僕が死ぬ日・・生まれる日 -24ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「お前さ~よくこんな過酷な仕事を続けられるよな!お前ぐらいの器量なら言い寄る男の一人や二人は居るだろうに?何で辞めないの?」

そんな事を冗談交じりに本間に言った。

本間はキラキラした目で私に言った。

「誰もが感動する作品をこの世に出したいんです!人間の心をえぐるような!そんな作品をこの世に出したい・・それが私の夢だから・・」と

その時のキラキラした目とそんな話を楽しそうに話す本間の笑顔を私は今でも忘れる事が出来ない。出来る事なら自分がこいつの夢を叶えさせてやりたいと真剣に思ったものだ。

しかし、世の中はそんなに上手い具合には行かないものだ。

未だに私はこの担当者の夢を叶えて上げる事は出来ないでいるのだ。

「このクソ女!お前は商売女か!俺に嘘ばかり言いやがって!その一緒に行った作家って奴をここに連れて来い!その女流作家って奴をここに連れて来いよ!」

そんな友美の旦那の怒鳴り声から、山梨の事であると私は感じていた。

本当に執念深い男である。泣き叫ぶ声が聞こえた。友美の泣き叫ぶ声が・・

私は居たたまれず携帯電話を手にした。霧島桜と言う名前を検索すると電話をかける。

「はい!桜!あんた生きてたの?」

桜は少し酔っているようである。2年ぶりの私の連絡に嫌味たっぷりにそう言った。

「ああ・・一応・・」

「それで?何よ!仕事でも干されたの?あんたなら私のアシスタントで使ってあげるわよ!どう?売れない小説を書いているよりも断然、そっちの方が割が良いと思うのだけど!どうよ?それ?」

私は一瞬、この女に連絡をした事を後悔した。しかし他にこんな願いを頼める小説家の女性は居なかったのだ。

「悪いんだけど・・頼みたい事があるんだ。」

そんな私の頼りない言葉に桜は言った。

「何よ言ってみなさいよ!結婚してくれとかは無しよ!」と

「実はね・・あのね・・」

「なるほどね!解ったわ!これは貸しよ!解ってると思うけどね!」

そう言いながら桜は電話を切った。

頼む!俺の身代わりになってくれ!不幸な女が一人居るんだ。

そんな私の言葉に案外、あっさりと桜は代役を引き受けてくれた。

しかし、「貸しよ」と言われた言葉がどうも気になる。こいつの貸しは倍返しなのを私は良く知っていたからだ。

次の日の夕方、アパート揺らす程の爆音が響き渡る。

桜の愛車、コルベットのエンジン音である。私は部屋の窓からそっと外を見た。

アパートの前に一台の真っ赤なコルベットが止まっていた。

運転席に何時もとは感じの違う桜が乗っていた。そして驚いた事にその助手席には本間の姿がまるで付録のように見え隠れしている。

霧島桜・・多くの読者を抱える恋愛小説の女王と呼ばれる一流作家である。

年齢は不詳、怖くて誰も年齢を聞く事は出来ないらしい。

私と桜が出会ったのは今から7年ほど前の事である。当時、桜は伊藤幸子と言う本名で小説を書いていた。私がまだ、出版社に原稿を持ち込んでいた頃、桜もまた同じように原稿を持ち込んでいた。私の横で何時も編集者にボロクソに嫌味を言われていた・・

しかし、私も同じような物であったのだが。

何度が顔をあわす度に自然と話をするようになった。そして編集者にボロクソのダメだしを頂いてはその帰り道に近くの居酒屋に向かい熱い未来の話を語りあった。

桜はもの凄く美人であった。そんな女と私が深い中にならなったのはきっと、お互いが家庭持ちだったからなのか?それともお互いがお互いを失いたく無いと心から思っていたからなのか?今でも解らない。

