僕が死ぬ日・・生まれる日 -31ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

安藤君にサインをしていると加藤が一人の少女を連れて現れる。

「まいちゃんです!先生!この子、今日が初ライブなんです!」

加藤に紹介されたまいは私と安藤の顔を見て少しだけ驚きの顔を見せる。

「先ほどは花束と高そうなネックレスを頂いてありがとうございました!」

まいはそう言いながら頭を下げる。

「あれ?まいちゃん!先生を知っているの?」

「えっ?先生?い・・いや!先ほど、花束を頂きまして!」

そんなまいの言葉に加藤は少しだけ驚きの表情を浮かべる。

「そう!もしかして先生?まいの事を見にいらっしゃったのですか?」

加藤のそんな言葉に私は特に何を答え訳でもなく知らん顔をしていた。

別に悪い事をしてる訳では無いが、なんとなく気恥ずかしい。

こんなオッサンがこんな若い子のファンだなんて思われただけで恥ずかしい。

「もしかして?おはぎさんですか?」

そうまいに言われて少しだけ嬉しく感じた。

「ええ、そうです!おはぎです。」

少しだけ照れたように私が答える。

おはぎ。そんなハンドネームで私はブログを書き初めてもう5年になる。

私の作家生活の基盤とでも言うべきそれは世界であった。

「そうですか!あなたがおはぎさん!小説は何時も読ませて頂いてるんですが、おはぎさんが、あの有名なベッキー先生とは知りませんでした!」

まいは少しだけ興奮気味にそう言った。

ふと、その前に彼女は本当に私の事を知っているのか?なんて疑問に思ったりもした。

「小説家の先生なら芸能人の方とかにお友達とかいっぱいいらっしゃるんですか?」

そんな言葉からまいの興味が私と言うよりも私の人間関係に強い興味がある事が感じられる。

「えっ・・いや!小説家と言っても駆け出しですから」

私はそう言葉を濁す。なぜならまいの視線が私を通り越して私の隣に立っている青年に向けられている事を感じていたからだ。

安藤君も何か言いたそうにまいを見つめている。

なんとも居心地が悪い空間であった。

「あの~小説家の先生なんですか!」

そんな居心地の悪い空間をぶち壊すかのように数人のメンバーが私を取り囲む。

きっと、あの加藤と言うプロディユーサーに言われて来たに違いない。

なんとも盛大な交流会になり、私は一躍、有名人のように扱われ思わず錯覚しそうになった。

もしかして・・僕はもてているの?そんなくだらない妄想に。

「この駄文書きのド素人が!」

そんな罵声を浴びせられながら持ち込んだ原稿用紙を床に叩きつけられる。

それでも編集者だと言うだけで私は深々と頭を下げて彼にアドバイスを求めていた。

きっと、今、私があの頃の原稿を彼に手渡しても、きっと、彼は言うだろう!

「先生!素晴らしい小説です!さずが天下のベッキー」だと

きっと、彼らにとって小説家の原稿などその程度の物でしか無いに違いない。

「先生!次回作かなんかの取材ですか?今度はアイドルが出て来る話ですか?

