僕が死ぬ日・・生まれる日 -33ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

8月に出版される原稿を書き上げると私は直ぐに次回作の構想を練り始める。

なんとも忙しい生活である。本当はこんなはずでは無かった。もっと、ゆっくりと時間が流れる生活を望んでいたのに。

山梨に行こう!それは今の私にとってしごく当たり前のように浮かんだ発想であった。

一度、まいのコンサートを見てみたい。そんな思いから私はまいのブログをチェックして彼女達のコンサート日程を調べた。

7月7日に七夕コンサートがある事を確認すると私はその日に合わせて自分の予定を調節して3泊4日の取材旅行に出発した。

山梨に着いたのは6日の午後4時頃であった。私は予約していたビジネスホテルにチェックインをすませるとまるで死んだように深い眠りについた。

孤独になりたいと願っていた。誰にも干渉されない生活を、そんな生活を望んでいた。

次の日の朝、フロントの係りの人間に話しかける。

「この辺に穴蔵と言うライブハウスはありませんか?」と

そんな私の言葉に彼は笑顔で「存じませんがお調べいたしましょうか?」と呟く。

彼に住所を告げると意外にもホテルからそんなに離れた場所ではなく歩いても行けるような距離であった。

「タクシーをお呼びしましょうか?」

彼は電話帳を見つめそう言った。

「地図を頂けませんか?時間はあるので散歩しながら歩いて行きます!」

数日前に私はまいのブログからその日のライブのチケットを予約していた。

何でも一応は営業ノルマがあるらしく丁重な御礼のメールと予約番号がまいか届いたのは昨日の朝の事で実は来ないのではないかとヒヤヒヤしていた。

12時30分開演だそうだ!私は遅い朝食を済ませると10時ごろにホテルを出る。

そして初めての山梨の町並みを楽しみようにゆっくりと歩き出した。

ライブ会場の穴蔵に到着したのは12時を少しまわった頃であった。

ライブハウスの前にはもう既に数人の若者達がたむろって居た。

私のイメージのアイドルのファンと言うのはパッピに鉢巻!紙袋!みたいなイメージがあったのだがどうやら、私のそんなイメージは10年ほど遅れているようで、その場に居た若者たちはその辺に居る普通の若者となんら変わりも無く普通の若者であった。

ただ、20人も居るアイドルグループである。自然とお目当ての女性のファン同士で固まりが出来るらしい。

私は取材がてら彼らの会話に耳を済ませる。

どうやら一番、大きな輪は乙女委員会のリーダーの「りさ」のファンの集団らしい。

趣味の悪い手作りのうちわに品の無いピラピラが付いていて「りさ LOVE」と書いてあるのを見るとなんとなく落ち着くのはなぜだろう?

「ご入場開始のお時間です!教室にお入りください!」係りの人間らしい男がそう呟いた。

私はその「まい」からのお礼のメールを読みながら苦笑いを浮かべた。

「まだ、委員会に入会して一週間の私です!そんな私にファン第一号になって頂きありがとうございます!今後も応援してくださいね!ヨロシクね!」

そうか!新人なのか?通りで誰も居ないと思った。ならばあの動画にも写ってる訳が無い!なんとなく安心をした。まだまだ・・自分の事をオヤジだと認めたくない自分がそこに居た。

毎朝、仕事に取り掛かる前に必ず「まい」のブログに何らかの足跡を残すようになった自分が正直、不思議で仕方が無かった。「おはよう!」と挨拶を入れる!もしも記事の更新があったらその内容に対してコメントを残した。それがファンと言うものだとなんとなく自分の中にある曖昧なファン真理がそうさせたのだと思う。

日が経つ毎に色々な事が解って来た。「まい」の芸名は佐藤maiだそうだ!何で名前だけ英語なんだ?それに芸名なのになぜに佐藤??それも後ほど判明した。まいの本名は「佐藤今日子」と言うらしい事を知った。だから芸名の苗字も佐藤なのか?

