僕が死ぬ日・・生まれる日 -29ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録


お腹に子供が居る?それは信じられない言葉であった。

子供が居ると言う事はそれないりの男と女の関係であると言う事に間違いはないはずである。子供が居る?あんた・・馬鹿にも程があるよ!私はそう彼に向かい言ってやりたい気持ちでいっぱいであった。

「妻が妊娠してると言うのは確かなんですか?」

そう私が彼に聞くと横から妻がそっと真新しい母子手帳を差し出した。

父親名「坂本誠」

そう書かれた母子手帳の表紙の文字がなんとなく生しい。

「本当なのか?」

私は確認するように妻に聞いた。

妻は何も言わずに静かに頷いた。

私は上着のポケットからタバコと携帯用の灰皿を取り出した。

そして静かにタバコに火をつける。

タバコの煙が一本、まるで天に帰る竜のように上に向かい上った。

「家ではタバコは吸わないでって約束したでしょ!」

そんな妻の言葉に私は少しだけ微笑み言った。

「一度、やってみたかったんだ!良いだろ?どうせ明日から他人なんだから・・」と

そう呟いた瞬間、不覚にも私の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちてしまった。

私のはその涙を二人に気づかれないようにそっと拭った。

この涙の意味はいったい何だったのだろう?私は二人の顔を見つめながら考えていた。

そして答えを見つけた。

あ~そうだ!安らぎの涙なのだ!束縛から解放された安らぎの・・

そして最愛の娘との別れを悲しむ涙なのだと悟った。

私はタバコの火を消すと彼に言った。

「夕飯は食べたかい?良かったら今から飲みにでも行かないか?おごるよ!」と

彼は少しだけ驚いた顔をして妻の今日子を見つめた。

そしてまるで父親に叱られ母親に助けを求める幼稚園児のような顔であった。

私はそんな彼の顔を見つめ、こんな男に自分の妻を寝取られた不運を呪った。

できれば私が脱帽するくらいの男であって欲しかった。私は素直にこの現実を認めるために。

「悪いが妻と少しだけ二人で話をさせてもらえないか?」

そう私が彼に言うと彼は立ち上がり部屋を後にした。

まるで時間が止まったように感じた。

5年間も一緒に暮らして来た女なのに、二人になった瞬間に時間は止まった。

「理由を聞かせてくれないか?今後の参考の為に・・」

そう私が呟くと妻は少しだけ辛そうな顔をした。

これほど自分がこんな突然の出来事に冷静で居れる事が不思議であった。

一回りも年が離れた男に妻を奪われ子供まで作られ、そんな状態で私は発狂もせずに冷静にそんな若者に対応している。

なぜか?なんて妻の顔を見つめ考えていた。答えは一つしか無かった。

それは私自身もそれを望んでいたのだ。そして5年の間、何度もこんな光景をシュミレーションして来たのだ。そう、自分が悪者にならなくても良い。そんな場面を・・

「きっと、愛していなかったのね!あなたの事を!神様もたまには過ちを犯すのだと思う

きっと、運命の赤い糸を結び間違えたんだわ!」

愛して居なかった!正直、この言葉を聞いた瞬間にもう一度、涙が出た。

「あの男と何時から付き合って居たんだ?」

「えっ?そうね~半年も前かしら?ネットの掲示板でね知り合ったのよ!

出会って1ヵ月後ぐらいに食事に誘われてね!興味本位で行ってみたの

彼を一目見てね!思った。私はきっと彼を好きになるって!

これでも一応は悩んだのよ!葵も居るしね!葵の父親はやはりあなた以外には居ないもの

でもね!気がついてしまったの!私ね!本当はあなたを愛していなかったって事に・・

そして今まで付き合って来た男、全員・・愛してなんか居なかったって!

初めてなの!こんなに男を愛しいと思ったの!」

初めて好きになった男か・・初めて・・・

「お前!わざと子供を作っただろ??何でだ?」

「あら、鋭いわね!あなたと別れる決心をするためよ!自分が罪深い女だとこれから一生悔いて行くため!私は家族の幸せより女の幸せを選んでしまった。だから・・」

「奇麗事だな!あんな若い男にそんな理由で大きな荷物を背負わせたのか?」

「荷物?子供は荷物ではないわよ!生きる希望よ・・男と女が二人で生きて行く希望!」

私は呆れたように妻の顔を見つめた。

「お前の両親も承諾してるのか?」

そんな私の言葉に妻は小さく頷いた。

「そうか!解った。離婚しょう!」

そう私が言った瞬間に妻は一枚の紙を引き出しから取り出した。

すでに自分の欄には署名と印鑑が押されている。用意が良い事だ。

「これはまだ、書けないよ!」

そんな私の言葉に妻は少しだけ顔をしかめる。

「何で?」

「えっ?だって全てが終わって居ないから・・」

私はそう言うと立ち上がり自分の部屋に向かいボストンバック1個分の私物を詰め込んだ。

「裁判所で会おう!世の中はそんなに甘くないんだぜ!」

そう元妻に言うと静かに玄関を開いき家の外に出た。




靴を脱ぎ私はリビングに向う廊下を静かに歩き出す。

リビングに繋がるドアをゆっくりと開くとそこには妻と見知らぬ男が一人・・

私は不覚にも彼に深々と頭を下げて挨拶をしてしまった。

しかし、彼は無反応でただ、一点を見つめていた。

なんて失礼な奴だ!まだ、23か4位の若造のくせに!年上の私が挨拶をしたと言うのに無反応とは!普通はお前の方から挨拶をするのが常識だろ!

