僕が死ぬ日・・生まれる日 -23ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

ホテルに着くとロビーに既に桜と本間が座っていた。

「ご苦労様でした!つまらない事をお願いして悪かったな!」と

そんな私の言葉に桜は不機嫌そうに私を睨みつける。

「処でお前は何で一緒に来たんだ?今日の午前中に来るはじゃ無かったのか?」

そう私が本間に聞くと本間はバツが悪そうに言った。

「実は昨夜、偶然に飲み屋で桜先生にお会いしましてね!友美の家を知らないので連れて行けと脅迫されまして!」

なんとなく桜らしいと私は思った。

「それではこれで邪魔者は退散いたします!302が私の部屋なので何かありましたら先生!ご連絡をしてください!」

そう本間は言うと深々と頭を下げてその場を去って行った。

「可愛いわね!あの子!なんとなく好きよ!あんな感じの子・・」

そんな本間を見つめながら桜はそう呟いた。

「お前にしては珍しいな!編集者嫌いで有名だぞ!いじめも程ほどにしておけよ!」

そう私が言うと桜は怒ったように言う

「アホばかりでね!使えない奴が多いだけよ!別にいじめてなんか無いわよ!

失礼ね!こんな心優しい美人に向って!」

そう言うと桜は静かに立ち上がる。

「夕ご飯はまだなんでしょ!ここの中華は結構、評判が良いのよ!レストランに行きましょうよ!」

そう言うと勝手に一人で歩き出した。

レストランのテーブルにつくと直ぐにお酒を注文する。

「お前、少しはセーブしないと肝臓をやられるぞ!」

そう私が言うと笑いながら桜は言った。

「そんな柔な女じゃ生憎、無いもので・・」と

桜が勘定はあなた持ちね!なんて言いながら勝手に料理を注文する。

次々に高そうな名前も知らない料理が運ばれて来た。

「ねぇ~あんた、何であの女に肩入れするの?」

不意に桜がうつろな目で私を見つめそう問いかけた。

「いや・・別にそんな深い意味は!隣同士だろ声が聞こえるんだ!彼女、相当、旦那に酷い目に合わされているようで!今回の山梨の件でも・・」

そう私が言うと桜は・・

「そう、随分と優しくなったのね!離婚したせいかしら?」と言った。

「お前、よく知ってるな!俺が離婚した事を・・」

「ええ・・匂いがするのよ!あんたからそんな匂いがね!」

そう言いながら桜はタバコに火をつけた。

「本間ちゃん!だっけ!あんたあの子の事はどう思ってるのよ?」

「本間?別に何とも思っていないよ!あいつは唯の俺の担当者だもの!」

「あらあら・・相変わらず鈍い男ね!本当に・・こんな男が恋愛小説書いてるなんて知ったら読者は幻滅ね!」

「何だよ!それ・・失礼だぞ!」

「ふっ・・そうしてむきになる所も昔のまんまね!ねぇ~一つ聞いて良いかしら?」

「なんだい?」

「あなた、何で私の前から消えたの?私が離婚した頃から私を避けていたでしょ?」

「そんな事は無いよ!別に避けていた訳ではない。あの頃から丁度、忙しくなって来たし君も忙しかっただろ?頻繁に新刊を出していたじゃないか?」

そう私が言うと一瞬の沈黙が流れた・・

「周りの皆があなたの悪口を言っていたわ!あなたは冷たい男だと!器が小さい男だと!」

「君もそう思ったのか?私が君に嫉妬して君を避けるようになったと・・」

「いいえ!私は知っていたから!あなたが苦しんでいた事を、でもね!誠、結果的にはあなたは逃げたのよ!私と言う人間からね!そして勝手に自分で思い込んでいる罪から」

私は震える手でタバコを取り出すと火をつけた。

「俺が逃げてたって君から?」

「ええ・・そう、私から逃げたのよ!自分を守るためにね!」

「それは侵害だな!だから言っただろ忙しくなったって!」

「だから私も言ったでしょ!あなたの気持ちは全部、知っていたと」

私の心をえぐるようなそんな桜の言葉・・

私の目から何時の間にか涙が溢れ出す。

「俺の苦しみを全てお前は知っていたと言うのか?」

「ええ・・そうよ!あなたの勝手な思い込みの苦しみをね!」

「戯言だな・・それを優しさと感じろとでも言うのかい?」

「違うわよ!私の憎しみと感じて欲しいだけ・・」

そう呟いた桜の目から涙が一筋だけ流れた。

「何でまた?あんなに愛し合っていたじゃないか?」

「旦那に女が出来たの!夫婦はやはり一緒に居る時間が無くなるとダメね!

