僕が死ぬ日・・生まれる日 -26ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「どうでした?佐藤さん?」

ライブハウを出て歩きながら私は友美にそう聞いた。

「なんか、凄いですよね!圧倒されました!」

「佐藤さんはどなたかお好きな芸能人の方はいらっしゃるんですか?」

「あ~どうだろ?多分、居ないと思います!私って結構、現実派なんでしすよ!どうも雲の上の人間に興味が湧かない!」

「実は僕もそうなんです!なんでまたこんな小説を書こうと思ったのか?実に謎です!」

「何ですかそれ?ご本人の口から出た言葉とは思えませんね!これからそんな世界を描こうと言う大作家が。」

「小説なんてそんなものですよ!そんなね!」

二人で夕暮れの山梨の町を歩いていた。

「僕は何の取り柄も無い男です。でも体は健康だし女遊びもギャンブルもしません!

君を養うぐらいの力はあるし小銭も少々持っている・・」

ふとそんな言葉を思い出す。

六本木のとあるレストラン。私は今日子の誕生日を祝うべくグルメ雑誌を片手に店を選び不慣れな行動を取っていた。

「僕は今日子さんを愛している!もう二度と誰にもこんな言葉を恥ずかしくて言えません!二度と誰にも言わないから僕と結婚してください!」

店にお願いして作ってもらったデザートのバースデーケーキが数本のローソクを灯しながら到着した後の話。ケーキにはチョコレートで「ハッピーバースデー今日子!」と書かれていた。

私はポケットから安物の指輪が入った小さな小箱を取り出し今日子の手にそっと握らした。

今日子は嬉しそうに微笑み「私を一生幸せにしてください!」と呟いた。

もう6年も前の話である。しかし、私がその時、言った今日子への愛の言葉は全て嘘であった。私は当時、今日子以外に旦那の居る女と付き合っていた。パチンコや競馬、ギャンブルと呼ばれる全ての事に今日子と会っていない時間を潰していた。もちろん貯金など一銭も持っていなかった。

嘘から始まった愛。しかしそんな愛でも時間がその偽りの愛を本物にしてくれると私は錯覚をしていたのだ。今日子は体の弱い女であった。何時も頭が痛いと慢性的な偏頭痛に悩まされていた。付き合っていた頃、それは私にとって心配の種であった。何時からだろう?

その心配が苦痛の種に変わってしまったのは?何時からだろう・・

結婚して2年もすると頭が痛いと悲痛な顔をしてる今日子の顔を見る度に私は心の中で呟いた。貧乏くじを引いちまったな!と

もしも、偽りの恋ではなく本物の恋だったのならこんな今日子の現状も永遠に私の心配の種になっていたに違いないのに・・

ある意味、今日子は不幸な女なのかもしれない。そして私はきっと、愚か者である。

偽りの心から始まった愛は所詮は嘘なのだ。だから人間は結婚をする時に神に誓うんだと思う。自分の心に嘘はありませんと神に誓うのだと思う。

私があの日、神に誓った時にきっと、神様は渋い顔をされたに違いない。それでも結婚と言う行為をお許しになったのは、それはきっと罰だったのかもしれない。

それは大いなる愛に満ちた神から私に送られた罰だったに違いない。

ホテルにチェックインを済ませ各自の部屋に向う。私には何とスイートルームが用意されていた。私はそんな豪華な部屋を見渡しながら「本間の奴、マジで一夜のあやまちを期待していたのでは?」なんて苦笑いを浮かべる。

しばらくして二人で夕食を食べるために夜の街に向う。夕食の予約をしていないのも何となく不思議であった。

フロントマンのお勧めの居酒屋に向かい「とりあえず!生ね!」と一息ついたのは夜の7時を過ぎた頃であった。

なんとなく不思議な時間が流れた。なんともそれは表現できないような不思議な時間・・

不意に今日子の電話が鳴った。

一瞬、彼女が顔をしかめる。どうやら旦那からの電話のようである。

「えっ!大丈夫よ!先生?ダメよ!気難しい人なの!挨拶なんて要らないから・・」

一緒に居る人間が本当に女なのか確認でもするために電話をして来たのか?何とも嫉妬深い男である。それは愛ゆえの嫉妬なのか?それとも違う意味の嫉妬なのか?

