僕が死ぬ日・・生まれる日 -50ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

六階の5号室ですから・・


電話に出た今日子がそう呟く。


私はテレビを台車に乗せてマンションの入り口に向かう。


マンションの入り口もチャイムがあり行き先の部屋番号を押すと住人が鍵を開けてくれる・・


あんな飲み屋で働いているわりには良い所に住んでいるなと


私は少しだけ嫉妬した。


部屋の前まで行き再び玄関のチャイムを押す。


すると中から今日子が現れる。


胸元が大きく開いた服が何とも淫靡で目のやり場に困る。


「ご苦労様!」


そう私を見つめ彼女は呟くと玄関にスリッパを並べ私を迎え入れた。


「奥の部屋だから・・設置するの・・」


私はテレビを運びながら部屋の様子をうかがう・・


誰かと住んでいる形跡は無い・・


どうやら彼女は一人暮らしのようであった。


一時間も過ぎただろうか?


私がテレビの設置を全て終えると今日子は冷たい麦茶を持って来た。


「お座りになって!今日はご無理を言ってごめんなさいね!」


「いいえ・・これも仕事ですから・・」


そう私が言いながら麦茶を飲み干すといつの間にか今日子は私の隣に座っていた。


「あなたは・・何時も寂しそうな目をしてるのね・・」


そう呟きながら私を見つめ・・私の太ももにそっと右手を乗せる・・


「えっ?」


私は少し驚いたように今日子を見つめる・・


この女は私を誘っている・・・


今日子の右手が何度も何度も私の太もも行き来する・・・


「何があなたをそんな目にしてるの??」


そう呟き・・彼女は私の唇に自らの唇を重ねた・・


私はまるで金縛りにあったかのようにその場で身動き出来なくなる・・


「良いのよ・・・あなたなら・・」


そう呟き・・私の右手を掴みながら今日子は自分の胸元に運んだ・・


ピンポ~~~ン


その時、突然に家のチャイムが鳴った・・


一瞬、今日子の顔が硬直する・・


まるで何かを恐れているかのように・・・


そして静かに立ち上がりインターポンの受話器を取った。


「き・・今日子!ごめん!純ちゃん!泣き止まないのよ!

連れて来ちゃった!」


受話器からそんな声が漏れている・・


純ちゃん??誰だ??


「ああ・・ごめん!今・・鍵を開けるから・・」


そう今日子は呟きロックを解除する操作をした。


しばらくすると玄関の鍵が勝手に開く


どうも訪問者はこの家の合い鍵を持っているようである。


扉が開き私の前に30歳前後の一人の女性と5歳ぐらいの小さな男の子が現れる。


「今日子!ごめんね!予定が狂って・・

あっ!これね!ありがとう!私、機械音痴だから助かったわ!

あら?こちらの方は??」


「え・・えっと!電気屋さんよ!このテレビを運んでくれた・・」


「あ~~そうなの!ご苦労様!」


何がなんだか訳が解らなかった・・


この女は誰で??この男の子は誰の子供なのだ???


いったい・・どうなってる??


「どうする?お昼でも食べて行く??純ちゃんと??」


彼女は今日子にそう呟く・・


「えっ・・もう、帰るから・・これから出かけないといけないのよ!」


「あら・・残念ね!純ちゃん!また遊ぼうね!」


ニコリと笑いながら彼女はその男にそう言った・・


「うん!またね!ママ・・早く帰ろうよ!」


そう言いながら今日子の洋服の袖を引っ張る彼を見て・・


あ~この男の子は今日子の子供なんだと悟った。


逃げるように今日子が部屋から立ち去る・・


そして私は彼女を追いかけるようにその部屋を後にする・・


マンションの玄関を出るともう既に今日子の姿は消えていた・・


私は訳がわからず車に乗り込みエンジンをかけた。



楽しそうな妻と娘を見送り私は出かける支度を始める。


ふと妻の楽しそうな!そして幸せそうな笑顔を思い浮かべる。


私は誰を憎んでいるのか??


