僕が死ぬ日・・生まれる日 -38ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「もう一軒行かないか??」

支払いを済ませた私を待ち構えて居た様に木村がそう呟く。

「シンフォニーに行こうぜ!今日子も居るし・・」

意味ありげな微笑を浮かべ木村がそう私に言った。

「抱いたんだろ?あの女・・お前・・」

木村は私の肩に手を回しながらそう笑いながら言った。

「お前・・何でも知ってるんだな・・何でだ?」

そう私が呟くと少しだけ焦ったような顔をする。

「えっ・・いや・・別になんとなく・・お前ならやりそうだと・・」

「俺が?俺は昔からお前みたいに女に手は早くなぞ!」

私はそう笑いながら言った。

「今夜はこれで帰るよ!」

そんな私の言葉に木村は少しだけ寂びそうな顔をする。

「良いじゃんか!今度は何時、会えるかわからないんだから・・」

「何時会えるか解らない??俺達は別に何時でも会えるじゃないか?

だって・・親友だろ!昔も今も何も変わっちゃいないよ!

それはしばらくお前を避けていたのは確かだ!ごめんな!

なんか、俺・・お前から卒業したかったんだ!

なんか俺、勘違いしてた!お前が俺の事を下部みたいに思って居るんじゃないかって!

昔から俺、お前に気を使っていた。

誘われたらどんなに忙しくても笑いながらお前に会いに行った。

お前に逆らう事が怖かったのかもしれない。

これでも結構、お前に負い目があってさ!なんか貧乏だったから・・俺・・」

そんな私に木村は少しだけ怒ったような目で私を睨みつける・・

「お前・・そんなふうに俺を見ていたのか?

少し、今夜はお前・・酔ってるみたいだな!」と

「別に俺は酔ってないよ!それに今夜は大切な俺たちの記念日だから・・」

「何だよ!さっきから始まりだの記念日だの!くだらない事ばかり言いやがって!

俺達は昔から親友だろ!何時も一緒に馬鹿やって来たじゃないか!

好きな女の話をしながら笑って失恋したら朝まで一緒にカラオケで歌ったろ!

昔も今も変わらない!俺達は・・俺達は・・」

私は木村の目を睨みながら真剣な表情で言った・・

「でも・・俺は違ったんだ!いろいろ、考えたよ!昔の事を・・

でもな!気が着いたんだ!俺、いろいろと負い目をお前に感じていたけど

何時も楽しかった!お前と一緒に居て!何時も楽しかったんだ!

だから全部、過去はリセットする事にしたんだ!だから今夜は始まりの記念日さ!

俺たちの友情の始まりの記念日さ!解るよな!これ以上・・俺に言わせるなよ!」

木村はそんな私の言葉にハッ!としたような顔をして少しだけバツが悪そうに微笑んだ・・

「解っていたのか?何時から・・」

「何の事だ?」

「とぼけるなよ・・・俺がお前を騙していた事だよ!」

「何だ?お前・・俺を騙していたのか?全然・・気が着かなかったよ!」

私はそう呟きながら木村の肩に手を回した・・

「歌いに行くか!おれの失恋レストランは今でも18番だぜ!

まぁ~この年になると歌う機会は減ったけどな!

あ!そうだ!美香も呼ぼうぜ!昔、よく3人で歌いに行ったじゃんか!

俺は何時もお邪魔虫でさ!お前ら俺に隠れてキスなんかしやがって!

俺、皆、知ってたんだぞ!この野郎!」

「えっ・・お・・お前・・・で・・でも・・俺・・」

私は肩にまわした手の力を強くして木村の首を強く締め付けた。

「あんまり刺激をくれるなよ!俺、あの時、童貞だったんだからな!

この野郎はよ~~いじわり~んだよ!お前は昔から・・・

そして・・お前は昔らか優しい・・んだよ!」

「ま・・誠・・俺・・・」

木村の目から何時の間にか大粒の涙が溢れ出す・・・

「ま・・誠・・お・・俺・・・」

私は木村の首から腕を放すと笑顔で言った・・

「始まりなんだよ!今日が・・始まり!なぁ!それで良いじゃないか・・

難しい理屈なんか大嫌いだったろ!世間の常識なんか糞食らえ!だったじゃん!

俺たち!お前は昔から・・お前さ!俺の大事な親友だろ!

そして・・永遠に・・・」

「だ・・だって!俺・・お前を・・」

「よし!一発、お前を殴らせろ!それでチャラだ!」

私は木村の頬をおもいっきり拳で殴りつけた!