私は益々、二人の関係に興味を抱いた。

そんな事を考えて居ると私の携帯が鳴った。相手は本間である。

「何だ?今、丁度、パンツを脱いだ所なのに!タイミングの悪い女だな!」

私が無愛想にそう言うと本間は半分泣きそうな声で言った

「だから!ダメだって言ったでしょ!あいつは人妻なんだから!先生は獣ですか!」と

こいつをからかうのは実に面白い。根がきっと純情なのだ!ふと北海道の安藤君を思い出す・

「今から行きます!山梨に!絶対に行きます!羽田行きの最終に乗ります!」

あまりにも真剣に本間が言うものだから私は嘘だと言うタイミングを逸してしまうくらいだ。「おいおい・・冗談だよ!勘弁しろよ!もう面倒な女は御免だ!」

面倒な女!そう私の目の前に座っている女は完全な面倒な女である。そして今、私の耳元で泣きながら叫んでいる女も十分過ぎる程、面倒な女に違いない。

どの位飲んだのだろう・・時計は10時を刺していた。

「そろそろ帰りましょう!」

そう私が言う友美はふらついた足でゆっくりと立ち上がった。

会計をしょうとするが足元が落ち着かない。完全なる酔っ払いである。

「良いよ!僕が払っておく!」

そう私は言うと会計に向った。

2時間程のドライブが始まった。車の中で友美は実に楽しそうであった。笑顔を絶やさず鞄からお菓子を出しては私に勧めた。

出版社が用意をしてくれたホテルに着いたのは10時を少し過ぎた頃であった。チエックインは1時からだそうで事情を話し車だけ駐車場に置かしてもらう。

乙女委員会のライブは前回と同じライブハウスで行われる。12時30分の開演だ。

私は友美は車を降りるとライブ会場まで散歩がてら歩いて向った。

「なんか!デートみたいですね!本間の悔しがっている顔が目に浮かびます!

実はね!あの子には秘密ですけどあの子、先生の昔からのファンだったんです!

それもベッキーではなく!おはぎのね!」

私はそんな友美の話を意外そうな顔をして聞いていた。

私はおはぎと言うハンドネームでブログ小説を長く書いている。そしてそのおはぎがベッキーである事はほんの一部の昔からの読者しか知らない。

中途半端な人気のブログ小説のオーナーぐらいの位置づけなのだ。

「へ~それは初耳だな!あいつはそんな事を一度も言った事は無いから!」

「そうでしよ!それが真のファン心理ってものですよ!だってあの子!先生の担当者になれた時に泣きながら電話して来たんですよ!私の所に!憧れの王子様に一歩近づけた!なんて言いながら・・」

王子様??俺の事??王子様ね~こんなオッサンが?王子様?

「それは!今度、彼女におはぎのサインでも贈呈しないとね!」

「そうしたら飛び跳ねて喜びますよ!ベッキーのサインより貴重品です!」

どの位歩いたのか?途中の喫茶店でお茶を飲みライブハウスに到着したのは12時を少し過ぎた頃であった。私は安藤君の姿を探した。しかし、残念な事に彼の姿は見つける事は出来なかった。その代わりに前回のライブでは見かけなかった「まい LOVE」と書かれた団扇を紙袋に入れたファンの姿を数人見つける。

良かったね!まいちゃん!ファンの子が増えている。私は自分の事のように嬉しく感じた。

12時30分になり会場に入場した。周りはむさ苦しい男ばかりである。

そんな中、友美の存在は妙に浮いていた。数人の男達が友美に近寄り言った。

「何時デビューですか?乙女委員会の準メンバーさんですよね!」

そんな若者の言葉に友美は困ったような表情を浮かべる。

「こんなおばさんによくもまぁ~あんな冗談を言えるわよね!新手のナンパかしらね!」と友美は迷惑そうな顔をしていたがまんざら悪い気もしていなようであった。

ライブが始まった!一斉に歓声が上がる!その中に少数ではあるが「まい」への声援も聞こえて来た。

中盤の委員会の歌に入る前に新しい委員会の紹介が委員長のりさから行われた。

TV委員になりました!まいちゃんとゆりちゃんです!皆!これから応援ヨロシクね!」

数人の男達が団扇を大きく上に上げて声援を送る。

「どうも!まいです!この度、TV委員に任命されましたよ~皆さん!ヨロシクね!