私、最近、殆ど家に帰れなかったの!ホテルで缶詰状態で!あと1作書いたらその原稿料で家が買えるはずだった!だから私、死に物狂いで仕事をしていた。彼、その間に好きな女が出来たんだって!不器用な男なのよ!多分、騙されたんだと思う。相手の女に子供が出来たらしいの・・お金を沢山持って行かれたわ!財産分与だってさ!私が必死に貯めたお金なのにね!2人で住む大きな家の為に貯めたお金だったのに・・」

俺のせいなのか?俺の・・

俺がこの女の小さな平凡な幸せを壊してしまったのか・・

俺があんな事を言ったから、俺が恋愛小説を書けなんて言ったからこいつの小さな幸せを壊してしまったのだ。

「大丈夫かお前?」

そう私が桜に尋ねると彼女は瞳に溢れんばかりの涙を溜めて笑顔で言った。

「大丈夫よ!私には小説があるから・・」と

その後、桜は何かにとり付かれた様に新作を出し続けた。桜の独特の世界は多くの読者を魅了して今の地位まで彼女を押し上げる。

それと平行するように私と彼女の間には大きな溝が生まれ私は桜と少しずつ距離を置くようになったのだ。

昔からの小説仲間達は私を情けない男だと器の小さな男だと陰口を言った。

一緒に下積みの苦労時代を歩んで来た友の成功を妬み嫉妬している哀れな男だと噂をした。

しかし、私はそんな事は一度も思った事は無い。心から桜の成功を喜びそして、彼女の才能を一番、認めているのは自分だと思っている。

だけど、あいつの作品やあいつの顔を見る度に私は何とも言えない罪の意識に苛まれる。

それが辛かったのかもしれない。多分・・きっと・・

「先生!本当に大丈夫なんですか?」

本間が不安げに桜に聞いた。

「何がよ?何が大丈夫?なのよ!」

「い・・いや!上手く旦那さんに納得してもらるかと思って・・」

「あのね!本間!あんた私が幼少の頃、劇団いろはで子役をしていた事、知らないの?」

そんな桜の言葉に本間は驚いたように言った。

「えっ!本当なんですか?」と桜は含み笑いをしながら「嘘よ!」と答える。

「あのね~冗談を言ってる場合じゃ無いんですよ!本当に・・」

少し困り顔の本間を見つめ桜は笑顔で言った。

「本間!私が何で天才って呼ばれるか知ってる?」と

本間は少し考え首を左右に数回振った。

「あのね!天才は何でも出来るから天才なのよ!さぁ~物語のスタートよ!設定は天才女流作家と担当者が嫉妬深い旦那に言い訳に行く場面!スタート!」

そう呟くと桜の表情が変わった。

ピンポ~~ン!隣の部屋のチャイムを押す音が聞こえる。

私は不安げに玄関のドアを少しだけ開き外の様子をうかがった。

しばらくすると静かにドアが開き中から不機嫌そうな一人の男が顔を出す。

ほっそりした顔にふちの無いめがね、神経質そうな男である。

「どうも!本間です!友美、居ますか?」

彼は何気に本間を気に入っているらしい。本間の顔を見ると嬉しそうに言った。

「やぁ~久しぶりだね!元気にしていたかい?今日は何か?」と

「ええ・・ご無沙汰しております!実は今日、担当の先生と取材のために伊豆に来たんですけど先生がどうしても先日のお礼を友美にしたいと言われたものですから・・」

そう本間が彼に言うと彼はそっと視線を本間の横に立っている女性に向けた。

「本間さん!失礼ですがこちらの方は?」

そう彼が本間に聞くと本間は笑顔で言った。

「小説家の霧島桜先生です!ご存知ですか?」と

彼は一瞬、考えたような表情をして思い出したように言った。

「あ~~恋愛小説かの作家さんだね!うちの課にも数人、この方の熱烈なファンの子が居るよ!でも、そんな大先生とうちの友美がどんな関わりで?」

「ほら、先日、山梨に私の代わりに行ってもらったでしょ!その時の先生が桜先生だったんです!」

そう本間が彼に言うと彼は疑い深そうに桜の顔を見つめた。

桜は鞄から名刺を取り出し丁重に挨拶をした。

「どうも、小説家の霧島と申します。先日の山梨では奥様に大変お世話になりまして!

本来なら担当者の本間の仕事なのに、どうしてももう一度、お礼が言いたいと思いまして本日は失礼かと思いましたが寄らせて頂きました。」

桜にはまったく疑わしい所は無かった。100人の人間に見せたら全員が本当だと思うほどの迫真の演技である。

その証拠に友美の旦那はすっかり信用して上機嫌で妻を奥から呼んだ!

「どうぞ!立ち話もなんですからお入りください!」

本間と桜は家の中に招き入れられ消えて行く。

家に入り際に私に向かい桜が小さくピースサインをした。どうやら成功のようである。

私は静かにドアを閉め、椅子に座ると安心したようにタバコに火をつけた。

私の携帯電話が鳴ったのはそれから2時間後の事であった。

「桜様だけど!今、サンバレーホテルに居るから来てよ!」

そんな呼び出しに私は一抹の不安を感じながら家を出た。

「貸しだから!」確かにこれは大きな貸しだ。それでなくても忙しい売れっ子作家を仕事を放りださせこんな田舎までどうでも良い事に借り出したのだから・・

私は覚悟を決め車のキーを差し込んだ。

友美の部屋から友美のなんとも楽しそうな笑い声が聞こえた。

私は安心したように車のエンジンをかけ地獄の閻魔様の元に走り出した。

なんとも頂けないペンネームであると私は正直、思った。しかし、ここで彼女の機嫌を損ねてもいけないでその名前に決定した。

それから3ヶ月。私達は2冊の話を完成させた。

「恋愛の神様!」と「伊豆長岡殺人事件」と言う題名の小説を・・

「これさ!出版社に持ち込もうよ!」

二人で小説の最終チェックを済ませた後に桜が私にそう言った。

「いや!これは傑作だ!絶対に評価される!編集者に見せるのはもったいない!

