「どうでした?佐藤さん?」
ライブハウを出て歩きながら私は友美にそう聞いた。
「なんか、凄いですよね!圧倒されました!」
「佐藤さんはどなたかお好きな芸能人の方はいらっしゃるんですか?」
「あ~どうだろ?多分、居ないと思います!私って結構、現実派なんでしすよ!どうも雲の上の人間に興味が湧かない!」
「実は僕もそうなんです!なんでまたこんな小説を書こうと思ったのか?実に謎です!」
「何ですかそれ?ご本人の口から出た言葉とは思えませんね!これからそんな世界を描こうと言う大作家が。」
「小説なんてそんなものですよ!そんなね!」
二人で夕暮れの山梨の町を歩いていた。
「僕は何の取り柄も無い男です。でも体は健康だし女遊びもギャンブルもしません!
君を養うぐらいの力はあるし小銭も少々持っている・・」
ふとそんな言葉を思い出す。
六本木のとあるレストラン。私は今日子の誕生日を祝うべくグルメ雑誌を片手に店を選び不慣れな行動を取っていた。
「僕は今日子さんを愛している!もう二度と誰にもこんな言葉を恥ずかしくて言えません!二度と誰にも言わないから僕と結婚してください!」
店にお願いして作ってもらったデザートのバースデーケーキが数本のローソクを灯しながら到着した後の話。ケーキにはチョコレートで「ハッピーバースデー今日子!」と書かれていた。
私はポケットから安物の指輪が入った小さな小箱を取り出し今日子の手にそっと握らした。
今日子は嬉しそうに微笑み「私を一生幸せにしてください!」と呟いた。
もう6年も前の話である。しかし、私がその時、言った今日子への愛の言葉は全て嘘であった。私は当時、今日子以外に旦那の居る女と付き合っていた。パチンコや競馬、ギャンブルと呼ばれる全ての事に今日子と会っていない時間を潰していた。もちろん貯金など一銭も持っていなかった。
嘘から始まった愛。しかしそんな愛でも時間がその偽りの愛を本物にしてくれると私は錯覚をしていたのだ。今日子は体の弱い女であった。何時も頭が痛いと慢性的な偏頭痛に悩まされていた。付き合っていた頃、それは私にとって心配の種であった。何時からだろう?
その心配が苦痛の種に変わってしまったのは?何時からだろう・・
結婚して2年もすると頭が痛いと悲痛な顔をしてる今日子の顔を見る度に私は心の中で呟いた。貧乏くじを引いちまったな!と
もしも、偽りの恋ではなく本物の恋だったのならこんな今日子の現状も永遠に私の心配の種になっていたに違いないのに・・
ある意味、今日子は不幸な女なのかもしれない。そして私はきっと、愚か者である。
偽りの心から始まった愛は所詮は嘘なのだ。だから人間は結婚をする時に神に誓うんだと思う。自分の心に嘘はありませんと神に誓うのだと思う。
私があの日、神に誓った時にきっと、神様は渋い顔をされたに違いない。それでも結婚と言う行為をお許しになったのは、それはきっと罰だったのかもしれない。
それは大いなる愛に満ちた神から私に送られた罰だったに違いない。
ホテルにチェックインを済ませ各自の部屋に向う。私には何とスイートルームが用意されていた。私はそんな豪華な部屋を見渡しながら「本間の奴、マジで一夜のあやまちを期待していたのでは?」なんて苦笑いを浮かべる。
しばらくして二人で夕食を食べるために夜の街に向う。夕食の予約をしていないのも何となく不思議であった。
フロントマンのお勧めの居酒屋に向かい「とりあえず!生ね!」と一息ついたのは夜の7時を過ぎた頃であった。
なんとなく不思議な時間が流れた。なんともそれは表現できないような不思議な時間・・
不意に今日子の電話が鳴った。
一瞬、彼女が顔をしかめる。どうやら旦那からの電話のようである。
「えっ!大丈夫よ!先生?ダメよ!気難しい人なの!挨拶なんて要らないから・・」
一緒に居る人間が本当に女なのか確認でもするために電話をして来たのか?何とも嫉妬深い男である。それは愛ゆえの嫉妬なのか?それとも違う意味の嫉妬なのか?
私は益々、二人の関係に興味を抱いた。
そんな事を考えて居ると私の携帯が鳴った。相手は本間である。
「何だ?今、丁度、パンツを脱いだ所なのに!タイミングの悪い女だな!」
私が無愛想にそう言うと本間は半分泣きそうな声で言った
「だから!ダメだって言ったでしょ!あいつは人妻なんだから!先生は獣ですか!」と
こいつをからかうのは実に面白い。根がきっと純情なのだ!ふと北海道の安藤君を思い出す・
「今から行きます!山梨に!絶対に行きます!羽田行きの最終に乗ります!」
あまりにも真剣に本間が言うものだから私は嘘だと言うタイミングを逸してしまうくらいだ。「おいおい・・冗談だよ!勘弁しろよ!もう面倒な女は御免だ!」
面倒な女!そう私の目の前に座っている女は完全な面倒な女である。そして今、私の耳元で泣きながら叫んでいる女も十分過ぎる程、面倒な女に違いない。
どの位飲んだのだろう・・時計は10時を刺していた。
「そろそろ帰りましょう!」
そう私が言う友美はふらついた足でゆっくりと立ち上がった。
会計をしょうとするが足元が落ち着かない。完全なる酔っ払いである。
「良いよ!僕が払っておく!」
そう私は言うと会計に向った。