僕が死ぬ日・・生まれる日 -30ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

次の日、バツが悪そうに安藤君は私に言った。

「昨夜は申し訳ありませんでした!」と

私は別に気にもしてないように彼に言った。

「そろそろ帰りましょうか?」と

二人で東京に向かい羽田に着いたのはお昼ごろで空港で昼ごはんを済ませお決まりの

東京土産を彼に数点持たせ私は彼を見送った。

自宅に帰ったのは午後の6時を少しだけ過ぎた頃であった。

今年で4歳になる娘が笑顔で私を迎えてくれた。

「パパ!お帰り!」

そんな娘の笑顔を私は愛しく思い。私の生きるかてだと感じている。

妻の今日子は無愛想に私を迎え興味無さそうに母親と雑談をしていた。

妻がパートに行き始めた事を知ったのはその日の夜であった。

私への報告は何時も事後報告で私の事をよく妻と妻の親は大黒柱などと都合の良い時だけ

言うが実際は私は娘の父親と言う名のお飾りでしかない事は自分自身が一番、解っている事であった。

毎月、私の口座から30万円づつ妻の口座に自動的に振り込んでいる。

一度に渡してしまうと使ってしまうから!なんて私は妻に冗談話のように言ったが実はそんな簡単な話ではなく実は別れた時の私なりの自衛手段であった。

正直、この女に1億以上の金を渡すのは勿体無いと思っていたのだ。

人間の生きる原動力は何かと聞かれたら、私はきっと、こう答えるだろう。

「恋をする事だ!」と

人間の生きるエネルギーは愛だと思う。相手を思う気持ちが人間が生きる原動力になり

人間は生きて行けるのだと思う。

しかし、何時までもダラダラと違う人間を愛していても仕方が無いので人間はある時期になると一生涯、愛せる相手を探し始める。そしてその相手が見つかると結婚と言う名の儀式をして神の前で誓うのだ!

「もう、この相手以外は愛しません!」と

神はそんな二人を祝福し永遠の幸せを送ってくれる。

本来、結婚とはそんな物だと私は思っている。しかし、人間とは実に愚かな生き物で勘違いをするのだ!この相手を一生愛するなんて勘違いを・・

一番、不幸なのはそんな勘違いに気がつくことなく結婚と言う儀式を行ってしまった人間である。そんな二人は一生涯、愛してもいない相手を「愛してる」と錯覚しながら自分の人生の原動力に変えて行かなければいけない。

後戻りは出来ない。一度、神に誓ってしまったからには・・

戻る事はきっと、大いなる苦しみを意味する事なのだから・・

ふと、妻の顔を見つめ考える。私はこの女を本当に愛してるのか?と

「魚はやっぱり北海道の方が美味しいです!」

北海道産「ホッケ焼き」なんて物を気を利かせて頼んだがどうやら本場の味にはかなわないようであった。

ビールの中ジョッキを立て続けに2杯ほど彼は飲むと完全な酔っ払いに変身を遂げていた。

「僕とまいは幼馴染なんです!十勝の山奥の小さな村で生まれました!周りは何にも無くってジャガイモ畑ばかりで本当のど田舎です!そんな中で僕はまいと高校まで同じで何時も一緒に学校に通っていた。」

ふと、彼はいったい何歳なのか?疑問に思う。まいのプロフィールでは彼女は18歳になっている。ならば同級生の彼も18歳と言う事になるのだが巨体で赤ら顔の彼を私はどうしても18歳に感じる事は出来なかった。

「失礼だけど君、年齢は??」

「えっ?あ~今年で25歳になります!」

「そう・・25歳なんだ。」

7歳もさばを読んでいたらしい。まぁ~芸能界なんてそんなものか?それに確かに25歳のアイドルは新人にしてはきつい物があるのかも知れない。

「あいつ、昔からアイドルになる事が夢でね!高校を卒業して町の農協に就職したんだけど、どうしても夢を諦めきれないって23の時に東京に上京してね!