私と言う旦那がいながら若い男を愛してる妻にか??


それとも旦那が居ることを知っているのに妻と付き合ってる男にか??


いいや・・・


きっと、私が一番、憎んでいるのはそんな妻に何も出来ない自分自身なのかもしれない。


私は実は若い頃、あまり良い恋愛をしていない。


妻の友美と出会う前、数人の女性と交際をした。


しかし、その殆どが旦那の居る家庭を持っている女であった。


当時の私は何時も思っていた。


自分の妻を繋ぎ止めておけないような男は愚か者だと・・


そして自分は・・・


家庭を持っている女を愛してたのではない・・


たまたま、愛した女に家庭があった・・


だから私は悪くない・・と


ふと、思うのだ、今まで私が抱いて来たそんな女の家庭のことを・・


旦那は知っていたのだろうか??


自分の妻が自分以外の男を愛し・・


そして自分の目を盗んで自分以外の男に抱かれて居た事を・・


実は、一度だけ旦那にばれた事があった。


凄い剣幕で自宅に乗り込まれ罵声を浴びせられた。


人間としてお前は最低だと!ののしられた・・


慰謝料だ!訴えるだ!とまくし立てられた・・


そんな現状を収めてくれたのが私の母親であった。


母が地べたに頭を擦り付けながら泣きながら男に謝罪をした。


今でもその光景が私の脳裏から消えることは無い。


勝手な・・本当に自分勝手な理屈で私は一つの家族を壊してしまった。


愛してる・・・


愛してるって意味がわからない・・・


愛してるのならば・・


相手の家庭を壊しても許されるのか???


当時の私はそれは仕方がないと思っていた。


しかし、今、自分自身が同じ立場に立って痛感した。


何を自分勝手な能書きをたれてんだ!若造!と・・・


相手を殺してやりやい!


自分の妻が私が知らない男に抱かれていると思っただけで・・


私はその男に猛烈なる殺意を抱くのだ・・


愛ってなんだ??


愛は誰かを不幸せにしても成り立つものなのだろうか??


お天道様を真っ直ぐに見れない・・・


日のあたらない道を歩き・・


世間に顔向けできないルール違反を犯してる愛も・・・


それも愛と言うのだろうか??


罰が当たったんだ!きっと・・俺に・・


私はそう心の中で呟いた。


店に行ってあらかじめ用意していた今日子に売るテレビをハイエースに積み込んだ。


「何も店長が行かれなくても??

配送の人間に・・」


私の部下がそう呟く・・


「いや・・少しばかり厄介な客でね!

私・・ご使命なんだ・・

後でごねられてもな!」


そんな私の言葉を聞いて部下は少しだけ尊敬の眼差しを私に向けた。


車に乗り込み走り出す。


今日子の住むマンションに・・・


私は何をしてるのか??


家族との楽しい時間を犠牲にしてまで・・


娘の笑顔を消してまで・・私は何をしてるのか??


車を運転しながらふとそんな感情が私を包み込む


右折するウインカーを出すとそこには小奇麗なマンションが立っていた。


私はマンションの来客用の駐車場に車を止めると今日子に電話をした。


「どうも!坂本です・・テレビをお持ちしました!」と


そんな言葉から私の苦しみは始まった・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。


「あなた・・本当に木村さんと飲んでいたのよね?」


そんな妻の言葉に一瞬、ピクッと体が引きつった・・


今日子と会って自宅に戻るとまだ家の電気は消えていなかった。


いつもならとっくに寝ているのに・・


私はなんとなく不安な気持ちを抱きつつ玄関を開いた。


部屋に戻り私が上着を脱ぐと妻は浮かない顔をして私に言った。


「そうだよ!木村と会っていたんだよ!それが何か??」


「えっ・・いいえ・・なんか上着から甘い香水の香りがしたから・・

それに・・」


「ああ・・近くにOLのグループが居たんだ!