なんとなく自分がファンであるアイドルの色々な秘密を知った時の喜びがこんなに嬉しいものだとは思いもしなかった。

未だにまいのブログにコメント残す読者は私だけである。ただ、そんな状態も彼女が自分だけのアイドルであると何ともふざけた錯覚を起こさせる現状に申し分無い条件を満たしていたのかも知れない。

それは丁度、6月の終わり頃だと思う。私は8月に出版する新作の仕上げに追われていた。

会社を辞めて初めての作品である。ある意味、この作品で自分の作家生命が決まるぐらいの思いであった。神経の全てを作品に注いでいた。正直、「まい」の存在自体も忘れていたのかもしれない。

やっと小説を書き終わり私が原稿を担当者に渡した時には既に月が7月に替わっていたように感じられる。

燃え尽きたとはこのような状態をきっと、言うに違いない。私は朦朧とした心持でパソコンをネットに繋げた。まず、自分のブログをチェックする!そこには新作に対する私のファン達のコメントが未開封のまま放置されていた。私はそんなコメントを読みながら一つ一つ開封していった。ファンとは実に有難い人々だと読みながら涙がこぼれた。

そしてふと、「まい」の事を思い出す。あ~そう言えば私もファンではないか?

アイドル歌手、佐藤maiの・・

私は久々にまいのブログを訪問した。驚いた事に読者数は20人に増えており毎日のコメントも数人の人間がしている。なんとなく寂しい気持ちになったのはきっと、まいが自分だけのアイドルから皆のアイドルに何時の間にか変わってしまった事を感じてしまったからだろうか?私は思わず読者登録を退会しょうとまで考えた。しかし、きっと、そんなアイドルは存在しない!なぜなら多くのファンに支えられてこそ彼女の未来が開けて行くのだから・・そうだ!私もそんなファンに支えられて居る人間の一人なのだ。

地下アイドルグループと言う名前を私は初めて知った。

TVなどにあまり出る事をしないで撮影会やライブをメインに活動をするアイドルだそうだ!色々なグループが居るものだと関心をした。

昨今、秋葉原に劇場を持ちファン密着型アイドルなんて言われているグループがあるが、そんなアイドルが最近では流行なのだろうか??

しかし、彼女達はそんな全国レベルの密着型アイドルとは程遠い存在のアイドル集団である事は歴然で私のような素人でもそのレベルは一目で解った。

山梨密着型アイドルとは実に控えめなアイドルである。

い・・いや・・別に山梨を馬鹿にしてる訳ではないのだが・・なんとなくイメージ的に・・

歌も歌ってると言うので動画投稿サイトでグループの名前を検索してみる。

驚いた事に30件以上の投稿動画存在した。

その殆どが同じライブでの模様を曲ごとに投稿された物らしかった。

曲目を見ると殆どが他人の曲でオリジナルと呼べるのは2曲ほどしかない。

まぁ~そんなもの物なのか?動画を再生して思わず苦笑いを浮かべる。

まぁ~こんなものだろう・・それが正直な私の感想であった。

しかし不思議なものだ!こうして調べたり声を聞いたり動いている彼女達を見ているうちになんともワクワクした気持ちになっていく!

今は無名のアイドルでも絶対に僕が有名にしてみせる!

そんな大げさな事は別に考えないけど、ある意味、それと似たような妄想に取り付かれる。

あ~なるほど!アイドルなどに熱中するそんな人間達の心理が少しだけわかったような気がした。ある意味、現実版の育成ゲームのような物なのだろう!達成感なのか?

ならば、そこに愛はきっと存在しないのかもしれない。

あるのはこいつらを有名にしたと言う自己満足にも似た達成感だけに違いない。

自分も動画を見ながら観客たちと一緒に曲に合わせて「ヒュ~ヒュ~」とか掛け声を言ってみる!ある意味、こんなファン同士の一体感もファン心理なのかもしれない。

なぜなら、そんな一体感が実に気持ちがよく感じられたからだ。

私はなんとなくひとライブ見終わったかのような達成感に包まれながら静かにパソコンの電源を落とした。しかし、良く考えて見ると結局、その動画の中にお目当ての「まい」ちゃんは確認出来ず、オヤジの私にとってはセイラー服を身にまとった若い少女は全て同じ顔に見えるお粗末な結末に少しだけ不安と自分の年齢を感じずには居られなかった。

あ~アイドルを追っかける年でもないのかも知れないな~この企画には少し無理があるのかも知れない・・そんなその後、何度か同じ動画を見たがやはり「まい」を確認する事は出来なかった。

しかし、その謎は次の日に解明される事になる。それは「まい」本人から送られて来たメッセージから判明した。

「まだ、委員会に入会して一週間の私です!」そうか!一週間か!居るわけ無いよな!