あいつ美人だと思いませんか?あいつ・・村一番の美人なんですよ!村、一番の!」

目が完全にすわっている。かなりやばい感じである。

「そう!美人だもんね!だから僕もファンになったんだよ!美人だから!」

そんな私の言葉に安藤君は少しだけ顔をしかめた。

「あいつの外面ばかり見てるあんたには何も解らないだ!あいつの心を見てないあんたに

あいつを語る資格なんか無い!」

あまりにも真剣な表情で酔っ払っている彼を少しだけ羨ましく感じた。

「安藤君!でもそんな世界で生きると言う事が芸能人になると言う事なんだよ!

きっとね!」

そう私が諭すように彼に言うと彼の顔が見る見るクシャクシャに変わり小さな目から涙が溢れ出す。

「本当は俺の嫁になるはずだったんだ!本当は・・」

そう最後に呟くと彼は深い眠りに落ちて生きそうになる。

焦った私は急いで彼を起こすと会計を済ませタクシーに乗り込みホテルに向った。

「まい・・まい・・」

私の肩にもたれながら巨漢の男がそう切なそうに何度もうわ言を繰り返す。

人間の苦しみは100%、愛だと思う。愛する事で、叶わぬ愛を求める事で人は苦しみを背負うのだ。それはきっと若いとか年を取ってるという事は関係がない

。そんな事を彼の寝顔を見つめ思っていた。

2時間程の委員会は無事に終わりの時間を迎えようとしていた。

安藤君はその間、終始、無言でただ、まいを見つめていた。

わざわざ北海道から出て来たと言うのになんとなく哀れと言うか情けない男と言うか

純情と言う言葉は知っているが本当にそんな人間がいるのか見た事も無い。

しかし、私はその時、初めてそんな人間を見た気がした。

「おはぎさん!これからも応援をヨロシクお願いします!」

そう言いながら最後にまいは自分のメールアドレスと携帯番号が入った名刺を私に手渡した。きっと、それもプロデューサーの加藤の指示なのだと思った。

こんな私に絡んでも何も出ては来ないのに・・

委員会は無事に終了してりさとあいは課外授業だと言って薄暗くなった夜の街に繰り出す準備をしている。それはまるで多くの多くの手下を従えた女王様のようであった。

委員会が終わればあっさりしたものであった。乙女委員会のメンバー達も蜘蛛の子を散らすようにそそくさと消えて行く。まいも例外ではなく終了の合図と共に姿を消した。

もしかしたら、安藤君と話しているのか?そんな密かな期待を持って辺りを見渡したがそこに居たのは先程から変わらない何とも心細そうな顔の彼一人の姿であった。

「君はこれからどうするんだい?」

そんな私の言葉に彼は弱々しく答える。

「内地は怖いから、もう北海道に帰ります。」

いったいどんな思い出が彼に心に刻まれたのか?ふと、それを考えると悲しくなる。

「僕は明日、東京に帰るんだ!羽田だろ?良かったら今夜、こっちに一泊して一緒に帰らないか?」

そんな私の申し出に彼は複雑そうな顔をした。

「すいません!お金の持ち合わせがあまり無いんです!ホテルに泊まるお金が」

それが本当だったのか?それとも言い訳だったのか私には理解できなかったが

「それなら私の部屋に一緒に泊まれば良いよ!君さえ良ければだけど!」

そう私が言うと彼は笑顔で答えた。

「そうですか!なら、お願いします!めったに内地なんか来れないから・・」と

「今夜はおごるよ!一応、それくらいの稼ぎはあるから!夕飯を食いに行こうよ!」

私達二人は、ゆっくりとライブ会場を後にした。名残惜しそうに彼は会場を見つめた。

きっと、まいちゃんの何らかの言葉を期待しそれを望んでいたに違いないのに。

二人で繁華街に繰り出し一軒の居酒屋に入る。

「僕、こんな店に入るの初めてで・・」

少しだけ緊張した顔で彼が私に助けを求めるように言った。

一応は気を使い大手の居酒屋チェーンの店を選択したのだが、それもあまり意味が無かったようだ。「適当につまみは頼むから!飲み物はビールで良いかい?」

そんな言葉から二人だけの打ち上げが始まった。