木村はそのままアスファルトに倒れこむ・・・

「痛って~~お前!結構、よいパンチ持ってるんな!」

「ああ・・隠していたんだ!通信教育でボクシングを習っている事・・」

そんな私の冗談に顔を真っ赤に腫らしながら木村は笑っていた・・

「美香も呼ぶか!今夜は朝まで歌おうぜ!」

しばらくして現れた美香が愛しい旦那の変わり果てた顔を見ながら笑いながら言った。

「あら、あんた良い男になったわね!」と・・

とても嬉しそうに・・そしてとても幸せそうに・・

木村に電話をしたのは美香に会って数日後の事であった。

「よう!珍しいなお前から電話なんて!留守電大魔王を卒業か?」

私の突然の電話に木村は嬉しそうにそう呟いた。

「なんか、久しぶりにお前と飲みたくなってな!」

そんな私の言葉に木村は・・

「なんだ?奥さんとまた何かあったのか?」と心配そうに呟いた。

「嫁は相変わらず実家に戻ってるよ!何の連絡も無い・・」

離婚届が送られて来た事はその時、なぜか言えなかった。

連絡をして数日後の金曜日の夜、私は木村と飲みに行く事にした。

「何処に行く?シンフォニーで良いか?」

蒲田の改札で待ち合わせをして木村に会うと木村はそう呟いた。

「久々にあそこに行かないか?ドイツ居酒屋・・」

そんな突然の私の申し出に木村は少しだけ微笑みながら言った

「良いかもな・・久しぶりに・・」と

二人で京浜蒲田方面に向かい歩き始める。

店に着くと客は誰もいずにボーイと店長が暇そうに雑談をしていた。

「いらっしゃい!あれ!二人なの?珍しいね!」

店長は私と木村の顔を見ると嬉しそうにそう笑った。

席に着き、ボーイの少年が注文を取りに来る。

「とりあえず、ハーフ&ハーフを2つね!」

木村がそう彼に注文を告げるとまるで予知していたかのように直ぐにビールが現れる。

「いつも・・同じだからな・・」

私はそんな速攻で運ばれて来たビールを見つめながら苦笑いをした。

「そんじゃ~乾杯!」

一気にビールを飲み干すと木村がメニューを見つめながらつまみの注文を始める。

それも昔と変わらない。

「えっと~ジャ~マンポテトとピザと・・とりあえずそんなもんで良いかな!」

「あと、ドイツソーセージの盛り合わせ!」

そう私が付け加えると木村が少しだけ驚いたように私を見つめた。

「なんだ・・随分、遠慮が無くなったな・・お前・・」

そんな木村の言葉に私は笑いながら・・

「いや・・少しだけ金持ちになったのさ!」と言った。

昔から注文を言うのは木村の係りであった。

最終的にはこいつが何時も金を払っていた。

それが解っている私は何時も自分が食べたい物を注文する事は無かった。

暗黙の上下関係が何時もあったのだ。

金を払う人間とおごって貰う人間の・・・

それは年をとった今でも変わらない・・

ドイツソーセージの盛り合わせ!2000円・・

当時の私達にとってそれは大金であった。

ソーセージ如きでそんな大金は払えない。

「何時か!俺がおごってやる!」

若い頃、ここに来る度に私は酔って木村に言ったものだ・・

「実はな!今日はおめでたい日なんだ!」

3杯目のビールを飲み干しながら少しだけ赤い顔をして木村がそう言った。

「おめでたい?何かあったのかい?」

「ああ・・仕事関係なんだけど・・都の指定の許可が今日、降りてね!

これで、一応、5年は安泰だよ!」

そう嬉しそうに木村は言った。

そうか!良かった・・だってお前はそんな紙切れのために俺を裏切ったんだもんな!

