僕が死ぬ日・・生まれる日 -32ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

そんなりさの言葉をかき消すかのように歌が始まる。

まいは少しだけ不甲斐ない自分に悲しそうな顔をしていた。

そして最後の曲が終わった。

舞台に整列する天使たちに多くのファン達が各々、大きな花束や可愛い熊のぬいぐるみを手渡していた。こんな時も貰える子と貰えない子の差は激しい。

沢山の花束とプレゼントを両手で抱えているのはりさやあいである。

そしてそれを羨ましそうに見つめるメンバー達の姿にこんな世界も大変なのだと私は深いため息をついた。

すると先程か会場の隅で隠れるように立っていた一人の男が大きな風呂敷包みを抱えながら舞台に走りよった。

開演前にまいのファンだと言っていた北海道から来た青年である。

「まいちゃん!まいちゃん!」

彼は必死に舞台の後ろの方に隠れるように立っているまいを呼んだ!

まいは驚いたように前に出て来る!そして彼の顔を見ると一瞬、驚いたような顔を見せる。

青年は嬉しそうにまいにその風呂敷包みを手渡した。

周りのメンバー達がそんな二人を好奇と嫉妬の目で見つめる。

ゴロッ・・そんな音を立てながら風呂敷から数個の物体が落っこちた。

何?そんな視線が一斉にメンバーから向けられる。

「ジャガイモ??ジャガイモだよね!これ・・」

メンバーの一人が笑いを必死で堪えるようにそう言った。

「今年のジャガイモは豊作で!出来が良いんだ!お前好きだろ!だから・・」

青年のそんな言葉にまいは引きつった顔をしながら呟く。

「どなたか知りませんが、ありがとうございます!これからも応援をヨロシクね!」と

そんなまいの言葉が意外だったのだろう。青年は少しだけ悲しそうな顔をした。

「イモ娘の田舎者にはベストなプレゼントよね!」

そんな心無い言葉が何処からか聞こえた。私は椅子から立ち上がり持参した紙袋の中か花束とプレゼントを取り出す。

「初ライブ!お疲れ様!まいちゃん!」

そう言いながら私は笑顔でまいに花束とプレゼントを手渡した。

まいはその場に似つかわしいプレゼントに嬉しそうに微笑んだ。

そんな彼女から逃げるように青年はゆっくりまた、暗闇に姿を消した。

まいは私に笑顔を見せながら目は彼の姿を追っていた。

そして誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

「ごめんね!健ちゃん・・」と

その言葉と同時くらいに幕が一度降り、メンバー達が姿を消した。

「アンコ~ル!アンコ~ル!!」そんな掛け声がお決まりのように叫ばれていた。

会場は大歓声に包まれ可愛らしいセーラー服を身にまとった20人の天使たちが舞い始める。

一応は予習はして来た。何度も投稿動画を見ながら彼女達のオリジナル曲も覚えて来たつもりであった。しかし、肝心のまいの姿を私はどうしても見つける事が出来なかった。

30過ぎのオヤジにとって舞台に立っている眩しい程の光を放つ彼女達の姿は全て同じに見えてしまうのだ。なんとも情けない。

「りさ~~!」

「あい~~~!」

ファン達の何とも重い声援が大音量の音楽に負けないくらいの大きさで会場を包み込む。

まいは何処だ?まいは!

私は必死でまいの姿を探した。私がやっとまいの姿を見つけたのはもう既に5曲目のバラードになった時で舞台の隅の方で自信なさげに必死に踊っている彼女をやっとの事、確認できたのだ。