だからこれに応募する事にする!」

私はそう桜に言うと一枚のチラシを差し出す。

「本屋が選ぶ小説大賞」

そんな題名のコンテストのチラシ。このコンテストは全国の本屋の店員と数名の小説家がもっとも読者に読んでもらいたいお勧めの小説を選ぶと言う物であった。

このコンテストから多くの一流と呼ばれる作家が生まれている。所謂、新人作家の登竜門と言うべきコンテストである。

「え~~マジで!無理だよ!だって応募作品だって5千は来るって話しだよ!無理!無理!」

そんな桜の目を見つめながら私は言った。

「無理じゃないよ!だってこれは傑作なのだから!天才が二人でコラボして書いたんだぜ!絶対に大賞を取れる!な!チャレンジしてみようぜ!」

私達、二人は祈るような気持ちで原稿の入った封筒を郵便ポストに投函した。

結果が出たのは3ヵ月後の事であった。

仕事中の私の携帯電話が突然に鳴った。相手は桜であった。

「誠!やったよ!今、連絡があったよ!大賞!優秀賞だって!私達の作品が!」

一瞬、私は携帯電話を握り締め桜に確認をした。

「それでどちらの作品だ?」と

桜は少しだけ声のトーンを下げて言った。

「恋愛の神様よ!」と

私はその場で座り込んでしまった。手が震えた・・そしてなぜか涙が出た。

「おめでとう!良かった!やっぱりお前には才能があったんだよ!良かった!良かった!」

正直、その時の私の言葉が本心であったか自信は無い!でも私が心から桜の栄光を喜んだのは確かである。

それから桜は連続して3冊の恋愛小説をこの世に出した。それが全てベストセラーとなり何時の間にか桜を多くの熱狂的ファンがこう呼んだ・・「クイーン」と

恋愛小説の女王と多くのファン達が彼女をそんな呼び名で崇拝した。

桜が賞を取って1年後、事件は起こった。

それはあまりにも私には衝撃的な事件であった。

ある晩、私の携帯電話が鳴った。丁度、私の「陽炎」と言う小説が文学賞を取った頃だった気がする。

「文学賞を受賞されたそうで・・どう?たまには飲みにでも行かない?昔のように・・」

その声はあまりにも疲れ果て悲しげな声であった。

「なんと!クイーンに飲みに誘われるとは光栄だね!喜んでお供させて頂きますよ!」

そんな私の言葉に彼女は少しだけ不機嫌そうに言った。

「相変わらずねあなた!女心がまったく見えない・・」と

次の日、私は桜と待ち合わせをして飲みに出かけた。

どんな高級クラブに連れて行ってくれるのかと思ったが行き先は予想通りに昔、よく飲みに行った居酒屋であった。何にも変わっていない店内に少しだけ遠い昔を思い出す。

二人で夢を魚に飲んでいた時代・・そんな懐かしい時代がそのままそこには残されていた。

お決まりの指定席は店の右隅の2人用のテーブルでそのテーブルで多くの夢を語っていた。

「懐かしいな!最近はあまり東京に来る機会も減ってね!ここにも久しぶりに来たよ!」

「私も同じよ!最近は忙しくってね!」

「そう言えば、あいつどうしてるかな?何て名前だっけ?当時の俺達の担当者?」

「ああ・・足立でしよ!あいつは今、私の担当をしてるわよ!わざと指名してやったの!

笑えるわよ!あれだけ私達の事をボロクソに言っていたのに今は私を天才だ!なんて言っている。そんな物なのかもね!この世界なんて・・」

そう呟くと桜はタバコを1本取り出し火をつける。

「あれ?お前、タバコ吸ったっけ?」

「ああ・・最近ね!なんとなく癖になってしまってね!」

そんな桜の言葉に作家と言う職業にどっぷりとこの女が浸かってしまっている事を実感した。

しばらく昔話を楽しそうに話していた桜が急に黙り込む。

目から一筋の涙が零れ落ちた。

「私ね!離婚したんだ!昨日・・」

私は耳を疑った・・離婚したって!何で??

「大きなお家を買うのが夢なの?旦那の稼ぎでは夢のまた夢なんだけど何時か私が小説家として成功したら二人で郊外にでも家を買うの!そうしてのんびりと暮らすのよ!

私ね!マジで旦那の事を好きなのよ!笑わないでね!なんの取り柄も無い人だけど誰よりも私を愛してくれている!」

ふと遠い昔、桜が語ったそんな話を思い出す。