僕が死ぬ日・・生まれる日 -12ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

二人で手を繋ぎながら私達は夜の新宿の街を歩いていた。


それは私は19年前に夢見ていた光景であり、それは私の成し遂げられなかった無念の証でもある。


レストランから花園神社に向かい丁度、花園神社の真裏にある一軒のバーに私は友美を誘った。


「また、あんな感じのレトロな店で無いでしょうね!」


そんな友美の言葉に「さぁ~どうだろう?」とおどけて見せる。


店は雑居ビルの3階にありエレベーターで上がって行く・・


そして、このエレベーターのドアが開いた瞬間に対外の女は歓喜の悲鳴に似た叫びを上げる。


私と友美はエレベーターに乗り3階を目指した。


数分後・・・3階に到着したエレベーターの扉が静かに開かれると・・・


「な・・・何よ!ここは・・」と友美は例外なく歓喜の叫びを上げた。


「う・・海の中・・・じゃ無いわよね!凄い!ここ・・・」


店内はまるで海底のようなつくりになっており壁は全て水槽になっている・・


その中に色とりどりの魚が泳ぎ回り・・その姿を多くの光が演出している・・


店内には何とも心地よいジャズが流れ・・大人の隠れ家と言う場所に相応しい店であった。


「どう?気に入った?」


「あなた・・こんな所に女の人を連れて来て口説いているのね!なんだか・・」


「オイオイ!勘違いしないでくれ!この店に女性を連れて来たのは君が初めてだよ!

ここは私の隠れ家なんだ!なぁ~マスタ~」


私は助けを求めるように私達が座ったカウンターの向こう側でグラスを磨いているマスターに言った。


「さようで!坂本様は何時もお一人ですよ!いつもね・・」


そして、このマスターは嘘が下手だと言う事を忘れていた。直ぐに顔に出る。


「どうだか!何だか・・・」


友美は呆れたようにそう呟いた。


「ご注文は??」


「そうだな!とりあえずジンライムを・・君は?」


そう友美に訪ねると少し困ったような表情をした。どうやらこの手の店にあまり慣れていない様だ。


「なら、僕が適当に注文して良いかな?」


そう、助け舟を出すと友美は少し安心したような顔をして微笑みを浮かべた。


しばらくすると注文したカクテルが運ばれて来た。


「うわ~~綺麗ね!何て綺麗なブルーなの!ねぇ~このカクテルは何て名前なの?」


そうマスターは友美に聞かれ困ったような表情で私を見つめた。


「坂本様!そう言えば名前を決めていませんでしたね!」


そうマスターに言われて名前を決めて居なかった事に気がついた。


実はこのカクテルはメニューには載っていない。


いわば、坂本スペシャルとでも言うのだろうか?


友美には内緒だが、大体のここに連れて来た女はこのカクテルで落ちるのである。


「実はこのカクテルはお客様の為に坂本様が即興でお考えになったオリジナルでございまして・・」


マスターは嘘は下手だが、女の心理は知り尽くしてる・・なぜなら、元は2丁目の住人だからだ。


そう!私がマスターと初めて会った頃はまだ2丁目のバーで女性の格好をして働いていた。


「えっ!これ・・私の為に坂本君が・・」


そう・・だいたい、そう言いながら普通の女は落ちる・・


「そうだな!永遠の片想いとでもなずけようか!」


そんな私の言葉に酔いながら友美はひと口そのカクテルを口に含んだ!


