の横に居た男はいったい誰なんだ!


私の心の中に独占欲がめばえる。


私はいきなり妻を後ろから抱きしめた。


「何よ??いきなり・・・どうしたのよ??いや・・やめて・・」


その晩・・・私は妻を抱いた。


何度も何度も私の下でもだえる妻を見つめながら私は心の中で何度も叫ぶのだ・・


誰だ!誰なんだ!お前・・・そいつに、こうして抱かれたのか??と


私はそう叫びながら妻を抱きながら泣いていた・・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。