桜の転機が訪れたのは偶然の出来事であった。その日も出版社の帰りに二人で酒を飲んでいた。

「お前さ~ミステリーを書くの止めたら?」

そんな私の何気ない一言。

桜は少し不機嫌そうな顔をしながら言った。

「私はね~小学生の頃から横溝正史を読破して来たのよ!金田一シリーズみたいな傑作を書きたいのよ!それは無理!絶対に無理!!」と

「でも、全然、評価されないじゃないか!やはりミステリーは無理なんじゃないの?」

正直、何度か桜の小説を読ませてもらったが、熱い思いは伝わるが内容はあまりミステリーを読まない私が読んでもイマイチの内容で・・

「ならどうしろと言うのよ?もう書くのを止めろと言うの?ミステリーを書く事は私の人生の支えなのよ!こうして書き続けているから私は生きていられるのよ!」

そんな桜を見つめながら私はポツリと呟く。

「恋愛小説を書いてみないか?」と

「えっ!無理よ!今まで読んだ事も書いた事も無いのだもの!無理!無理!!」

「だから良いんじゃんか!もう結構、恋愛小説のネタも出尽くしてるから、ミステリーと同じだよ!今まで出て来たトリックを焼き直しているみたいな!

恋愛小説も一緒なんだ!今まで評価された設定を焼き直してるだけ!

なら、こうしょう!俺がミステリーを書いてみるからお前は恋愛小説を書いてみろ!そしてお互いでサポートしあおう!何て言うのか!コラボって奴かな?」

そんな私の言葉に桜は少しだけ興味を示した。

「そうね!あなたが手伝ってくれるのなら良いわよ!そうだ!二人のペンネームを考えましょう!そうね!霧島桜!ってのはどうかしら?」

なぜにあの頃はあんなに楽しかったのだろう?

愛とか恋とか関係なしに私は今日子の事を何時も思っていた。

しかし、その思いが愛と言う漠然とした物なのか正直、今でも自信が無い。

そしてその楽しいと思う気持ちは何時から消えてしまったのか?

そんな幸せが何時から苦痛と言う名の苦しみに変わってしまったのだろう?

きっと、何も解らなかったから私は幸せだったのだと思う。

今日子の事を何も知らなかったから幸せだったに違いない。

人間とは実に不思議な生き物だ。自分の手が届かない物が好きなのだ。

そして未知の世界が好きなのだ。

当時、きっと自分は今日子の事を手の届かない女だと思っていたに違いない。

だからあんなに楽しく幸せだったのだろう・・

そんな幸せが消えてしまったのは・・

きっと、手の届かない物が自分の手に入り、一緒に暮らすと言う行為により未知の世界が現実の世界に変わってしまったからなのかもしれない。

その晩、私は酷くうなされた。そして翌日、なんとも寝起きの悪い朝を迎える事になる。

安藤君と朝食を済ませホテルのチェックアウトの手続きを済ませる。

するとロビーにまいとハルと加藤の姿が現れる。

「先生!絶対にこの曲は売れますよ!いや!私が売ってみせます」

加藤は自信満々の笑顔で私にそう言って握手を求めてくれる。

私は引きつった笑顔でその握手に応じた。

「先生!またライブに来てくださいね!あっ!それにもしも、この曲が売れたら次の曲もお願いします!まいからのお願いです!」

まいはそう言うと私に可愛らしい笑顔を向けた。

横で不機嫌そうにしているハルの足を加藤が数回蹴って合図をしている。

「ほら!お前も何か媚を売っておけ!」との合図なのだろうか?

