僕が死ぬ日・・生まれる日 -46ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私達はまるで何かに吸い込まれるようにネオンの中に消えた。

ホテルの入り口に入ると大きな電光掲示板があり数個の部屋にランプが付いてる。

何年ぶりだろう?こんなホテルに来るのは?本当に久しぶりである。

「部屋・・何処でも良いよね?」

そんな今日子の言葉にふと我に返る。

私は悩んでいた。部屋のボタンを押す寸前まで・・悩んでいた。

自分がどう行動するべきか?

その時、一瞬、薄暗いフロアーに立つ今日子の顔を電光掲示板の光が照らす。

私はその瞬間・・ギョッとし唾を飲み込む・・

そこには人形が立っていた。

何の感情も持たない・・人形が・・

この女は望んでいない・・私に抱かれる事を。

だから人形なのだ!無理に自分の感情を押し殺してる。

本当に抱かれたい男のために・・

この女が本当に抱かれたいと思ってる男は誰なのか?

木村なのか?それとも他の誰かなのか?

人形ではなく本当の自分で抱かれたいと思っている相手は??

「聞いて良いか?」

そう私が言うと今日子の手が止まった。

「な・・何?」

「お前・・本当に俺の事が好きなのか?」

「えっ・・言ったじゃない!好きよ!愛してるわ!」

私の気持ちは決まった・・

「そうか!なら入るのは止めよう!」

その瞬間!今日子は安心した表情になり・・

そして直ぐに焦ったような表情になる。

「えっ!どうして??どうしてよ!」

「君が僕を本気で愛してくれていると言ってくれたから!」

そうすまして私は呟く。

少しだけ困惑した表情を見せる今日子に私は言った。

「君を大事にしたいんだ・・」と

なんとも何処かの三流テレビドラマのようなくさい台詞・・

大事にしたいから抱かない・・

うぶなネンネじゃあるまいし・・

自分で言って少しだけ噴出しそうになる。

「私を・・大事に思うから・・抱かないの?」


「ああ・・そうだ!君を大事に思うからだ・・」

ドキドキしていた。次の今日子の言葉が怖かった。

「君・・私とどうなりたいの?」

今日子は少しだけ微笑みながらそう呟いた。

すると突然に入り口の自動ドアが開く。

そこに中年のオヤジと水商売風の女が一人立っていた。

「行きましょ!誠・・」

今日子は私を引きずるように強引にホテルを出た。

何も言わずにただ歩いた・・

何処まで行くんだ?

そんな言葉が言えないくらい・・強引に・・・

気が付くと今日子のアパートの前に私は立っていた。

時計を見ながら今日子が呟く。

「あと、3時間くらいあるから・・少し仮眠して行きなさいよ!」と

私は部屋に通されテレビのある部屋の床にごろんと転がる。

そんな私に今日子は優しく布団をかけてくれた。

そして一言・・呟く

「不器用ね・・君・・」と

私は寝た振りをしていた・・

そんな今日子の言葉など聞こえていない様に・・

ジリリリ・・・ン

目覚ましの音で私は目を覚ます!時計を見ると6時を少し回っていた。

台所では美味そうな味噌汁の香りとご飯が炊き上がる香りがする。

突然、私の目の前に小さな男の子の顔が現れる・・

「あっ!お・・おはよう!」

「お・・おじさん!どうしたの?夜・・来たんだ!

なんだ!起こしてくれればよかったのに!」

そう残念そうに純君が呟く

「ほら!ご飯の支度が出来たわよ!寝てる大きな僕ちゃんも起きなさい!」

今日子が笑いながらそう私に言った。

ふと・・思う。

どうやら私が選んだ道は・・正解であったようであると・・

私は朝食を済ませると・・そのまま職場に向かった。


「これからどうする?」

そう聞かれて私は一瞬、困った顔をした。

「帰るよ!これ飲んだら・・

君だって子供が待ってるんだろ?」

そんな私の言葉に今日子は少しだけ渋い顔をする。

「一つ聞いてよいか?」

「えっ?何??」

「君は私とどうなりたいんだ?」

それは私の台詞でしょ!

そんな今日子の心の声が聞こえそうであった。

「私・・あなたの事が好きになってしまったの!

悪い??」

私は想像していなかった彼女の答えに少しだけ動揺した。

好きになった・・私を??

本当は喜ばなければいけない言葉なのかもしれない・・

こんな美人に好きだと言われ・・

多分、私の人生で二度と無いチャンスだと思う。

でも・・なんとなく喜べない。

何かがひっかかる。

彼女が水商売の女だからではない・・

そうだ・・

木村だ・・木村を見つめる時の今日子の悲しげな顔だ

それが私の心に引っかかっているのだ。

こいつは何か絶対に企んでいる。

それが何なのか今の私には解らない。

でも一つだけ・・

この女が本気で私を愛してる事は無いと確信していた。

「俺を愛してるって??本気なのかい?」

「ええ・・そうよ!本気よ!」

「そうか!解った!」

そう私は呟き今度は私から今日子の手を握った。

「出よう!」

そんな私の言葉に今日子は小さく頷く。

席を立ち店長に支払いを済ませ私達は店を後にした。

私が店を出る時に店長が笑顔で言った。

「坂本君!また、来てよ!」と

「ああ・・今度は木村達と一緒に来るよ!」

そう私が言うと彼が言いにくそうに私に言った。

「余計なお世話かもしれないけど・・

彼女、うちの店に来るの初めてでは無いんだよ!

数回・・木村君と来てるんだ!

