「あら・・こちらのお客様!随分とお金持ちのようで・・」
栞が嫌みったらしくそう呟く。
美香は栞を睨みながら何も言わない。
重い空気だけが流れた。
しばらくするとボーイが高そうなブランディーを持って現れる。
すると美香は言った。
「それと同じものを彼の名前で入れて!」と
「えっ!お・・おい美香!良いよ!そんなの!50万だぞ!」
「なによ・・そんなはした金・・」
美香はさらりと余裕の表情でそう呟く。
50万・・
そんな酒は要らないから現金で俺にくれ!
思わず私はそう言いそうになってしまった。
栞がグラスに氷を入れよとする。
それを遮るように美香が怒鳴る。
「あんた!ブランディーに氷を入れるつもりなの?
勘弁してよ!」と
一瞬、栞の手が止まり顔が引きつる・・
美香は栞からグラスを奪い取るとブランディーを並々グラスに注いだ。
そして一気にそれを飲み干した。
一瞬、店内から歓声があがる。
「すげ~な!あの女・・」と
「帰るわよ!誠!お勘定を・・」
ブランディーを飲み干すとしらっとした顔で美香が私にそう言った。
少しも酔っている様子も無くしっかりした足取りで美香はレジに向かう
「100万と2千円になります」
そう会計係の男が言うと美香は自分のバックから帯の付いたピン札の束を取り出した。
現金かよ!
思わずそう言いたくなるのを必死に堪える。
店の玄関まで栞を見送りに来る。
「本日はありがとうございました。」
深々と頭を下げる栞に美香は言った。
「使いふるしのオッサンだけどよろしくね!」と
そんな嫌味たっぷりの言葉に栞は少しだけ唇を噛み締めた。
ドアが閉まりエレベーターに乗り外に出た瞬間に美香の顔が真っ青に変わる。
そして美香はその場にうずくまってしまった。
「飲めないくせに!無理しゃがって!」
そんな私の言葉に美香は苦しそうに・・
「ご・・ごめん・・吐きそう・・」と
「お・・おい待て!もう少し!待て!」
私は焦りながら美香を近くのパチンコ屋のトイレに連れて行った。
ふらふらに成りながら美香が現れる。
「歩けるのか?」
そんな私の問いに・・
「なんとか・・」と答える
しかしその足は完全に大地を踏みしめていない。
「ほら!乗れ!」
そう言いながら私は美香に自分の背中を向けた。
「えっ!やだよ!オンブなんて!恥ずかしい・・」
「あのな!お前・・自分の状態を解ってるの?
っつたく!飲めもしないくせに!無理しやがって!」
そう私が諭すように言うと美香は渋々、私の背中に・・
そして私の耳元で呟いた。
「かっこ悪いね・・私・・」と
美香は一滴の酒も飲めない。
そんなこいつがあの行動とは・・
女の意地なのか?
「そんな事は無いよ!かっこ良かった・・見直した・・」
そう私が呟くと私にしがみ付く美香の腕に力が入る。
「優しい言葉を言わないで・・今・・私に・・」
弱々しく美香がそう呟く・・
「泣いて良いんだぞ!今夜は特別だ!
こんな冴えない男の背中で良ければ・・」
そう私が言い終わると同時に私の首筋に数滴のしずくが落ちるのを感じた。
そして唇を必死に食いしばり声を出さないように泣いてる女の気配を・・
私は美香を背負いロータリーのタクシー乗り場に向かい歩き出す。
しばらくするとポツリと美香が呟く・・
「誠・・私ね!言われちゃった・・」
「何て?」
「うん・・あいつに・・枯れた女は抱けないって・・私・・枯れちゃったみたい」
私はそんな美香に一言呟いた。
「そんな事はないよ!お前は今でも綺麗だ・・」と