あと、まい達には自分達の曲が残念ながら無いんですよ~だからこの場でサプライズ提案なんですが、誰か素敵な詩を書いて頂けませんか?私のブログはファンの皆なら何時も要チエックしてくれていると思うけど!そこで募集しちゃんで!皆!ヨロシクね!」

そうまいが笑顔で言うと会場の興奮はよりヒートアップした。

「先生も書いてみたら!プロだけど良いんでしょ?」

友美が笑いながらそう言った。

「でも、小説と歌詞は違うだろ!無理!無理!そんなの!」

「あら、新たなジャンルの開拓になるかも知れませんよ!挑戦してみてくださいよ!」

「なら、もしも採用されたら何かご褒美をくれますか?」

「あらこんな私のご褒美で良いのかしら?」

「ええ・・なら、一度デートしてくれませんか?本間には内緒ですよ!あいつに内緒で!

まぁ~多分、無理だと思いますけどね!」

そう私は冗談ぽく友美に言うと彼女は楽しそうに言った。

「ならそうしましょ!それで手を打ちましょう!」と

ライブが終わり恒例の委員会が始まる。今回はまいも無事に委員会を持っている。

私と友美はTV委員会のテーブルに向った。

「おはぎさん!来てくれてありがとうございます!」

まいは私を見つけると笑顔でそう言った。

「ああ・・どうも!それにしてもTV委員会ってそんなの学校にあったか?」

「ほら!道徳の時間にTV見ませんでしたか?その時にTVの電源を入れる係りですよ!」

なんとも!そう言えばそんな係りがあったとふと思い出す。

「そういえば!あれだろ!口笛吹いて~♪空き地に行った~♪って歌のテレビだろ?」

そんな私の話にまいは少し首を傾げる。どうやら少し、いや大分、時代がずれているようだ!しかし、友美はと言うと懐かしそうに私の後に続いて歌っていた。

「可愛らしい女の子ね!あの子がまいチャンなんですか?」

「えっ!あ~そうです!可愛いでしょ!でも私、ロリコンではないのでその辺、誤解が無いように!」そんなくだらない話。でもなんとなくそんなどうでも良い話が楽しくって・・

どうでも良い話をそう言えば妻の今日子と出会った頃もよく真剣に話をしていたとふと思い出す。

何時からだろう?どうでも良い話をしなくなったのは?

いや!正確には出来なくなったのはと言った方が正しい・・

どうでも良い話とはきっと男と女の間のバロメーターに違いない!きっと、どうでも良い話が出来なくなった瞬間!二人の関係はもしかしたら他人になってしまうのかも知れない。

「おはぎさん!さっきの歌詞の話だけど良かったら書いてもらえませんか?」

そうまいは笑顔で私に言うとファンの輪の中に消えて行った。

「冗談は止めて下さい!本気にしますよ!」

本間は少し怒ったような口調で私にそう言った。

「いや!本当だよ!来週の日曜日、時間はあるか?山梨にドライブにでも行かないか?

君さえ心の準備があるのなら泊りがけでも良いぞ!」

私が笑いながらそう言うと本間はより荒い口調で怒鳴る。

「だから~~あまり30女をからかわ無いでくださいよ!」と

「いや!すまん!すまん!実話ね!この前の打ち合わせでも話したように次回作はアイドルとあっさんの恋愛話にしょうと言っただろ。その参考にしてるアイドルの子のライブがあるんだ!君も参考の為に見ておいた方が良いと思ってね!」

「なるほど!そんな話なら泊まりで行きましょう!ホテルはうちで用意させて頂きます!