坂本君と彼女がどんな関係か知らないけど・・

ごめんね!忘れて!」

私はそんな彼の忠告を無関心そうな顔をして聞いた。

今日子が・・木村と・・

小さな疑惑が少しずつ大きな疑惑に変わって行く。

そして本当の今日子の狙いは何なのか?

ふと・・そんな疑問が頭に浮かんだ・・

ならば・・探ってやる!お前の狙いを・・

愛してるって口では簡単に言えるのだ・・

ただ、相手の本当の気持ちなんか絶対に解らない。

気持ちは・・本心は自分にしかわからないのだから・・

「遅かったわね!」

店の外に出ると今日子が不機嫌そうにそう呟く。

そして私の手を引っ張るように京浜蒲田の駅の方に歩き出した。

行き先はなんとなく想像できた。

商店街の裏側には数件のラブホテルが隣接してる。

「これからどうするの??」

私は今日子と歩きながら自分がこれからどうするべきか考えていた。

どうする??このままこの女とホテルに行くのか?

それとも・・止めるのか?

でも止めたら・・この女の狙いが解らなくなるに違いない。

ならば・・抱くのか?どうする・・どうすれば??

そんな事を考えていると突然に今日子の足が止まった。

きらめくネオンが私の視線に飛び込んできた。

「入る??どうする??」

静かに今日子が呟く・・

どうする?俺??どうする・・・

私は別れ道のど真ん中に立ち・・

どちらに行くべきが悩むのであった。

人生は辛すぎて私の手には負えない。

11時を過ぎると途端にお客の数が減る。


最終電車のそれがリミットだからだ。


それでも数人の客が残りその客に付いている女は楽しそうに酒を飲んでいた。


時計を見ると11時50分・・


すると客に付いている女達が一斉にママらしき女の所に向かう。


今日子の同じでその顔は少しだけ優越感に包まれていた。


すると客の居ない女達が少しずつ店の後片付けを始めた。


どうやらアフターに行く女は後片付けをしないで良いらしい・・


アフターに行く女達が片づけを始めた女たちをまるで使用人を見るように見つめる。


この世界も大変だと思わず苦笑いを浮かべた。


「お会計!お願い!」


そんな事を考えていると今日子が私にそう告げる。


そして会計のときに何やら紙を一枚手渡される。


アフターに行く証明書のようだ。


こんな物まで書くのか!


たしか成績になると今日子は言っていたが・・


会計を済ませると私は一度、店の外に出された。


そこには私と同じようにお目当ての女とこれから夜の街に繰り出す男が待機してる。


こいつら・・明日は仕事じゃないのか?


思わずニヤケ顔の彼らをマジマジと見つめてしまった。


すると一人ずつ私服に着替えた女達が店から出てきた。


その中に栞も居る。


見れば、見るほど友美に似ている。


栞は一瞬、私と目が合うと何とも言えない淫靡な微笑を私に向けた。


「ごめんね!お待たせ!」


最後に出て来たの今日子であった。


甘い香水の香り・・・


なんとかならないのか?この匂い・・


そう喉まで言葉が出たが言うのは止めた。


外に出るとまだ、肌寒い・・


それもそうだろう・・もう夜中なのだから・・


今日子は私の腕にきゃしゃな細い腕を絡ませる・・


「何処に行く?少し・・飲む?」


「えっ??」


私は眠かった・・私は基本的に女を口説く事ぐらいで努力なんかした事が無い。


恋愛とはそんな物では無いと思っているからだ・・


「付き合わなくって良いんだろ?帰るよ!俺・・」


そう私が今日子に言うと少し怒り顔で今日子が言う・・


「あ・・あんたね!贅沢な男ね!」と


贅沢??私は贅沢な男なのか??


今日子にしてみれば私は贅沢な男らしい・・


こんな美人と普通・・歩けないよ!


それに飲みになんか行けないよ!


なんて顔に書いてあるのが少しだけ可愛く思えたのはきっと、私が麻痺してるから??


「なら・・少しだけな!」


そう言うと私は行きつけのドイツ居酒屋に向かった。


「ここ・・よく来るの??」


「えっ・・昔ね!木村とか仲間の溜まり場だったんだ!

朝までやっているんだ!この店・・」


店に入ると店長は私の顔を覚えていたようで嬉しそうに話しかけて来た!


「坂本君じゃない!久しぶりだね!

それに今夜は美しい女性がお供かい!」


そう言いながら今日子の顔を見た瞬間・・


一瞬、彼の顔がこわばる・・


今日子も少しだけ動揺してるようだ・・手の震えが感じられる・・


「初めまして!店長の堺です!」


そんな彼の言葉に今日子の手の震えが止まった・・・


「どうも!良いお店ですね!この店・・・」


そう言いながら近くの二人席に腰掛てハーフ&ハーフを注文する。


「この店・・・初めてなんだよな??」


そう私が訪ねると今日子は無言でうなずいた・・


「美味しいわね~~」


そう嬉しそうにビールを今日子が飲み干す・・


「ビールなんか今さっきまでいっぱい飲んでたろ??」


そう私が聞くと


「仕事のビールとプライベートのビールは味が違うのよ!

まして・・」


「まして・・なんだよ??」


「えっ・・まして・・大好きな人と飲むビールは最高なの!」


上手い事を言う・・さすが夜の女・・・


でもそれが営業トークと解っていても少しだけ嬉しいと思う・・


男とは何と愚かな生き物なのだろう・・


本当に・・男とは・・本当に・・


そっと・・今日子の手の平が私の手の平に重なる・・


艶かしい目つきで今日子が呟く・・


「これから・・どうする?」と