あの頃の笑顔を・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

友美は少しだけうつろな目で私を見つめた。


近くに居た女性の待ち人の男性が来たらしく二人の何とも楽しそうな話し声が聞こえた。


くだらない男性の冗談に女性は楽しそうに大きな声を出して笑っていた。


何時からだろう?私はこんな冗談をうるさいと感じるようになったのは・・


私も若い頃はそんな冗談を言いながら笑っていたのに・・


私は小さい頃から何時も思っていた。


早く大人になりたいと・・・


貧しい家庭で育った私は、自分の不運な人生は全て親のせいだと思っていた。


早く大人になれば、こんな苦しみから解放される・・


人間の最終的な人生の目的は「安定」を手に入れることだと私は思っている。


だから私はその安定を手に入れるために人一倍、努力をして来た。


今、私は自分が目指し求めていた「安定」を手に入れようとしている・・


しかし、最近、思うのだ。人は「安定」と言う大きな目標を手に入れる事で「不安定」を失ってしまうのでは?と


安定と言うものを手に入れる代償に人間は不安定を失ってしまう。


それと同時に不安定の中でしか、感じることの出来ない「どうでも良いこと」を失ってしまうのではと・・


本当の幸せは、本当は「安定」の中には存在しないのかもしれない・・


不安定と言う何とも言えない曖昧な世界に・・・喜びとか悲しみとか適当にある世界に幸せはあるのかも?


「冗談だよ!昨夜の夜の言葉は・・」


そんな言葉が何度も喉の辺りまで出て来た。しかし、友美の顔を見るとその言葉がどうしても出てこない。


私は、きっと、何かを期待していたのかもしれない。


理性と言うなの仮面の奥に欲望と言うなの素顔が存在してる。


それはどんなに聖者と言われる人間でもどんなに悪人と呼ばれる人間でも同じであると思う。


友美は少しだけ怪訝そうな顔をして私に声無き訴えを繰り返していた。


「早く行きましょう!」と・・


私はそんな友美の表情に我慢できなくなり。何度も飲み込んで言えなかった言葉を呟いた。


「ごめん!冗談だよ!そんなに怖い顔をするな!」と


少しだけ引きつった笑顔で!まるで冗談を言うように・・


そんな私の言葉に友美はそれでなくても上がり気味の目じりをより上げながら不機嫌そうに言った。


「冗談は言わないで!私は昨夜、一睡も出来なかったのよ!色々、考えて一睡も出来なかった!

それでもここに来たと言う事はそれなりの覚悟をして来てるの!

そんな私に対してそんな冗談はやめてよ!」


少しだけ興奮ぎみに友美は怒鳴るように言った。


先ほどの隣のカップルが何事かとヒソヒソ話を始める。


「冗談だよ!でもな!確かに君は悩んだかもしれない!しかし、私が君の旦那にしてあげた事はそれ以上の事なんだよ!毎朝、5分の担当者との面会を求めて早朝の4時から多くの営業が順番待ちのために並んでいるんだ!それでも、会えれば良いけど会えない日の方が多いんだ!

君の旦那だって同じさ!私はね!君に昨夜、君が味わった苦しみ以上の代償を払ってあげたのさ!」


「何よ!なら、良いと言う事なの?何も無くって良いと言う事なの?」


私は少しだけ考えて小さな声で言った。


「当たり前だろ!俺たちは友達じゃないか?」とそんな戯言を・・・


「それじゃ!私の気がおさまらないわ!」


「何だ!君は私に抱かれたいと思っているのか?同意の上なら私は何時でもOKだぜ!

今すぐにタクシーなりに乗って新大久保に行けば、二人の欲望を満たしてくれる場所は幾らでもあるのだから!」


「えっ・・いや・・別に!そんな意味で言ったのではないのよ!でも、このままでは・・」


「そうかい!解ったよ!なら、こうしょう、食事に付き合ってくれ!君と何時か行きたいと思っていた場所があるんだ!遠い昔だけど、まだ、その店があればの話だけどね!

それで、チャラにしょう!良いだろ!食事くらい!それでどうだろう?」


友美はいったい旦那になんと言い訳をしながら今夜、この場所に来たのだろう?


まさか、抱かれに行ってくるとも言えないだろうに・・・


彼女のつり上がった目が何時の間にか普通に戻っていた。


浮かべていた緊張と悲痛な表情は何時の間にか消え、笑顔になっていた・・


「なに?それ、デートのお誘いかしら?随分と高いデート代ね!まぁ~私とデートなんだからそれくらいは・・

当たり前かもね!」


そんな友美の言葉に私は笑いながら言った・・


「姫!ありがとうございます!爺は幸せでございます!」と・・


二人でくだらない冗談を言いながら歩き出す・・


そうだ!これなんだ・・私が失い、そして求めていた物は・・


友美の体ではなく・・そうだ、こんな時間だったのだ・・


そんな私達二人を先ほどのカップルは安心したように見つめていた・・