そんな・・紙切れのために・・いや・・家族の為か・・生きるために・・

テーブルの上には溢れんばかりの料理が並んでいた。

「お前!調子に乗りすぎだぞ!別に金は良いけど、食べきれないだろ!」

木村が少し切れ気味に私に呟く

私は笑いながら木村に言う・・

「今まで食べたいと思っていた料理を全部頼んでみたんだ!」と

「何だ?それ・・お前は相変わらず馬鹿だな!」

木村は楽しそうにそう呟く。

意外にも料理は二人で食べれてしまった。

そして最後に二人は同時に手を上げてボーイに言った・・

「カカオフィズを!」と

そのタイミングがあまりにも合っていたので可笑しくなって大笑いをして・・

カカオフィズを飲み干すと重い腰を上げる。

レジに向かい木村が財布から金を出すとすると私がそれを止める。

「今夜は俺が払うから・・」

そんな言葉に少しだけ木村が悲しそうな顔をする。

「何でだ?別に良いぞ!俺が払うのが恒例行事だろ??」

「いや・・今夜は俺が払うよ!今夜は・・」

「なんか、もうお別れみたいな言い方だな・・なんか・・」

「えっ・・違うよ!今夜が始まりなんだ・・俺とお前の本当の友情の・・」

意味深な顔を木村が浮かべる・・・そして

「そうか・・すまない!」木村がそう呟くと金を財布に戻し店を出た。

「お詫びはするから・・」

そう言われなんとも生めかし目つきで見つめられると心が揺らぐ。

お詫びの意味が理解できない程、子供でも無い。

ふと遠い過去のあやまちが思い出される。

こんな良い女を二度と抱ける事は無い!前もそう思ったがその時は意思が勝った。

しかし、一度、今日子を抱いた事により妻を裏切ってる私・・

一度も二度も一緒だろ!そんな言葉を悪魔が耳元で囁いた。

私は笑顔で美香の手を自分の手から引き離し呟く。

「悪いな!これでも妻子持ちでね!」と

美香は少しだけ驚いた表情を浮かべる。

今度、ばかりは私が落ちるとでも思って居たのだろうか?

「相変わらず不器用な男ね・・

でも未来に向けての良い選択だわ!」

美香は微笑みながらそんな意味不明な言葉を呟いた。

「木村の事は確かに恨んでいるよ!

でも、俺は多分、あいつを嫌いにはなれないと思う。

よく考えるとこの二年間、あいつと距離を置いていたのはあいつから逃げたかったのではない気がする。なんて言うんだろう?大人に成りたかったのかな?

上手く言えないけど・・

あいつが俺にやった事は確かに許せない事だよ!でも・・

俺はあいつに今までそれ以上の事をしてもらって来た気がするんだ!

これでチャラかな?今まで俺があいつにして貰った恩は・・

まぁ~あいつがまだ、俺と友達で居たいと素直に言ったらだけどね!」

そんな私の言葉に美香は少しだけ目を潤ませながら・・

「良いわね!少しだけ嫉妬するわ!二人に・・」と呟いた。

そんな話をしてると私達のテーブルに「カカオフィズ」が運ばれて来た。

ふと、カウンターを見つめると店長がVサインをしながら笑っていた。

どうやら、おごりのようだ・・

「これ、昔から大好きなんだ!甘くて美味いんだぜ!」

「あらそうなの!本当だ!甘くて美味しいね~」

美香は一口、その甘い酒を口に含むと笑顔でそう言った。

カカオフィズを飲み終わると私は席を立った。

「もう、帰るの?」

「ああ・・実はもう一人、決着をつけないといけない人が居てね!」と

私は笑顔で言った。

「あんたも忙しいわね!」美香は笑いながらそう呟き私を見送った・・

店を出た私はJRの蒲田駅に向かい歩き始める。

今日子に会いに行くために・・

時計を見ると12時を少しだけ回っていた。

JRの蒲田駅の西口に着いたのは12時15分であった。

今日子の働く店が入っているビルの前に私は立っていた。

「あれ!坂本さんじゃないですか?」

不意にそう声を掛けられ私は驚いたように振り返る。

茶髪の一人の若者が私に笑顔を向けている。

「聖夜・・・君」

私はそう呟いた。

「この辺にお住まいなんですか?いや~偶然ですね!」

彼は以前、歌舞伎町で会った時とはまるで別人のように優しい笑顔を私に向けた。

「えっ・・いや・・自宅は下井草なんだよ!

実は生まれがここでね!友人がこの辺に沢山居て・・

今夜は奴と飲み会でね!」

「そうなんですか・・いや~驚きましたよ!まさか、あなたと会えるなんて・・」

「それで、君は?何でここに居るの?」

「ええ・・実はこの前お話をした女がこのビルに入ってる店で働いていましてね!

会いに来たんです。実は、再婚の話を・・・

チビも居ますからね!やっぱり・・それに色々と考えたんですが・・

僕は今でもあいつの事を愛してるんです!僕が馬鹿だったんだと思います!

時間はかかると思うんですけど・・今夜が宣戦布告の記念日とでも言うんでしょうか?

僕、店を出すの止めたんです!地道に昼間の仕事を探そうと思っています。

歌舞伎町の店も今月で辞めようと思っています。

近いうちにあなたにご挨拶にお伺いするつもりだったんですよ!

その前にね・・あいつに・・今日子に会おうと思いまして・・」

私は聖夜の目をじっと見つめた。

嘘の無い・・澄んだ目をしていた・・そして希望に溢れる目を・・

そうか・・今日子と寄りを戻すつもりなんだ!

私は今日子にメールをした。

「今夜はありがとう!外で幸せの天使が君をお待ちかねだよ!

早く出て来なよ!」と

私はそう今日子にメールを送ると聖夜に言った。

「何時でも会いに来て下さい!私が出来る事はするから・・

チビちゃんを幸せにしてあげてください!そしてその女性も・・」と

そんな私の言葉に彼は真剣な表情で言った・・「もちろんです!」と