「ち・・ちょっと!これ美味しいけど少し度数が高いんじゃないの?」


「いいえ・・そんな事はございませんよ・・」


そうマスターはいたずら小僧のような微笑を浮かべ私をチラットと見て笑いながら言った。


彼は女性の心理も理解しているが男性の心理もよく理解してるサイコーのバーテンである。


私はタバコを1本取り出すと火をつける。


それを何かの合図かのように私達の目の前で笑顔を振りまいていたマスターは姿を消した。


ひと口・・ジンライムを口に含むと私は友美に言った。


「俺の何処が悪かったんだ?」と


友美は少しだけ驚いたような表情を浮かべた・・・


なんとなく安らぐジャズの音色が、そんな私達を包み込んでくれていた・・

「担任の木の内ムカツよね!木村ってさ~大久保の事が好きなんだぜ!これ内緒ね!」


まるで高校時代に戻ったように私はそんな会話を友美に続けた・・


友美はそれを私の何かの演出かと思ったのか楽しそうにその会話に乗ってくれた。


「こんな事なら、セーラー服で来るんだったわね!」


冗談交じりに友美がそう楽しそうに言った。


楽しい時間は直ぐに過ぎるものだ。


最後のデザートのアイスクリームが運ばれて来て私は少しだけ名残惜しそうにスプーンを容器に差し込んだ。


「そろそろ出ようか?」


デザートを食べ終えグラスに残ったワインを一気に飲み干しながら私がそう呟くと友美も少しだけ寂しそうな顔をした。


「お会計を・・・」


そう私がマスターに告げると彼は一枚のレシートを持って現れる。


「本日はご来店誠にありがとうございました。またのお越しを心より・・」


そう言われて私は取り出した一万円札の行方に戸惑った。


「あの・・お会計は??」


「えっ?何をおっしゃって居るのですか?もう、頂いているでは無いですか?19年前に・・」


そう店主に言われ遠い記憶を思い出す。


あ~そうだ!あの時、私はここに予約代としてお金を置いて行ったのだ・・


そして、来るべき日に友美に振られこの店に来る事が出来なかったのだ・・


あの時はすっかり動転してしまい、キャンセルの電話も入れる事が出来なかったのに・・


「覚えていてくれたんですか?」


そう私が言うと彼は少しだけ微笑みながら・・


「仕事ですから・・」と言った。


「あの時は、キャンセルの電話もしないで申し訳ありませんでした!振られてしまいまして相手に!」


私は彼にそう言うと一瞬、チラットと友美の顔を見た。


そうなのだ・・私はこの店に友美と一緒に来るつもりで居たのだ!


駅で待ち合わせをして・・喫茶店でお茶を飲んで・・映画を見て・・そして、最後にこの店で食事をして・・


しかし、その前に私は友美に振られてしまった。


だから、友美はその事を知らない。


そして、この場所は永遠の私の忘れ物になってしまったのだ。


「しかし、ワイン代をお支払いしないと・・」


そう私が言うと彼は私の顔を見つめながら


「19年間、私に楽しい妄想をくれたお礼です・・あなたがステキな女性と一緒にこの場所に現れる日を・・

毎日、色々と想像しながら楽しみに過ごさせて頂きました!

今夜、やっと、その願いが叶いました!私の想像通りにお相手の方は素晴らしい女性でした!

ワインは私からのお祝いです!そして、お礼です・・」


そう言うと店主は深々と頭を下げ、再び言った。


「またのご来店をお待ちしております・・それまで私が生きていれば良いのですが!」と


私も彼に頭を下げ店を出る。友美は訳が解らないまま、私を追うように店から出て来た。


「何?まったく意味がわからない!説明してよ!」


少し不機嫌そうに言う友美に私は・・・


「それなら、2次会に行くかい!今度は飛び切りのステキな店にお連れしますが!」と言った。


友美は笑いながら!


「行きましょ!延長料金は割り増しよ!」と笑いながら言った。


私は友美の手を優しく握ると夜の新宿の街を歩き出した。

友美と歩き出しどの位の時間が過ぎたのだろう?