そんな憤りを感じながら私は妻に話しかける。

「お客さんだったのか?こちらどちさん?」と

妻は少しだけ困惑したような顔をした。そして一度、私ではなく彼の顔を見つめた。

意を決したように彼が私を見つめた。

言わないで!言わないでくれ!何を言おうとしてるのか解らないけど!言わないで!

私はそんな彼の真剣な眼差しを見ながら心の中で何度もそう叫んだ!

「旦那さん!奥さんと別れてください!」

はっ?お前・・何、言ってるの???

私はなぜか苦笑いを浮かべてた。なぜにその時、笑ったのか正直、自分でも解らない。

しかし、人間は理解できない事にぶつかった時にはなぜか笑う。

「失礼ですが、あなたのおっしゃっている意味が解らないのですが?」

そう私が彼に言うと彼は再び同じ言葉を呟いた!

「お願いです!奥さんと別れてください!」

私は焦りながら周りを見渡し娘の葵を探した。こんな話を娘に聞かれてはいけない!

とっさにそう思ったからだ!そんな私の心中を察したのか妻が言った。

「葵は母がデパートに連れて行ったので居ないわよ!」と

私は少しだけ安堵の表情を浮かべた。しかしその顔は直ぐに怒りの表情に変わる。

「あんた!名前は?」と私が訪ねると

彼はゆっくり怯えながら名刺入れから自分の名刺を差し出した。

「山田貿易 営業一課 金田 純」

山田貿易?一流企業ではないか?そんな会社のそれもまだ20代の若造が何を言っている。

「金田さん!確認してもよろしいですか?あなたの言っている言葉の意味について?」

そう私が彼に言うと彼は無言で頷いた。

「別れてくれとは離婚してくれと言う意味ですか?」

そんな私の言葉に「そうです!離婚してください!」と彼は先程とは比べ物にならなくらいに堂々と言った。なんだ?こいつ開き直ったのか?勘弁してくれよ・・マジで・・

「金田さん!理由を聞かせて頂けませんか?見た所、あなたはまだ20代でしよ?なぜにまたこんな33の女を・・」そう私が彼に訪ねると彼は私を睨みながら言った。

「今日子さんを愛しています!そしてお腹には僕の子供が居ます!」

私は彼の言葉を聞きながら地獄の底に音を立てながら落ちて行くのであった

不運と苦しみは突然にやって来る!

そんな言葉を昔、ある小説家が言っていた。しかし、私から言えば、不運も苦しみも突然になどやっては来ない!それは必然的に訪れるものだと思っている。

それは妻がパートの仕事を始めて一ヶ月後の事であった。

その日は妙に蒸し暑く目覚めが悪かった。私は恒例の家族勢揃いの朝食を済ませると逃げるように自宅を後にした。何となくいや~な予感のする朝であった。

その予感を現実の物にするかのように玄関を開けるといきなり真っ黒な猫が3匹、私の目の前をのんびりと歩いていた。そしてしばらく歩くと住宅街に不似合いな霊柩車がさまようように走り去る。これは・・まずい!何かきっと悪い事があるに違いない。

私は結構、迷信深いのだ!毎朝、同じ行動をとらないと不幸な出来事が起こる気がして仕方が無い。電車も何時も決まって右側の座席に座る。靴下も必ず右から履く。靴も服も全て右から・・たまにボォ~として左からなんて履いてしまった日は一日中、来る筈も無い不幸な出来事に怯えている。

そして極めつけは2回にわたる妻からの電話であった。日ごろ、妻はめったに私に電話などして来ない女である。たまにかかって来る電話は大体、不幸と苦しみを私に運んで来た。

「あなた!今夜は何時くらいにお帰りになりますか?」

そんな同じ内容の電話が午後の3時と5時に2度かかって来た。

私は電話をとる度に不安な気持ちになった。

無事に今日を乗り切れますように・・そう神に祈りながら。

「6時過ぎには帰れると思う!」

そんな妻の問いに私は恐怖しながらそう答える。

その日は編集社からの電話にも殆ど出る事は無かった。こんな日の電話は大体、ろくな内容では無いからだ。無事に何事も無く自宅の玄関の前に着いたのは5時55分頃であった。

そして最後の難関が私を待ち受けていた。

妻に会って何事も無ければ一日が無事に終了する。きっと・・

私は一度、玄関の前で深く深呼吸をした。

そして1度、神様に祈る。

「どうか何事もありませんように!」と

神様は笑顔で言った。「大丈夫だ!」と

私は少しだけ震える手の平に力を入れると玄関のノブを回した。

「ただいま!」

そう私が言っても何の反応も無い。何時も笑顔で私を出迎えてくれる娘の嬉しそうな声も無く家の中はシィ~ンと静まり返っていた。

靴を脱ごうと玄関に入った私はそこに見覚えない物体を見つけてしまう。

真新しいきちんと揃えられ置かれている革靴。

その靴を見た瞬間!私は神にもう一度話しかける。「大丈夫って言ったよね!あなた」と