2時間程のドライブが始まった。車の中で友美は実に楽しそうであった。笑顔を絶やさず鞄からお菓子を出しては私に勧めた。
出版社が用意をしてくれたホテルに着いたのは10時を少し過ぎた頃であった。チエックインは1時からだそうで事情を話し車だけ駐車場に置かしてもらう。
乙女委員会のライブは前回と同じライブハウスで行われる。12時30分の開演だ。
私は友美は車を降りるとライブ会場まで散歩がてら歩いて向った。
「なんか!デートみたいですね!本間の悔しがっている顔が目に浮かびます!
実はね!あの子には秘密ですけどあの子、先生の昔からのファンだったんです!
それもベッキーではなく!おはぎのね!」
私はそんな友美の話を意外そうな顔をして聞いていた。
私はおはぎと言うハンドネームでブログ小説を長く書いている。そしてそのおはぎがベッキーである事はほんの一部の昔からの読者しか知らない。
中途半端な人気のブログ小説のオーナーぐらいの位置づけなのだ。
「へ~それは初耳だな!あいつはそんな事を一度も言った事は無いから!」
「そうでしよ!それが真のファン心理ってものですよ!だってあの子!先生の担当者になれた時に泣きながら電話して来たんですよ!私の所に!憧れの王子様に一歩近づけた!なんて言いながら・・」
王子様??俺の事??王子様ね~こんなオッサンが?王子様?
「それは!今度、彼女におはぎのサインでも贈呈しないとね!」
「そうしたら飛び跳ねて喜びますよ!ベッキーのサインより貴重品です!」
どの位歩いたのか?途中の喫茶店でお茶を飲みライブハウスに到着したのは12時を少し過ぎた頃であった。私は安藤君の姿を探した。しかし、残念な事に彼の姿は見つける事は出来なかった。その代わりに前回のライブでは見かけなかった「まい LOVE」と書かれた団扇を紙袋に入れたファンの姿を数人見つける。
良かったね!まいちゃん!ファンの子が増えている。私は自分の事のように嬉しく感じた。
12時30分になり会場に入場した。周りはむさ苦しい男ばかりである。
そんな中、友美の存在は妙に浮いていた。数人の男達が友美に近寄り言った。
「何時デビューですか?乙女委員会の準メンバーさんですよね!」
そんな若者の言葉に友美は困ったような表情を浮かべる。
「こんなおばさんによくもまぁ~あんな冗談を言えるわよね!新手のナンパかしらね!」と友美は迷惑そうな顔をしていたがまんざら悪い気もしていなようであった。
ライブが始まった!一斉に歓声が上がる!その中に少数ではあるが「まい」への声援も聞こえて来た。
中盤の委員会の歌に入る前に新しい委員会の紹介が委員長のりさから行われた。
「TV委員になりました!まいちゃんとゆりちゃんです!皆!これから応援ヨロシクね!」
数人の男達が団扇を大きく上に上げて声援を送る。
「どうも!まいです!この度、TV委員に任命されましたよ~皆さん!ヨロシクね!
あと、まい達には自分達の曲が残念ながら無いんですよ~だからこの場でサプライズ提案なんですが、誰か素敵な詩を書いて頂けませんか?私のブログはファンの皆なら何時も要チエックしてくれていると思うけど!そこで募集しちゃんで!皆!ヨロシクね!」
そうまいが笑顔で言うと会場の興奮はよりヒートアップした。
「先生も書いてみたら!プロだけど良いんでしょ?」
友美が笑いながらそう言った。
「でも、小説と歌詞は違うだろ!無理!無理!そんなの!」
「あら、新たなジャンルの開拓になるかも知れませんよ!挑戦してみてくださいよ!」
「なら、もしも採用されたら何かご褒美をくれますか?」
「あらこんな私のご褒美で良いのかしら?」
「ええ・・なら、一度デートしてくれませんか?本間には内緒ですよ!あいつに内緒で!
まぁ~多分、無理だと思いますけどね!」
そう私は冗談ぽく友美に言うと彼女は楽しそうに言った。
「ならそうしましょ!それで手を打ちましょう!」と
ライブが終わり恒例の委員会が始まる。今回はまいも無事に委員会を持っている。
私と友美はTV委員会のテーブルに向った。
「おはぎさん!来てくれてありがとうございます!」
まいは私を見つけると笑顔でそう言った。
「ああ・・どうも!それにしてもTV委員会ってそんなの学校にあったか?」
「ほら!道徳の時間にTV見ませんでしたか?その時にTVの電源を入れる係りですよ!」
なんとも!そう言えばそんな係りがあったとふと思い出す。
「そういえば!あれだろ!口笛吹いて~♪空き地に行った~♪って歌のテレビだろ?」
そんな私の話にまいは少し首を傾げる。どうやら少し、いや大分、時代がずれているようだ!しかし、友美はと言うと懐かしそうに私の後に続いて歌っていた。
「可愛らしい女の子ね!あの子がまいチャンなんですか?」
「えっ!あ~そうです!可愛いでしょ!でも私、ロリコンではないのでその辺、誤解が無いように!」そんなくだらない話。でもなんとなくそんなどうでも良い話が楽しくって・・
どうでも良い話をそう言えば妻の今日子と出会った頃もよく真剣に話をしていたとふと思い出す。
何時からだろう?どうでも良い話をしなくなったのは?
いや!正確には出来なくなったのはと言った方が正しい・・
どうでも良い話とはきっと男と女の間のバロメーターに違いない!きっと、どうでも良い話が出来なくなった瞬間!二人の関係はもしかしたら他人になってしまうのかも知れない。
「おはぎさん!さっきの歌詞の話だけど良かったら書いてもらえませんか?」
そうまいは笑顔で私に言うとファンの輪の中に消えて行った。