家族の絆 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

乱れた息を整えるように友美が呟く。


「あなたどうしたの??珍しいわね??

あなたから求めて来るなんて・・」と


ふと気がつくと妻と肌を合わせたのは何年ぶりであろうか??


そう考えてしまうほど遠い昔のような気がする。


「何だ!自分の嫁を抱く事がそんなに変か??」


私はトゲがあるような口調で友美にそう言った。


「何よ!そんな言い方をしなくても・・・

ただ、嬉しかったから・・・

久しぶりにあなたに抱かれて・・・

嬉しかったから・・」


全ての妻の言葉が嘘に聞こえる・・


そして妻の全ての私に対する態度が私をバカにしてるように感じられた。


私は布団から出るとタバコに火をつける。


ナツメ球の微妙なオレンジ色の光にタバコの煙がまるで吸い込まれるように消えて行く。


私はタバコを吸い終わると何も言わずに自分の布団に戻り深い眠りにつくのであった。


俺はお前と違って何時だってこの女を抱けるんだ!


だってこいつは俺の妻なんだから・・


そんな独り言を思わず・・


見えない男に嫉妬していた。


見た事も存在すかどうかも解らない男に・・


私はその時、異常なまでの嫉妬心をむき出しにしていた。


愛してる??そう聞かれたら・・


私は何て答えるのだろう??


妻を愛しているから・・妻が大事だから・・・


妻を失いたく無いから・・私は嫉妬してるのか??


そうなのか??そうなんだろ??オイ・・誠・・そうだと言ってくれ・・頼むから・・


次の日から妻に隠れて妻の携帯電話を盗み見る事が日課になった。


自宅に居る時は何時も私は緊張している。


そして妻の携帯の中身を見れる機会を何時も伺っている。


常に携帯電話の場所を確認してる。


そして妻がトイレにいったり、台所に行ったり風呂に入るとすかさず携帯をチェックした。


俺は何をやってるんだ!こんな事を・・サイテーな人間だ!


そんな罪悪感に包まれたのは最初の頃だけであった。


しばらくするとそれがあたり前になり・・


そして自分を弁護するように何度も行為をする度に自分に言い聞かせる。


「俺が悪いんじゃない!俺は悪くない!俺を裏切っているあいつが悪いんだ!」と


「今週の日曜日、アルタ前に9時・・」


そんなメールを見つけたのは私が友美の携帯をチェックし始めて4日後の事であった。


私は妻の携帯を握り締めながら声にならない叫びを上げた。


それは怒りではない。


それは妻の浮気が現実であったと言う嘆きでもない・・


やっと、会える!見る事が出来る・・妻の浮気相手を・・・


やっと・・やっと、見えない相手を確認出来るという喜びの叫びであった。


見えない・・誰かもわからない相手に嫉妬する生活に疲れていたのかもしれない。


多分・・その時の私はきっと、見えない不倫相手の男に対する呪縛に雁字搦めに縛られ・・


少しだけ精神に異常をきたしていたのかもしれない。


次の日の夕食の時、私は何時に無く笑顔であった。


「何よ!パパ・・気持ち悪い・・」


娘の葵はそんな私を見てそう気味悪そうに呟いた。


「今週の日曜日に遊園地に行かないか??葵・・

ほら、デズニーなんとかとか言う所に行きたがっていただろう?

クラスで自分だけ行った事が無いなんていって!

丁度、休みがとれたんだ!奇跡に近いよ!パパが日曜に休めるなんて!」


そんな私の言葉に娘は・・


「マジ!やった~!パパ!大好き!」と歓喜の声を上げる!


私はディスカウント屋で働いている。


基本的に休日は全部、出勤である。奇跡に近い・・・


しかし、それは奇跡ではなった・・私は無理に有給を入れた。確かめるために・・・


そんな私の提案に一瞬、妻は顔をしかめた。


「そんな!急に言わないでよ!私にだって予定があるんだから・・・」


予定??どんな??どんな予定だよ!私は妻に言った。


「家族3人で出かけることなんかめったに無いんだぞ!

どんな予定なんだ!家族より大事な予定って?」と


少しだけ含み笑いを浮かべながら・・・


妻の困った顔をまるで楽しむかのように・・・


私は・・・なんて卑劣な奴なんだ・・


いや・・それ以上に・・お前は愚かな女だ・・


「ふ・・2人で行ってくれないかしら??」


まさか・・妻がそんな言葉を言うとは私は夢にも思っていなかった・・・


「大事な用事なのよ!昔の親友が東京に出てくるの!

もう、次に会えるのは何時かわからないのよ!

ごめんね!葵・・パパと2人で・・行ってくれない??」


葵は少しだけ不満そうな顔をした。しかし、それ以上にデズニーランドに行ける事が嬉しいようで・・


「よいよ!パパと2人で行くよ!」


そんな娘の言葉に妻はホットしたような安堵の顔を見せた。


そうか!そんなだ・・そんなにそいつに会いたいのか??


家族の・・家族の絆より・・お前はそいつを選ぶんだな!


解ったよ!解った!


始めよう・・ゲームを・・・地獄にようこそ!友美・・・


私はそんな意味も無い独り言を呟き・・静かに目を閉じるのであった。


人生は辛すぎて私の手には負えない。