「今夜は恋人同士と言うことで良いかい?」


ダメもとでそんな言葉を彼女に言うと友美は少しだけ含み笑いをしながら小さく頷いた。


その頷きが合図かのように私は震える手で遠慮がちに彼女の手を怯えながら握った。


少しだけ握る力を強めるとそれに答えるかのように彼女の手から温もりが感じられる・・


私は歩きながら遠い昔にタイムスリップしている気持ちになる。


そうだ!学生の頃に・・友美に片想いをしていた・・そんな青春と言うなの時代に・・


「何処に行くの?」


寄席の「末広亭」を過ぎた辺りで友美が不安そうにそう呟いた。


「ああ・・青春時代の忘れ物を取りに行くんだ・・」


そんな私の青臭い言葉にまるで高校生のように楽しそうに・・


「馬鹿じゃないの!臭い言葉!似合わないわよ!」と友美は言った。


今まで沢山の女と有名なレストランや飲み屋に行った。


それらは欲望を満たす為の準備段階とばかりに私は女が喜びそうな店を必死で探し廻った。


しかし、今、向っている店はそんな女達と一度も訪れる事は無かった・・


なんとなく、この店だけは汚してはいけない気がしていたからだ。


末広亭から少しだけ歩き路地を右に曲がるとひっそりと小さなレストランの明かりが見えた。


「まだ、あったんだ!この店・・」


私は懐かしそうにその店の明かりを見つめた。


この店を訪れるのは二回目である。


最初に訪れたのは確か高校1年の頃であった。


自分の少ない小遣いで友美におごってあげれる店を必死に探した。


新宿の駅で待ち合わせて、喫茶店でお茶を飲んで、映画を見て・・・


そして、くだらない馬鹿話をしながら町をさ迷って・・そしてこの店で夕食を食べて・・・


それが、私の恋の完結になるはずであった。


「えっ?この店??」


小汚い外館を見つめ友美は少しだけ驚いたように言った。


多分、彼女としてみれば凄くオシャレな大人の空間を想像していたに違いない。


しかし、私は違ったのだ!凄く粗末な、子供の空間を得たいと思っていた。


「ああ・・ここさ!ここに来たかったんだ!」


カラ~~~ン♪


入り口のドアを開くとまるで90年代に逆戻りしたようにドアベルが鳴った。


「いらっしゃい!お二人さんですか?」


口ひげを蓄えた、人の良さそうな店主が私と友美を出迎えてくれた。


客は誰も居なかった・・


そんな状態に彼女は小声で確認するように言った。


「大丈夫なの?ここ・・・」と


二人で店の奥の二人席に腰掛ける。


「ナイトメニューで、昼間と少しメニューが違うのだけど良いかな?」


店主はまるで何かを確認するかのように聞きもしないのにそう私に告げメニューを差し出した。


「えっ・・はい!」


私は驚きながらそう言い彼からメニューを受け取る。


「レモンスカッシュを・・君は?」


「えっ・・いや・・ちょっと!坂本君・・・」


少しだけ戸惑いながら友美が私を睨みつける。


冗談は止めろ!とでも言いたいのか?


「オレンジジュースで良いかな?」


店主はまるで注文する商品を断定するように友美に言った。


「えっ・・はい!それで・・」


しばらくすると飲み物が運ばれて来た!


そうだ・・私が考えていた!状態が私の目の前に再現されている。


俺がレモンスカッシユを飲んで友美がオレンジジュースを飲むんだ・・


えっ・・何で知ってる?この店主は何で俺の計画を知ってる??


戸惑いながらひと口、レモンスカッシユを口に含み彼を見つめた。


口ひげの店主はまるで高校生の純情カップルでも見るかのように私達を見つめていた。


「お勧めコースで良いか?」


メニューを見ながら私が友美に訪ねた。


そうだ、確かあの時は「お勧めランチメニュー」2千円を頼もうと思って居たのだ。


「ええ・・それで・・あと、お酒でも頼まない?」


「そうだな!ワインで頼もうか?マスター!お勧めのワインはありますか?」


そんな私の言葉に彼は1本のワインを持って現れる。


「これ、何てワインですか?」


「これですか?こいつの名前は「忘れ物」です・・」


私は驚いたように彼を見つめた・・・


「そうですか!良かった!これで無事に忘れ物が手元に戻って来ました・・」


そう私が洒落で返すと彼は嬉しそうに・・・


「良かった!これで、私もお預かりしていた忘れ物を持ち主に返す事が出来ました!」と言った。


覚えて居たのか?俺の事を・・まさか・・今から20年くらい昔の話だぞ!まさかな・・


初めてこの店に下見に来た時に嬉しそうに彼に話した友美への思いと計画を・・


「乾杯の言葉は何にしょうか?」


そう友美が私に聞いた・・


私は笑顔で彼女に言った。


「永遠の片想いの完結に・・・乾杯!」


カチィ~ン!何とも言えない心地よいワイングラスの音が二人を包み込み・・


私達は二人は置き忘れた遠い昔の忘れ物を取り戻すかのように二人で楽しげにワインを飲み干した・・