今度、うちにも一作、書いてくださいよ!頼みますよ!先生!」

佐々木はそう言った。

すると一人の髭面の男が佐々木に近寄ってくる。

「佐々木さん!お知り合いですか?」

「おっ!これは名プロディユーサーのご登場で!こちらは小説家のベッキー先生です!」

彼はほぉ~と驚きの顔を見せる。

「先生の陽炎は読ませて頂きましたよ!凄く良い話でした!私!乙女委員会の主催しております加藤と申します!」

加藤はそう言いながら私に名刺を差し出した。

「どうです?先生!うちの姫たちは?可愛いでしょ!特にりさは人気急上昇中で来月からローカルですがTVにも出るんですよ!」

私は別に興味も無かったので愛想笑いを浮かべながら軽く彼の話を流していた。

「あっ!そうだ!今日、初ライブの新人ちゃんが居るんです。まいちゃんって言うんですけどね!今、呼びますからちょっと待っていてくださいね!」

加藤はそう私に言ってその場を後にする。

何時の間にか私の横には例の北海道の青年が立っていた。

「処で君の名前は?」

私がそう彼に聞くと彼は自分の自己紹介をまだしていない事にやっと気が着いたようで

苦笑いを浮かべ言った。

「北海道の十勝から来ました!安藤健です!まいちゃん一筋!大ファンです!ヨロシクです!処であなたのお名前は?聞くと小説家の先生とか?」

「ああ・・僕も自己紹介がまだ、だったね!坂本誠と言います!ベッキーと言うハンドネームで小説を書いています。」

そう私が自己紹介をすると彼は少し深く考えたような素振りを見せ少し興奮気味で言った。

「も・・もしかして!「今夜も何処かの星の下で・・」の作者の方ですか?」と

私は少し照れながら「そうです!それも私の作品です!」と呟いた。

彼はいきなり鞄からボロボロになった一冊の文庫本を取り出す。

「ファンなんです!サインください!」

ファン・・ここにも中途半端な私のファンが居た。私の顔も知らないようなファンが

「皆~この後!委員会があるから参加ヨロシクね!」

委員会とはどうやらファンとの交流会のようだ。乙女委員会はメンバーが委員会と呼ばれる個別のグループを作っていてそのグループの集合体を乙女委員会と言うらしい。

それこそ昔で言う「美化委員会」や「給食委員会」などそんな名称の2名~3名のグループが5個ばかりあり、そしてその予備軍らしきまだ、委員会に入れないメンバーも居るらしい。アンコールの曲が終わっても殆どの客はその委員会に参加するようで誰も帰ろうとしなかった。一度、会場の外に準備の為に出され係りの人間の合図でまた会場に入る。

会場には委員会の数分のテーブルがありファン達は自分が好きな女性の居る委員会のテーブルに向う。

中でもりさとあいの所属する「美化委員会」のテーブルは盛況で暑苦しい若者達で溢れ返っていた。

私はまいを探した。しかし、まいはまだ、委員会に入れてもらえて無いようだ。

ならば、帰宅委員会でも作れば良いのにとふとくだらない事を考える。

行き場の無い委員会に入れない少女達はまるでボーイのようにファン達に注文を聞きながら飲み物や食べ物を運んでいた。

まいも例外ではなく。そんな彼女達に紛れながらボーイを勤めている。

仕方が無いので私は少し離れたテーブルに座るとタバコに火を付けた。

そんな私を頼るように私の隣に例のジャガイモの青年が静かに腰を下ろす。

「ジャガイモ!美味しそうだね!北海道のジャガイモはサイコーだよね!」

そう私が彼に話しかける彼は嬉しそうに微笑んだ。

「僕、なんかまいに迷惑をかけてしまったみたいで、悪い事をしてしまった。」

そんな彼の言葉に私は言った。

「別になにも悪い事なんかしてないと思うけど!ジャガイモ良いんじゃないの?

だって君がまいちゃんを思って選んだプレゼントなんだろ?それに重かっただろうに!

あれだけにジャガイモを持って来るの!きっと、彼女も感謝してると思うよ!

君の優しさにね!」とすると彼は少しだけ安心したように微笑んだ。

「あれ?ベッキー先生ではないですか?」

不意に背後から自分の名前を言われ私は焦ったようにふり返る。

「あれ、佐々木君だったよね!白鳳文庫の?」

そんな私の言葉に彼は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

佐々木は白鳳文庫と言う小さな出版社の編集者であった。

現在は殆ど付き合いは無くなったが私がまだ、小説を書き始めた頃に何度か原稿を持ち込んだ事があった。その時、めんどくさそうに私の原稿をつき返したのがこの男である。

だから別に親しいわけではない。ある意味、あまり良い印象を私は彼に持っていない。

「覚えて居て頂き光栄です!ベッキー先生!今日は珍しい所で?」

そう佐々木は呟きながら私を好奇の目で見つめた。