ハルは万遍の笑顔を浮かべ私に言った。

「私、絶対に有名になりますから!」と

「ハル!お前!何を言ってるんだ!申し訳ありません!教育が行き届いておりませんで!」

加藤は少しだけ焦ったように私にそう言った。

「良いじゃないですか!向上心があって、でもね!ハルさん!有名になったからと言ってそれが幸せとは限らないんだよ!有名になると言う事はあくまでも通過点のような物だと私は思う・・」

そんな私の言葉にハルは小ばかにしたように私に言った。

「奇麗事がお好きな先生だこと!それは有名になれた小説家さんの奇麗事よ!」と

私はそんなハルの言葉など気にも留めることも無くまいを見つめ心の中で呟く

「君が一番、今、話しかけないといけないのは僕じゃ無いだろ?」と

そんな私の視線に気がついたのかまいは安藤君に言った。

「いろいろとありがとうね!私、絶対に有名になって夢を掴むから・・」と

そんなまいの言葉に安藤君は何も言わずにただ微笑んだ。

それから2ヵ月後、偶然に見た歌番組の新人コーナーにまいとハルの姿が映っていた。

オリコン初登場、9位

それがTV委員会の二人の評価である。そして評価されたのは私が書いた歌ではなく

二人がTVで歌ったのは優しいピアノのメロディーの「今夜も何処かの星の下で・・」と言う題名のバラードであった。

しかし、私はなんとなく嬉しくなりまいにメールを送る。

「おめでとう!TV見たよ!人気が出ると良いな!」と

TVの生番組が終わり直ぐにまいから返事が届いた。

「ありがとうございます!私的には先生に書いて頂いた「ロック・・」の方が好きなんですけどね!何となく第一歩を踏み出せた気がしています!これからも応援をヨロシクお願いします。」と

頑張れ!それが君の夢なら頑張ってそれを掴めば良いのだ!でも・・でもね!一番大切な幸せはきっとそんな事では無いと僕は思うよ。

そんな事を考えいると携帯電話が鳴った。

「先生!どうもお久しぶりです!本間でございます!」

酷く懐かしい気がした。そんな本間のお茶らけた声が。

「よう!久しぶりだな!何か??」

「何かじゃありませんよ!先生!原稿!原稿の催促です!今日子がぼやいてましたよ!

まったく音沙汰が無いって!困らせないでくださいよ!あの子は気が弱いんですから!」

原稿・・そう言われて初めて私はカレンダーを見つめた。

本来ならもう原稿は書き上げて居なくてはいけない時期であった。

それなのに私の愛用のパソコンの中の原稿用紙には題名すら書かれていなかった。

「あ~そうだな!完全に忘れていたよ!」

「あのね~先生!アイドルに夢中になるのは結構ですけど!原稿はお願いしますよ!

やはり私じゃないとダメなのね!あなた・・もぉ~う!可愛いいんだから!

この甘えんぼさん!」

本間は一人、興奮しながら私に訳の解らない言葉を連打していた。

「明日、静岡に行きますからね!ちゃんと良い子にして待ってるのよ!」

プッ!思わず噴出してしまった。本当のこの女は可愛いと思う。

なぜに恋人の一人も出来ずにこの年まで独身で居るのだろう?

