僕が死ぬ日・・生まれる日 -41ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

次の日、私は仕事が終わると新宿に向かった。

店を出る時に副店長の加藤が私に何やら一生懸命話しかけて来たが・・

私は彼をシカトして店を後にした。

どうせくだらない話だと思っていたからだ。

新宿に着き私は聖夜の店を目指した。

きらびやかなネオンに包まれた看板の横に店の入り口があり私が店に入ると

威勢の良い若者達の声がする。

「いらっしゃいませ!」

少しだけ困惑した表情で一人のホストが私に近寄ってきた。

「お一人様ですか?初めてのお客様で・・」

そう私が客である事を確認するかのように彼は私に話しかける。

「えっ・・いや・・聖夜さんにお会いしたいのですが・・」

そう私が言うと彼は予想していた通りの展開らしく笑いながら言った。

「なに?あんたも嫁さんをあいつに食われちゃった被害者さん?

聖夜も困ったもんだよね~ちょっと待っててね!今、呼んであげるから!

あっ!あと、他のお客様の迷惑になるから!外でやってね!外で喧嘩は・・」

そのホストは慣れているかのように私にそう告げると店の中に消えて行った。

しばらくすると一人の若者がめんどくさそうな顔をして現れた。

「あんた誰?俺の責任じゃないから!基本的に全部、俺がお願いした訳ではないから!

あんたの嫁さんが勝手にやった事だから!」

聖夜は私が訪れた理由も聞かずに一方的にそう私に捲くし立てる

働く事が嫌いで・・ギャンブル好きの女好き・・

いかに楽に生きようか何時も考えていて何時も何かに怯えている・・

そんな器の小さい男・・

でも・・でも・・

今日子の言葉を思い出す。

今日子は「でも」の後の言葉を私には言わなかった。

しかし、私には解っていた。その後に何を言おうとしていたのか・・

でも・・純の父親で、私が愛した男・・

人間とは言う生き物は何とも愚かで厄介な生き物だと思う

何時も「愛」何ていう目に見えない物に支配されている。

そしてその「愛」が幸せを連れてくるとは限らない。

殆どの人間がその「愛」なんてくだらない物のために苦しんでいる。

そんな事、解っているのに・・

「愛」が幸せを連れて来ない事なんか解っているのに・・

人は誰かを愛する事をやめる事は出来ない。

だから人間なのかもしれない。

私は初めて聖夜と話して直感した。

この男は友美の浮気相手では無いと。

聖夜は次々に女の名前を上げて私が誰なのか必死に確認をしている。

「きよこ?みよ??順子?」

次々に上げられた女の名前の中に友美の名前は無かった。

「実は人を探していてね!私の妻なんだ・・

君と一緒に写っている写真を偶然に手に入れて君が妻の行方を知らないかと・・」

私はそう言いながら手帳から例の写真を取り出した。

そんな私の言葉に安心をしたのか聖夜の顔に余裕が生まれる。

彼は私が差し出した写真をマジマジと見つめた。

「2月の15日らしんだ・・」

そう私が呟くと

「女も知らないな~多分、適当に客を探してる時だと思うよ!

それに2月の15日って確か日曜日だろ!

俺、日曜日の昼間はバイトだから・・」

バイト??この男はホストの他にバイトもしているのか?

「バイト?君はホストの他にバイトもしてるのかい?」

「えっ・・ああ・・そうだよ!

実は俺にはちっこいガキと怖い女が居てね!今は別居してるけど何時か迎えに行くんだ!

その時に子供の父親がホストじゃカッコ悪いだろ!

だから、小さなスナックでも開店させて手土産に迎えに行こうと思ってるんだ!

だから金を貯めてる!

そりゃ~色々とやばい事もやってるよ!女から金も騙し取ってる!

でも、それってどっちが悪いって訳じゃないだろ!相手だって同意してんだぜ!

金を使う事で夢を買ってるんだ!

そして俺は金をもらう事で相手の望む男を演じてるんだ!」

なんとなく目元が純君に似ている。やはり親子なんだな~

そして今日子が言う程、この男は適当な男では無いような気がした。

「忙しいのに悪かったね!ありがとう・・」

そう呟き私は自分の名刺を彼に差し出した。

「嫁さんと子供を迎えに行ってもしも昼間の世界で生きたいと思ったら電話しなよ!

金は安いけど・・もう何にも怯えずに暮らせる人生は保障するよ!