多分、彼女達の香水の香りがついたんだろ?」


私はそう妻に言うと逃げるように風呂場に向かう。


妻は何か私に言いたそうに私を見つめる。


私はその視線に気がつかない振りをして風呂場に向かう。


寝室に向かうと妻はもう既にベットに入っていた。


布団の中をそっと覗き込むともう眠っているようである。


最近、こいつは何かを私に話したがっている・・


それが何か私にはわからないが、多分、良い話では無いことは想像がついた。


翌朝、朝食を食べていると妻が私に話しかける。


「あなた!今度のお休みなんだけど・・」


一瞬、ドキッとして食べている途中のパンを吐き出しそうになる。


「こ・・今度の休み?何かあるのか??」


「ええ・・葵が遊園地に行きたいと言ってるんだけど・・

たまには家族3人で行こうかと?

大丈夫よね?」


「あっ・・悪い!今度の休みは木村とか昔の仲間で久しぶりに会うことになってるんだ!」


そう私が言うと・・


「また・・木村さんなのね・・」と


妻は少しだけ寂しそうに呟いた。


お・・お前のせいだろ!お前が・・お前が・・浮気なんかしてなければ・・俺だって!


俺だって!木村なんかと会うことなんか無かったんだ!


それに今日子とか言う女とも関わりに会う事だってなかった!


全部、お前の浮気が原因だろ!


それなのに・・なんで俺をそんな目で見るんだ!


ふざけんなよ!お前!全部お前が悪いのに!


何で俺をそんな目で見るんだ・・なんで・・


私は不機嫌そうに食べかけのパンをテーブルに置くとそのまま立ち上がった。


「あら、もう終わりなの??」


「食事の時にグダグダとくだらない話をするなと何度言ったら解るんだ!

俺はやなんだよ!朝から面倒なことを色々と言われるのが!

朝ぐらい爽やかに出かせさせろ!」


部屋中に私に怒鳴り声が響き渡る・・


妻はそんな私を申し訳なさそうに見つめた。


「奥さん・・最近どうだ??」


その日の午後に木村から電話がかかって来た。


「ああ・・どうなんだろ?最近は携帯電話を完全に隠してるから・・

盗み見も出来ないよ!

でも、連絡は取り合ってるんだろ!きっと・・

それになんか最近、やたらと何か俺に話したがっているんだ!

それが何なのかわからないけど・・

もう駄目なのかもしれない・・

別れ話を切り出したくってウズウズしてるんのかも?」


「そうか・・・あと、俺の事・・なんか言ってないか??」


「お前のこと??いや・・何でだ??」


「えっ・・いや・・ほら、最近、お前を連れまわしているから・・」


「何を言ってるんだ!別にお前が・・・」


「い・いや!奥さんが何も言ってないのならそれで良いんだ!それで・・」


なんとなく木村の態度がおかしいと思った・・・しかし、それは漠然としたもの・・


その不自然さが何かその時の私には理解することが出来なかった。


「ところでお前!今日子とこの前、会ったんだってな!

お前も奥手の癖に・・けっこうやる時はやるな!」


「えっ・・・い・・いや・・それは・・」


「きゃはは・・うそだよ!テレビを買ってくれたんだろ!あいつ・・

この前、そんな話をしてたんでお前に相談をしろと言ったのは俺なんだ!

それにお前に浮気なんかする度胸が無いことぐらい知ってるよ!

俺が一番・・」


木村はそう言うと一方的に電話を切った。


それから数日後、私の休みの日が来た。


朝から妻と娘は楽しそうに遊園地に行く準備をしていた。


お弁当を作り、水筒に飲み物を入れて・・


「パパも一緒にくれば良いのにな~」


娘の葵がそう寂しそうに言った。


「パパにはパパの用事があるのよ!我侭は言わないの!約束したでしょ!

夕食は外食しましょうね!葵・・」


そう娘に言いながら妻が一瞬、私をチラッと見つめる。


きっと・・あなたも一緒に・・と言いたかったに違いない。


しかし、私は目をそらした・・


そんな私を妻は悲しそうに見つめた・・