5曲目のバラードが終わると一瞬の沈黙が走る。

舞台の照明は落とされて一人の女性にスポットライトが当たる。リーダーのりさである。

「皆!今日はありがとうね!来てくれてりさ!マジ!うれし~~よ!」

そんなりさの言葉にりさファンはまるで自分だけに言われているように大はしゃぎをする。

そんな彼らを私は冷静に見つめてしまった。

「そんじゃ!お礼に聞いて!ロックが静かに流れる夜・・メンバーの自己紹介も入れるからね!ファンの子は声援をヨロシクね!」

そうりさが言い終わると一瞬、再び舞台が暗くなり軽快なリズムの音楽が流れ始め再びりさにスポットライトが当たる。どうやらこの曲はりさのソロから始まるようだ。

「過ぎ去る季節の風を私は何回、感じただろう?その度にあなたを想い涙する。ロックが静かに流れる夜・・私はあなたに再び・・恋をした!」

そんなりさのソロが終わると一斉に19人の少女達の大合唱が始まった。

実にノリのよい曲に会場の興奮はマックになり多くのファン達が自分の存在をアピールするかのように曲に合わせて飛び跳ねていた。

間奏に入ると一人、一人、メンバーの自己紹介が始まる。

そして最後に・・

「今日!初ライブなの!まいちゃんで~~~す!皆!応援してあげてね!」

そんなりさの言葉の後にまいにマイクが渡される。

頑張れ!緊張して強張ったまいの顔を見つめ私は思わずそう叫んでしまった。

「ま・・まいです!よ・よろしく!」

きっと、そんな言葉がやっとだったのだろ?私は心の中で「良く頑張った!」と声援を送る。すると「も~ぅ!もっと何か言えないの?アピール不足よ!まいちゃん!」

りさが嫌味っぽくそう言った。

なんとも場違いなオヤジの存在に周りのファンの若者達が私を好奇の目で見つめるかと思っていたが、そんな事は無く周りを見渡すと私と同じ年ぐらいのオッサンの姿も目立つ。

15や16歳の小娘に30歳を超えたおっさんが黄色い声援を送るとでも言うのか?

私は何となく苦笑いを浮かべ会場に入って行った。

観客席も暗黙の了解でファン同士が固まる。まいのファンの輪を必死に探したがそれらしい集団を見つける事は出来なかった。

りさ、あい、のぞみ・・そんな団扇を手に持った男達がワクワクしながら楽しそうに話をしている。どうやらこの3人がこのグループのメインのメンバーらしい。

ふと、会場の隅に目が行く。そこに一人の大男がまるで人込みを避けるかのようにひっそりと立っていた。

どう見ても地元の人間ではない。何となく田舎の香がするそんな男。

もしも、私が悪徳キャッチセールスならば100%声をかけるに違いない。

「君は誰のファンなんだい?」

私は思わず彼にそう話しかける。

一瞬、彼は驚き巨体に似つかないような怯えた目をしながら私を見つめた。

「ま・・まいです!まいのファンです!」

まい・・ほぉ~仲間なんだ!私は嬉しくなり彼に言った。

「僕もなんだよ!今日が初ライブだね!まいちゃんの・・」

そんな私の言葉に少しだけ彼は安心したような表情を浮かべる。

「ぼ・・僕!北海道から来たんです!今日のために!まいの初ライブをどうしても見たくって」

北海道から?なんとも熱心なファンだ!そしてこんな山梨の地下グループが北海道にまで知られている事に少しだけ驚いた。

「そう!北海道から、それは、それは・・今日は一緒に応援しょうぜ!」

年は18歳位だろうか?大柄な体に不釣合いな程、可愛い目をした男であった。

そんな若者と30歳を超えた私が楽しそうに話をしてる。

これがファン同士と言うものなのか?ふと、自分が想像していた以上に芸能人のファンと言うものは面白く奥が深いものではないのかと楽しくなる。

「開演5分前です!」

そんなアナウンスが流れ会場の照明が全て消された。

目の前の舞台の内側を隠すように垂らされている幕の裏で若い女性達の楽しそうな声が何気に聞こえる。

「りさ~~愛してるよ!」

そんな一人のファンの叫び声をまるで開演の合図にしたように大音量の音楽が流れ出す!

「ラブ&ピース!待ってました!」

静かに幕が開かれ、そこに20人の天使が笑顔で立っていた。