早く迎えに行けるとよいな!きっと、二人は待っていると思う・・」

そんな私の言葉に聖夜はキョトンとした顔をした。

「ああ・・何時かな!」そう呟き彼は店の中に消えて行くのであった。

自宅に戻り私はベットに倒れこむ。

何も覚えていなかった。

小百合の話を聞いてからの小百合の話も大久保の話も・・

自分がありから何を話しどのように自宅に戻って来たかも・・

全て何も覚えていなかった。

心が・・全て記憶を削除したいと嘆いていた

この数ヶ月の愚かな私の全ての記憶を・・

天井を見つめながら考えていた。

よく考えると私は今までの全ての出来事に対して何も確認をしていなかった。

写真にしてもメールにしても・・

木村の話にしても・・全ての事に・・

「俺はなんて馬鹿野郎なんだ!何で!何で!!」

私はまるで狂ったようにそう叫びながら何度も何度もベットを叩いた。

しかし、悔やんでばかりはいられない直ぐに行動を起こさなければ手遅れになる!

い・・いや・・もう既に手遅れなのかもしれない。

妻はもうこの家には居ないのだから・・

だからと言って何もしない訳にはいかなかった。

全てを解明する。それが今、私が出来る唯一の償いだと思ったからだ。

私は起き上がると秘書課の由美に電話をした。

「夜分遅くにごめん!井草店の坂本だけど・・」

電話口に寝ぼけた声で由美が出た。

「あら・・坂本さん!どうしたのこんな夜遅くに・・」

由美は少しだけ不機嫌にそうにそう言う。

「あの・・大分、前の話になるんだけどうちの奥さんと買い物に出かけなかった?」

「えっ・・そうね~友美さんとは・・もう大分前よ!2月頃に一度、行ったかな?」

「行った日って覚えてないかな~」

「ちょっと待ってね!今、手帳を持って来るから・・」

しばらくして手帳を開く音が電話口から聞こえ・・

「ああ・・15日ね!そうそう!2月の15日よ!」

やはり・・そうなのか・・

「それって間違いない!何時ごろに何処で待ち合わせをしたの!」

少しだけ私の口調が強くなる。

そんな私に由美は言った。

「ちょっと!坂本さん!何なの?こんな夜中に電話して来て理由も言わずに!

なんか感じ悪いわよ!失礼だけど・・」

「えっ・・あっ!ごめん!今は理由は言えないんだけど後で必ず話すから・・」

そう私が言うと何か察したように由美が話し始める。

「えっと・新宿のアルタの前に9時30分って書いてあるけど!」

「その日って友美は来たんだよね!」

「来たわよ!確か私が920分頃に行ったらもう来ていたと思う!

友美さんは時間に厳しい人だから最低でも30分前には何時も来てるから・・」

30分前には来ている。

それなら友美が9時にアルタの前に居ても別に変な話しではない。

「そう・・悪かったね!また連絡をする・・」

そう言うと私は電話を切った。

あの日・・友美は女友達と会っていた。

男ではない。

私はもう一度、手帳から例の写真を取り出した。

小百合に言われるまで友美の表情まで気が付かなかった。

そう言えば・・迷惑そうな顔をしてる。

私は聖夜に直接会う事を決意した。

どちらにしてももう俺達は駄目なのだ!何も怖がる現実は無かった。

彼から何を言われても平気だと思えたからだ。

ふと大久保の話を思い出す。

「夫婦ってさ!所詮は他人だとか言うじゃない!

やはり親子とか血に繋がった関係の方が繋がりが強いって!

でも俺はそれは間違いだと思うんだよね!

だって他人なんだよ!夫婦は・・

そんな他人同士が結婚して何十年も一緒に暮らしてさ!

そんで色んな苦労を二人で乗り越えているんだぜ!

親子なら仕方が無いと思うよ!

でも、他人なのにさ~別れもしないで二人で苦労して行くんだ!

親子の血なんかよりももっと強い絆で夫婦って結ばれていると思わないか?

他人だからより血の繋がりなんか比べ物にならない絆で結ばれていると思わないか?」

そんな大久保の言葉を思い出す。

「絆か・・・俺は一番、大切な事を忘れていたのかも知れないな!

夫婦の絆と言う一番大切な事を・・」

時計を見るともう2時を回っていた。

私はグラスにウイスキーを注ぎ一気に飲み干した。

友美はどうして居るのだろうか?

娘の葵は??