いや、違うのかきっと彼氏が居るに違いない!私が知らないだけなのかも知れない。

しかし、編集者なんて夜も昼も関係ないそんな仕事をよく続けていると思う。

以前、私は本間に聞いた事があった。

夕食を済ませ安藤君を部屋に送り届けると私は自分の部屋に向った。

長いホテルの廊下をふら付きながら歩いているとある部屋の前に一人の女性が立っている。

「良いな~なんな美人!」

なんて思いながら彼女を見つめるとそれはハルでそしてその部屋は私の部屋であった。

「どうしたんだい?私に何か用事かな?」

私は酒で麻痺したうつろな目で彼女を見つめながらそう呟いた。

「先生!相談に乗って頂きたいことがあるんです!」

胸元が大きく開いたシャツから豊満な胸が私の目に飛び込んでくる。

そして彼女から何とも表現できないような淫靡な甘い香水の香がした。

「明日で良いかな?少しぐらいは時間が取れると思うよ!」

そう私は彼女に言うとハルは少しだけ切なそうな顔をした。

「どうしても今夜、聞いてもらいたい話があるんです!」

私は仕方なしに彼女を部屋に招き入れた。

「それで話って何ですか?」

ソファーに座り私の前で足を組むハル・・

ミニスカートの隙間から白い下着が見え隠れしている。

なんとも艶かしい光景である。

私は動揺を隠すかのようにタバコに火を着けた。

「それで?話とは?」

そんな私の言葉にハルは意を決したように重い口を開く。

「まいちゃんとどの様なご関係なのですか?」

どの様な関係??そんな彼女の質問の意図がイマイチ理解出来なかった。

「どのような関係とは?」

「それは・・男と女の関係とか?」

「えっ?くだらない冗談です・・」

私がそう呆れたような顔でハルに言うとハルは一瞬、目をそらした。

「そうなんですか?あんまり熱心にあの子に肩入れをしてるから特別な関係なのかと思ってしまいました!今回だってあの子の為に詩をお書きになったみたいだし・・」

「それは違いますよ!まったく関係ない!」

そんな私の言葉を聞きながらハルは何度も足を組み換える。その度に艶かしい下着が私の目に飛び込んで来た。

「それなら先生!私を応援してもらえませんか?加藤さんもなんか勘違いをしているようなのです!だからまいみたいな女をメインボーカルなんかにして!本当は私にって話だったのに・・ね!お願い!私を応援してよ!」

そう呟きながらハルは立ち上がり私の横に座るとそっと私の足に手を置いた。

甘い香が鼻に付いた・・その香は何とも毒々しい毒花の香のような気がした。

他人の手で作られた栄光は実にもろい物だよ!

誰かに作ってもらった栄光は実にもろく直ぐに消えてしまう・・

そんな事はきっと、ハル自信も十分に解っている事なのだと思う。

女を武器にしてこんな何の力も無いオッサンを誘惑してまでもそんな力が欲しい物なのか?それが彼女達が掴もうとしている夢なのだとしたらその夢はなんとも安っぽい夢のような気がする。

ハルの私の足にそっと置かれたしなやかな腕が不自然に上下する。

不自然な腕の先の掌は私の股間を優しく求めて来た。

「明かりを消して頂けますか?」

まるでそれがこれから始まる秘め事の開始の合図かのようにハルはそう呟いた。

ハルは豊満な胸を私にぴったりと密着させそっと唇を私の唇に重ねようとした。

私は手の平を自分の唇の前にかざしその行為を阻止しながら・・

「私!そんな安い男では無いのよ!ごめんなさいね!」と微笑みながら呟いた。

一瞬、ハルは驚いたような顔をした。

確かに彼女は美人だ!こんな女を抱けるなんてこんなおっさんにしたら快挙に違いない!

しかし、私は思うのだ。

こんな女に良い用に使われるのは真っ平御免だ!と

「君は確かに美しい!でもね!僕は君を抱いても何の役にも立ってあげれないよ!

君が小説家になると言うのなら多少は力になれると思う。でも僕は芸能人ではない!

ましてアイドルでも何でも無い!だから何の力にもなってあげれないんだ!」

ハルは少しだけ考えたような顔をする。

「失礼ね!私はそんな事は考えてもいないわよ!あなたの力なんか借りなくても私を助けてくれる男は沢山いるもの!私はただ、あなたの事が・・」

戯言である。女の言葉は99%・・私は戯言だと思う。

「あのインチキプロデューサーにでも頼むんだな!お得意の色気でも使って!

あっ・・もう手なずけているんか?それは・・失礼」

そう呟きながら私はタバコを吹かした。

「失礼なのはどっちよ!帰るわ!私・・」

ハルはそう叫びながら私の部屋を出て行った。

部屋の中にハルの甘い香水の香だけ残った。

「少し勿体無かったかな?そう言えば最近、女を抱いていない・・」

そうなんとも未練がましい言葉を呟き私は窓を開き甘い香水の香を外に逃がした。

夢を見ていた。それは遠い昔の世界・・

まだ、今日子と出会ったばかりの頃の世界であった。

私は笑っていた。今日子も楽しそうに笑っていた。

そんなもう遠い記憶のような霞がかかった昔の世界の夢であった。