青春の忘れ物 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

友美と歩き出しどの位の時間が過ぎたのだろう?


「今夜は恋人同士と言うことで良いかい?」


ダメもとでそんな言葉を彼女に言うと友美は少しだけ含み笑いをしながら小さく頷いた。


その頷きが合図かのように私は震える手で遠慮がちに彼女の手を怯えながら握った。


少しだけ握る力を強めるとそれに答えるかのように彼女の手から温もりが感じられる・・


私は歩きながら遠い昔にタイムスリップしている気持ちになる。


そうだ!学生の頃に・・友美に片想いをしていた・・そんな青春と言うなの時代に・・


「何処に行くの?」


寄席の「末広亭」を過ぎた辺りで友美が不安そうにそう呟いた。


「ああ・・青春時代の忘れ物を取りに行くんだ・・」


そんな私の青臭い言葉にまるで高校生のように楽しそうに・・


「馬鹿じゃないの!臭い言葉!似合わないわよ!」と友美は言った。


今まで沢山の女と有名なレストランや飲み屋に行った。


それらは欲望を満たす為の準備段階とばかりに私は女が喜びそうな店を必死で探し廻った。


しかし、今、向っている店はそんな女達と一度も訪れる事は無かった・・


なんとなく、この店だけは汚してはいけない気がしていたからだ。


末広亭から少しだけ歩き路地を右に曲がるとひっそりと小さなレストランの明かりが見えた。


「まだ、あったんだ!この店・・」


私は懐かしそうにその店の明かりを見つめた。


この店を訪れるのは二回目である。


最初に訪れたのは確か高校1年の頃であった。


自分の少ない小遣いで友美におごってあげれる店を必死に探した。


新宿の駅で待ち合わせて、喫茶店でお茶を飲んで、映画を見て・・・


そして、くだらない馬鹿話をしながら町をさ迷って・・そしてこの店で夕食を食べて・・・


それが、私の恋の完結になるはずであった。


「えっ?この店??」


小汚い外館を見つめ友美は少しだけ驚いたように言った。


多分、彼女としてみれば凄くオシャレな大人の空間を想像していたに違いない。


しかし、私は違ったのだ!凄く粗末な、子供の空間を得たいと思っていた。


「ああ・・ここさ!ここに来たかったんだ!」


カラ~~~ン♪


入り口のドアを開くとまるで90年代に逆戻りしたようにドアベルが鳴った。


「いらっしゃい!お二人さんですか?」


口ひげを蓄えた、人の良さそうな店主が私と友美を出迎えてくれた。


客は誰も居なかった・・


そんな状態に彼女は小声で確認するように言った。


「大丈夫なの?ここ・・・」と


二人で店の奥の二人席に腰掛ける。


「ナイトメニューで、昼間と少しメニューが違うのだけど良いかな?」


店主はまるで何かを確認するかのように聞きもしないのにそう私に告げメニューを差し出した。


「えっ・・はい!」


私は驚きながらそう言い彼からメニューを受け取る。


「レモンスカッシュを・・君は?」


「えっ・・いや・・ちょっと!坂本君・・・」


少しだけ戸惑いながら友美が私を睨みつける。


冗談は止めろ!とでも言いたいのか?


「オレンジジュースで良いかな?」


店主はまるで注文する商品を断定するように友美に言った。


「えっ・・はい!それで・・」


しばらくすると飲み物が運ばれて来た!


そうだ・・私が考えていた!状態が私の目の前に再現されている。


俺がレモンスカッシユを飲んで友美がオレンジジュースを飲むんだ・・


えっ・・何で知ってる?この店主は何で俺の計画を知ってる??


戸惑いながらひと口、レモンスカッシユを口に含み彼を見つめた。


口ひげの店主はまるで高校生の純情カップルでも見るかのように私達を見つめていた。


「お勧めコースで良いか?」


メニューを見ながら私が友美に訪ねた。


そうだ、確かあの時は「お勧めランチメニュー」2千円を頼もうと思って居たのだ。


「ええ・・それで・・あと、お酒でも頼まない?」


「そうだな!ワインで頼もうか?マスター!お勧めのワインはありますか?」


そんな私の言葉に彼は1本のワインを持って現れる。


「これ、何てワインですか?」


「これですか?こいつの名前は「忘れ物」です・・」


私は驚いたように彼を見つめた・・・


「そうですか!良かった!これで無事に忘れ物が手元に戻って来ました・・」


そう私が洒落で返すと彼は嬉しそうに・・・


「良かった!これで、私もお預かりしていた忘れ物を持ち主に返す事が出来ました!」と言った。


覚えて居たのか?俺の事を・・まさか・・今から20年くらい昔の話だぞ!まさかな・・


初めてこの店に下見に来た時に嬉しそうに彼に話した友美への思いと計画を・・


「乾杯の言葉は何にしょうか?」


そう友美が私に聞いた・・


私は笑顔で彼女に言った。


「永遠の片想いの完結に・・・乾杯!」


カチィ~ン!何とも言えない心地よいワイングラスの音が二人を包み込み・・


私達は二人は置き忘れた遠い昔の忘れ物を取り戻すかのように二人で楽しげにワインを飲み干した・・