そんな事を考えているといつの間にか私は深い眠りに包まれていた

「離婚するかもしれません・・」

そう私が呟いた途端・・

ドアの外で聞き耳を立てていた小百合が慌てて中に入ってきた。

「り・・離婚って!何があったのよ!」

そんな妻をめんどくさそうに大久保が睨みながら言った

「お前には関係が無い!早く料理を持って来いよ!」と

小百合は少し不機嫌そうに言う

「関係ないわけ無いでしょ!誠ちゃんも友美ちゃんも身内みたいなものよ!」と

この夫婦には子供が居ない。

小百合は大久保と結婚をする前は本社の総務に勤めていた。

実に仕事が出来る女で我が社、初の女性の課長に・・なんて話もあった。

仕事か結婚かと周りが騒いでいるのを他所に小百合はあっさりと仕事を捨てた。

しかし、結婚してしばらくするとパートとして総務に復帰をした。

今でも彼女は総務で働いている。

友美も秘書の時は小百合に大分、世話になったようである。

「何が原因なの?」

小百合が私を見つめながら呟く

「浮気です・・」

私が目をそらしながら呟くと小百合は驚いたように言った

「あ・・あの友美ちゃんが!浮気??」と

そして再び私を見つめる

その視線が私に語りかけていた・・

それだけじゃないでしょ!あなたにも・・でしょ!と

女の情報網は馬鹿に出来ない。

会社の人間の全てのプライベートの情報を小百合が握っていると言っても言い過ぎではな無い。それ程、女同士の情報網は危険なのだ。

きっと、小百合は何かしらの私の事も知っているに違いない。

私は話をそらすように言った。

「写真もあるんです!男と会ってる証拠の写真も!

それにホテルに入って行った所を目撃してる証人も居る・・」

「それは何時の事??」

「ええ・・確か2月の15日の日曜だと思います・・」

2月・・の15日・・・」

小百合はそう呟き自分の鞄から手帳を取り出し何かを確認した。

「良いから!料理を持って来いよ!腹がぺこぺこだ!まったく!」

そんな旦那の言葉に小百合は不機嫌そうに席を立った。

「お前も大変だな!」

大久保は私にビールを注ぎながらそう呟く。

しばらくすると大量の肉料理を持って小百合が現れる。

テーブルに並べられた大量の肉を見つめながら私の胃が拒否反応を示すのを感じた。

「今月は肉らしい・・先月は魚でさ!俺なんか先月は魚料理ばかりだった!

来月はジャガイモらしい・・」

憂鬱そうに大久保が私に言った。

料理を全部、運び終わると小百合も自分のグラスを持って現れる。

2月の15日って言ったわよね!あなた・・」

小百合は我慢できないように私に言った。

そんな妻を男の話に口を出すな!とばかりに大久保が睨みつける。

「ええ・・そうです!確か・・15日です!」

そう念を押すように小百合は私に確認をすると再び手帳を見ながら言った。

「おかしいのよ?その日は友美ちゃんは秘書課の由美ちゃんと買い物に行っているはずなんだけど・・」

私は一瞬、その話を聞いて驚きの表情を浮かべる。

「えっ??で・・でも・・現実に・・」

「そうなのよ!それで由美ちゃんに確認をしたのよ!

そうしたらその日は確かに友美ちゃんと一緒に居たって言うのよね!」

「で・・でも証拠の写真もあるんですよ!それに信用が出来る証人も居るんです!」

私は興奮しながらそう小百合に話し手帳から例の聖夜と友美が写っている写真を見せた。

その写真をマジマジと小百合は見つめる。

「そうね!でも・・これって何かの勧誘をされている風にも見えるわよ!

だって友美ちゃんの顔・・迷惑そうだもの・・」

そう言われ冷静に妻の顔を見ると確かに笑顔では無い。

なんとなく迷惑そうな顔をしてる・・

「でも由美さんが妻をかばってくれている可能性も・・」

「えっ!それは無いわよ!絶対に・・」

自信に満ちた表情で小百合はそう呟く・

それが全ての女子社員を裏でまとめている女のプライドとでも言うのか?

友美が男と会って居なかった・・・

そんな・・なら、木村の報告は?私が数回見たメールは??

いったい何だったのだ??どうなってる?どうなってるんだ!

私はその時、自分が仕出かしてしまった重大な失敗に気が付いた。

「顔が真っ青だぞ!お前・・大丈夫か?」

薄れる意識の中でそんな大久保の声が聞こえた。