私も徹夜一週間目で発狂寸前なんです!勝負パンツをご用意してお供させて頂きます!」

屈託の無い笑い声が受話器の向こうから聞こえた。

なんとなく心が安らぐ笑い声・・

私は何度、この女の笑い声に救われただろう。

「そうか!なら日曜日に迎えに行くから三島の駅で待ち合わせよう!詳しくはまた後で連絡をするよ!」

私はそう本間に告げると電話を切った。

本間からその連絡が来たのは金曜日の夜の事であった。半泣き状態の本間は少しだけ酔っていた。

「しぇんしえ~~!しぇんしえ~~!ごめんなさい!」

一体何事だと私は少しだけビビリながら声を発した!

「どうした?本間!何があったんだ?」

「しぇんしえ~!すいません!」

っつたく!イラつく!何だこの酔っ払いは!

「私!行けなくなりました!日曜日!楽しみにして新しいパンツまで買ったのに!

あのクソ編集長め!!鬼だ!あいつは絶対に鬼だ!」

内容をよく聞くと急な出張で北海道に行くらしい!お前・・何も泣く事はないだろ!

「わかった!わかった!その代わりに今度、飯でも食いに行こう!おごるから!

東京に近いうちに行くから!だから泣くな!」

「ごめんなさ~~い!ごめんなさ~~い!」

声がドンドン小さくなり何時の間にか消えた・・どうやら深い眠りに落ちたらしい。

私は静かに電話を切った。

次の日の早朝に私の携帯電話が鳴った。見慣れない電話番号。私は一瞬、躊躇しながら携帯電話を取った。

「おはようございます!先生!佐藤です!」

友美さん??何で??

「あっ!どうも!おはようございます!何か??」

「あっ・・いえ!朝から友人に叩き起こされましてね!何でも山梨に行くそうで!」

本間がどうやら友美に連絡を入れたらしい

「ええ・・実は取材でね!本間と一緒に行くはずだったのですが、彼女、急に北海道に行く事になったらしい!」

「それでですね!本間に急遽、私が代役を頼まれまして!」

私は一瞬、顔をしかめた。

「でも・・泊まりですけど大丈夫なんですか?なんなら日帰りでも私は全然かまいませんけど!」

「いいえ!泊まりで結構です!ホテルも予約してあるそうなので・・」

「で・・でも、旦那さんは大丈夫なのですか?」

その言葉はあまりにも自然になんの躊躇いもなく私の口から発せられた。

友美に一瞬、沈黙が走る。

「えっ・・いや・・なぜに?どんな意味だとお取りすれば良いのでしょうか?」

「えっ・・いや・・別に深い意味は無いのですが!ほら、あなたは人妻だから!

本間とは事情が違いますから!」

苦し紛れの私のそんな言葉に友美は言った。

「それは気にしないでください!本間とは昔からの腐れ縁で!うちの主人もよく知ってる居るんです。あの子、泣きながら主人を説得してくれまして!何にも出来ない気難しい女流作家に行かないと殺されるとか言いながら・・」

あの女・・私はそう心の中で呟いた。失礼な!俺は何でも出来るぞ!と

「それに私、先生を信じていますから!本間は勝負パンツを新調したらしいですけどね!」

そう笑いながら友美は言った。

私は何とも複雑な思いに包まれながら電話を切った。

嬉しいような!嬉しくないような・・ただ、一つだけ感じていたのは、これが新たなる私の苦しみのきっと、序曲に違いない。悪魔の微笑が見える。そして不気味な微笑を浮かべ私に手招きをしていた。「おいで!地獄の入り口はもう直ぐだよ!」と

山梨に向う当日の早朝、私は家を出ると三島駅に向って走り始めた。

それは小さな気配りであった。隣同士なのだからそんな面倒な事をしないでもと言われそうだが、きっと友美もそれを望んでいると私は思っていた。朝靄の中、駅の改札の前に一人の美女が旅行鞄を持って立っていた。

濃い朝霧が幻想的な光景を演出していた。それだけ友美の美しさは人間離れしている物であったのだ。

なぜにこんなに美しい女があんな暴力男と結婚したのか?なぜに離婚をしないのか?私にはどうしても理解出来なかった。一度、クラクションを鳴らすと彼女は私に気がつき笑顔で大きく手を振った。忘れるな!あの日とは人の妻だ!そう私はもう一度心に語りかけた。