始まり・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

木村に電話をしたのは美香に会って数日後の事であった。

「よう!珍しいなお前から電話なんて!留守電大魔王を卒業か?」

私の突然の電話に木村は嬉しそうにそう呟いた。

「なんか、久しぶりにお前と飲みたくなってな!」

そんな私の言葉に木村は・・

「なんだ?奥さんとまた何かあったのか?」と心配そうに呟いた。

「嫁は相変わらず実家に戻ってるよ!何の連絡も無い・・」

離婚届が送られて来た事はその時、なぜか言えなかった。

連絡をして数日後の金曜日の夜、私は木村と飲みに行く事にした。

「何処に行く?シンフォニーで良いか?」

蒲田の改札で待ち合わせをして木村に会うと木村はそう呟いた。

「久々にあそこに行かないか?ドイツ居酒屋・・」

そんな突然の私の申し出に木村は少しだけ微笑みながら言った

「良いかもな・・久しぶりに・・」と

二人で京浜蒲田方面に向かい歩き始める。

店に着くと客は誰もいずにボーイと店長が暇そうに雑談をしていた。

「いらっしゃい!あれ!二人なの?珍しいね!」

店長は私と木村の顔を見ると嬉しそうにそう笑った。

席に着き、ボーイの少年が注文を取りに来る。

「とりあえず、ハーフ&ハーフを2つね!」

木村がそう彼に注文を告げるとまるで予知していたかのように直ぐにビールが現れる。

「いつも・・同じだからな・・」

私はそんな速攻で運ばれて来たビールを見つめながら苦笑いをした。

「そんじゃ~乾杯!」

一気にビールを飲み干すと木村がメニューを見つめながらつまみの注文を始める。

それも昔と変わらない。

「えっと~ジャ~マンポテトとピザと・・とりあえずそんなもんで良いかな!」

「あと、ドイツソーセージの盛り合わせ!」

そう私が付け加えると木村が少しだけ驚いたように私を見つめた。

「なんだ・・随分、遠慮が無くなったな・・お前・・」

そんな木村の言葉に私は笑いながら・・

「いや・・少しだけ金持ちになったのさ!」と言った。

昔から注文を言うのは木村の係りであった。

最終的にはこいつが何時も金を払っていた。

それが解っている私は何時も自分が食べたい物を注文する事は無かった。

暗黙の上下関係が何時もあったのだ。

金を払う人間とおごって貰う人間の・・・

それは年をとった今でも変わらない・・

ドイツソーセージの盛り合わせ!2000円・・

当時の私達にとってそれは大金であった。

ソーセージ如きでそんな大金は払えない。

「何時か!俺がおごってやる!」

若い頃、ここに来る度に私は酔って木村に言ったものだ・・

「実はな!今日はおめでたい日なんだ!」

3杯目のビールを飲み干しながら少しだけ赤い顔をして木村がそう言った。

「おめでたい?何かあったのかい?」

「ああ・・仕事関係なんだけど・・都の指定の許可が今日、降りてね!

これで、一応、5年は安泰だよ!」

そう嬉しそうに木村は言った。

そうか!良かった・・だってお前はそんな紙切れのために俺を裏切ったんだもんな!

そんな・・紙切れのために・・いや・・家族の為か・・生きるために・・

テーブルの上には溢れんばかりの料理が並んでいた。

「お前!調子に乗りすぎだぞ!別に金は良いけど、食べきれないだろ!」

木村が少し切れ気味に私に呟く

私は笑いながら木村に言う・・

「今まで食べたいと思っていた料理を全部頼んでみたんだ!」と

「何だ?それ・・お前は相変わらず馬鹿だな!」

木村は楽しそうにそう呟く。

意外にも料理は二人で食べれてしまった。

そして最後に二人は同時に手を上げてボーイに言った・・

「カカオフィズを!」と

そのタイミングがあまりにも合っていたので可笑しくなって大笑いをして・・

カカオフィズを飲み干すと重い腰を上げる。

レジに向かい木村が財布から金を出すとすると私がそれを止める。

「今夜は俺が払うから・・」

そんな言葉に少しだけ木村が悲しそうな顔をする。

「何でだ?別に良いぞ!俺が払うのが恒例行事だろ??」

「いや・・今夜は俺が払うよ!今夜は・・」

「なんか、もうお別れみたいな言い方だな・・なんか・・」

「えっ・・違うよ!今夜が始まりなんだ・・俺とお前の本当の友情の・・」

意味深な顔を木村が浮かべる・・・そして

「そうか・・すまない!」木村がそう呟くと金を財布に戻し店を出た。